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出会い
男です、僕……
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「っ……本当に洗ってくださるのですか? 僕の足を……っ」
「ああ、詫びの気持ちも込めて手伝わせて欲しい」
「詫びる必要など……では、お願いいたします」
「心得た。優しくするが、傷が痛むなどあれば適宜言ってくれ」
「はっ、はいっ……優しく……」
緊張しているのだろう。ルカテの身体は強張り、俺の首に回す腕も硬くなっている。
奥ゆかしい国で育ったのであれば、他人に肌を触られる機会も少ないことは想像に難くない。怪我だけでなく、その心まで気遣うつもりで、俺は手袋をつけたまま軽くルカテの足先に触れた。
「んっ」
「痛いか?」
「大丈夫、です……少し驚いただけなので……っ」
「爪に泥が残るといけないからな、もうちょっと我慢してくれ」
「はい……っ」
衛生的であるに越したことはなく、わざわざ泥を残しておく必要も無い。しかし手袋を着けたままでは爪に入り込んだ泥を上手く流せず、ルカテが痛みに悶える声ばかりが耳に響くばかりだった。
「はっ、ふぅっ……んぅっ!」
「す、すまない。イジめるつもりは無いんだが、どうにも手袋を着けたままだと……外して、素手でも大丈夫か?」
「素手っ、ですか……」
「やはり嫌か。いや、申し訳ない。阿呆なことを聞いた」
「っ……傷は?」
「ん?」
「指や手に傷はありませんか? 無いのなら、素手でも問題ありません」
「それなら心配無い。戦闘の度に手のマメを潰していたのも昔の話だ」
「それでしたら、手袋を外していただいて問題ありません」
「すまないな」
口で指先を咥えて手袋を外す。子供とはいえ、男が直接足を触るのは良くないと考えていたが、魔物が棲む森の泥で汚したままなのも好ましくは無い。
「爪に入り込んだ泥を掻き出す。少し痛むかもしれんが、辛抱してくれ」
「覚悟は出来ています……んぅっ!」
素手で触るとよくわかった。ルカテの足の裏はボロボロで、直接見なくともその痛ましさが想像できてしまうほどに傷だらけだ。
小石が転がる道を裸足で逃げるのはさぞ痛かったことだろう。恐ろしい魔物に追いかけられるのは恐ろしかったことだろう。
あの場に居合わすことが出来て良かった。この子を助けることができて良かった。小さな足に触れているだけで、そんな感情が溢れて止まらなかった。
それと同時に、もっと早く見つけることができればと思わずにはいられなかった。
「んっ……ふっ、ぅっ……っ」
「痛むか?」
「い、いえ、しみるのは少し慣れてきたのですがっ……くすぐったくて……んぅっ」
ルカテが身をよじり、パシャリと水飛沫が上がった。心からの笑顔では無いものの、その口元が緩んでいる姿を見れたことは嬉しかった。
「あっ、はぅっ……んぅっ……っ」
「もう少しだけ我慢してくれ……よし、終わった。大丈夫か?」
「はっ、はい……優しくしていただいたおかげで……」
「それなら良かった。このまま足を洗っていくから、また痛んだら教えてくれ」
「ありがとうございます……んぅっ」
足先から身体を登るように、指先を丸く動かしならこびりついた泥を水に流していく。指先が傷に当たる度に子供が苦悶の吐息を漏らすのが心苦しいが、楽しそうにくすぐったがる様子も見られた。
「ふっ、ふふっ……んっ、ふっ……んふっ……」
少し高い声と、柔らかい吐息に耳がくすぐられる。
足首からふくらはぎ。膝裏から膝頭。そして脛から太ももまで洗い、足の付け根を触れるのは止めておこうと考えたところで気づいた。
「入れ墨……?」
「ひゃぁっ!?」
「あっ、ああ、すまん。つい擦ってしまった」
「いっ、いえっ……鼠径部を触られるなんて初めてで……少し驚いてしまっただけなので……」
川の水が泥で濁っている間は気づけなかったが、ルカテの下半身には入れ墨が入っていた。下腹部から太ももを流れて、足の指先まで。文字や絵の類ではなく、まるで複数のヘビが下半身に巻き付いているような紋様だった。見えてはいないが、腰から臀部にかけても彫られているのだろう。
「ここまで大きいのは珍しいな。何か意味があるのか?」
「いえ……どうでしょうか。これも母様がくれたものなので、詳しくは知らないんです……」
慰撫するようにルカテの指先が下腹部の入れ墨を撫でる。またもセンシティブな話題に触れてしまったようだ。
「そんな顔をなさらないでください。そうだ、足を洗ってくださったお礼をさせてください」
「お礼なんて、子供が気にすることじゃない」
「もらってばかりでは気が済まないんです。こういうのはいかがですか?」
子供は川の水を掬うと、俺の頬を撫でた。
「顔に泥が付いているの、ずっと気になってたんです」
「そうだったか。気づかなかったな」
「足を洗っていただけたお礼に、洗わせてください。僕が泥を着けてしまった首もいっしょに」
「そこまで言うなら、お願いしよう」
「ありがとうございます」
子供であろうとも、世話になりっぱなしでは気まずいのだろう。嬉しそうに水を掬っては、何度も素手で顔と首を拭ってくれた。
「その甲斐甲斐しさ、将来は嫁の貰い手には困らないだろうな」
「え……?」
「む……しまった。これも失言か。見知らぬ男に婚姻の話などされても、不快なだけだな」
「いえ……その……男ですよ?」
その言葉の意味がわからず、思わず首を傾げてしまった。頭の中で言葉を反芻し、文章に直して解釈し、それでも理解できずに顔を見つめてしまった。水に濡れて肌に張り付く布に包まれた胸部と、水に濡れて股間に食い込んでいる前垂れを、思わず確認してしまった。
「男です、僕……」
何ということか。ルカテのように幼い体躯では身体で性別を判断することは難しい。だからこそ、その顔つきから少女だと判断していたのだが。
「可憐な男児というのも居るんだな……悪かった……」
自身の幼少期の経験からルカテのような淑やかな少年がいるなど露にも思わず、またも失言を重ねてしまった。
「かっ、可憐っ!?」
「……少年を可憐と表現するのも、失礼だったか?」
「ちっ、ちがっ……そういうわけでは、ないのですがっ……おっ、お顔を洗う続きを致しますね?」
ルカテはお前の顔など見たくないとばかりに顔を背けてはいるが、その手つきの優しさから嫌われてはいないようだ。
子供に特別好かれたいというわけではないが、特別に嫌われるのは心にくる。国に送るまでの短い付き合いとはいえ、発言にはより一層気を付けることとしよう。
「ああ、詫びの気持ちも込めて手伝わせて欲しい」
「詫びる必要など……では、お願いいたします」
「心得た。優しくするが、傷が痛むなどあれば適宜言ってくれ」
「はっ、はいっ……優しく……」
緊張しているのだろう。ルカテの身体は強張り、俺の首に回す腕も硬くなっている。
奥ゆかしい国で育ったのであれば、他人に肌を触られる機会も少ないことは想像に難くない。怪我だけでなく、その心まで気遣うつもりで、俺は手袋をつけたまま軽くルカテの足先に触れた。
「んっ」
「痛いか?」
「大丈夫、です……少し驚いただけなので……っ」
「爪に泥が残るといけないからな、もうちょっと我慢してくれ」
「はい……っ」
衛生的であるに越したことはなく、わざわざ泥を残しておく必要も無い。しかし手袋を着けたままでは爪に入り込んだ泥を上手く流せず、ルカテが痛みに悶える声ばかりが耳に響くばかりだった。
「はっ、ふぅっ……んぅっ!」
「す、すまない。イジめるつもりは無いんだが、どうにも手袋を着けたままだと……外して、素手でも大丈夫か?」
「素手っ、ですか……」
「やはり嫌か。いや、申し訳ない。阿呆なことを聞いた」
「っ……傷は?」
「ん?」
「指や手に傷はありませんか? 無いのなら、素手でも問題ありません」
「それなら心配無い。戦闘の度に手のマメを潰していたのも昔の話だ」
「それでしたら、手袋を外していただいて問題ありません」
「すまないな」
口で指先を咥えて手袋を外す。子供とはいえ、男が直接足を触るのは良くないと考えていたが、魔物が棲む森の泥で汚したままなのも好ましくは無い。
「爪に入り込んだ泥を掻き出す。少し痛むかもしれんが、辛抱してくれ」
「覚悟は出来ています……んぅっ!」
素手で触るとよくわかった。ルカテの足の裏はボロボロで、直接見なくともその痛ましさが想像できてしまうほどに傷だらけだ。
小石が転がる道を裸足で逃げるのはさぞ痛かったことだろう。恐ろしい魔物に追いかけられるのは恐ろしかったことだろう。
あの場に居合わすことが出来て良かった。この子を助けることができて良かった。小さな足に触れているだけで、そんな感情が溢れて止まらなかった。
それと同時に、もっと早く見つけることができればと思わずにはいられなかった。
「んっ……ふっ、ぅっ……っ」
「痛むか?」
「い、いえ、しみるのは少し慣れてきたのですがっ……くすぐったくて……んぅっ」
ルカテが身をよじり、パシャリと水飛沫が上がった。心からの笑顔では無いものの、その口元が緩んでいる姿を見れたことは嬉しかった。
「あっ、はぅっ……んぅっ……っ」
「もう少しだけ我慢してくれ……よし、終わった。大丈夫か?」
「はっ、はい……優しくしていただいたおかげで……」
「それなら良かった。このまま足を洗っていくから、また痛んだら教えてくれ」
「ありがとうございます……んぅっ」
足先から身体を登るように、指先を丸く動かしならこびりついた泥を水に流していく。指先が傷に当たる度に子供が苦悶の吐息を漏らすのが心苦しいが、楽しそうにくすぐったがる様子も見られた。
「ふっ、ふふっ……んっ、ふっ……んふっ……」
少し高い声と、柔らかい吐息に耳がくすぐられる。
足首からふくらはぎ。膝裏から膝頭。そして脛から太ももまで洗い、足の付け根を触れるのは止めておこうと考えたところで気づいた。
「入れ墨……?」
「ひゃぁっ!?」
「あっ、ああ、すまん。つい擦ってしまった」
「いっ、いえっ……鼠径部を触られるなんて初めてで……少し驚いてしまっただけなので……」
川の水が泥で濁っている間は気づけなかったが、ルカテの下半身には入れ墨が入っていた。下腹部から太ももを流れて、足の指先まで。文字や絵の類ではなく、まるで複数のヘビが下半身に巻き付いているような紋様だった。見えてはいないが、腰から臀部にかけても彫られているのだろう。
「ここまで大きいのは珍しいな。何か意味があるのか?」
「いえ……どうでしょうか。これも母様がくれたものなので、詳しくは知らないんです……」
慰撫するようにルカテの指先が下腹部の入れ墨を撫でる。またもセンシティブな話題に触れてしまったようだ。
「そんな顔をなさらないでください。そうだ、足を洗ってくださったお礼をさせてください」
「お礼なんて、子供が気にすることじゃない」
「もらってばかりでは気が済まないんです。こういうのはいかがですか?」
子供は川の水を掬うと、俺の頬を撫でた。
「顔に泥が付いているの、ずっと気になってたんです」
「そうだったか。気づかなかったな」
「足を洗っていただけたお礼に、洗わせてください。僕が泥を着けてしまった首もいっしょに」
「そこまで言うなら、お願いしよう」
「ありがとうございます」
子供であろうとも、世話になりっぱなしでは気まずいのだろう。嬉しそうに水を掬っては、何度も素手で顔と首を拭ってくれた。
「その甲斐甲斐しさ、将来は嫁の貰い手には困らないだろうな」
「え……?」
「む……しまった。これも失言か。見知らぬ男に婚姻の話などされても、不快なだけだな」
「いえ……その……男ですよ?」
その言葉の意味がわからず、思わず首を傾げてしまった。頭の中で言葉を反芻し、文章に直して解釈し、それでも理解できずに顔を見つめてしまった。水に濡れて肌に張り付く布に包まれた胸部と、水に濡れて股間に食い込んでいる前垂れを、思わず確認してしまった。
「男です、僕……」
何ということか。ルカテのように幼い体躯では身体で性別を判断することは難しい。だからこそ、その顔つきから少女だと判断していたのだが。
「可憐な男児というのも居るんだな……悪かった……」
自身の幼少期の経験からルカテのような淑やかな少年がいるなど露にも思わず、またも失言を重ねてしまった。
「かっ、可憐っ!?」
「……少年を可憐と表現するのも、失礼だったか?」
「ちっ、ちがっ……そういうわけでは、ないのですがっ……おっ、お顔を洗う続きを致しますね?」
ルカテはお前の顔など見たくないとばかりに顔を背けてはいるが、その手つきの優しさから嫌われてはいないようだ。
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