重槍士は褐色毒ショタに出会う

papporopueeee

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出会い

すんすん――……くんくん――……すん、すんすん――……

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 川岸に用意した焚火の前

「これでよし。歩いてみてくれ」

「んっと……問題なさそうです……」

 木の端材を足の裏に敷いて、包帯で固定しただけの簡易な靴をルカテに作ってやった。移動の際にはずっと抱っこをしてやるつもりだが、国までの道中で何があるかわからない。既製品の靴には酷く劣るが、裸足よりはマシだろう。

「ありがとうございます、ガル。結局、包帯までお世話になってしまいました」

「気にするな。ルカテの回復魔法のおかげで薬は節約できたんだから、それだけでも十分だ。あとは、これも被るといい」

 雨の日に使うフード付きの外套をルカテに渡した。国の中であれば今着ている形見の巫女衣装でも問題は無いが、ここは魔物も居る外だ。足に包帯を巻いたことで少しは露出も下がったが、安全を考えるならまだ足りない。理由が無い限り、肌は隠せるだけ隠しておいた方がいい。

「これでいいですか?」

「ぶかぶかだが、まあいいだろう。裾が邪魔だったら、足回りは開けておくといい。カビ臭いとかも無いか?」

 ルカテは外套の裾を鼻先に持っていくと、ヒクヒクと鼻を動かした。これで加齢臭がするなどと言われたら、泣いてしまうかもしれない。

「すんすん――……くんくん――……多分、大丈夫です。気になりません……すんすん――……」

「そ、そうか……それならいいんだ……」

 気にならないと言ったにも関わらず何度も確認するように匂いを嗅いでいるのが気になったが、やっぱり臭いと言われるのが怖くて言及はできなかった。

「それじゃあ昼飯だけ簡単に済ませて、終わり次第すぐに出発しよう。時間に余裕があれば川に魚を捕りに行くところだが、日暮れまでにレスト国にはついておきたい。美味いもんじゃないが、保存食のパンと干し肉でもいいか?」

「いいえ、僕は必要ありません。お腹が空いていないので、どうかガルの分はガルが食べてください」

 ルカテの言葉が嘘であることは明らかだ。澄ました顔をしているが、ルカテの状況から考えれば満腹であるはずがない。この期に及んで、ルカテはまだ遠慮している。

 ルカテの痩せ我慢を論破するのは簡単だが、自分の意思で素直に甘えて欲しいというのが本音だ。ここは一つ、誘惑でもしてみようか。

「そうか、それならちょっと待っていてくれ。すぐに済ませるからな」

 美味いもんじゃないとは言ったが、空腹の子供を素直にする程度の力はあるだろう。硬い干し肉とパン単体では大したことは無いが、焚火で炙ってサンドイッチにしてやれば少しは――

「あれっ……しまったな……」

「ガル? 何か問題ですか?」

「いや、ちょっと勘違いしていてな。甘いパンしか残ってなかったんだ。これじゃあ干し肉とは合わないな」

「甘いパン……?」

「知らないか? 砂糖で味付けしてある、保存性の高いパンだ。興味本位で買ってみたんだが、どうにも甘すぎてな。俺の口には合わなくて、ずっと残していたんだ」

「そんなに甘いのですか?」

「ああ……でも待てよ。砂糖が塗してあるから、焚火で炙ってやれば多少は……」

 焚火にパンを近づけると表面の粉砂糖がじゅくじゅくと泡立ち、その色を飴色へと変えていく。すると周囲に甘い匂いが広がった。

「すんすん――……くんくん――……すん、すんすん――……」

 外套の匂いを嗅いでいた時よりも忙しそうにルカテの鼻がヒクついている。その表情からも、すっかり甘い匂いの虜になっているようだ。

「食うか?」

「っ! い、いえ……先ほども申し上げた通り、僕はお腹が空いていませんから。ガルのお金で調達した食料なのですから、どうかガルが食べてください……っ」

 そうは言いつつも、目と鼻がパンに釘付けになっている。想定とは異なるが、もう少しで堕ちそうだ。

「そうか? じゃあ食うが……うん、やっぱり甘いな。焼いてはみたものの、俺の口には合わないみたいだ」

「そうですか……それは残念ですね……」

「ああ、今日の昼食は干し肉だけで済ませるとしよう。このパンは……どうしたものかな……捨てるのはさすがに勿体ないが‥‥…」

「っ……そうですね……捨てるのは良くないと思います」

「だからと言って誰かに譲るのも難しい……齧ってなければまだ貰い手も居たかもしれないが……ルカテはどう思う?」

 わざとらしくルカテの眼前にパンを差し出してやる。すると餌を前にした子犬のように鼻がヒクつき、瞳が恍惚とし始めた。少しパンを揺らすだけで瞳も釣られて揺らぎ、その鼻先はパンに触れんばかりだ。

「がっ、ガルが困っているのなら、僕が力になりましょうか?」

「具体的には?」

「パンの貰い手に困っているのなら、是非とも、僕にその甘いパンをいただければと……っ」

「いいのか? でも、腹は減ってないんだろう?」

 ルカテの反応が面白くて、つい揶揄いたくなってしまった。パンを少しずつ手前に引いてみると、ルカテもよたよたとこちらに歩いてくる。その目はもうパンしか見えていないし、鼻はパンの匂いを嗅ぐのに必死だ。

「うっ……そっ、そうです……やはり、僕がガルにパンを恵んでもらうなんて……。もうたくさん恩をもらってばかりで、少しも返せていないのに、これ以上はっ……っ」

「ふっ……ああ、ったく!」

「わぁっ!?」

 結局、根負けしたのは俺の方だった。パンに釣られてふらふらと近寄ってきたルカテを抱き込んで、その口元にパンを差し出してやる。

「えっ? えっ?」

「是非とも食べてくれ、ルカテ。俺の代わりにこのパンを食べてくれるなら、とてもありがたい」

「はっ、はい! ガルがそこまで言ってくださるのなら……いただきます」

 舌も見えないくらいに小さく口を開けて、遠慮がちにパンの端っこに齧りつくルカテ。

「~~っ!!」

 どうやらその味をいたく気に入ったらしい。今度は大きく口を開けると、歯を見せながら大きくかぶりつく。

「美味いか?」

「はい! こんなに甘いパン、レスト国にはありません……とっても美味しいです!」

 口元を粉糖で汚し、目を輝かせ、鼻息荒くパンに齧りつくルカテ。年に見合わない聡明な振舞いはどこへ行ったのか、今の姿は実年齢よりも幼く見えてしまう。

「そうか……それなら良かった」

 この様子だと、その内喉を詰まらせるだろう。すぐに飲み水を渡せるように準備をしながら、俺は硬い干し肉を口に放り込んだ。

「ん……?」

 いつもと同じ、硬く味気ない物を想定しながら咀嚼していたのだが。不思議なことに、今日の干し肉はいつもより美味く感じた。
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