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決着
それだけは、間違いであって欲しかった
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「っ……じゃ、じゃあ……いただきます……」
僕の思いが伝わったのか。それとも場の雰囲気に耐えられなかったのか。願わくば前者であって欲しかったけれども、とにかくガルはホーデンのソテーに手を付けた。
ナイフで小さく切り分けて、フォークで小さな欠片を刺して、そしておずおずと口に運んだ。
「っ……」
ごくりと唾を飲み込む。僕が料理を作ったわけでもないのに、感想を聞くのが怖かった。もしも不味いと言われてしまったらどうしよう。明らかなお世辞を言われたらどうしよう。こんな思いをするなら、勧めるべきではなかったかもしれない。
心臓を掴まれているような心地で、ガルが咀嚼する姿を見守って、やがてガルの喉がホーデンを嚥下する。
「…………っ?」
「っ……ど、どうですか?」
不安に耐え切れず、僕は自分から味の感想を聞いてしまった。すると、ガルは――
「なんというか……食べたことの無い味が……なんだ、この独特な味は――がはっ!?」
――突然、その喉を抑えて苦しみだした。
「え……が、ガル?」
むせたのかと思った。緊張しながら食べたから、ホーデンのソースが気管に入ったのかと思った。
しかし、そうではなかった。ガルの様子は咳き込んでいるというよりは、まるで体の内側から焼かれているかのようだ。
「うっ……ぐぅっ……っ!」
ガルは椅子から立ち上がると、自らの指を口に突っこんだ……いや、突っ込もうとした。
「ぐあぁっ!?」
「えっ!? な、なにをっ……っ?」
ガルの腹部にボウガンの矢が突き刺さっていた。レスト王の背後に控えていた兵士の一人に邪魔されて、ガルは床に倒れ伏した。
もう、意味がわからない。ガルが苦しんでいるのも、吐き出そうとする仕草も、ボウガンで射たれたのも、何一つとして状況に追い付けていない。
「まったく、大事な客人に怪我をさせるとは。しかしまあ、今のはお前にも非があるだろうな、旅人よ。そのように急に立ち上がられては、兵士が威嚇射撃をするのも無理あるまい」
それはあまりにも落ち着いた声だった。この場に不釣り合いな態度で、淡々とレスト王は喋っていた。まるで、こうなることがわかっていたかのように。
「ガル!!」
テーブルを回り込む手間も惜しい。僕は屈んでテーブルの下を潜り込むと、一直線にガルの元へと駆けつけた。
「る、ルカテ……うっ」
「だ、大丈夫ですか? すぐに治しますから!」
ガル自身に矢を抜いてもらい、すぐに回復魔法を施す。森での経験が生きたのか、頭が混乱したままでも魔法は発動してくれた。みるみる内に矢傷が塞がっていき、矢の痕跡は服に空いた穴だけになった。
「治りましたよ! っ……がっ、ガル……?」
傷も治って一安心、という様子ではなかった。
滝のような汗。不規則な呼吸。地面を見つめる虚ろな目。辛うじて片膝で立っているものの、ガルは今にも倒れてしまいそうだった。
「ガル……? ガルっ、ガル!!」
「あっ……ああ……大丈夫だ、ルカテ」
ちっとも大丈夫じゃない。ガルの言葉なのに、少しも安心できない。瞬きをした次の瞬間には倒れてしまいそうだ。
そんな中でも兵士たちは冷静だった。苦しむガルと混乱する僕を無視して、テーブルを脇に退けている。レスト王を守るように囲みながら、ガルに向けてボウガンを向けている。
「どうして……? レスト王? なっ、何が起こっているのですか……?」
「それはこちらのセリフだ、ルカテよ。よくもやってくれたな」
「ぼ、僕が? 僕が、いったい何をしたと仰るのですか?」
僕は、ただ食事をしていただけだ。レスト王とガルの会話に入り込むこともできず、食事をすることしかできなかった。
僕がしたことといえば、ただガルにホーデンを勧めただけ。そして、ガルはそのホーデンを口にした途端に苦しみだして――
「毒……?」
それに思い当たった瞬間に、頭が真っ白になった。それだけは、間違いであって欲しかった。
僕の思いが伝わったのか。それとも場の雰囲気に耐えられなかったのか。願わくば前者であって欲しかったけれども、とにかくガルはホーデンのソテーに手を付けた。
ナイフで小さく切り分けて、フォークで小さな欠片を刺して、そしておずおずと口に運んだ。
「っ……」
ごくりと唾を飲み込む。僕が料理を作ったわけでもないのに、感想を聞くのが怖かった。もしも不味いと言われてしまったらどうしよう。明らかなお世辞を言われたらどうしよう。こんな思いをするなら、勧めるべきではなかったかもしれない。
心臓を掴まれているような心地で、ガルが咀嚼する姿を見守って、やがてガルの喉がホーデンを嚥下する。
「…………っ?」
「っ……ど、どうですか?」
不安に耐え切れず、僕は自分から味の感想を聞いてしまった。すると、ガルは――
「なんというか……食べたことの無い味が……なんだ、この独特な味は――がはっ!?」
――突然、その喉を抑えて苦しみだした。
「え……が、ガル?」
むせたのかと思った。緊張しながら食べたから、ホーデンのソースが気管に入ったのかと思った。
しかし、そうではなかった。ガルの様子は咳き込んでいるというよりは、まるで体の内側から焼かれているかのようだ。
「うっ……ぐぅっ……っ!」
ガルは椅子から立ち上がると、自らの指を口に突っこんだ……いや、突っ込もうとした。
「ぐあぁっ!?」
「えっ!? な、なにをっ……っ?」
ガルの腹部にボウガンの矢が突き刺さっていた。レスト王の背後に控えていた兵士の一人に邪魔されて、ガルは床に倒れ伏した。
もう、意味がわからない。ガルが苦しんでいるのも、吐き出そうとする仕草も、ボウガンで射たれたのも、何一つとして状況に追い付けていない。
「まったく、大事な客人に怪我をさせるとは。しかしまあ、今のはお前にも非があるだろうな、旅人よ。そのように急に立ち上がられては、兵士が威嚇射撃をするのも無理あるまい」
それはあまりにも落ち着いた声だった。この場に不釣り合いな態度で、淡々とレスト王は喋っていた。まるで、こうなることがわかっていたかのように。
「ガル!!」
テーブルを回り込む手間も惜しい。僕は屈んでテーブルの下を潜り込むと、一直線にガルの元へと駆けつけた。
「る、ルカテ……うっ」
「だ、大丈夫ですか? すぐに治しますから!」
ガル自身に矢を抜いてもらい、すぐに回復魔法を施す。森での経験が生きたのか、頭が混乱したままでも魔法は発動してくれた。みるみる内に矢傷が塞がっていき、矢の痕跡は服に空いた穴だけになった。
「治りましたよ! っ……がっ、ガル……?」
傷も治って一安心、という様子ではなかった。
滝のような汗。不規則な呼吸。地面を見つめる虚ろな目。辛うじて片膝で立っているものの、ガルは今にも倒れてしまいそうだった。
「ガル……? ガルっ、ガル!!」
「あっ……ああ……大丈夫だ、ルカテ」
ちっとも大丈夫じゃない。ガルの言葉なのに、少しも安心できない。瞬きをした次の瞬間には倒れてしまいそうだ。
そんな中でも兵士たちは冷静だった。苦しむガルと混乱する僕を無視して、テーブルを脇に退けている。レスト王を守るように囲みながら、ガルに向けてボウガンを向けている。
「どうして……? レスト王? なっ、何が起こっているのですか……?」
「それはこちらのセリフだ、ルカテよ。よくもやってくれたな」
「ぼ、僕が? 僕が、いったい何をしたと仰るのですか?」
僕は、ただ食事をしていただけだ。レスト王とガルの会話に入り込むこともできず、食事をすることしかできなかった。
僕がしたことといえば、ただガルにホーデンを勧めただけ。そして、ガルはそのホーデンを口にした途端に苦しみだして――
「毒……?」
それに思い当たった瞬間に、頭が真っ白になった。それだけは、間違いであって欲しかった。
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