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討伐
燃ゆる火炎を切り裂きながら――星が落ちた
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そして、ガルは跳躍した。
自立させた大盾を踏み台にして、上空へと躍り出た。
「■■――っ!?」
自らの吐き出した火炎によって視界の悪いグリフォンの目に、それがどう映ったのかはわからない。しかし動揺を誘えたことは確かで、あたりを焼き尽くしていた火炎放射がぴたりと止んだ。
「うそ……」
今日一日で、どれだけ驚愕させてくれたのだろうか。グリフォンの音速突進を受け止めるだけの下半身を使って跳躍すると、人は空も跳べるらしい。
見上げた空では、ランスを携えたガルがグリフォンの上を取っていた。
「■■■■■■――っ!!」
雄叫びを上げたグリフォンが再び火炎を吐き出すが、それが悪手であることは明らかだった。質量の無い火炎放射をぶつけたところで、流星を止めることはできない。
生き延びたいのであればグリフォンは避けるべきだった。それも、ガルが跳んだ時点で手遅れだったのかもしれないけれど。
「おおおおぉぉっ!!」
グリフォンにも負けない雄叫び。希望と勇気に溢れ、聞いているだけでお腹の底から熱いものが込み上げてくる咆哮。
燃ゆる火炎を切り裂きながら――星が落ちた。
「■■■――っ!?」
ガルは落下の勢いをそのままに、グリフォンにランスを突き刺した。
その翼の付け根への一撃は、空を飛ぶものにとっては致命だった。グリフォンは滞空を維持できずに、空からの突進によって地面へと突き落とされる。
「や、やった……すごいっ、すごいガルっ!」
まさか、空を駆けるグリフォンに対して空中戦で勝って見せるとは思わなかった。勝利を願っていたけれども、そんな勝ち方とは思ってもいなかった。
まさに魔物狩りのプロだ。地上で盾を構えれば堅牢なる要塞。盾を捨てれば空をも跳ぶランサー。そして今は、受け身を取る様子も無くグリフォンと共に空から地面と落ちていく……。
「が、ガルっ!?」
地上20メートルはある場所からほぼ垂直に、ガルはグリフォンと共に落下した。グリフォンを倒せても、落下死してしまっては元も子もない。
盾から飛び出して落下地点に駆け寄ると、ガルはグリフォンから少し離れた位置に仰向けに倒れていた。
「ガルっ! ガルっ!! 生きてますか!?」
「おう……なんとかな……」
グリフォンの身体がクッションになってくれたのだろうか。立ち上がることもできないようだが、ガルは僕の言葉に反応してくれた。
「良かった……っ、ガルっ……!」
安堵した途端に涙が溢れ出してきた。さっきまでは不安と恐れで感情が溢れていたのに、今は安堵と喜びの気持ちでいっぱいだ。
本当に、ガルが死ななくてよかった。
「ありがとう、ルカテ……」
「それは、こっちのセリフですよ……。ありがとうございます、ガル……」
「いや、助けてもらったのは俺の方だ。ルカテが来てくれなかったら、俺は多分死んでたから……だから、本当にありがとう、ルカテ」
「ガルっ……っ!」
ありがとうなんて、家族以外から言われたことも無い。母が失踪してからは、誰からももらえなかった言葉。
ガルが初めての人で良かった。この人が僕にとっての運命の人なのだと、心の底からそう思える。
「はは……そんなに泣くことないだろ?」
「だってっ……だってぇっ……」
ボロボロと零れる毒の涙。感情が溢れて、少しも止めることができない。
万が一にもガルにかからないように身を引いたが、ガルは右手を持ち上げ僕に向けてジェスチャーしていた……おいでおいでと。
「だっ、ダメですよ……忘れちゃったんですか? 僕の涙は猛毒だから――」
「涙は空気に触れるだけでも無毒化するんだろ? もっとこっちに近づいてくれよ。俺が守ることのできたその顔を、近くでよく見せてくれ」
「ガルっ……わわっ!?」
その言葉に誘われて少しだけ近づいた途端に、手を掴まれその胸に引きずり込まれてしまった。僕の頬を伝った涙が、ガルの胸の上にぼたぼたと零れ落ちる。
慌てて顔を離そうとしたら、ガルの逞しい腕に押さえつけられてしまった。瀕死に見えるガルであったが、それでもまだ僕よりも筋力があるようだ。
「が、ガル!? こ、こんな近くじゃ、毒が!!」
「不味いのか?」
「っ……多分、大丈夫ですけど……素肌じゃないですし……」
「なら、何も気にすること無いな」
「……でも、これじゃあ僕の顔も見れなくないですか? 顔が見たいと言っていたのに……」
「ん? ああ……まあ、何でもいいだろ」
「もう……ガルってば、何なんですか……」
ガルの思惑はわからない。しかし、その嬉しそうな声を聞いているだけでこっちまで嬉しくなってしまう。それに、涙でぐしゃぐしゃになった顔なんて見られたくはないから、こっちの方が都合がいい。
しばらくの間、僕たちはぴったりとくっつきながら互いの生存を喜び合った。息は絶え絶えでも、力強く鳴り響く鼓動を直接耳に感じながら。弱々しくても、優しく撫でてくれるその手を後頭部に感じながら。
目の前にあるお互いの存在を、ただ静かに感じ合った。
自立させた大盾を踏み台にして、上空へと躍り出た。
「■■――っ!?」
自らの吐き出した火炎によって視界の悪いグリフォンの目に、それがどう映ったのかはわからない。しかし動揺を誘えたことは確かで、あたりを焼き尽くしていた火炎放射がぴたりと止んだ。
「うそ……」
今日一日で、どれだけ驚愕させてくれたのだろうか。グリフォンの音速突進を受け止めるだけの下半身を使って跳躍すると、人は空も跳べるらしい。
見上げた空では、ランスを携えたガルがグリフォンの上を取っていた。
「■■■■■■――っ!!」
雄叫びを上げたグリフォンが再び火炎を吐き出すが、それが悪手であることは明らかだった。質量の無い火炎放射をぶつけたところで、流星を止めることはできない。
生き延びたいのであればグリフォンは避けるべきだった。それも、ガルが跳んだ時点で手遅れだったのかもしれないけれど。
「おおおおぉぉっ!!」
グリフォンにも負けない雄叫び。希望と勇気に溢れ、聞いているだけでお腹の底から熱いものが込み上げてくる咆哮。
燃ゆる火炎を切り裂きながら――星が落ちた。
「■■■――っ!?」
ガルは落下の勢いをそのままに、グリフォンにランスを突き刺した。
その翼の付け根への一撃は、空を飛ぶものにとっては致命だった。グリフォンは滞空を維持できずに、空からの突進によって地面へと突き落とされる。
「や、やった……すごいっ、すごいガルっ!」
まさか、空を駆けるグリフォンに対して空中戦で勝って見せるとは思わなかった。勝利を願っていたけれども、そんな勝ち方とは思ってもいなかった。
まさに魔物狩りのプロだ。地上で盾を構えれば堅牢なる要塞。盾を捨てれば空をも跳ぶランサー。そして今は、受け身を取る様子も無くグリフォンと共に空から地面と落ちていく……。
「が、ガルっ!?」
地上20メートルはある場所からほぼ垂直に、ガルはグリフォンと共に落下した。グリフォンを倒せても、落下死してしまっては元も子もない。
盾から飛び出して落下地点に駆け寄ると、ガルはグリフォンから少し離れた位置に仰向けに倒れていた。
「ガルっ! ガルっ!! 生きてますか!?」
「おう……なんとかな……」
グリフォンの身体がクッションになってくれたのだろうか。立ち上がることもできないようだが、ガルは僕の言葉に反応してくれた。
「良かった……っ、ガルっ……!」
安堵した途端に涙が溢れ出してきた。さっきまでは不安と恐れで感情が溢れていたのに、今は安堵と喜びの気持ちでいっぱいだ。
本当に、ガルが死ななくてよかった。
「ありがとう、ルカテ……」
「それは、こっちのセリフですよ……。ありがとうございます、ガル……」
「いや、助けてもらったのは俺の方だ。ルカテが来てくれなかったら、俺は多分死んでたから……だから、本当にありがとう、ルカテ」
「ガルっ……っ!」
ありがとうなんて、家族以外から言われたことも無い。母が失踪してからは、誰からももらえなかった言葉。
ガルが初めての人で良かった。この人が僕にとっての運命の人なのだと、心の底からそう思える。
「はは……そんなに泣くことないだろ?」
「だってっ……だってぇっ……」
ボロボロと零れる毒の涙。感情が溢れて、少しも止めることができない。
万が一にもガルにかからないように身を引いたが、ガルは右手を持ち上げ僕に向けてジェスチャーしていた……おいでおいでと。
「だっ、ダメですよ……忘れちゃったんですか? 僕の涙は猛毒だから――」
「涙は空気に触れるだけでも無毒化するんだろ? もっとこっちに近づいてくれよ。俺が守ることのできたその顔を、近くでよく見せてくれ」
「ガルっ……わわっ!?」
その言葉に誘われて少しだけ近づいた途端に、手を掴まれその胸に引きずり込まれてしまった。僕の頬を伝った涙が、ガルの胸の上にぼたぼたと零れ落ちる。
慌てて顔を離そうとしたら、ガルの逞しい腕に押さえつけられてしまった。瀕死に見えるガルであったが、それでもまだ僕よりも筋力があるようだ。
「が、ガル!? こ、こんな近くじゃ、毒が!!」
「不味いのか?」
「っ……多分、大丈夫ですけど……素肌じゃないですし……」
「なら、何も気にすること無いな」
「……でも、これじゃあ僕の顔も見れなくないですか? 顔が見たいと言っていたのに……」
「ん? ああ……まあ、何でもいいだろ」
「もう……ガルってば、何なんですか……」
ガルの思惑はわからない。しかし、その嬉しそうな声を聞いているだけでこっちまで嬉しくなってしまう。それに、涙でぐしゃぐしゃになった顔なんて見られたくはないから、こっちの方が都合がいい。
しばらくの間、僕たちはぴったりとくっつきながら互いの生存を喜び合った。息は絶え絶えでも、力強く鳴り響く鼓動を直接耳に感じながら。弱々しくても、優しく撫でてくれるその手を後頭部に感じながら。
目の前にあるお互いの存在を、ただ静かに感じ合った。
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