重槍士は褐色毒ショタに出会う

papporopueeee

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出会い

それは、星のような人だった

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魔物が棲む森の中

「はっ、はっ、はっ、はっ!」

 日の光も遮るほどに鬱蒼とした森の中。舗装もされていない獣道を裸足でひた走る。足の裏が地面を踏みしめる度に小石が突き刺さる。地面を蹴り上げる度に足首を草葉が切り裂く。痛みと疲れで肺が限界に達していても、それでも必死に足を動かして走り続ける。

 背後から迫る足音が、僕に止まることを許してはくれないから。

「うぎゃあああぁぁっ!!」

 森の中に響く男の悲鳴に振り向きそうになるも、必死に正面だけを見て走り続ける。多分、今のが最期の一人だ。人攫いは全滅した。魔物たちのターゲットはもう僕しか残っていない。

 一瞬でも足を止めれば、僕も彼らの後を追うことになる。

「はっ、はっ――あぁっ!」

 しかし決意も空しく、僕の逃走は終わってしまった。痛みに歯を食いしばり、疲労にも耐え走っていたのに。ぬかるみに足を取られただけで、呆気なく終わってしまった。

「うぅっ……立つんだっ……立たないとっ……!」

 足を動かそうとしても、感覚が鈍くなってしまって上手く立てない。立てたとしても、震える足ではぬかるみに踏ん張れずに倒れてしまう。あんなにも回っていた僕の足は、たった一度止まっただけで壊れてしまった。

「はっ……はっ……っ」

 もしかしたら、消えているかもしれない。人攫いたちで満足して、僕への興味を失くしたかもしれない。そんな一縷の望みを持って振り向いてみたけれども、やっぱりそこには居た。

 人間の大人よりも大きなその体躯。僕の足など容易く折ってしまいそうなほどに太く強靭な四肢。僕がもう走れないことを理解しているのか、血に塗れた前足を見せつけるように、ゆっくりと魔物が迫ってくる。

「にっ、逃げないとっ……はっ、這ってでも……じゃないとっ……」

 全身を泥で汚しながらも、少しでも距離を取ろうと這いずる。顔が汗と泥で塗れて、視界が滲んで、それでも魔物の口元がはっきりと見えてしまうから。僕の頭蓋など容易く砕いてしまいそうな牙に、さっきまで人だった食い残しがぶら下がっているから。

 沸き立つ恐怖に耐え切れず、僕は芋虫のように泥の中で這いずりもがいた。頭では、もう無駄だとわかっていても。

「ふーっ、ふーっ! くっ、来るなっ……来るなぁっ!」

 追い詰められた僕の威嚇なんて、魔物の唸りにすら敵わない。赤い模様で彩った黒い体毛を揺らしながら、必死な獲物をあざ笑うかのような表情で、ついに眼前まで魔物が迫る。

「あっ……ぁっ……」

 そして、全部が諦めてしまった。僕の理性も、本能も。腕も、足も、全身が抵抗を止め、生を諦め死を受け入れてしまった。

 むしろ、最初から諦めていれば良かったんだ。あんなにも恐怖していたのが嘘のように、今では心が静まり返っている。だってどうせ生き残ったって、希望なんて少しも無いのだから。僕には帰る場所も、帰ってもいい場所も無い。

 今際の際、鋭利な牙に上半身を包まれながら僕は瞼を閉じた。

「母様……どうして、僕を置いていかれたのですか……?」

 ――その時、轟音が目の前で鳴り響いた――

「っ!?」

 鋭く重圧のある音に思わず僕は瞼を開き、そこで信じられない光景を見た。

「死んでる……?」

 先ほどまで餌を前に口を大きく開いていた魔物が、目の前で仰向けになって倒れていた。その顔面には金属の円錐が突き刺さっており、死にかけの虫のように身体をピクつかせている。

「あれは、槍? というよりもランス? いったいどこから……っ!」

 助かったという実感が湧く間もなく、もう一体の魔物がこちらへと走ってきた。その口にぶら下げていた食いかけを放り投げ、咆哮を上げながら。

 仲間を殺されて怒っているのだろう。さっきの魔物のような余裕も無く、僕の身体をバラバラにするような勢いで迫ってくる。

「ひぃっ!」

 魔物の気迫を受けて、僕は咄嗟に両腕で顔を覆って目を閉じた。一度は死の覚悟を固めたのに、再び恐怖が顔を出してしまった。

 あんな体当たりを受けて生き残れるはずが無く、避けることもできない。ただ死を待つことしかできず、目を瞑って怯えることしかできない僕の目の前で、またも轟音が鳴り響いた。

 先ほどとは少し違う、重く硬い金属同士がぶつかり合ったかのような音。それは間違いなく、魔物の突進から僕を守ってくれた音だった。

「っ……!?」

 恐る恐る目を開けると、目の前には金属の壁ができていた。向こう側に居るはずの魔物の姿が少しも見えないくらいに、巨大な盾が僕を守ってくれていた。

「だ、誰……?」

 視界を上げて、盾の持ち主を追った。まだ盾のすぐ反対側で魔物が唸り声を上げているのも忘れて、大盾の持ち主が気になって仕方が無かった。

「もう、大丈夫だ」

 其処には一人の男が居た。

 皮の装備を身に纏った大柄な肉体。肩につくくらいのぼさぼさの黒髪と、無精ひげの悪人面とは対照的な綺麗な碧い瞳が印象的な顔。怯えている僕に向けて、優しく照らすような微笑みを向けてくれている。

 魔物に襲われる僕のことを、守ってくれた男が其処に居た。

「俺が絶対に守ってやるからな」

 それは、星のような人だった。
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