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第六夜
姉妹はそこにいる
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「それで、初恋の感想はどう?」
隣に座った姉が、いきなりそんなことを口にした。
「……なんで初めてってわかるの?」
「わかるよ。だってあさひが生まれた時から知ってるんだよ? それに、あんな初々しくて見てるだけでハラハラさせてくれるんだもん。あれが初恋じゃなかったらなんだって言うの?」
ぐうの音も出ない。カオル君を前にしたときの私の行動の数々は、初めて芽生えた恋心に翻弄される少女そのものだったのだろう。
それに、初恋だったことは先ほど宣言もしてしまっている。
「フラれたのはショックだったけど……でも、元々そんな期待してなかったし……」
「そうなの? 私はリビングで話してる段階では、これはあるかもなー、なんて思ってたけど」
「お姉ちゃんと違って、私はそんなに自分に自信が持てるわけじゃ無いの! それに……押し倒しちゃったし……」
「えっ? わざとだったの?」
「ちっ、違うよ! 転んだのは本当で……でも、その先をしようとしたのも……本当だし……」
自身のはしたなさを改めて口にするのはなんとも恥ずかしいのだろう。それも実の姉相手に話すと言うのが輪をかけている。
「ふふっ、あさひはあんまりそういうことに興味ないと思ってたけど、ちゃんと知ってたんだね。このむっつりさん♪」
「~~っ!!」
「いたっ、痛いよ、あさひ。そんなに恥ずかしがることじゃないでしょ?」
「恥ずかしいよ! それに、カオル君を怖がらせちゃったわけだし……」
「……私は、そんなに悪いことでもないと思ってるよ? あさひが間違えちゃったのは確かだけど、でもいざって時に攻めるのは大事だと思ってるから」
ここで姉が言っている攻める、とはつまりはそういうことなのだろう。
「やっぱりビッチじゃん!」
「ち、違うって! 鹿島くんがそうだったから!」
「鹿島さんが?」
「告白したのも私からだし、デートとかだってぜーんぶ私の主導だったんだよ。文句は言わないけど、したいことも言ってくれなくて。でも鹿島くんは嫌そうじゃなかったから、やっぱり好きになった側が動かないとダメな時はあるんだよ!」
姉の言葉には説得力が感じられた。結局はフラれてしまってはいるものの、こうして家にお呼ばれされるくらいの良好な関係を意中の人と築いているのだ。
「だから、あさひはちょっと焦っちゃっただけ。タイミングが早すぎただけで、好きな人に迫ること自体は悪くないんだよ。カオルくんも許してくれたでしょ?」
「……うん」
絶交されていてもおかしくなかった。縁を切られる寸前だった。
それでも、カオル君は私の言葉を最後まで聞いてくれて、思いを受け止めてくれて、正面から応えてくれた。
「……さっきの話だけど」
「ん?」
「初めての恋の感想! 結果が失恋で終わったのはショックだよ……。でも、カオル君が私を認めてくれたのは嬉しかった。恋人じゃなくて友達……って呼んでいいのかはわからないけど。とにかく、私はカオル君とまたお話できる関係になれたのは嬉しい……かな」
「そっか……。いい顔してるね、あさひ。良い失恋をした女の顔だ」
「……じゃあお姉ちゃんも同じ顔だね」
「いや、私はまだフラれたって決まってるわけじゃないし」
この姉はこの期に及んで何を言っているのだろうか。
「でも、鹿島さんってカオル君とそういう関係なんだよね?」
「……私が付き合ってた時より進んでる可能性はあるね。ずっとふたりきりだったわけだし……」
「そしたら、お姉ちゃんが割り込める隙なんてなさそうだけど」
「あー! あさひはカオルくんの味方するんだ! 私は姉なのに!」
「だって、カオル君のこと好きだし……」
私をフった人ではあるものの、カオル君には幸せになってほしい。
カオル君が鹿島さんに寄せている思いの大きさは外から見ているだけでわかるほどだ。カオル君の幸せには義兄である鹿島さんの存在が不可欠のように思える。
「……私が鹿島くんと付き合ったら、あさひにもチャンスが来るかもしれないのに?」
「っ!」
失恋でできた心の隙間に付け込む。それはありふれた話なのだろう。
あのふたりが恋愛をするにはあまりにも障害が多い。私と姉が邪魔をしなくとも、むしろ協力していたって破綻する可能性は低くない。失意に陥るカオル君の隣に私が居る光景は、あまりにも容易く想像ができてしまった。
「……ごめんね、ちょっと意地悪なこと言っちゃった」
紅茶を啜る音が響いて、それにつられて私も一口紅茶を飲んだ。味が染み出し始めた紅茶は苦く、心が締め付けられるような心地がした。
『…………』
しばらくの間無言が続いた。姉とふたりきりでこんなに静かなのは珍しくて、どこか気まずさを感じる。
沈黙に耐えられなくて口を開こうとしたところで、姉が口を開いた。
「あー……気づいてあげられなかったなー、カオルくんの気持ち……」
それは突然の独白。
反射的に視線を動かすと、涙を流している姉が視界に映った。
「お姉ちゃん……?」
「っ……私が、女の私が鹿島くんの周りをウロチョロしてさ……っ。カオルくんはきっと気が気じゃなかったんだ。ただ話してるだけで、連絡を取り合うだけでっ……カオルくんは……。それなのに、私っ……せめてもう少し早く気づけていたら、そしたら、カオルくんもあんな……あんなっ……」
ボロボロと零れる涙を拭うこともせず、隠すこともせずに、姉は秘めていた後悔を漏らした。
「鹿島くんのことは好きだよ。でもね、カオルくんを傷つけたくなんてないの……傷つけたくなかったの! カオルくんが大切なのだって本当なの……!」
いつも私の前では完璧だった姉。そんな姉が子供のように感情をさらけ出して泣いている。
先に鹿島さんと付き合っていたのは姉だ。それが今ではその恋は横恋慕に成り果てた。
鹿島さんとカオル君への思いに挟まれて、姉はずっとどんな気持ちだったのだろうか。
私がカオル君の味方をした時、もしかしたら……。
「っ……お姉ちゃん……!」
姉の涙に呼応するように、私の中でも感情が膨らんで、溢れて。
気づけば私は姉に抱きついていた。
お互いに何を言う事もなく。励ましもせず、慰めもせず。ただわんわんと泣きあって、抱きしめあった。
私がここに居ると伝え合った。
隣に座った姉が、いきなりそんなことを口にした。
「……なんで初めてってわかるの?」
「わかるよ。だってあさひが生まれた時から知ってるんだよ? それに、あんな初々しくて見てるだけでハラハラさせてくれるんだもん。あれが初恋じゃなかったらなんだって言うの?」
ぐうの音も出ない。カオル君を前にしたときの私の行動の数々は、初めて芽生えた恋心に翻弄される少女そのものだったのだろう。
それに、初恋だったことは先ほど宣言もしてしまっている。
「フラれたのはショックだったけど……でも、元々そんな期待してなかったし……」
「そうなの? 私はリビングで話してる段階では、これはあるかもなー、なんて思ってたけど」
「お姉ちゃんと違って、私はそんなに自分に自信が持てるわけじゃ無いの! それに……押し倒しちゃったし……」
「えっ? わざとだったの?」
「ちっ、違うよ! 転んだのは本当で……でも、その先をしようとしたのも……本当だし……」
自身のはしたなさを改めて口にするのはなんとも恥ずかしいのだろう。それも実の姉相手に話すと言うのが輪をかけている。
「ふふっ、あさひはあんまりそういうことに興味ないと思ってたけど、ちゃんと知ってたんだね。このむっつりさん♪」
「~~っ!!」
「いたっ、痛いよ、あさひ。そんなに恥ずかしがることじゃないでしょ?」
「恥ずかしいよ! それに、カオル君を怖がらせちゃったわけだし……」
「……私は、そんなに悪いことでもないと思ってるよ? あさひが間違えちゃったのは確かだけど、でもいざって時に攻めるのは大事だと思ってるから」
ここで姉が言っている攻める、とはつまりはそういうことなのだろう。
「やっぱりビッチじゃん!」
「ち、違うって! 鹿島くんがそうだったから!」
「鹿島さんが?」
「告白したのも私からだし、デートとかだってぜーんぶ私の主導だったんだよ。文句は言わないけど、したいことも言ってくれなくて。でも鹿島くんは嫌そうじゃなかったから、やっぱり好きになった側が動かないとダメな時はあるんだよ!」
姉の言葉には説得力が感じられた。結局はフラれてしまってはいるものの、こうして家にお呼ばれされるくらいの良好な関係を意中の人と築いているのだ。
「だから、あさひはちょっと焦っちゃっただけ。タイミングが早すぎただけで、好きな人に迫ること自体は悪くないんだよ。カオルくんも許してくれたでしょ?」
「……うん」
絶交されていてもおかしくなかった。縁を切られる寸前だった。
それでも、カオル君は私の言葉を最後まで聞いてくれて、思いを受け止めてくれて、正面から応えてくれた。
「……さっきの話だけど」
「ん?」
「初めての恋の感想! 結果が失恋で終わったのはショックだよ……。でも、カオル君が私を認めてくれたのは嬉しかった。恋人じゃなくて友達……って呼んでいいのかはわからないけど。とにかく、私はカオル君とまたお話できる関係になれたのは嬉しい……かな」
「そっか……。いい顔してるね、あさひ。良い失恋をした女の顔だ」
「……じゃあお姉ちゃんも同じ顔だね」
「いや、私はまだフラれたって決まってるわけじゃないし」
この姉はこの期に及んで何を言っているのだろうか。
「でも、鹿島さんってカオル君とそういう関係なんだよね?」
「……私が付き合ってた時より進んでる可能性はあるね。ずっとふたりきりだったわけだし……」
「そしたら、お姉ちゃんが割り込める隙なんてなさそうだけど」
「あー! あさひはカオルくんの味方するんだ! 私は姉なのに!」
「だって、カオル君のこと好きだし……」
私をフった人ではあるものの、カオル君には幸せになってほしい。
カオル君が鹿島さんに寄せている思いの大きさは外から見ているだけでわかるほどだ。カオル君の幸せには義兄である鹿島さんの存在が不可欠のように思える。
「……私が鹿島くんと付き合ったら、あさひにもチャンスが来るかもしれないのに?」
「っ!」
失恋でできた心の隙間に付け込む。それはありふれた話なのだろう。
あのふたりが恋愛をするにはあまりにも障害が多い。私と姉が邪魔をしなくとも、むしろ協力していたって破綻する可能性は低くない。失意に陥るカオル君の隣に私が居る光景は、あまりにも容易く想像ができてしまった。
「……ごめんね、ちょっと意地悪なこと言っちゃった」
紅茶を啜る音が響いて、それにつられて私も一口紅茶を飲んだ。味が染み出し始めた紅茶は苦く、心が締め付けられるような心地がした。
『…………』
しばらくの間無言が続いた。姉とふたりきりでこんなに静かなのは珍しくて、どこか気まずさを感じる。
沈黙に耐えられなくて口を開こうとしたところで、姉が口を開いた。
「あー……気づいてあげられなかったなー、カオルくんの気持ち……」
それは突然の独白。
反射的に視線を動かすと、涙を流している姉が視界に映った。
「お姉ちゃん……?」
「っ……私が、女の私が鹿島くんの周りをウロチョロしてさ……っ。カオルくんはきっと気が気じゃなかったんだ。ただ話してるだけで、連絡を取り合うだけでっ……カオルくんは……。それなのに、私っ……せめてもう少し早く気づけていたら、そしたら、カオルくんもあんな……あんなっ……」
ボロボロと零れる涙を拭うこともせず、隠すこともせずに、姉は秘めていた後悔を漏らした。
「鹿島くんのことは好きだよ。でもね、カオルくんを傷つけたくなんてないの……傷つけたくなかったの! カオルくんが大切なのだって本当なの……!」
いつも私の前では完璧だった姉。そんな姉が子供のように感情をさらけ出して泣いている。
先に鹿島さんと付き合っていたのは姉だ。それが今ではその恋は横恋慕に成り果てた。
鹿島さんとカオル君への思いに挟まれて、姉はずっとどんな気持ちだったのだろうか。
私がカオル君の味方をした時、もしかしたら……。
「っ……お姉ちゃん……!」
姉の涙に呼応するように、私の中でも感情が膨らんで、溢れて。
気づけば私は姉に抱きついていた。
お互いに何を言う事もなく。励ましもせず、慰めもせず。ただわんわんと泣きあって、抱きしめあった。
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