重槍士は褐色毒ショタに出会う

papporopueeee

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討伐

レイス国の英雄だと知らしめるかのように

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 レスト国の広場にて

 ガルといっしょに露天風呂に入ったその二日後、僕たちはレスト国に戻ってきた。

 短かったガルとの旅が、ついに終わってしまった。

「ルカテ、王宮に行く前に何か食うか? もう昼だし、腹減っただろ」

 関所にグリフォンの嘴を預けた後、国の広場まで来てガルはそう言った。壊されたはずのギロチンが直っていることに言及しないのは、きっとガルなりの優しさだろう。

「……いえ、僕は大丈夫です」

 どうせ食べるなら国の外で食べたかったけれど、ガルには言えない。外で保存食を食べるよりも、お店で料理を食べる方がガルにとってはいいに決まっている。この国の中では味を感じられなくなるのなんて、僕だけなんだから。

「そうか? それなら、報告が終わった後に討伐祝いでパーっと贅沢するか」

 僕とは違ってガルの声色は明るい。危険な討伐をやり遂げ、無事に安全な場所に戻ってこれたからだろう。その安心と喜びがこちらまで伝わってくる。

 ガルの成し遂げたことを考えれば、本来なら国中の人から歓迎されていなければおかしい。たった一人でグリフォンを2体も討伐してみせたのだから。あの戦いの様子を見せることができたのなら、今頃英雄と持て囃されていたに違いない。

 でも、ガルの隣には僕が居る。王子殺しの嫌われ者が傍に居るから、ガルはもらえたはずの賞賛を奪われた。

「ルカテ? どこか具合が悪いのか?」

「……いいえ、問題ありません」

 ガルは言ってくれた。いつか、この国が僕を受け入れてくれる日が来ると。でも、やっぱり僕にはそうは思えない。

 だって、僕自身がこの国を受け入れることができない。注がれすぎて体中に染みついてしまった嫌悪と蔑みが、心の奥まで刻まれた痛みと苦しみが、今この時も僕を苛んでいる。

「ルカテ……大丈夫だからな」

「あっ――」

 ガルだけだ。ガルだけが、この国の中でも僕の居場所になってくれる。その腕で抱っこして、抱きしめてもらえるだけで、辛いことも嘘のように忘れられる。

 ガルを求める心だけが、僕にとっての生きる理由。ガルを思っている間だけ、僕は生きていられる。

「ガル……」

 ガルはあとどれくらい傍に居てくれるのだろう。僕をあと何回抱いてくれるのだろう。別れが近づく程に、時間が惜しくて堪らなくなる。

 自分は殺人者だとわかっているのに。死ななければならないと理解しているのに。できることなら死にたくないとわがままを言いそうになってしまう。

「ガル……ねえ、ガル……僕は――」

「戻ったようだな」

「っ……レイス王……」

  重く、低く、暗い声。この国の王であるレイス王が、兵士を連れ僕とガルの前にやってきた。あの時と同じように、ガルの手で壊されたギロチンが、まるで見せつけるように修復された刃をギラつかせているこの場所に。

「レイス王、まさか王である貴方の方からお出でいただけるとは」

「ちょうど外に出ていただけだ。報告は受けている。お前が持ち帰った2頭分の嘴も、グリフォンのもので間違いないようだな」

「王を欺くほど肝が据わった人間ではありません」

 少しも委縮なんてしていない様子でガルは頭を下げた。レイス王が居るだけで呼吸もまともにできなくなってしまう僕とは大違いだ。

「その生意気な態度は気に入らないが、成果は認めざるをえまい。番のグリフォンともなれば、近い将来にこの国の脅威となっていた可能性も高い。よくぞ討伐してきてくれた、旅人よ。国の代表として、礼を言おう」

「え……」

 思わず声を漏らしてしまった。民衆たちの視線もあるこの広場の中心で、レイス王がガルに向けて頭を下げたから。

 この国の民衆たちから信仰を集める存在であるレスト王が、外からの旅人であるガルに頭を下げている。その光景を、民衆たちもどよめきと共に見守っていた。

「当然、それなりの報酬は出す。この国に滞在するのなら費用も国が受け持とう。大したものは無いが、心行くまでこの国を楽しむといい」

 周囲の民衆たちにも聞こえるようにレイス王は言った。ガルをレイス国の英雄だと知らしめるかのように。

 ガルが賞賛をもらえるのは僕も嬉しい。僕がガルから奪ってしまっていたものをレイス王が還元してくれたことにはお礼を言いたい。

 でも、どうしても違和感があった。ガルを褒め称えるその表情に、少しも感情を感じられないのが気持ち悪かった。
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