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第六夜

妹は告げる

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「カオル君……」

 細く弱い呼びかけ。それでも小さな口から紡がれた音は鮮明に、真っ直ぐに、こちらへと飛んできた。

「……」

 カオルは何も応えない。正面から相対することもせずに、ちらりと視線をあさひに向けて流した。
 言葉にはしていなくとも、はっきりとあさひに向けて拒絶の意思が感じられる。

「そうだよね、そうなるよね……。でも、それでもいいから。だから、私の言葉を聞いてくれますか?」
「……」

 カオルはまた何も言わない。
 カオルが夕美に対して言葉を重ねたのは、義兄との縁を持っているからなのだろう。義兄に近づくな、こちらに干渉するなと釘を刺したかったのだ。
 対して、あさひが見ているのはカオルだけだ。義兄に対しては何の影響力も持っていない。

 あさひに対しては言葉を発する必要がない。カオルが拒絶すればあさひとの縁は勝手に切れる。夕美さえ排除できれば、あさひはカオルにとって恐怖の対象ではあっても脅威とはなり得ない。

 だからこそ、俺はあさひに言葉をかけようと思った。

「……聞くよ、俺がちゃんと聞いてる」
「ケン君……?」

 今ここで俺が夕美と話すことはカオルにとって好ましくないだろう。例えどんな言葉であろうとも。
 カオルが望んでいるのは、夕美からの縁切り宣言だけだ。

 だから俺はあさひに賭けることにした。
 何より、このままあさひに何もしゃべらせずにさよならなんてさせたくもなかった。

「あさひちゃんの言葉は俺が間違いなく聞き遂げる。カオルも、態度はこんなだけど聞いてないなんてことはない。ちゃんと全部聞くから、話してもらえると助かる」
「っ……ありがとう、ございます……っ」

 嗚咽を漏らしかけながらも、あさひは深々と頭を下げた。

「……」

 カオルは何も言わなかった。先ほどまでは頑なにあさひと敵対していたが、感情と不安を一度吐き出したことによって少しは冷静になったのかもしれない。

 あさひがゆっくりと足を動かす。一歩、また一歩と歩みを進めて、やがてカオルの正面に立った。

「……っ」

 無意識なのかもしれないが、カオルがあさひから遠ざかるように体を押し付けてきた。やはりまだ怖いのだろう。
 
 その様子を見て、あさひが少し顔を強張らせた。

「っ、すー……はー……」

 あさひは目を瞑って、小さな肩を上下させながら深呼吸を始めた。
 一回、二回、三回。計四回の呼吸をして、その瞼が開く。

「……私は、カオル君のことが好きです」

 あさひからの告白。
 それを受けたカオルが一瞬だけ、ほんの少しだけ、ピクリと体を反応させた。
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