27 / 55
討伐
その腹に突き刺さったランスには真っ赤な血が滴っていた
しおりを挟む
「ガルっ!!」
鋭く硬いグリフォンの爪が、硬く重厚な大盾にぶつかり、音の爆発が起こった。
グリフォンと比較してしまうとあまりにも小さいガルの体躯では、その突進の勢いに耐えることができるわけもなく、構えていた盾ごと大きく吹き飛ばされ――
「うそ……」
――吹き飛ばされてはいなかった。
ガルはその大盾でグリフォンの爪による一撃を受け止めていた。自身よりも何倍も大きく強靭な魔物の一撃を受けても、両足でしっかりと立っていた。
「■■■――!!」
再びグリフォンが前脚を振り下ろし、轟音が鳴り響く。しかし飛び掛かりと比べれば軽い一撃では、やはり盾を構えたガルを崩すことはできなかった。
あの大盾は伊達では無かったのだ。ガルの肉体にはあの大盾を使いこなすための筋肉が詰まっていて、それはグリフォンの一撃を防ぐほどに強靭であった。
「ガルっ……すごいっ……!」
もはや不安など吹き飛んでいた。あの頼もしい背中を見せられては、ガルが負けることなど考えられなかった。グリフォンに最初の飛び掛かり以上の攻撃をできるとは思えない。一度あそこまで接近してしまったら、もはやガルの鉄壁の前に成す術も無い……そう思っていた。
「■■■■――!!」
グリフォンは何度もガルに向かってその爪を振り下ろす。金属音を響かせながら、重厚な大盾に何度も攻撃を重ねる。サイドステップで位置を変え、角度を変え、ガルへと猛撃する。
ガルはその全てを防いでいる。グリフォンが移動すれば即座に身体の向きを変え、大盾を構えているとは思えない俊敏な身のこなしでグリフォンを正面に捉え続けている。しかし、それだけだった。ガルは確かにグリフォンの攻撃を防いではいるものの、一度も攻勢に転じることができていない。
「ガル……ガルっ……」
いつの間にか、僕は無意識に両手を顔の前で組んでいた。身体が勝手に、ガルの勝利を祈り始めていた。
この膠着状態がこのまま続いた時、先に力尽きるのはどちらなのか。そんなのは見るからに明らかだ。そもそも人間と魔物のフィジカルには大きな差があり、攻撃と防御では精神力の消耗量も違うだろう。ガルは受け損なった瞬間に絶命するかもしれないが、グリフォン側はそうじゃない。見ての通りその攻撃のチャンスは何度もあり――
「■■■■■■■――!!」
――ついにグリフォンはその上体を大きく持ち上げた。
その体重を使ってガルを上から踏み潰すつもりなのだろう。のしかかられてしまったら、いくら強靭な盾といえども意味を為さない。一度踏まれてしまえば、その巨体を持ち上げない限り脱出は敵わず、人間の力であのグリフォンを持ち上げるなどできるわけがない。
「ガルっ! 逃げて!!」
思わず叫んでいた。声を出さずにはいられなかった。
そして、ガルは僕の言葉とは真逆に、グリフォンの方へ向かって大きくステップを踏んでいた。
「■■――!?」
高く持ち上げられたその胴体と地面の間に潜り込むと、ガルはその盾をバリケードへと変形させた。
一瞬にして身体の下に現れた障害物にのしかかりを阻害され、グリフォンの上半身が無防備に宙に浮く。
ガルはその隙を見逃さず、グリフォンの腹を目掛けて、両手で構えたランスを突き刺した。
「■■■■■■■――!?」
グリフォンの叫び声が響き渡る。その腹に突き刺さったランスには真っ赤な血が滴っていた。
「やった! やった、ガル!!」
思わずぴょんぴょんと跳ねてしまった。まるで自分のことのように、ガルの強さが誇らしくて堪らなかった。
ガルはずっと隙を窺っていたのだ。グリフォンが焦れるのを盾の裏で待っていたのだ。
心があるのかもわからない魔物相手に心理戦を仕掛け、そして見事に上回って見せた。文字通りの形成逆転だ。
ガルは赤く染まったランスを素早く引き抜くと、再びグリフォンの腹部へと突き刺した。
「■■■――!!」
しかし、二発目の突きは大きな翼による羽ばたきに邪魔されてしまい、深くは刺さらなかったようだ。グリフォンはその後脚で地面を蹴ると、盾を飛び越えてガルと大きく距離を取った。
「…………」
ガルに油断している様子は無かった。グリフォンの流血が地面に垂れて血溜まりを作っていても、冷たい眼差しで睨みつけたまま盾を再び構えていた。
僕はガルの勝ちを確信していた。ガルにはグリフォンの攻撃は通じない。再び飛び掛かったところで、ガルならもう一度防げる。接近戦になってしまえば、それはもうガルの距離だ。あの流血では、持久戦になってもガルに分があるだろう。
「ガルっ……ガルっ……!」
感情が勝手に唇から溢れ出していく。ただ見ているだけなのに、身体が興奮してしまって仕方がない。自分のことのように、いや自分のこと以上に、ガルが強いことが嬉しくて仕方がない。
「■■■■――!!」
そんな僕の期待を千々に割かんばかりの咆哮をあげると、グリフォンは翼をはためかせ飛び上がった。大きな翼が飾りではないことを示すように、グリフォンはその巨体で飛んでいた。
逃げるつもりだろうか。このまま戦っていてもグリフォンに勝ち目は無いのだから、それは英断と言えるのだろう。できることならガルが勝利する様を見たかったけれども、無事に帰ってきてくれるのならなんだっていい。
「■■■■■■■――!!」
僕の予想通り、グリフォンはその身を翻すと後方へと飛び去った。飛び掛かりとは比べ物にならないスピードで、その影が豆粒のように小さくなったかと思えば――
「えっ……?」
――豆粒サイズだったはずの影が、瞬きをしただけでガルの目前まで迫っていた。
「■■■■■■■――!!」
気づいた時にはグリフォンは再び上空に居て、まるで勝利の雄叫びと言わんばかりの声を上げていた。
鋭く硬いグリフォンの爪が、硬く重厚な大盾にぶつかり、音の爆発が起こった。
グリフォンと比較してしまうとあまりにも小さいガルの体躯では、その突進の勢いに耐えることができるわけもなく、構えていた盾ごと大きく吹き飛ばされ――
「うそ……」
――吹き飛ばされてはいなかった。
ガルはその大盾でグリフォンの爪による一撃を受け止めていた。自身よりも何倍も大きく強靭な魔物の一撃を受けても、両足でしっかりと立っていた。
「■■■――!!」
再びグリフォンが前脚を振り下ろし、轟音が鳴り響く。しかし飛び掛かりと比べれば軽い一撃では、やはり盾を構えたガルを崩すことはできなかった。
あの大盾は伊達では無かったのだ。ガルの肉体にはあの大盾を使いこなすための筋肉が詰まっていて、それはグリフォンの一撃を防ぐほどに強靭であった。
「ガルっ……すごいっ……!」
もはや不安など吹き飛んでいた。あの頼もしい背中を見せられては、ガルが負けることなど考えられなかった。グリフォンに最初の飛び掛かり以上の攻撃をできるとは思えない。一度あそこまで接近してしまったら、もはやガルの鉄壁の前に成す術も無い……そう思っていた。
「■■■■――!!」
グリフォンは何度もガルに向かってその爪を振り下ろす。金属音を響かせながら、重厚な大盾に何度も攻撃を重ねる。サイドステップで位置を変え、角度を変え、ガルへと猛撃する。
ガルはその全てを防いでいる。グリフォンが移動すれば即座に身体の向きを変え、大盾を構えているとは思えない俊敏な身のこなしでグリフォンを正面に捉え続けている。しかし、それだけだった。ガルは確かにグリフォンの攻撃を防いではいるものの、一度も攻勢に転じることができていない。
「ガル……ガルっ……」
いつの間にか、僕は無意識に両手を顔の前で組んでいた。身体が勝手に、ガルの勝利を祈り始めていた。
この膠着状態がこのまま続いた時、先に力尽きるのはどちらなのか。そんなのは見るからに明らかだ。そもそも人間と魔物のフィジカルには大きな差があり、攻撃と防御では精神力の消耗量も違うだろう。ガルは受け損なった瞬間に絶命するかもしれないが、グリフォン側はそうじゃない。見ての通りその攻撃のチャンスは何度もあり――
「■■■■■■■――!!」
――ついにグリフォンはその上体を大きく持ち上げた。
その体重を使ってガルを上から踏み潰すつもりなのだろう。のしかかられてしまったら、いくら強靭な盾といえども意味を為さない。一度踏まれてしまえば、その巨体を持ち上げない限り脱出は敵わず、人間の力であのグリフォンを持ち上げるなどできるわけがない。
「ガルっ! 逃げて!!」
思わず叫んでいた。声を出さずにはいられなかった。
そして、ガルは僕の言葉とは真逆に、グリフォンの方へ向かって大きくステップを踏んでいた。
「■■――!?」
高く持ち上げられたその胴体と地面の間に潜り込むと、ガルはその盾をバリケードへと変形させた。
一瞬にして身体の下に現れた障害物にのしかかりを阻害され、グリフォンの上半身が無防備に宙に浮く。
ガルはその隙を見逃さず、グリフォンの腹を目掛けて、両手で構えたランスを突き刺した。
「■■■■■■■――!?」
グリフォンの叫び声が響き渡る。その腹に突き刺さったランスには真っ赤な血が滴っていた。
「やった! やった、ガル!!」
思わずぴょんぴょんと跳ねてしまった。まるで自分のことのように、ガルの強さが誇らしくて堪らなかった。
ガルはずっと隙を窺っていたのだ。グリフォンが焦れるのを盾の裏で待っていたのだ。
心があるのかもわからない魔物相手に心理戦を仕掛け、そして見事に上回って見せた。文字通りの形成逆転だ。
ガルは赤く染まったランスを素早く引き抜くと、再びグリフォンの腹部へと突き刺した。
「■■■――!!」
しかし、二発目の突きは大きな翼による羽ばたきに邪魔されてしまい、深くは刺さらなかったようだ。グリフォンはその後脚で地面を蹴ると、盾を飛び越えてガルと大きく距離を取った。
「…………」
ガルに油断している様子は無かった。グリフォンの流血が地面に垂れて血溜まりを作っていても、冷たい眼差しで睨みつけたまま盾を再び構えていた。
僕はガルの勝ちを確信していた。ガルにはグリフォンの攻撃は通じない。再び飛び掛かったところで、ガルならもう一度防げる。接近戦になってしまえば、それはもうガルの距離だ。あの流血では、持久戦になってもガルに分があるだろう。
「ガルっ……ガルっ……!」
感情が勝手に唇から溢れ出していく。ただ見ているだけなのに、身体が興奮してしまって仕方がない。自分のことのように、いや自分のこと以上に、ガルが強いことが嬉しくて仕方がない。
「■■■■――!!」
そんな僕の期待を千々に割かんばかりの咆哮をあげると、グリフォンは翼をはためかせ飛び上がった。大きな翼が飾りではないことを示すように、グリフォンはその巨体で飛んでいた。
逃げるつもりだろうか。このまま戦っていてもグリフォンに勝ち目は無いのだから、それは英断と言えるのだろう。できることならガルが勝利する様を見たかったけれども、無事に帰ってきてくれるのならなんだっていい。
「■■■■■■■――!!」
僕の予想通り、グリフォンはその身を翻すと後方へと飛び去った。飛び掛かりとは比べ物にならないスピードで、その影が豆粒のように小さくなったかと思えば――
「えっ……?」
――豆粒サイズだったはずの影が、瞬きをしただけでガルの目前まで迫っていた。
「■■■■■■■――!!」
気づいた時にはグリフォンは再び上空に居て、まるで勝利の雄叫びと言わんばかりの声を上げていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる