両腕のない義弟との性事情

papporopueeee

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第五夜

義弟は思いを知る

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「……少しだけ、お話してもいいかな?」

 女性がそう切り出したのは、涙がようやく収まってきた頃だった。

「……私ね、昔鹿島くんと付き合ってたの」
「っ!」

 それは予想していたことだった。当たっていてほしくなかったことだった。

 胸がきゅっと痛んだけど、体を縮こませることしかできない。

「鹿島くんと知り合ったのは去年の新入生歓迎会の時でね。あんなに体が大きいのに同じ新入生だって聞いて、当時はすごく驚いちゃった。その後サークル活動だったり、同じ講義を受けたり、遊びに行ったりして、徐々に親睦を深めていったの」

 聞きたくない。そんなことは聞きたくない。女性がなんのつもりでそんな話をしているのかがわからない。どんな意図があったとしても、馴れ初めなんて聞かされても辛くなるだけだ。

「それで、今年の進級したタイミングで私から告白したの。鹿島くんとは気が合ったし、上手くいくと思ったから。それに、ほら……鹿島くんって結構かっこいいでしょ?」

 それはきっとお似合いだったことだろう。美男美女のカップルなのだから。ちんまくて腕の無い人間よりもよっぽどだ。

「鹿島くんは私からの告白をオーケーしてくれた。照れ臭そうにしてて、ちょっと可愛かったのをよく憶えてるなー……。でもね、私たちは桃色のキャンパスライフもろくに過ごせないままにすぐに破局しちゃったの」
「……フったの?」
「ううん、逆。フラれちゃいました、私」

 それは少し意外だった。ケン君が押しに弱いことはオレでも知っている。女性のような綺麗で優しい人に告白されて、それを一度受けておいて。ケン君から別れるなんて、とても想像できない。

「……キミなんだよ」
「えっ?」
「付き合ってから一か月も経っていないとある日。突然、深刻な顔した鹿島くんに言われたの。休学するって。そして、別れてほしいって」

 休学。ケン君がそれに至った理由なんて、考えるまでもなく、思い出す必要もなく知っている。

「その時にちょっとだけ事情を教えてもらったの。事故のことと、義弟さんの介護が必要になったこと。でもほんとにちょっとしか教えてもらえなくて、カオルくんの名前だって昨日教えてもらったんだよ? 彼女に対する態度としてはちょっとひどいと思わない?」

 扉の向こうで女性が腕を組んでいる姿が見えるようだ。この女性は声に感情を乗せるのが上手いのかもしれない。

「……それにね、ちょっとおかしいと思ったんだ。休学が必要なのは理解できるの。ホームヘルパーを頼むのもお金がかかるんだろうし、義弟さんも鹿島くんがいっしょにいた方が安心できるんだろうなって思ったから。でも、私と別れる必要があるとは思えなかった」

 それは確かにそうだ。女性が義弟に付きっきりのケン君を見限るのなら納得できるけれど、その逆は不自然だと思う。

「むしろ大変な時期なんだから、私を頼ってくれてもいいと思うの。それなのに、鹿島くんは別れ話を譲らなかった。だからね、その理由を訊いたんだ。それを教えてくれないと納得できないってゴネてね。そしたら……」

 沈黙がやけに長く感じる。自身の呼吸音も聞こえないような静寂の中、扉の向こうの女性が話すのを待ち続けて。

 声が聞こえるその寸前に、女性の息遣いが聴こえた気がした。

「……義弟だけに専心したいって。自分は不器用だから、彼女がいたらそっちにも気を回してしまう。義弟のためだけに生きていたいんだって。鹿島くんはそう言ってたよ」
「……ケン君が?」

 ケン君はすでに選んでいた。大学生活よりも、女性との交際よりも。オレの傍に在ることを。ずっと前に。オレよりも前に。

 そういえばそうだった。順序は逆だったんだ。オレが先じゃなかったんだ。ケン君が傍にいてくれたから、オレは……。

 頬にできた涙の道筋を、再び水滴がなぞった。

「だからね、取らないでなんて言わないで。そんなこと言う必要ないの。鹿島くんはずっと、カオルくんしか見てないんだから」
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