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第六夜
義弟はそれを見る
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「悪くないわけないじゃん! だって、そいつのせいでオレは……オレはっ!」
「私が悪いの……カオル君を傷つけたのは、私が悪いだけなの……。だから、お願いだから、お姉ちゃんを悪く言わないで……!」
先ほどまでカオルに気圧されていたあさひ。それが今はカオルに向かって正面から意見を言っている。まだビクビクと震えているものの、姉のことに関しては退く様子は見られない。
論理性なんて欠片もない。感情と感情をぶつけ合うやり取りはこっちの胸が痛くなるほどで、とても見ていられない。
夕美が口を挟んでもカオルは止められないだろう。カオル自身でも感情を制御できているとは思えない。そこでカオルから敵と判定されている夕美が口を出しても、火に油を注ぐだけだ。
「カオル、わかった。もういい……もうわかったから」
強くカオルを揺すって、俺の存在を意識させる。ちゃんと味方がいることを、気を張らなくてもいいことを体に教えてやる。
カオルの言葉が止まると、あさひもまた言葉を止めた。騒がしかった空間に突如として作り出された静寂は、カオルの震える息遣いまではっきり聞こえるほどだった。
「もう……もうケン君だけでいいよぉ……」
誰に聞かせるでもなく、それは零れたような呟きだった。
申し訳ないが、一条姉妹に退いてもらおう。後日、ふたりが冷静になってから改めて話し合うのがいいだろう。
もしかしたらカオルはもう二人を受け入れないかもしれない。カオルの性格からしてその可能性は高いだろうけど、それはもう仕方ない。
人付き合いを強要することはしたくないから。説得を試みて、それでも一条姉妹を拒絶するのなら諦めるしかない。
そう心で決めて口に出そうとした時、あさひと目が合った。
「っ……」
彼女もまた、カオルと同じように怯えていた。瞳を涙で濡らして、不安気に夕美の服を握り締めて。まだ音になっていない俺の言葉に震えていた。
夕美の言葉が正しいのなら、あさひはカオルに惚れている。一目惚れなのだろう。ロマンチックなことこの上ない。でもそんな相手から罵詈雑言を浴びせられて、姉まで巻き込んで、今はその縁が切れるかどうかの判決を震えながら待っている。
あさひが失敗を犯したのは間違いない。悪意を持っていた可能性も捨てきれない。
それでも、その心の内を話す機会も与えずに、誤解を解く暇も与えずに追い出すのか。カオルと年の変わらない少女に、俺は……。
「……カオル」
カオルの耳元に口を寄せて、一条姉妹には聞こえない声で話しかけた。
「な、何……?」
カオルはくすぐったそうに身を捩った後に応えた。
「まだ、今も怖いか?」
「……今は、ケン君がいるから」
カオルが俺の服に顔を埋めた。
「仮にあのふたりが襲いかかってきたとして、俺が負けると思うか?」
「思わない」
「仮にあさひちゃんとカオルの言葉で食い違いが起こった時、俺がカオルを信じないと思うか?」
「……思わない」
カオルからの信頼に応えるために、俺はカオルを強く抱きしめた。
「じゃあ、いいな?」
ここで無理やりにあさひを追い出すことはない。今のカオルが満足したとしても、その心にはしこりが残るだろう。人を攻撃するということは、決して生易しいことではない。
力を込めた腕にカオルが呼応して、ゆっくりと俺の胸から顔を離した。
「ケン君が、そういうな……ら……?」
「……?」
途切れて最後まで紡がれなかったカオルの言葉。不思議に思い様子を確認すると、カオルは俺の顔を見上げていた。
見開いた目と、揺れる瞳と、震える唇。
「な、に……それ……」
カオルの視線は、真っ直ぐに俺の唇に向けられていた。
「私が悪いの……カオル君を傷つけたのは、私が悪いだけなの……。だから、お願いだから、お姉ちゃんを悪く言わないで……!」
先ほどまでカオルに気圧されていたあさひ。それが今はカオルに向かって正面から意見を言っている。まだビクビクと震えているものの、姉のことに関しては退く様子は見られない。
論理性なんて欠片もない。感情と感情をぶつけ合うやり取りはこっちの胸が痛くなるほどで、とても見ていられない。
夕美が口を挟んでもカオルは止められないだろう。カオル自身でも感情を制御できているとは思えない。そこでカオルから敵と判定されている夕美が口を出しても、火に油を注ぐだけだ。
「カオル、わかった。もういい……もうわかったから」
強くカオルを揺すって、俺の存在を意識させる。ちゃんと味方がいることを、気を張らなくてもいいことを体に教えてやる。
カオルの言葉が止まると、あさひもまた言葉を止めた。騒がしかった空間に突如として作り出された静寂は、カオルの震える息遣いまではっきり聞こえるほどだった。
「もう……もうケン君だけでいいよぉ……」
誰に聞かせるでもなく、それは零れたような呟きだった。
申し訳ないが、一条姉妹に退いてもらおう。後日、ふたりが冷静になってから改めて話し合うのがいいだろう。
もしかしたらカオルはもう二人を受け入れないかもしれない。カオルの性格からしてその可能性は高いだろうけど、それはもう仕方ない。
人付き合いを強要することはしたくないから。説得を試みて、それでも一条姉妹を拒絶するのなら諦めるしかない。
そう心で決めて口に出そうとした時、あさひと目が合った。
「っ……」
彼女もまた、カオルと同じように怯えていた。瞳を涙で濡らして、不安気に夕美の服を握り締めて。まだ音になっていない俺の言葉に震えていた。
夕美の言葉が正しいのなら、あさひはカオルに惚れている。一目惚れなのだろう。ロマンチックなことこの上ない。でもそんな相手から罵詈雑言を浴びせられて、姉まで巻き込んで、今はその縁が切れるかどうかの判決を震えながら待っている。
あさひが失敗を犯したのは間違いない。悪意を持っていた可能性も捨てきれない。
それでも、その心の内を話す機会も与えずに、誤解を解く暇も与えずに追い出すのか。カオルと年の変わらない少女に、俺は……。
「……カオル」
カオルの耳元に口を寄せて、一条姉妹には聞こえない声で話しかけた。
「な、何……?」
カオルはくすぐったそうに身を捩った後に応えた。
「まだ、今も怖いか?」
「……今は、ケン君がいるから」
カオルが俺の服に顔を埋めた。
「仮にあのふたりが襲いかかってきたとして、俺が負けると思うか?」
「思わない」
「仮にあさひちゃんとカオルの言葉で食い違いが起こった時、俺がカオルを信じないと思うか?」
「……思わない」
カオルからの信頼に応えるために、俺はカオルを強く抱きしめた。
「じゃあ、いいな?」
ここで無理やりにあさひを追い出すことはない。今のカオルが満足したとしても、その心にはしこりが残るだろう。人を攻撃するということは、決して生易しいことではない。
力を込めた腕にカオルが呼応して、ゆっくりと俺の胸から顔を離した。
「ケン君が、そういうな……ら……?」
「……?」
途切れて最後まで紡がれなかったカオルの言葉。不思議に思い様子を確認すると、カオルは俺の顔を見上げていた。
見開いた目と、揺れる瞳と、震える唇。
「な、に……それ……」
カオルの視線は、真っ直ぐに俺の唇に向けられていた。
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