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討伐
風呂に入るのは嫌か?
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森の中の川辺にて
風呂に必要なのは二つ、水を溜めておく浴槽と、お湯を沸かすための熱源だ。
自然に温水が湧いているならまだしも、森の中で風呂を作るというのは中々に難しい。浴槽になるような物なんて持っていなければ、森の中では調達も困難だ。お湯を沸かすための熱源は火くらいしか無く、水を温めて浴びるのが精々だろう。
しかし、火以外の熱源が用意できるのなら話は変わる。例えば、水の中に放り込んでおけば勝手に温めてくれるような代物があれば、浴槽はなんだっていい。例えば穴を掘って川の水を引き込んでやれば、それだけで浴槽には十分だ。
「……うん、これくらいでいいな。もう入れそうだ」
急ごしらえの浴槽から火の神の恩寵を宿したロザリオを引き上げる。日は暮れてしまったが、何とか間に合って良かった。もう少し広く作れたらもっと良かったが、贅沢は言っていられない。
「あの……ガル? やっぱり僕は、お風呂は……」
振り向くと、ルカテはまだ服を着たままだった。外套をぎゅっと握りしめている様子から、脱ぐ様子も見られない。
「不安か? 周囲には聖水を撒いてあるし、この風呂にも入れてある。魔物のことなら心配しなくていいぞ」
「いえ……そうではなく……」
「ただの水浴びなら服を着たままでもいいだろうが、風呂は別だろう。俺だってこれから服を脱ぐ。森の中で服を脱ぐのに抵抗はあるかもしれんが、脱いだ方がさっぱりして気持ちいいぞ?」
「で、でも……やっぱり、僕は汗も毒ですから……」
どうやら、ルカテはまだ毒のことが気になるようだ。やはり、無毒化するとわかってはいても気が気じゃないのだろう。
しかしそんな態度を取られては、逆にこちらも引けなくなってしまう。ここでルカテの言葉を認めては、俺が毒を気にしていると思われかねない。
「汗は傷に触れなきゃいいんだろ? ルカテのおかげで傷は全部塞がってる。それに、水に混ざっても無毒化するんだ。何を気にすることがある?」
「それは、そうですけど……しかし……」
「聞かせてくれ、ルカテ。俺とお前が一緒に風呂に入ったとして、その毒が俺に害を為す可能性はあるのか?」
「……無いです。その可能性はほぼゼロに近いと言えます」
「それじゃあ入ろう。ルカテも俺の治療で疲れていただろう?」
「でも……でも……っ」
理性と感情は別ということなのだろう。頭では問題無いとわかっていても、心はもしもに怯えてしまっているようだ。
こうなってはその口に喋ってもらうほかないだろう。今のルカテの素直な気持ちを。
「ルカテ、俺と風呂に入るのは嫌か?」
「ちっ、違います! そういうわけではありませんっ……」
「じゃあ、俺と一緒に風呂に入りたいか?」
「……ごいっしょさせていただけるのなら……とても嬉しいです……」
良かった。これで俺との入浴は生理的に無理だと言われていたら、泣いてしまっていただろう。
「そうか……俺もだ。せっかく苦労して風呂を拵えたんだ。できることなら、ルカテと一緒に入りたい。それ以外に、考慮しないといけないことはあるか?」
「……本当に、いいんですか?」
「もちろんだ。ルカテが一緒に入ってくれたなら、とても嬉しいよ」
「ガル……わかりました。ご一緒させていただきます。まずは、服を脱ぐのをお手伝いしますね」
「ああ、助かる。防具ってのは割と脱ぐのが手間でな。紐を解いてもらうだけでも助かる」
「では、失礼いたしますね」
恭しく一礼すると、ルカテは俺の足元に跪いてブーツの紐に指をかけた。まるでルカテを従えているようで良い気分はしなかったが、考えすぎだろうか。身長差を考えれば足元の方がルカテにとっても都合が良いのだから何もおかしくはないのだが、その慣れたような所作がどうにも気になってしまった。
「ガル、足を上げてください」
「ん、ああ……どうもな」
靴下まで脱がせたルカテは次に足鎧に取り掛かった。革製だからルカテでも扱いやすいのだろう。防具の類には慣れていないだろうに、てきぱきと外していく。
すね当て、ひざ当て、もも当て、ベルト――
「る、ルカテ? そこまででいいぞ?」
「え? でも、まだズボンと下着が残っていますよ?」
「それくらいなら後は脱ぐだけだろ? ルカテの手を借りるまでもない」
「? 脱ぐだけなら、このまま僕が脱がせれば良いのでは?」
「いや、それは……そうなんだが……」
何となくではあるが、気まずかった。
同性に股間を見られることなど気にしたことはない。これから風呂に入るとなればなおさらだ。風呂では全裸が当たり前なのだから、他人の股間も自分の股間も気にしたりはしない。
しかし、この状況はどうなのだろうか。ルカテくらいの年の子に跪かせて、ズボンと下着を脱がせる。そうなれば当然、顔の前にあれが出てしまうわけだが……同性でも絵面的に良くないような気がしてならない。
ルカテは特に気にしていない様子だし、俺の気にしすぎなのだろうか。
「ほら、ルカテも脱がないとだろ? 俺は後は上半身はシャツだけだし、ルカテも服を脱いでてくれ」
「最後までお手伝いしたかったのですが……ガルがそこまで言うのなら……」
渋々という様子ではあったが、ルカテは立ち上がって離れてくれた。そんなに脱がせたかったのだろうか。
風呂に必要なのは二つ、水を溜めておく浴槽と、お湯を沸かすための熱源だ。
自然に温水が湧いているならまだしも、森の中で風呂を作るというのは中々に難しい。浴槽になるような物なんて持っていなければ、森の中では調達も困難だ。お湯を沸かすための熱源は火くらいしか無く、水を温めて浴びるのが精々だろう。
しかし、火以外の熱源が用意できるのなら話は変わる。例えば、水の中に放り込んでおけば勝手に温めてくれるような代物があれば、浴槽はなんだっていい。例えば穴を掘って川の水を引き込んでやれば、それだけで浴槽には十分だ。
「……うん、これくらいでいいな。もう入れそうだ」
急ごしらえの浴槽から火の神の恩寵を宿したロザリオを引き上げる。日は暮れてしまったが、何とか間に合って良かった。もう少し広く作れたらもっと良かったが、贅沢は言っていられない。
「あの……ガル? やっぱり僕は、お風呂は……」
振り向くと、ルカテはまだ服を着たままだった。外套をぎゅっと握りしめている様子から、脱ぐ様子も見られない。
「不安か? 周囲には聖水を撒いてあるし、この風呂にも入れてある。魔物のことなら心配しなくていいぞ」
「いえ……そうではなく……」
「ただの水浴びなら服を着たままでもいいだろうが、風呂は別だろう。俺だってこれから服を脱ぐ。森の中で服を脱ぐのに抵抗はあるかもしれんが、脱いだ方がさっぱりして気持ちいいぞ?」
「で、でも……やっぱり、僕は汗も毒ですから……」
どうやら、ルカテはまだ毒のことが気になるようだ。やはり、無毒化するとわかってはいても気が気じゃないのだろう。
しかしそんな態度を取られては、逆にこちらも引けなくなってしまう。ここでルカテの言葉を認めては、俺が毒を気にしていると思われかねない。
「汗は傷に触れなきゃいいんだろ? ルカテのおかげで傷は全部塞がってる。それに、水に混ざっても無毒化するんだ。何を気にすることがある?」
「それは、そうですけど……しかし……」
「聞かせてくれ、ルカテ。俺とお前が一緒に風呂に入ったとして、その毒が俺に害を為す可能性はあるのか?」
「……無いです。その可能性はほぼゼロに近いと言えます」
「それじゃあ入ろう。ルカテも俺の治療で疲れていただろう?」
「でも……でも……っ」
理性と感情は別ということなのだろう。頭では問題無いとわかっていても、心はもしもに怯えてしまっているようだ。
こうなってはその口に喋ってもらうほかないだろう。今のルカテの素直な気持ちを。
「ルカテ、俺と風呂に入るのは嫌か?」
「ちっ、違います! そういうわけではありませんっ……」
「じゃあ、俺と一緒に風呂に入りたいか?」
「……ごいっしょさせていただけるのなら……とても嬉しいです……」
良かった。これで俺との入浴は生理的に無理だと言われていたら、泣いてしまっていただろう。
「そうか……俺もだ。せっかく苦労して風呂を拵えたんだ。できることなら、ルカテと一緒に入りたい。それ以外に、考慮しないといけないことはあるか?」
「……本当に、いいんですか?」
「もちろんだ。ルカテが一緒に入ってくれたなら、とても嬉しいよ」
「ガル……わかりました。ご一緒させていただきます。まずは、服を脱ぐのをお手伝いしますね」
「ああ、助かる。防具ってのは割と脱ぐのが手間でな。紐を解いてもらうだけでも助かる」
「では、失礼いたしますね」
恭しく一礼すると、ルカテは俺の足元に跪いてブーツの紐に指をかけた。まるでルカテを従えているようで良い気分はしなかったが、考えすぎだろうか。身長差を考えれば足元の方がルカテにとっても都合が良いのだから何もおかしくはないのだが、その慣れたような所作がどうにも気になってしまった。
「ガル、足を上げてください」
「ん、ああ……どうもな」
靴下まで脱がせたルカテは次に足鎧に取り掛かった。革製だからルカテでも扱いやすいのだろう。防具の類には慣れていないだろうに、てきぱきと外していく。
すね当て、ひざ当て、もも当て、ベルト――
「る、ルカテ? そこまででいいぞ?」
「え? でも、まだズボンと下着が残っていますよ?」
「それくらいなら後は脱ぐだけだろ? ルカテの手を借りるまでもない」
「? 脱ぐだけなら、このまま僕が脱がせれば良いのでは?」
「いや、それは……そうなんだが……」
何となくではあるが、気まずかった。
同性に股間を見られることなど気にしたことはない。これから風呂に入るとなればなおさらだ。風呂では全裸が当たり前なのだから、他人の股間も自分の股間も気にしたりはしない。
しかし、この状況はどうなのだろうか。ルカテくらいの年の子に跪かせて、ズボンと下着を脱がせる。そうなれば当然、顔の前にあれが出てしまうわけだが……同性でも絵面的に良くないような気がしてならない。
ルカテは特に気にしていない様子だし、俺の気にしすぎなのだろうか。
「ほら、ルカテも脱がないとだろ? 俺は後は上半身はシャツだけだし、ルカテも服を脱いでてくれ」
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