両腕のない義弟との性事情

papporopueeee

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第六夜

響き渡る声

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「カオル君……」

 自分の名前を呼ぶ声を聞いて、ようやく思考が回り始めた。

 一条朝日にオレの精液を拭いたティッシュが見つかった。一昨日、ベッドで自慰をしてしまった後ケン君が片付けた時の物だ。リビングでのケン君との性行為の痕跡は念入りに消していたが、自室は盲点だった。招き入れる予定なんてなかったから。

 そこまでは憶えている。女の子に性液の匂いまで嗅がれて、その正体を問い詰められた恥ずかしさを憶えている。

 その後一条朝日が何かを言っていて、そして…………押し倒してきた?

 そういえば、一条朝日はずっと様子がおかしかった。やけにスキンシップを取ろうとしてきて、足を撫でるように触ってきたり。変な匂いがするからといってゴミ箱の中身まで漁るなんて普通はしない。

「……い、いいんだよね? ……するね?」

 そう言って一呼吸置いた後に、一条朝日が迫ってきた。するって、なんだ。一条朝日は何をする気なんだ。
 まさか、このままキスをするつもりなのではないだろうか。

 そんなことをするつもりはない。今日出会ったばかりの女の子とキスなんてしたくない。ケン君以外の人となんて、したいはずがない。

 それなのに、声が出なかった。怖くて、何も出来なかった。

 両足には一条朝日が乗っている。オレには足の力だけでその体重を持ち上げることなんてできなくて、両足はピクリとも動かせない。

 上半身を起こせば頭突きをするくらいは出来るかもしれない。でも、それで怒りを買ってしまったら。機嫌を損ねた結果、強硬手段を取られてしまったら。

 一条朝日がオレの口に手を添えるだけで、オレはもう人形と変わらない。ただその欲望の捌け口にされるしかなくなる。

 それだけならまだいい。嫌だけれど、この時間さえ我慢できれば、後は縁を切ればいい。
 でももしも、もしも一条朝日のその両手が首にかかりでもしたら……。

 そう思うと、恐怖で体は固まってしまった。

 一条朝日が目を閉じた。その軌道は一寸の狂いもなく、真っ直ぐに唇へと向かってきている。

 たかがキスだ、なんてことはない。
 唇と唇が触れ合うだけ。皮膚か粘膜かの違いだけで、握手と何ら変わらない。
 その先だって同じだ。ただ触れ合うだけ。そこにそれ以上の意味なんてない。
 それにキスだけで終わるかもしれない。
 両腕を失っている人間を無理やりに襲うだなんて、そんなのは鬼畜の所業だ。常人には出来っこない。
 だから、どうか。キスだけは諦めますから、だからどうか。

 ああ、でも嫌だ。本当はキスだってしたくない。
 どうしてこうなった。どうしてこんな思いをしなきゃいけないの。
 嫌だ、イヤだイヤだイヤだイヤだ。こないで、近づかないで。
 誰か助けて。助けて、助けて助けて助けて。
 ケン君…………!

「っ……け、て」
「……え?」

 言葉になり損なった、殆ど吐息の音。それでも、一条朝日の動きが止まった。

「たっ……助けて……!」

 喉が震えて、呼吸が通って、声帯が戻ってきた。

 今しかないとありったけの勇気を振り絞って――

「ケン君っ、助けてっ! け、ケン君っ……!! たすけてーーーーっ!!」

 ありったけの大きな声で、ケン君に助けを求めた。
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