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第六夜
義弟は告発する
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あさひがカオルに襲いかかった。それは状況を見れば納得できる説明ではあるが、腑に落ちない点があることも確かだ。
「ぁっ……っ……!」
カオルに言葉を遮られたあさひは何か言いたげにしているが、それを言葉にはしなかった。否定しないということは、カオルの言葉は少なくとも間違ってはいないということでいいのだろうか。
「……あさひちゃん、そうなのか?」
「っ!」
名前を呼ばれたあさひがビクっと体を震わせた。
「あっ、ぅっ………っ、ぇとっ……!」
「あさひ……」
あさひの背を夕美が撫でる。その手が往復する毎にあさひの震えが小さくなっていくのが見て取れた。
「っ……あっ、あの、こ、転んじゃって……そ、それでカオル君に――」
「嘘だっ!」
「ひっ……」
カオルのあさひに対する語気には容赦がない。防衛本能のようなものだろうか。カオルの態度が強ければ強いほど、カオルが感じた恐怖も大きかったのかもしれない。
口調は荒々しいのに、その体からは確かな怯えも感じられて、俺は自然とカオルを抱き寄せていた。
「……転んだんだったら、すぐに退くはずだもん。なのに、あいつずっとオレの上で馬乗りになってたし、それに、それに……っ! ケン君も見てたよね⁉︎」
「そうだな……。すぐに退かなかったことは俺も疑問に思っていた。それに関しては転んだだけでは説明がつかない」
「そっ、それはっ……あの――」
「もうあいつと一緒にいるのやだよ……怖いし、嘘つくし……ケン君追い出してよ」
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間のあさひの表情。それは驚きと、諦めと、悲しみが入り混じったような顔だった。
「待ってカオルくん。その前にあさひの話を聞いてあげてもらえないかな」
「聞く意味なんてないよ! どうせ嘘吐くもん!」
「そんなことないよ。私の知るあさひはそんな子じゃない。何か行き違いがあったと思うの。怖い思いをしたカオルくんは辛いかもしれないけど、それでもちゃんと話を聞いてあげてほしい。……鹿島くんもそう思わない?」
「ケン君っ……!」
ふたりの視線が俺に突き刺さった。
冷静なのは夕美だ。カオルの言葉は間違っていないだろうが、正確とも言い切れない。あさひからの言葉も聞くのが中立な判断だろう。
しかし俺はカオルの保護者だ。どんな時もカオルの義兄であり、いかなる時もカオルの味方だ。当事者であるカオルの感情が溢れてしまっていることを加味しても、今はあさひを遠ざけた方が良いように思える。
どうするのが正解なのだろうか。どちらの選択肢も間違っているように思えるし、正しいようにも思えてしまう。まるで答えのない問題に頭を悩ませている気分だ。
「……っ、ケンくん、騙されちゃダメだよ。オレとあいつを二人きりにしたのは誰? オレを襲わせるよう仕向けたやつの言うことなんて聞いちゃダメだよ!」
カオルからの追加の発言。それは夕美自身も言っていたことだ。カオルに惚れたあさひのために、ふたりきりを強引に演出してしまったと反省気味に語っていた。
俺がカオルの味方であるように、夕美はあさひの味方だろう。夕美の言葉があさひに寄った発言であることは間違いない。
「そうだ……そうだよ! 全部ふたりが仕組んでたんだよ! じゃないとおかしいもんっ、全部っ……今日のこと全部おかしかったもん! この人たち、オレとケン君をハメようとしてるんだよ!」
カオルの言及が夕美にまで及んでいく。過敏になった神経が疑心暗鬼を生んでいて、カオル視点では全てが敵に見えていてもおかしくない。
今はまだ俺に信用を置いて服を握り締めてくれているが、些細な切っ掛けでその手を離されるかもしれない。そんな危うさが今のカオルにはあった。
そんなカオルの心に、俺ですら触れることを躊躇うほど逆立ったカオルの心に、一人の少女が声をかけた。
「ち、ちがうっ……!」
ずっと俯いていたあさひが、前を向いてはっきりとそう発言した。
「お、お姉ちゃんは悪くないんです……! ぜ、全部私が悪くて……私のせいだから……だ、だから、お姉ちゃんのことを悪く言わないで……!」
「ぁっ……っ……!」
カオルに言葉を遮られたあさひは何か言いたげにしているが、それを言葉にはしなかった。否定しないということは、カオルの言葉は少なくとも間違ってはいないということでいいのだろうか。
「……あさひちゃん、そうなのか?」
「っ!」
名前を呼ばれたあさひがビクっと体を震わせた。
「あっ、ぅっ………っ、ぇとっ……!」
「あさひ……」
あさひの背を夕美が撫でる。その手が往復する毎にあさひの震えが小さくなっていくのが見て取れた。
「っ……あっ、あの、こ、転んじゃって……そ、それでカオル君に――」
「嘘だっ!」
「ひっ……」
カオルのあさひに対する語気には容赦がない。防衛本能のようなものだろうか。カオルの態度が強ければ強いほど、カオルが感じた恐怖も大きかったのかもしれない。
口調は荒々しいのに、その体からは確かな怯えも感じられて、俺は自然とカオルを抱き寄せていた。
「……転んだんだったら、すぐに退くはずだもん。なのに、あいつずっとオレの上で馬乗りになってたし、それに、それに……っ! ケン君も見てたよね⁉︎」
「そうだな……。すぐに退かなかったことは俺も疑問に思っていた。それに関しては転んだだけでは説明がつかない」
「そっ、それはっ……あの――」
「もうあいつと一緒にいるのやだよ……怖いし、嘘つくし……ケン君追い出してよ」
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間のあさひの表情。それは驚きと、諦めと、悲しみが入り混じったような顔だった。
「待ってカオルくん。その前にあさひの話を聞いてあげてもらえないかな」
「聞く意味なんてないよ! どうせ嘘吐くもん!」
「そんなことないよ。私の知るあさひはそんな子じゃない。何か行き違いがあったと思うの。怖い思いをしたカオルくんは辛いかもしれないけど、それでもちゃんと話を聞いてあげてほしい。……鹿島くんもそう思わない?」
「ケン君っ……!」
ふたりの視線が俺に突き刺さった。
冷静なのは夕美だ。カオルの言葉は間違っていないだろうが、正確とも言い切れない。あさひからの言葉も聞くのが中立な判断だろう。
しかし俺はカオルの保護者だ。どんな時もカオルの義兄であり、いかなる時もカオルの味方だ。当事者であるカオルの感情が溢れてしまっていることを加味しても、今はあさひを遠ざけた方が良いように思える。
どうするのが正解なのだろうか。どちらの選択肢も間違っているように思えるし、正しいようにも思えてしまう。まるで答えのない問題に頭を悩ませている気分だ。
「……っ、ケンくん、騙されちゃダメだよ。オレとあいつを二人きりにしたのは誰? オレを襲わせるよう仕向けたやつの言うことなんて聞いちゃダメだよ!」
カオルからの追加の発言。それは夕美自身も言っていたことだ。カオルに惚れたあさひのために、ふたりきりを強引に演出してしまったと反省気味に語っていた。
俺がカオルの味方であるように、夕美はあさひの味方だろう。夕美の言葉があさひに寄った発言であることは間違いない。
「そうだ……そうだよ! 全部ふたりが仕組んでたんだよ! じゃないとおかしいもんっ、全部っ……今日のこと全部おかしかったもん! この人たち、オレとケン君をハメようとしてるんだよ!」
カオルの言及が夕美にまで及んでいく。過敏になった神経が疑心暗鬼を生んでいて、カオル視点では全てが敵に見えていてもおかしくない。
今はまだ俺に信用を置いて服を握り締めてくれているが、些細な切っ掛けでその手を離されるかもしれない。そんな危うさが今のカオルにはあった。
そんなカオルの心に、俺ですら触れることを躊躇うほど逆立ったカオルの心に、一人の少女が声をかけた。
「ち、ちがうっ……!」
ずっと俯いていたあさひが、前を向いてはっきりとそう発言した。
「お、お姉ちゃんは悪くないんです……! ぜ、全部私が悪くて……私のせいだから……だ、だから、お姉ちゃんのことを悪く言わないで……!」
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