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第六夜
好き
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お互いの気持ちをはっきりさせたい。そう宣言したカオルの体は小さく震えていた。
「はっきり……そうだよな。ずっと、不安にさせてたよな……ごめんな」
「ううん……オレも、怖くて逃げてたから」
それはそうだろう。カオルはもう何度も俺に気持ちをぶつけている。そして、俺はずっと答えを曖昧にしてきた。
だから、今度こそ俺の番だ。抱いてきた思いをぶつけて、気持ちを固めて。そして、この不安定な関係は終わらせよう。
一条姉妹のためにも、カオルのためにも、前に進まなければ。
「……カオルは、俺の役に立ちたいだけなんじゃないかって思ったことがある」
「え?」
それはカオルの告白を無下にする言葉で、気持ちを踏みにじるかもしれなくて、ずっと秘めていた第一の障害。カオルとの間に挟まる疑念の壁の一枚目だ。
「前に俺の……性器を咥えてくれたことがあっただろ」
「……ああ、あのケン君が勃起してくれなかった時」
カオルの口ぶりは嫌味たらしい。いまだに根に持っているのかもしれない。
「カオルは介護を受ける側の人間だろ。で、俺が介護をする側の人間だ。だから、後ろめたいんじゃないかって。それで、あんなことをしたんじゃないかって思った」
「……」
「カオルの世話は俺がしたくてしてることだ。辛いと思ったこともない。嫌なことでもない。でも、それをいくら口で言っても、きっとカオルには十分には伝わらない。どこまでいっても、する側される側の立ち位置は変わらないからな」
「それは……うん……」
「だから、少しでも俺の役に立ちたくて、その……性奉仕に走ったなんじゃないかって。俺の事が好きなわけじゃなくて、義務感で俺に好意を向けているんじゃないかって思ってた」
「……」
カオルは無言だ。俺の言葉を受け止めて、考え込むような仕草を見せて、一歩近づいてきた。
その表情には色がない。何も考えていないように見えるし、何かを決意しているように見える。
「カオル?」
「……」
呼び掛けても返事はない。
一歩、また一歩と。言葉も無いままにまっすぐに。
カオルとの距離が近づいて、カオルの呼気が顔に当たって、唇が接近して。
そして、触れた。
「んっ……」
カオルの意図はわからない。どうしてキスをしたのかは推し量れない。
それでも拒否する理由もなかった。だから受け入れて、カオルのしたいようにさせることにした。
「んっ……ちゅ……」
唇同士が触れ合って、押し合って、柔らかな弾力で勝手に押し返して。やがて舌が入り込んできた。
淫靡な水音が静かすぎる部屋の中に響いて、まるで責め立てられているような気分になる。人が居る家の中でカオルとキスをしているという事実を、言い訳のできないキスを許容している現実を。
この音が部屋の外まで漏れていないといいのだが。
「はむっ……ん、ふっ……っ」
前にしたのは、確か二日前だ。たった二日しか間が空いていないのに、何故だかこの行為がとても懐かしく思える。
カオルのぎこちない舌の動き。小さくて暖かい唇の感触。湿ってじっとりとしている口内の艶めき。
思い起こされるのは、互いの男性器を触れ合わせて擦り合わせた背徳の極みのような性交渉。
「ん、むっ……ぷはっ……。おっきくなってるね」
わざとらしく視線を向けながらカオルが言った。
「まさかとは思うが、今ここでするつもりじゃないよな?」
「さすがにそれはないけど……でも、キスなら良いでしょ。オレがこの部屋で怖くて震えてる間に、一条さんとしてたんだよね?」
「悪かったって……」
「いいよ、別にもう気にしてないから。ケン君は誰にでも優しいんだもんね?」
気にしていないと口にしてはいても、その態度は真逆のように見える。これは、しばらくの間は覚悟しておいた方が良さそうだ。
「……でも、オレは違うよ。オレは誰にでも……恩があるからってだけじゃ、こんなことしないから。ケン君以外の人にこんな事しないし、させたくない……」
そう言って、また唇同士を触れ合わせた。
今度は唇を押し付けるようにして。それは判子のつもりか、それともスタンプか、もしくは烙印か。
強く体を押し付けてきて、無い腕までも使って俺の体を抱きしめるように。
「……好き」
唇を離してから、カオルはその言葉を口にした。
まだあどけない大きな瞳に俺の顔を映しながら、頬を朱に染めて、少し躊躇いながらもはっきりと。
カオルは俺に告白をした。
「ケン君のことが好き。オレはケン君が好き」
「……そうか」
カオルの瞳が揺れた。
「ずっと傍にいて欲しい。ケン君が居てくれればそれで良い。ずっとふたりきりだって、ずっとこの家に閉じこもってたって、ケン君が居るならそれでいい。ケン君が居てくれるなら、それがいい」
「……ああ」
カオルの声は少し震えていた。
「……オレだけを見て。ずっと、オレの側で……オレだけに、好きって言って欲しい……。義兄弟じゃなくて、恋人に、なって欲しい……」
「……」
カオルは怯えていた。
「……これが、オレの気持ちだよ? ケン君は? ……ケン君の気持ちを教えて?」
「……俺は――」
「はっきり……そうだよな。ずっと、不安にさせてたよな……ごめんな」
「ううん……オレも、怖くて逃げてたから」
それはそうだろう。カオルはもう何度も俺に気持ちをぶつけている。そして、俺はずっと答えを曖昧にしてきた。
だから、今度こそ俺の番だ。抱いてきた思いをぶつけて、気持ちを固めて。そして、この不安定な関係は終わらせよう。
一条姉妹のためにも、カオルのためにも、前に進まなければ。
「……カオルは、俺の役に立ちたいだけなんじゃないかって思ったことがある」
「え?」
それはカオルの告白を無下にする言葉で、気持ちを踏みにじるかもしれなくて、ずっと秘めていた第一の障害。カオルとの間に挟まる疑念の壁の一枚目だ。
「前に俺の……性器を咥えてくれたことがあっただろ」
「……ああ、あのケン君が勃起してくれなかった時」
カオルの口ぶりは嫌味たらしい。いまだに根に持っているのかもしれない。
「カオルは介護を受ける側の人間だろ。で、俺が介護をする側の人間だ。だから、後ろめたいんじゃないかって。それで、あんなことをしたんじゃないかって思った」
「……」
「カオルの世話は俺がしたくてしてることだ。辛いと思ったこともない。嫌なことでもない。でも、それをいくら口で言っても、きっとカオルには十分には伝わらない。どこまでいっても、する側される側の立ち位置は変わらないからな」
「それは……うん……」
「だから、少しでも俺の役に立ちたくて、その……性奉仕に走ったなんじゃないかって。俺の事が好きなわけじゃなくて、義務感で俺に好意を向けているんじゃないかって思ってた」
「……」
カオルは無言だ。俺の言葉を受け止めて、考え込むような仕草を見せて、一歩近づいてきた。
その表情には色がない。何も考えていないように見えるし、何かを決意しているように見える。
「カオル?」
「……」
呼び掛けても返事はない。
一歩、また一歩と。言葉も無いままにまっすぐに。
カオルとの距離が近づいて、カオルの呼気が顔に当たって、唇が接近して。
そして、触れた。
「んっ……」
カオルの意図はわからない。どうしてキスをしたのかは推し量れない。
それでも拒否する理由もなかった。だから受け入れて、カオルのしたいようにさせることにした。
「んっ……ちゅ……」
唇同士が触れ合って、押し合って、柔らかな弾力で勝手に押し返して。やがて舌が入り込んできた。
淫靡な水音が静かすぎる部屋の中に響いて、まるで責め立てられているような気分になる。人が居る家の中でカオルとキスをしているという事実を、言い訳のできないキスを許容している現実を。
この音が部屋の外まで漏れていないといいのだが。
「はむっ……ん、ふっ……っ」
前にしたのは、確か二日前だ。たった二日しか間が空いていないのに、何故だかこの行為がとても懐かしく思える。
カオルのぎこちない舌の動き。小さくて暖かい唇の感触。湿ってじっとりとしている口内の艶めき。
思い起こされるのは、互いの男性器を触れ合わせて擦り合わせた背徳の極みのような性交渉。
「ん、むっ……ぷはっ……。おっきくなってるね」
わざとらしく視線を向けながらカオルが言った。
「まさかとは思うが、今ここでするつもりじゃないよな?」
「さすがにそれはないけど……でも、キスなら良いでしょ。オレがこの部屋で怖くて震えてる間に、一条さんとしてたんだよね?」
「悪かったって……」
「いいよ、別にもう気にしてないから。ケン君は誰にでも優しいんだもんね?」
気にしていないと口にしてはいても、その態度は真逆のように見える。これは、しばらくの間は覚悟しておいた方が良さそうだ。
「……でも、オレは違うよ。オレは誰にでも……恩があるからってだけじゃ、こんなことしないから。ケン君以外の人にこんな事しないし、させたくない……」
そう言って、また唇同士を触れ合わせた。
今度は唇を押し付けるようにして。それは判子のつもりか、それともスタンプか、もしくは烙印か。
強く体を押し付けてきて、無い腕までも使って俺の体を抱きしめるように。
「……好き」
唇を離してから、カオルはその言葉を口にした。
まだあどけない大きな瞳に俺の顔を映しながら、頬を朱に染めて、少し躊躇いながらもはっきりと。
カオルは俺に告白をした。
「ケン君のことが好き。オレはケン君が好き」
「……そうか」
カオルの瞳が揺れた。
「ずっと傍にいて欲しい。ケン君が居てくれればそれで良い。ずっとふたりきりだって、ずっとこの家に閉じこもってたって、ケン君が居るならそれでいい。ケン君が居てくれるなら、それがいい」
「……ああ」
カオルの声は少し震えていた。
「……オレだけを見て。ずっと、オレの側で……オレだけに、好きって言って欲しい……。義兄弟じゃなくて、恋人に、なって欲しい……」
「……」
カオルは怯えていた。
「……これが、オレの気持ちだよ? ケン君は? ……ケン君の気持ちを教えて?」
「……俺は――」
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