重槍士は褐色毒ショタに出会う

papporopueeee

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おっ、美味しいですよ?

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「品種が同じであろうと、育った土が同じであろうと、個体差というのは必ず生まれる。素材を選り分け、特上に分類した物のみが今宵の料理には使われているのだ。品種だけで言うならば、民たちが口にしているものと何も変わらん。しかし、食べ比べてみれば旅人の舌であろうとも明確に差がわかるであろうな」

「レスト国ではそれが高級な料理というわけですか」

「この国では希少な作物や飼育難度の高い家畜を育てることはできない。そのような物を育てて万が一失敗しては、国が傾きかねないからな。安定して大量に収穫できる農作物こそ至上であり、育てやすく可食部の多い家畜こそが最適だ。しかしだからといって、王族と民が全く同じものを食べていては示しがつかない」

「だからこそ、質で差をつけていると」

「後は部位だな。同じ家畜であろうとも、その部位によって味も栄養もまるで異なる。民は祝い事でしか口にできない希少な部位を、王は当たり前のように常食するのだ」

「そうやって差をつけることで、王としての箔を示すわけですか……」

「含みがありそうだな?」

「いえ、私はしがない旅人にすぎませんので……今日この晩餐にありつけることに感謝するばかりですよ」

 飛び交う軽やかな会話を、僕は隣で盗むように拾い上げている。

 異文化交流というものなのだろう。レスト王とガルは気が合わなそうではあるが、その話の内容には惹かれるようだ。ふたりとも楽しげには見えない表情だが、互いの言葉には興味深く耳を傾けている。

「この盾は彼の大帝国の技術の粋を集めて作った特別製でしてね。知る限りでは、この世に2つとありませんよ」

「そんな盾がいくつもあっては、帝国の正気を疑うところだ」

「バリケードとしても使用できますから。レスト国も導入を考えてみては?」

「不要だ。強固にするのであれば個人の持つ盾では無く建造物に回す。その盾では精々守れて2人。それに比べ、この離宮は数百人は守り切れるほどに大きく頑強だ」

 ふたりのやり取りに、僕は口を挟むこともできない。ただ静かに、味を感じることのできない料理を口に運ぶだけ。

 あれから、ガルは僕のことを見てもくれない。僕の方から無視したのだから当然だろう。今更になって何度も視線を送ってみても、ガルの瞳に僕が映ることは無い。

 ガルに嫌われただろうか。あんなに露骨に拒絶してしまえば、それも当然か。3日に一度は会えると思っていたけれども、今日で今生の別れになるのかもしれない。

「っ……」

 溢れそうになる涙を、水を飲んでなんとか引っ込める。ガルに涙を見られたら、きっと追及される。そうしたら、レスト王への贖罪の誓いを破ることになる。

 これで良かったんだ。最愛の一人息子を喪った王妃に比べれば、これでもまだ幸せすぎるくらいだ。

 僕はもっと苦しまないといけない。もっと不幸せにならないといけない。それが、人を殺した者の背負うべき咎なのだから。

「こちら、メインの肉料理となります」

「……? これって、肉料理なんですか?」

「我が国のような田舎では、これが一番の贅沢品でな。大帝国の肉料理と比べれば、粗末なゴミに見えたか」

「いや、肉料理といえばステーキを想像していたので……これって、ソテーですか? どこの部位の?」

「ホーデン、精巣だ」

「せいそう…………ってことは、キンタマ!?」

 そのガルの驚きように僕の方まで驚いてしまった。ホーデンのソテーって、そんなに驚くほど珍しいのだろうか。

 レスト国では、ホーデンはお祝い事の時にしか食べれない食材だ。王族だって、頻繁には食べられない。

 父様はこのホーデンのソテーが大好きで、僕もそれを真似て好きだと言っている内に本当に好きになっていた。父様が逝去した後も、誕生日には母様が用意してくれた。母様はあまり好みではなかったみたいだけれども、僕にとってはこれが一番のご馳走だった。

「…………」

 しかし今となっては、やはり味を感じられなかった。柔らかい食感こそあるものの、これだけではとても美味しいとは言えない。

 このレスト国の中でも、ガルが隣に居てくれたら味を感じることができるのだろうか。そう思い視線を向けてみると、ガルは僕の顔を凝視していた。

 見てくれていることは嬉しいけれども、それ以上に疑問が勝ってしまう。どうしてガルは、そんなに驚いた表情で僕を見ているのだろうか。

「食べたくなければ、残して結構だ旅人よ。帝国の人間から見れば、所詮は田舎者の下賤な料理なのだろう」

 その言葉に驚きを受けたのは僕だった。ホーデンとは、ガルからすると食べるのも憚られるような恥ずかしい部位なのだろうか。

「そっ、そういうわけでは……」

 口とは裏腹に、ガルの態度はとても素直だった。先ほどまで淀みなく動いていた食事の手が、今ではぴったりと止まってしまっている。

「っ……」

 急に、胸の奥から恥ずかしさが込み上げてきた。よりにもよってガルの前でみっともない姿を見せてしまったのかと思うと、顔から火が出そうだった。

「いや、違うんだルカテ! そういうつもりじゃなくて……ただ、食べ慣れてないだけなんだ……」

 確かにそうなのかもしれない。僕はそれを理解していない幼い頃から口にしていたけれども、ホーデンとは睾丸だ。睾丸の機能を十分に理解しているガルからすれば、最初の一口を躊躇してしまう気持ちも理解できる気がする。

 でも、もしも。もしもガルが食べてくれたなら。そして、美味しいと口にしてくれたなら。僕の好きな料理を好きになってもらえたなら。もう一度、ホーデンを美味しいと思えるような……そんな気がした。

「…………ガル?」

「な、なんだ?」

「えっと……その……無理強いをしたいわけではないのですが……っ、おっ、美味しいですよ?」

 これをきっかけにまたガルと自然な会話ができたなら。そんな願いも込めて、僕はガルにホーデンを勧めてみた。上手く笑えた自信は無かったけれども、精一杯の感情を込めた。
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