42 / 68
16. 証言:佐藤 津
2
しおりを挟む
『クックッ、形勢逆転されたか?』
『かも……』
『打つ手は?』
『……』
雨降って地固まる。
一度疑いを跳ね除けられてしまったら、その信頼は疑われる前よりも固いものとなってしまう。
『だったら、イチャモンつけるしかねぇな?』
『イチャモンって?』
『悪あがきだよ。テキトーに理由を付けてもっと情報を引き出そうぜ』
『テキトーって……サナには何かアイデアはあるの?』
『それを考えるのはアタシの役割じゃねえな』
『探偵の役割でもないと思うけど……』
しかしサナの言うことも尤もだ。
ここで諦めるわけにもいかない。
津は純夏がコンビニのビニールを持っていたことを言い当ててみせた。
しかし、純夏は毎日コンビニで昼食を買っているとも言っていた。
純夏のことを知っている人間ならば、実際に見ていなくとも当てることはできたかもしれない。
したがって、ここでシオンが取るべき悪あがきは――
「佐藤先生、ビニール袋の中身まで答えてください」
「ちょ、ちょっと思音くん!? さすがに無茶じゃない?」
三葉の言葉通りだ。
シオン自身でも、ちょっとどうかと思う発言だ。
それでも、シオンはきっぱりと言い放った。
「無茶ではないですよ。ビニールは半透明ですから、色が透けて見えるくらいはありえることです。中身を正確に当てて欲しいわけじゃありません。ただ、先生が見たビニール袋の詳細な情報を話して欲しいんです」
「そう言われても、困りましたね……。えーっと……どうだったかな……」
津は頭を抱えはするものの、一向に答えようとする気配がなかった。
このままやり過ごすつもりなのかもしれない。
津からすれば、ビニールを言い当てただけで成果は上々だ。
既に部員からの疑念は弱まっており、シオンの悪あがきに付き合う道理もない。
『探偵が小狡ければ、お相手もまたせこいときた。見物だなぁ、この勝負は』
なんとか次の手を考えなければ、津が合鍵を持っていることすらも証明できそうにない。
シオンが焦りから口を開こうとしたところで、先に純夏の声が津へと飛んだ。
「先生、わからないんスか? 袋の中身」
「カラスくん……?」
純夏の声にはまだ津への疑念が含まれていた。
何か思うところがあるのか、もしくはビニールの中には遠目でもわかるような物が入っていたのだろうか。
「ええっと……ちょっと待ってくださいね…………!」
純夏の追及によって、途端に津の様子にも焦りが見え始めた。
「あーーっと…………」
額を指でトントンと叩きながらしばらく呻いた後、しばらくして津はパッと顔を上げた。
「ああっ! もしかして、ペットボトルのことですか?」
その言葉が発された瞬間に、4人の視線が一斉に津へと注がれた。
ペットボトル……?
まさか……まさかとは思うが、ペットボトルとは――
「確か、烏丸君は緑色の液体が入ったペットボトルを持っていました。あれって、多分ジュースなんですよね? その割にはかなり濃い色をしていましたけど……」
津は証言した。
職員室へ向かう純夏が緑色のジュースが入ったペットボトルを持っていた、と。
その証言がおかしいことは、津以外の全員が理解していた。
『かも……』
『打つ手は?』
『……』
雨降って地固まる。
一度疑いを跳ね除けられてしまったら、その信頼は疑われる前よりも固いものとなってしまう。
『だったら、イチャモンつけるしかねぇな?』
『イチャモンって?』
『悪あがきだよ。テキトーに理由を付けてもっと情報を引き出そうぜ』
『テキトーって……サナには何かアイデアはあるの?』
『それを考えるのはアタシの役割じゃねえな』
『探偵の役割でもないと思うけど……』
しかしサナの言うことも尤もだ。
ここで諦めるわけにもいかない。
津は純夏がコンビニのビニールを持っていたことを言い当ててみせた。
しかし、純夏は毎日コンビニで昼食を買っているとも言っていた。
純夏のことを知っている人間ならば、実際に見ていなくとも当てることはできたかもしれない。
したがって、ここでシオンが取るべき悪あがきは――
「佐藤先生、ビニール袋の中身まで答えてください」
「ちょ、ちょっと思音くん!? さすがに無茶じゃない?」
三葉の言葉通りだ。
シオン自身でも、ちょっとどうかと思う発言だ。
それでも、シオンはきっぱりと言い放った。
「無茶ではないですよ。ビニールは半透明ですから、色が透けて見えるくらいはありえることです。中身を正確に当てて欲しいわけじゃありません。ただ、先生が見たビニール袋の詳細な情報を話して欲しいんです」
「そう言われても、困りましたね……。えーっと……どうだったかな……」
津は頭を抱えはするものの、一向に答えようとする気配がなかった。
このままやり過ごすつもりなのかもしれない。
津からすれば、ビニールを言い当てただけで成果は上々だ。
既に部員からの疑念は弱まっており、シオンの悪あがきに付き合う道理もない。
『探偵が小狡ければ、お相手もまたせこいときた。見物だなぁ、この勝負は』
なんとか次の手を考えなければ、津が合鍵を持っていることすらも証明できそうにない。
シオンが焦りから口を開こうとしたところで、先に純夏の声が津へと飛んだ。
「先生、わからないんスか? 袋の中身」
「カラスくん……?」
純夏の声にはまだ津への疑念が含まれていた。
何か思うところがあるのか、もしくはビニールの中には遠目でもわかるような物が入っていたのだろうか。
「ええっと……ちょっと待ってくださいね…………!」
純夏の追及によって、途端に津の様子にも焦りが見え始めた。
「あーーっと…………」
額を指でトントンと叩きながらしばらく呻いた後、しばらくして津はパッと顔を上げた。
「ああっ! もしかして、ペットボトルのことですか?」
その言葉が発された瞬間に、4人の視線が一斉に津へと注がれた。
ペットボトル……?
まさか……まさかとは思うが、ペットボトルとは――
「確か、烏丸君は緑色の液体が入ったペットボトルを持っていました。あれって、多分ジュースなんですよね? その割にはかなり濃い色をしていましたけど……」
津は証言した。
職員室へ向かう純夏が緑色のジュースが入ったペットボトルを持っていた、と。
その証言がおかしいことは、津以外の全員が理解していた。
0
あなたにおすすめの小説
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
秋月の鬼
凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
深冬 芽以
恋愛
あらすじ
俵理人《たわらりひと》34歳、職業は秘書室長兼社長秘書。
女は扱いやすく、身体の相性が良ければいい。
結婚なんて冗談じゃない。
そう思っていたのに。
勘違いストーカー女から逃げるように引っ越したマンションで理人が再会したのは、過去に激しく叱責された女。
年上で子持ちのデキる女なんて面倒くさいばかりなのに、つい関わらずにはいられない。
そして、互いの利害の一致のため、偽装恋人関係となる。
必要な時だけ恋人を演じればいい。
それだけのはずが……。
「偽装でも、恋人だろ?」
彼女の甘い香りに惹き寄せられて、抗えない――。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる