重槍士は褐色毒ショタに出会う

papporopueeee

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討伐

貴方のことを僕の中に刻ませてください

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「はぁ~っ……っ」

 自然と吐息が漏れてしまうほどの幸せな時間。勇気を出してガルにおねだりをして本当に良かった。

 お風呂がこんなに気持ちがいいなんて、久しぶりすぎて忘れてしまっていた。ただ温かいお湯に包まれているだけなのに、まるで全身をマッサージされているかのような心地だ。頬に当たる冷たい風も、程よく頭を冷やしてくれていくらでも入っていられそうな気持ちになってしまう。

 腰に当たるモノが少し気になるけれど、先ほどの直接触れ合った衝撃と比べればこんなのは些事だ。むしろ、いじわるをしたらガルがどんな反応をしてくれるのかと愉しみすら見出してしまう。もちろん、ガルに嫌われたくないからそんなことはできないけれど。

「ふっ……んぅっ……~~っ」

「気持ちいいか?」

「あっ……ごめんなさい、うるさかったですか?」

「そんなことない。むしろ、もっと気持ちよさそうにしてもらえると、風呂を作った苦労も浮かばれるってもんだ」

「ふふっ、ありがとうございます……ガル……」

「おっと、頭を預けるのはいいが寝るなよ? のぼせちまう」

「大丈夫です。だって、寝ちゃったら勿体ないですから……」

 ガルの胸に直接触れる僕の背中。そこから伝わるガルの体温と鼓動。お風呂の中でもしっかりと伝わるその温もりと、僕の胸にまで響く心臓の音。抱っこはずっとされていたけれど、素肌になるだけでこんなにも変わるなんて知らなかった。

 他人と肌を触れ合わせるのなんて気持ち悪いだけだと思っていたけれど。これは、もうガルが他人じゃないということなんだろうか。僕の中で、ガルは――

「ルカテ」

「何ですか?」

「レスト国に戻ったらどうする?」

「っ……」

 それは、僕を現実に戻す言葉だった。夢のような現実逃避から、目を覚まさせる言葉。

「予定よりもずっと大きな成果を持ち帰るわけだからな。あのレスト王でも、ここまでの働きを無碍にはできないだろう。ルカテもきっと自由の身になれる」

「僕は、別に……仮に自由になっても、皆からの目が変わるわけではありませんから……」

 二頭ものグリフォンを倒せたのはガルのおかげだ。僕も少しは役に立てたかもしれないけれど、ガルが居てこそだ。

 どれだけ成果が大きくとも、僕の贖罪としては足りていない。民衆の心が動くことは無く、態度が変わることも無いだろう。処刑を免れ、牢獄から解放されたとしても、またあの迫害される日々に戻るだけだ。

「確かにな。差別意識ってのは簡単に抜けるものじゃないし、仕方ない部分もあるしな」

「……え?」

 聞き間違いかと思った。今のガルの言い方では、僕を迫害する人たちの肩を持っているように聞こえてしまったから。

 今までずっと僕に優しくしてくれたガルがそんなこと言うわけが……それとも、やっぱりガルは――

「意外か? 俺がこんなこと言うなんて」

「そんなことは……僕は所詮、人ではありませんから……」

「卑下しなくていい。俺もそんなつもりで言ったわけじゃない」

「んっ……」

 お湯が滴るガルの手が僕の頭に乗る。その掌から、ガルの温かい優しさが伝わってくる。

 ガルの僕への優しさは少しも変わっていない。その上で、ガルはレスト国の人たちのことも慮っているようだ。

「人間ってのは集団で生活する生き物だからな。どうしても浮いてる部分に目がいってしまうんだ。良い意味でも、悪い意味でもな。ルカテはレスト国では二人だけの褐色肌だったから目をつけられた……でもだからって、レスト国の人たちを責めることはできないと俺は思ってる」

「それは……」

 どうして、と聞くのは躊躇われた。だってそれは、何も考えずに僕の見方をして欲しいとわがままを言うようなものだから。

 しかしそんな胸中もガルにはお見通しなのか、ガルの手が慰めるように頭を撫でてくれた。

「無知を責めることはできない。褐色肌はこの地方では珍しいからな。人の行き交いがほとんどないレスト国の人々は見たことも聞いたことも無いだろうし、警戒するなというのは無茶だ」

「警戒? 僕を?」

「常識外の存在が怖いんだよ。だから警戒するし、自分よりも下に置いて安心したがる。それは決して褒めることはできないが、罰するのも難しい。彼らはただ、国の外には当たり前のように褐色肌の人間が存在することを知らないだけなんだ」

「……」

 その言葉を聞いて、少しだけ想像できた気がした。僕と母様が、あの国の人たちの目にどう映っていたのか。

 ある日国にやってきた母様は、彼らの常識外の肌の色をしていた。ガルの言葉通り、多かれ少なかれ警戒心はあったのだろう。

 そして母様は国王であった父様と結ばれ、同じ褐色肌である僕を産み落とす。彼らの分類において褐色肌が人間に非ざるのであれば、それは文字通りの侵略として映ったのかもしれない。どんどんと褐色肌を増やし、元の国民を駆逐する未来を見ていたのかもしれない。

 だからこそ、彼らは僕たちを虐げた。奪われないように、僕と母様からあらゆるものを奪おうとした。全ては無知からくる恐れが故に。

「皆がルカテを受け入れるのには時間が必要かもしれない。それでも、人は慣れる生き物だ。肌の色ではなく、ルカテという個人を見る機会が増えれば、自然と誠意を持ち始める。そうしたら、ルカテだって何も気にすることなくあの国で暮らせるようになる」

「そんなこと……ありえるのでしょうか……」

 ガルの言葉を信じていないわけではない。それでも、想像ができなかった。

 レスト国の中で、僕が普通に暮らしている姿。行き交う人々に挨拶をして、一緒に遊んだり、食卓を囲んだりする光景。そのイメージが、ちっとも湧いてこない。

 浮かんでくるのは、ギロチンへと歩く僕に侮蔑の眼差しを向ける光景だけ。首の落ちたその後に、血は赤かったんだ、なんて感想を言いながら日常に戻っていく姿。

「俺が付き合うからな。皆がルカテに慣れるまで、俺が傍に居てやる。それなら、少しは明るい気持ちで国に戻れるだろ?」

「ガル……」

 それは逆に言うと、皆が僕に慣れてしまったらガルは離れてしまうのだろうか。もしそうなら、ガルとレスト国の民衆のどちらかを選べるのなら、僕はガルに傍に居て欲しい……なんて、とても口には出せないけれど。

 だって、結局は僕は死ぬべき人間なのだから。人を殺した罪は、この命を以て償うことでしか雪げない。

「ガル……」

 この懺悔を口にすることはできない。優しいガルは、目の前で死のうとしている子供を放っておけないだろうから。ガルがレスト国を離れたその後に、僕は罪を償おう。

 でも、今だけは――

「どうした? のぼせたか?」

「いえ……少し寒くて……」

「確かに、冷めてきたな。ロザリオで温め直すか」

「いいえ……どうか、このまま……」

 ――ガルが傍に居る今この時だけは、甘えさせて欲しい。

 その胸に。その優しさに。その温かさに。

 今際の際に優しい笑顔と声を思い返せるように、貴方のことを僕の中に刻ませてください。
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