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第一章 世界の果てに咲く花
終わりを待つ日々 9
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「元気になって良かったですね」
「お前は見事に不健康だがな」
ニコニコしているイリーズに、サラーマが苦い顔で言う。
「確かにイリーズ様、呪いを移してからお痩せになりました」
ウェンディーも心配そうに言う。
「うん。正直に言うと、呪いの効果は僕の予想を遥かに上回ってた。自覚している限りでは、春まで持たないんじゃないかな」
イリーズは他人事の様に言う。
「どうなんだ、ウェンディー。俺も実はイリーズの自己診断と大差無い様に感じているんだが」
サラーマに言われて、ウェンディーは泣きそうな顔で俯いた。
「……これから言う事は非常に不愉快かもしれませんが、呪いをあの女性に移せませんか? そうすればイリーズ様は助かるじゃありませんか」
ウェンディー自身、非道な事を言っている事は分かっている。だからこそ、瞳に涙を浮かべながらも自分の優先するべき事を伝えてくる。
「あの少女を私達が助けられたからこそ、今生きている訳じゃないですか。だとすると、これは天意じゃないんですか?」
「逆ですよ」
イリーズはウェンディーに言う。
「僕は多分、彼女を生かす為にこれまで死なずにいたんだと思います」
「そんな事ありません!」
ウェンディーが、イリーズに対して珍しく感情的になって言う。
「イリーズ様はどうして生きる事を諦めているんですか! 私は認めません!」
「すいません。今のは僕が悪かったですね」
イリーズはウェンディーに素直に謝る。
イリーズ自身は、とうの昔に生きる事を諦めていた。それだけに生きる意味を見つける事を最優先にしていた。
イリーズにとって、空から降ってきた少女は運命そのものだった。
あの呪い、『魔獣の落し子』から救えるのはイリーズだけである。
能力の高さはサラーマ、ウェンディーと比べるまでもなく、イリーズは一般人と大差無い。それどころか、身体能力で言えば水準を大きく下回る。
それでも禁忌の魔術に対する知識に関しては、二体の妖精を大きく上回り、今回行なった様に呪いを移すなどはイリーズにしか出来ない。
「だけど、僕は呪いの影響で長く生きられませんから。少しでも人の役に立ちたかったんです」
「イリーズ、諦めの良さと最初から諦めているのはまったく違うぞ。今のイリーズは、生きられない事を盾にして、自棄を起こしているとしか思えない」
「僕が自棄に?」
イリーズとしては驚いていた。
本人は良かれと思って行動していたつもりで、それが最上の行動だと判断しての行動だったのだが、第三者から見たらそうでも無かったらしい。
「お前は何のためにあの女を助けようとしたんだ?」
「何の為に?」
サラーマに言われて、イリーズは首を傾げる。
「人を助ける事に理由が必要でしたか?」
「建前はそうでも、人が行動する時には行動理念があるもんだ。ちょっと悪意的な言い方になるが、見返りや下心って奴だ。それが無意識であっても、ソレはある。そこを見つめ直すんだよ」
「何よそれ、サラーマ。あんた、馬鹿にしてるの?」
「そんなつもりかどうか、イリーズなら分かるだろ?」
噛み付いてくるウェンディーを、サラーマはいなす様にイリーズに言う。
「生きた証ってのはさ、生きる事を諦めた人間に立てる事は出来ないんじゃねーの? 生きてこそ立てられる、死ぬ時に誇れるモノの為には、まず生きてないと」
「どうしたの、サラーマ。らしくないくらいマトモな事言ってるけど」
「真面目な話してる時に、失礼な事を言うね君は」
サラーマは首を振って、ウェンディーに言う。
生きた証。
確かにソレはイリーズを突き動かす事でもあった。
ただ死を待つだけだった存在であるイリーズは、生きた証と言うモノに憧れがあった。自分が何故生まれてきたか。これまで生きてきた理由を、呪いを受けながらでも幸せだったと思える生き方をしたかった。
だから、イリーズは少女を命懸けで助けようとした。
「違う違う。その後だよ」
サラーマがイリーズに言う。
「助けた事に成功した、その後だよ。お前は助けたあの女をどうしたいんだ?」
「どうって?」
「お前の言葉を借りて言えば、あの女を生かす為にお前は生きてきたんだろ? 空から降ってきたのを拾って、呪いを移して、ハイ終わりか? それが生きた証なのか?」
「サラーマ、口悪いわよ。イリーズ様に向かって」
「分かりやすいだろ?」
まったく悪びれた様子の無いサラーマは、ニヤリと笑って言う。
「そこは確かに考えてませんでしたね」
「重要だぞ。そこを考えていないから、お前は生きる事を諦められるんだよ」
「サラーマ! いい加減にしなさいよ」
「え? どっちかと言えばブチ切れたお前のフォローだったんだけど?」
「それにしたって、言い方とか言葉遣いとか気遣いとか遠慮とか常識とか」
「イリーズ、こいつ殴っていい?」
「まあ、僕は止めませんけど、ケンカでサラーマがウェンディーに勝てますか?」
「今日のところはこれくらいで勘弁しといてやる」
サラーマはそう言うと、部屋を出て行く。
おそらくあの少女のところに行ったのだろう。
「イリーズ様、サラーマの言った事ですけど、あまり気になさらないで下さい。私も気が動転してしまって」
「いえ。よく言ってくれました。確かに僕は勘違いしていたみたいですね」
どうせ、と言う言葉がイリーズを支配していたのも、今なら自覚出来る。
(何が出来るか、か。この冬が僕にとって大きな転機なんだろうな)
「お前は見事に不健康だがな」
ニコニコしているイリーズに、サラーマが苦い顔で言う。
「確かにイリーズ様、呪いを移してからお痩せになりました」
ウェンディーも心配そうに言う。
「うん。正直に言うと、呪いの効果は僕の予想を遥かに上回ってた。自覚している限りでは、春まで持たないんじゃないかな」
イリーズは他人事の様に言う。
「どうなんだ、ウェンディー。俺も実はイリーズの自己診断と大差無い様に感じているんだが」
サラーマに言われて、ウェンディーは泣きそうな顔で俯いた。
「……これから言う事は非常に不愉快かもしれませんが、呪いをあの女性に移せませんか? そうすればイリーズ様は助かるじゃありませんか」
ウェンディー自身、非道な事を言っている事は分かっている。だからこそ、瞳に涙を浮かべながらも自分の優先するべき事を伝えてくる。
「あの少女を私達が助けられたからこそ、今生きている訳じゃないですか。だとすると、これは天意じゃないんですか?」
「逆ですよ」
イリーズはウェンディーに言う。
「僕は多分、彼女を生かす為にこれまで死なずにいたんだと思います」
「そんな事ありません!」
ウェンディーが、イリーズに対して珍しく感情的になって言う。
「イリーズ様はどうして生きる事を諦めているんですか! 私は認めません!」
「すいません。今のは僕が悪かったですね」
イリーズはウェンディーに素直に謝る。
イリーズ自身は、とうの昔に生きる事を諦めていた。それだけに生きる意味を見つける事を最優先にしていた。
イリーズにとって、空から降ってきた少女は運命そのものだった。
あの呪い、『魔獣の落し子』から救えるのはイリーズだけである。
能力の高さはサラーマ、ウェンディーと比べるまでもなく、イリーズは一般人と大差無い。それどころか、身体能力で言えば水準を大きく下回る。
それでも禁忌の魔術に対する知識に関しては、二体の妖精を大きく上回り、今回行なった様に呪いを移すなどはイリーズにしか出来ない。
「だけど、僕は呪いの影響で長く生きられませんから。少しでも人の役に立ちたかったんです」
「イリーズ、諦めの良さと最初から諦めているのはまったく違うぞ。今のイリーズは、生きられない事を盾にして、自棄を起こしているとしか思えない」
「僕が自棄に?」
イリーズとしては驚いていた。
本人は良かれと思って行動していたつもりで、それが最上の行動だと判断しての行動だったのだが、第三者から見たらそうでも無かったらしい。
「お前は何のためにあの女を助けようとしたんだ?」
「何の為に?」
サラーマに言われて、イリーズは首を傾げる。
「人を助ける事に理由が必要でしたか?」
「建前はそうでも、人が行動する時には行動理念があるもんだ。ちょっと悪意的な言い方になるが、見返りや下心って奴だ。それが無意識であっても、ソレはある。そこを見つめ直すんだよ」
「何よそれ、サラーマ。あんた、馬鹿にしてるの?」
「そんなつもりかどうか、イリーズなら分かるだろ?」
噛み付いてくるウェンディーを、サラーマはいなす様にイリーズに言う。
「生きた証ってのはさ、生きる事を諦めた人間に立てる事は出来ないんじゃねーの? 生きてこそ立てられる、死ぬ時に誇れるモノの為には、まず生きてないと」
「どうしたの、サラーマ。らしくないくらいマトモな事言ってるけど」
「真面目な話してる時に、失礼な事を言うね君は」
サラーマは首を振って、ウェンディーに言う。
生きた証。
確かにソレはイリーズを突き動かす事でもあった。
ただ死を待つだけだった存在であるイリーズは、生きた証と言うモノに憧れがあった。自分が何故生まれてきたか。これまで生きてきた理由を、呪いを受けながらでも幸せだったと思える生き方をしたかった。
だから、イリーズは少女を命懸けで助けようとした。
「違う違う。その後だよ」
サラーマがイリーズに言う。
「助けた事に成功した、その後だよ。お前は助けたあの女をどうしたいんだ?」
「どうって?」
「お前の言葉を借りて言えば、あの女を生かす為にお前は生きてきたんだろ? 空から降ってきたのを拾って、呪いを移して、ハイ終わりか? それが生きた証なのか?」
「サラーマ、口悪いわよ。イリーズ様に向かって」
「分かりやすいだろ?」
まったく悪びれた様子の無いサラーマは、ニヤリと笑って言う。
「そこは確かに考えてませんでしたね」
「重要だぞ。そこを考えていないから、お前は生きる事を諦められるんだよ」
「サラーマ! いい加減にしなさいよ」
「え? どっちかと言えばブチ切れたお前のフォローだったんだけど?」
「それにしたって、言い方とか言葉遣いとか気遣いとか遠慮とか常識とか」
「イリーズ、こいつ殴っていい?」
「まあ、僕は止めませんけど、ケンカでサラーマがウェンディーに勝てますか?」
「今日のところはこれくらいで勘弁しといてやる」
サラーマはそう言うと、部屋を出て行く。
おそらくあの少女のところに行ったのだろう。
「イリーズ様、サラーマの言った事ですけど、あまり気になさらないで下さい。私も気が動転してしまって」
「いえ。よく言ってくれました。確かに僕は勘違いしていたみたいですね」
どうせ、と言う言葉がイリーズを支配していたのも、今なら自覚出来る。
(何が出来るか、か。この冬が僕にとって大きな転機なんだろうな)
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