53 / 68
20. 説得:相田 三葉
1
「相田さんはこう言っていますが……十八女君、どうしますか?」
まるで虎の威を借りた狐のようだ。
容疑者である津は、探偵であるシオンに向かって勝ち誇った顔で尋ねてきた。
津からすれば三葉の言葉は追い風だろう。
プリン泥棒の被害者である三葉が諦めれば、この事件は終わってしまう。
未解決事件として当事者たちの心にしこりだけ残して、やがて記憶から消えてお終いだ。
シオンはそんな結末には納得できない。
探偵として納得するわけにはいかない。
「……相田さん」
シオンは意を決して三葉へ話しかけた。
これからシオンがすることは、怯える三葉の心を痛めつけることに等しい。
「相田さん、本当にいいんですか?」
「い、いいって……なにが?」
「ここで止めてもいいんですか? あくまで可能性ですけど、写真部部室が盗撮されていた可能性があるんですよ?」
「それは……そうかもだけど……。その、可能性ってどこから出てきたの? 話を聞いてる限り、それっぽいことは誰も言ってなかったと思うんだけど……」
三葉の疑問は尤もだ。
シオンはまだ、盗撮まで辿り着いた推理を話していなかった。
「佐藤先生は先ほど、烏丸くんが一番怪しいと言っていました。これは部室への入室状況を完璧に把握していないと発言できないことです。相田さんがプリンを冷蔵庫に入れてから、倉持先輩が部室に入るまで。その間に入室したのが烏丸くんだけだってことを知っていないと、烏丸くんが一番怪しいとは言えないんです」
「……だから、盗撮してたってこと?」
三葉の言葉を肯定するように、シオンはこくりと頷いてみせた。
「近藤先生なら入室の全てを把握していてもおかしくはありません。その近藤先生から話を聞いた相田さんたちが烏丸くんを怪しむのも自然です。でも、佐藤先生は近藤先生から話を聞いたわけではありません。入室の録画を後から確認でもしない限り、佐藤先生が烏丸くんを怪しむのはおかしいんです」
「申し訳ありません。私の不用意な発言で疑わせてしまったようですね。烏丸君が怪しいと言ったのに大した理由はないですよ。ただ、部員の中で最もトラブルを起こしている実績からそう言ってしまっただけです」
シオンの言葉を否定するように、すかさず津が言葉を被せてきた。
貼り付けたような笑みをシオンに向けながら。
「……思音くんの言ってることって、あくまで可能性だよね? 絶対に盗撮してたって、言いきれるわけじゃないよね?」
それは質問ではなく、願望のようでもあった。
盗撮されていたことを確定させたくないという気持ちが、三葉の言葉から透けて見えた。
「待ってください相田さん。ボクには佐藤先生の盗撮を証明する方法がちゃんと見えて――」
「ないんでしょ? そんなの……。もしもあのUSBメモリがカメラだったとしても、直接調べでもしない限り証明なんてできっこない……。無理やり調べるにも、根拠は薄いよね……?」
「っ……」
シオンのハッタリも、三葉の悲痛な声にかき消された。
被害者であるはずの三葉が、恐怖に操られ加害者を庇う姿は痛々しい。
「し、しかし、だからと言ってこのまま――」
「だ、だったら……もうそっとしとけばいいじゃない……! 先生が盗撮してたかどうかはわからないけど、こんな話をしたらもうしないでしょ? これまでのことは……っ、置いといてさ……っ!」
心臓を締め付けられるように胸が痛んだ。
置いておけるわけがない。
過去に自身が盗撮されていたかもしれないという恐怖を、懸念を。
都合よく忘れることなんてできるわけがない。
それなのに、一番の被害者である三葉がそれを口にしている。
その事実が、シオンの心を痛めつけた。
「くっ……でも……」
何か言わないと説得なんてできないことはわかっていた。
それでも、言葉を続けられなかった。
説得はもう無理かもしれない。
これ以上続けても、三葉を納得させられる自信がない。
その前に、シオンが負けてしまうから。
真実を諦めないと誓ったはずなのに、人を傷つける行為はあまりにも重かった。
被害者であるはずの三葉を傷つけるという行為に、シオンの心が耐えられそうにない。
『…………サナ?』
ふと、背中越しにサナの体温を強く感じた。
『…………』
サナは、何も言わなかった。
「……」
静寂。
その中で、津が立ち去る足音だけが耳に響く。
その姿が、どんどんと遠ざかっていく。
静かすぎて、声が出せない。
呼吸する音さえも出してはいけないような錯覚。
そんな中で声をあげることができたのは、やっぱり彼だけだった。
まるで虎の威を借りた狐のようだ。
容疑者である津は、探偵であるシオンに向かって勝ち誇った顔で尋ねてきた。
津からすれば三葉の言葉は追い風だろう。
プリン泥棒の被害者である三葉が諦めれば、この事件は終わってしまう。
未解決事件として当事者たちの心にしこりだけ残して、やがて記憶から消えてお終いだ。
シオンはそんな結末には納得できない。
探偵として納得するわけにはいかない。
「……相田さん」
シオンは意を決して三葉へ話しかけた。
これからシオンがすることは、怯える三葉の心を痛めつけることに等しい。
「相田さん、本当にいいんですか?」
「い、いいって……なにが?」
「ここで止めてもいいんですか? あくまで可能性ですけど、写真部部室が盗撮されていた可能性があるんですよ?」
「それは……そうかもだけど……。その、可能性ってどこから出てきたの? 話を聞いてる限り、それっぽいことは誰も言ってなかったと思うんだけど……」
三葉の疑問は尤もだ。
シオンはまだ、盗撮まで辿り着いた推理を話していなかった。
「佐藤先生は先ほど、烏丸くんが一番怪しいと言っていました。これは部室への入室状況を完璧に把握していないと発言できないことです。相田さんがプリンを冷蔵庫に入れてから、倉持先輩が部室に入るまで。その間に入室したのが烏丸くんだけだってことを知っていないと、烏丸くんが一番怪しいとは言えないんです」
「……だから、盗撮してたってこと?」
三葉の言葉を肯定するように、シオンはこくりと頷いてみせた。
「近藤先生なら入室の全てを把握していてもおかしくはありません。その近藤先生から話を聞いた相田さんたちが烏丸くんを怪しむのも自然です。でも、佐藤先生は近藤先生から話を聞いたわけではありません。入室の録画を後から確認でもしない限り、佐藤先生が烏丸くんを怪しむのはおかしいんです」
「申し訳ありません。私の不用意な発言で疑わせてしまったようですね。烏丸君が怪しいと言ったのに大した理由はないですよ。ただ、部員の中で最もトラブルを起こしている実績からそう言ってしまっただけです」
シオンの言葉を否定するように、すかさず津が言葉を被せてきた。
貼り付けたような笑みをシオンに向けながら。
「……思音くんの言ってることって、あくまで可能性だよね? 絶対に盗撮してたって、言いきれるわけじゃないよね?」
それは質問ではなく、願望のようでもあった。
盗撮されていたことを確定させたくないという気持ちが、三葉の言葉から透けて見えた。
「待ってください相田さん。ボクには佐藤先生の盗撮を証明する方法がちゃんと見えて――」
「ないんでしょ? そんなの……。もしもあのUSBメモリがカメラだったとしても、直接調べでもしない限り証明なんてできっこない……。無理やり調べるにも、根拠は薄いよね……?」
「っ……」
シオンのハッタリも、三葉の悲痛な声にかき消された。
被害者であるはずの三葉が、恐怖に操られ加害者を庇う姿は痛々しい。
「し、しかし、だからと言ってこのまま――」
「だ、だったら……もうそっとしとけばいいじゃない……! 先生が盗撮してたかどうかはわからないけど、こんな話をしたらもうしないでしょ? これまでのことは……っ、置いといてさ……っ!」
心臓を締め付けられるように胸が痛んだ。
置いておけるわけがない。
過去に自身が盗撮されていたかもしれないという恐怖を、懸念を。
都合よく忘れることなんてできるわけがない。
それなのに、一番の被害者である三葉がそれを口にしている。
その事実が、シオンの心を痛めつけた。
「くっ……でも……」
何か言わないと説得なんてできないことはわかっていた。
それでも、言葉を続けられなかった。
説得はもう無理かもしれない。
これ以上続けても、三葉を納得させられる自信がない。
その前に、シオンが負けてしまうから。
真実を諦めないと誓ったはずなのに、人を傷つける行為はあまりにも重かった。
被害者であるはずの三葉を傷つけるという行為に、シオンの心が耐えられそうにない。
『…………サナ?』
ふと、背中越しにサナの体温を強く感じた。
『…………』
サナは、何も言わなかった。
「……」
静寂。
その中で、津が立ち去る足音だけが耳に響く。
その姿が、どんどんと遠ざかっていく。
静かすぎて、声が出せない。
呼吸する音さえも出してはいけないような錯覚。
そんな中で声をあげることができたのは、やっぱり彼だけだった。
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。