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第一章 世界の果てに咲く花
蜂起 2
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同室の亜人の様子を聞く事は、特におかしいところは無い。この質問であれば、警戒されているとはいえ仲間想いなメルディスであれば答えてくれるはずだ。
六の少女は杖をつきながら診療所へ戻る。
今は診療所には誰もいない。
メルディスは授業中であり、ルーディールは朝から強制労働側で事故があったと報告があり、そちらへ治療に行っている。余程の大事でもなければ、ルーディールはもうすぐ戻ってくるだろう。
六の少女はそう思いながら、定位置である診療所最奥のベッドへ移動する。
さすがに死亡率九割を超えるベッドなのでちょっと気持ち悪くも感じるが、ワガママを言って目立つのも意味が無い。それに最奥と言う事もあり、読書のジャマをされない事を考えるとそう悪くない。
六の少女がベッドで本を読んでいると、ルーディールやメルディスでは無く、スパードが診療所へやって来た。
スパードは怪我などで診療所へ来た訳ではなく、あくまでも六の少女の担当官なので行動監視も兼ねている。出入口近くの椅子に座ると六の少女と同じ様に持って来た本を読み始めた。
今の六の少女には気付かれない様にこっそりと、とはいかないのでスパードは出入口を抑えるだけで済むのだ。
「スパードさん、ルー先生は戻らないんですか?」
「ああ、向こうで治療にあたっている。具合でも悪いのか?」
「そう言うわけじゃありません」
スパードは特に警戒している様子は無いが、元々感情の起伏が乏しい人物で冷静沈着なので考えは読めない。
スパードに聞いてみても良いが、基本的に六の少女もスパードも本を読み始めるとそちらに集中する。それより優先して話しかければ、何かあると思われるのは当然である。
下手に行動せずに、メルディスかルーディールを待つ方が自然だろう。
実際にそれ程待つ必要もなく、メルディスが診療所へやって来る。
「スパードさん、交代しますよ。食事に行って下さい」
「いや、俺も来たばかりだ。それより先生はどうした?」
「向こうの事故が大きかったみたいで、すぐに戻れないそうですから、私はここで待機になりました」
メルディスはルーディールの補佐でもあるので、ルーディールが診療所を離れている間はメルディスが留守番という事になっている。
「また食堂まで散歩してきたの?」
「固くて食べられなかった」
メルディスが苦笑いしながら声をかけてきたので、六の少女はそれらしい事を伝える。
「そりゃそうでしょうね。実際、ルー先生はもう動いてる貴女に驚いてるんだし。でも無理すると治りも遅くなるわよ」
「リハビリって言うの? ソレよ」
「まだ早過ぎ。全身包帯で、杖をついてもまともに歩けない人は、まずは体を回復させる事。貴女は回復が早いし、治癒魔術の効果も高いけど油断しちゃダメよ。無理したがる性格みたいだし」
メルディスは六の少女に言う。
「ところでメルディス、他の皆はどうしてる?」
「他の皆? 十一番と十二番は前より貴女を怖がってるわよ」
あの獣人姉妹なら、それも不思議じゃないとは六の少女も思う。
「四番は?」
「あ、そうか。貴女は知らないのね。四番は貴女がまだ意識を失ってる間に、引き取り手が現れて引き取られたわよ」
メルディスは六の少女に温かい飲み物を用意しながら、六の少女に答える。
「引き取られた?」
「ええ、先月もあったでしょ?五十二番とか、四十三番とか」
メルディスの口調はそこまで暗くない。
メルディスは亜人引き取りの情報は入っても、それに立ち会う事は出来ない。また、引き取り手次第ではこの収容所より遥かにマシな生活がある可能性も、低いとはいえ無くはない。
「引き取られたって、何処に?」
「私は知らないけど、スパードさんは知ってますか?」
「いや」
これ以上はない程短い答えがスパードから返ってくる。
確かに収容所の中の人間に、収容所の外の情報を与える必要など無い。引き取り手の情報を持っている者と言ったら、所長くらいだろう。
だとすると、強制労働側のリーダー探しはメルディスに聞くか、自分で探すしか無い。
あの好奇心の塊で情報通の四番がいなくなったのは惜しいが、好奇心の塊の四番から情報を得ようとするとその口から情報が漏れる事もある。
考え方次第では、情報源を失った事より情報漏洩の可能性が低くなった事の方が大きいかもしれない。
六の少女はそう考えた時、胸に痛みを覚えた。
これまでに受けた痛みとは違う痛み。明確な痛みの感覚だが、まったく未知の痛み。
街での逃亡生活でも、この収容所の生活でも、様々な痛みを伴う生活を強いられている。今も先日の暴行の大怪我は治っていないので、当然体中が痛いのだが、その痛みよりはっきりと感じられ、その上で締め付けてくる様な息苦しさも感じる。
(治りきれてないって事?)
六の少女が胸を押さえていると、メルディスが心配そうに見ていた。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「うん、ちょっとね」
六の少女は、ベッドに横になりながら言う。
メルディスが言う様に、無理をし過ぎたせいで治りかけの傷が開いたのかもしれない。耐えられない様な痛みではないので、やり過ごす事にした。
(なんだろう、この痛み)
六の少女には、その胸の痛みの正体が分からなかった。
六の少女は杖をつきながら診療所へ戻る。
今は診療所には誰もいない。
メルディスは授業中であり、ルーディールは朝から強制労働側で事故があったと報告があり、そちらへ治療に行っている。余程の大事でもなければ、ルーディールはもうすぐ戻ってくるだろう。
六の少女はそう思いながら、定位置である診療所最奥のベッドへ移動する。
さすがに死亡率九割を超えるベッドなのでちょっと気持ち悪くも感じるが、ワガママを言って目立つのも意味が無い。それに最奥と言う事もあり、読書のジャマをされない事を考えるとそう悪くない。
六の少女がベッドで本を読んでいると、ルーディールやメルディスでは無く、スパードが診療所へやって来た。
スパードは怪我などで診療所へ来た訳ではなく、あくまでも六の少女の担当官なので行動監視も兼ねている。出入口近くの椅子に座ると六の少女と同じ様に持って来た本を読み始めた。
今の六の少女には気付かれない様にこっそりと、とはいかないのでスパードは出入口を抑えるだけで済むのだ。
「スパードさん、ルー先生は戻らないんですか?」
「ああ、向こうで治療にあたっている。具合でも悪いのか?」
「そう言うわけじゃありません」
スパードは特に警戒している様子は無いが、元々感情の起伏が乏しい人物で冷静沈着なので考えは読めない。
スパードに聞いてみても良いが、基本的に六の少女もスパードも本を読み始めるとそちらに集中する。それより優先して話しかければ、何かあると思われるのは当然である。
下手に行動せずに、メルディスかルーディールを待つ方が自然だろう。
実際にそれ程待つ必要もなく、メルディスが診療所へやって来る。
「スパードさん、交代しますよ。食事に行って下さい」
「いや、俺も来たばかりだ。それより先生はどうした?」
「向こうの事故が大きかったみたいで、すぐに戻れないそうですから、私はここで待機になりました」
メルディスはルーディールの補佐でもあるので、ルーディールが診療所を離れている間はメルディスが留守番という事になっている。
「また食堂まで散歩してきたの?」
「固くて食べられなかった」
メルディスが苦笑いしながら声をかけてきたので、六の少女はそれらしい事を伝える。
「そりゃそうでしょうね。実際、ルー先生はもう動いてる貴女に驚いてるんだし。でも無理すると治りも遅くなるわよ」
「リハビリって言うの? ソレよ」
「まだ早過ぎ。全身包帯で、杖をついてもまともに歩けない人は、まずは体を回復させる事。貴女は回復が早いし、治癒魔術の効果も高いけど油断しちゃダメよ。無理したがる性格みたいだし」
メルディスは六の少女に言う。
「ところでメルディス、他の皆はどうしてる?」
「他の皆? 十一番と十二番は前より貴女を怖がってるわよ」
あの獣人姉妹なら、それも不思議じゃないとは六の少女も思う。
「四番は?」
「あ、そうか。貴女は知らないのね。四番は貴女がまだ意識を失ってる間に、引き取り手が現れて引き取られたわよ」
メルディスは六の少女に温かい飲み物を用意しながら、六の少女に答える。
「引き取られた?」
「ええ、先月もあったでしょ?五十二番とか、四十三番とか」
メルディスの口調はそこまで暗くない。
メルディスは亜人引き取りの情報は入っても、それに立ち会う事は出来ない。また、引き取り手次第ではこの収容所より遥かにマシな生活がある可能性も、低いとはいえ無くはない。
「引き取られたって、何処に?」
「私は知らないけど、スパードさんは知ってますか?」
「いや」
これ以上はない程短い答えがスパードから返ってくる。
確かに収容所の中の人間に、収容所の外の情報を与える必要など無い。引き取り手の情報を持っている者と言ったら、所長くらいだろう。
だとすると、強制労働側のリーダー探しはメルディスに聞くか、自分で探すしか無い。
あの好奇心の塊で情報通の四番がいなくなったのは惜しいが、好奇心の塊の四番から情報を得ようとするとその口から情報が漏れる事もある。
考え方次第では、情報源を失った事より情報漏洩の可能性が低くなった事の方が大きいかもしれない。
六の少女はそう考えた時、胸に痛みを覚えた。
これまでに受けた痛みとは違う痛み。明確な痛みの感覚だが、まったく未知の痛み。
街での逃亡生活でも、この収容所の生活でも、様々な痛みを伴う生活を強いられている。今も先日の暴行の大怪我は治っていないので、当然体中が痛いのだが、その痛みよりはっきりと感じられ、その上で締め付けてくる様な息苦しさも感じる。
(治りきれてないって事?)
六の少女が胸を押さえていると、メルディスが心配そうに見ていた。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「うん、ちょっとね」
六の少女は、ベッドに横になりながら言う。
メルディスが言う様に、無理をし過ぎたせいで治りかけの傷が開いたのかもしれない。耐えられない様な痛みではないので、やり過ごす事にした。
(なんだろう、この痛み)
六の少女には、その胸の痛みの正体が分からなかった。
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