両腕のない義弟との性事情

papporopueeee

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後日夜

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「この二人と一緒に居るのはやだ!」

 ロッジに備わっている暖炉。そこに焼べる薪はロッジの管理施設に保管されているらしく、誰かが取りに行く必要があった。

 力仕事ということで当然のように俺が名乗りを挙げたのだが、そこで異を唱えたのがカオルだった。もうあさひを怖がっているということはないだろうが、一条姉妹に囲まれるのが気まずいのかもしれない。

「じゃあ、私が付いて行こうか。車も出せるし」
「それはもっとダメ!」
「だよねー……」

 一条はすでに俺とふたりきりの時にやらかしている。カオルが許さないのは当然だろう。

「でも、管理施設ってレストランとかコンビニが併設されてて人通りがあるから、カオルくんは行きづらいよね」
「となると……」
「……えっ?」



「あの、ほんとに私は持たなくていいんですか?」
「あさひちゃんに荷物持たせてると、俺の筋肉の沽券に関わるからな。気にしないでくれ」
「……? えっと、あ、ありがとうございます」

 しまった、会話を外してしまったようだ。空気を和ませようとしたのに、あさひは気まずそうに疑問符を浮かべてしまっている。

「あーっと……。管理施設には結構色々あるよな」
「そうですね。ロッジの周りが本当に自然しかないからギャップがすごいです」
「ほんとになー……。ああ、テイクアウトも充実してたから、ここで食事買ってくのもアリかもな」
「あっ、で、でも食事はお姉ちゃんが色々用意してくれてたので……」
「あっ、ああ、そうだったな。すっかり忘れてた……っていうのも失礼か」
「で、でも、明日帰る前とかだったら多分大丈夫かも、です」
「そうか……」
「はい……」
「……」
「……」
『……』

 気まずい沈黙と寒風が頬を撫でていく。

 カオルとのふたりきりは問題ない。義兄弟だから。
 一条とのふたりきりも問題ない。カオルが許さないだろうが、付き合いは長いから。
 あさひとのふたりきりは、どんな会話をすればいいのかがわからない。

 あさひも同じ気持ちなのだろう。いや、むしろ年上の男とふたりきりという状況を考慮すればあさひの方が肩身は狭いはずだ。

 俺から話題を提供するべきだ。しかしだからと言って何から切り出せばいい。
 共通の趣味なんてなさそうだ。筋トレの話をしたら引かれるかもしれない。最近見た映画は、マニアックなゾンビモノだ。

 そうやって思考がぐるぐると回ってる内に――

「あっ、あのっ……!」

 結局はあさひが先に行動してしまうのが俺の情けないところだと改めて思う。

「ん、どうした?」
「……ちゃんと、お礼言ってなかったかもって思うので、その、ちゃんと言いたくて」
「お礼?」
「……あの時、鹿島さんが私の話を聞いてくれたことについて」
「……ああ、気にしなくてもいいよ。俺も一条も、カオルも、みんなあさひちゃんに助けられたようなもんだ。あさひちゃんが勇気を出してくれたから、こうしてみんなで旅行が出来てるんだからな」
「そんなことないです……。私一人じゃ、やっぱりカオル君にちゃんと気持ちを伝えられなかったと思います。鹿島さんの言葉にはとても助けられたんです。本当にありがとうございました」

 そう言うとあさひはペコリと深く頭を下げた。

「……それじゃあ、俺からもちゃんと言わないとだな」
「え?」
「あさひちゃんが勇気を出してくれたおかげで、カオルに友達ができた。俺以外にも楽しく話し合える相手ができた。本当にありがとう」

 薪を一度傍らに置いてから、あさひに向けて頭を下げる。
 深く、長く、少しでもあさひに感謝の気持ちが伝わるように。

「っ……鹿島さんにそう言ってもらえると、すごく、すごくっ、嬉しいです……!」

 ぐすぐすという音を立てながらあさひが涙を流し始める。感極まってしまったようだ。

「お、おいおい大丈夫か?」
「そ、その、本当に良かったんだって思ったら、つい……。カオル君と友達になれたんだって、みんなが喜んでくれる形で……それが嬉しくて……!」

 カオルと友達になれたことが嬉しい。その言葉はカオルの義兄である俺からしてもとても嬉しい言葉だ。
 しかし、同時に一つの疑問もある。これはあさひだけじゃない、一条やカオルにも関わるようなものだ。

「……なあ、一つ質問してもいいか?」
「……?」
「いや、こんなこと訊くべきじゃないかもしれないんだけどさ……。あさひちゃんはカオルに告白してるだろ?」
「はい……」
「それなのに、友達でいいのか? 俺やカオルの近くにいるだけでも辛かったりとか、そういうのはないのか?」

 カオルはあさひをフった相手だ。そしてカオルの好きな相手が俺だ。
 それなのに、あさひは俺たち義兄弟に積極的に関わってきてくれている。そこに無理はないか。辛いのに気を遣ってくれている可能性がないかが気になっていた。

「……はい。全然辛くないですよ」

 そう言い切ったあさひの顔には迷いは一切存在していなかった。澄み切った明るい笑顔で、まっすぐと俺を見ていた。

「私、今でもカオル君のことが好きです。でも、もしかしたらこれは恋心じゃないのかもってちょっと思ってるんです」
「そうなのか?」
「私は、カオル君の特別になりたいだけだったんじゃないかなって。あの時はその選択肢が恋人しかなかったけど、今は……カオル君の特別な友達になれたから」
「……特別な友達か」

 あの日の情景が蘇る。あさひはカオルの役に立ちたくて、認めてもらいたかったと言っていた。

「だから、全然辛くない……むしろ嬉しいです。カオル君とお話できて、近くにいられて、とっても幸せです」
「……そうか。ならいいんだ」
「はい、私はこれでいいんだって思ってます」

 一つ、心の中の靄が晴れたような心地がした。一人の少女が傷ついて、それを乗り越えたことを知ることができて。過去を引きずっていないことに安堵できた。

「だから、鹿島さんも遠慮なくカオル君とイチャイチャしてくれていいですからね!」
「え? あ、ああ……」

 気のせいだとは思うが、ここまで瞳を輝かせているあさひは初めて見たような気がした。
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