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第一章 世界の果てに咲く花
終わりを待つ日々 20
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「何してんだよ」
「あいた」
後ろから後頭部に飛び蹴りを食らって、彼女は前のめりに倒れそうになる。
部屋の手配が終わったのか、サラーマが飛びかかってきたのだ。
「イリーズが来客中だから、邪魔しちゃ悪いかなって思って」
「へえ、そんな気を回せるヤツだったんだな。ちょっと驚いた」
サラーマは本気で驚いている。
悪意に対する対処法であればいくらでも強気に出れるのだが、そうじゃない事に対する経験値が圧倒的に足りていない。
「でも、イリーズの一族が助けたのって大昔なのよね?」
「いやいや、人間と違って亜人ってやたら長生きな奴らも珍しくないだろ? だからイリーズの一族の偉業をリアルタイムで体験した奴らってもの結構残ってるんだ。その分正確に情報が伝わっているから、今でもイリーズは大恩人の子孫って訳で尊敬を集めてるんだ。しかもイリーズはあの通り、謙虚な奴だろ? だからソレを抜きにしても慕われてるんだよ。人気者は大変って事だ」
それは分かる。
イリーズは過去の偉業を果たしたのが先祖であり、自分では何もしていない事をわきまえている。自身に実績が無いイリーズは常に一歩引いている立場ではあるが、王族の責任を理解しているので相談を真正面から受けている。
ただ、分からない事がある。
「イリーズの一族の偉業だけど、その元になった呪いをバラまいた奴はどうしたの? 私が見つけて血祭りにあげてやるわ」
「それは俺の役目だから、お前には譲らねえよ。と、言いたいところだが、その一族を探してるのは俺だけじゃない。亜人の恨みも相当深いから、亜人の連中も探してるらしいぜ。それでも見つかっちゃいないんだがな」
「大昔の話なら、もう死んでるんじゃないの?」
「いや、それはない。効果が残ってるんだから、術者本人か直系が残っている。俺が見つけ出してやる」
「本人ならともかく、いくら直系とはいえその子供には関係無いよね」
「そんな事はわかってるんだけどよ、ただ、どこかにぶつけたいじゃねーか。イリーズだって何の関係も無いだろ?」
サラーマの言葉は感情的だった。
言っている事は分かるし、サラーマがそうでなければ彼女の方が感情的になっていたはずだ。
彼女は自分で言った通り、呪いをバラまいた本人であればともかく、その直系の一族というだけで一方的に嫌われるというのは、収容所と同じくらい理不尽極まる。イリーズ自身がそんな事を望んでいない事も、本人に確認するまでもなく分かる。
が、それでイリーズの身に起きた事に対して目を閉ざし、彼が望む様に全てを飲み込んで丸く収める事など出来ない。
それが憎しみの連鎖をより深めるとしても、彼女は呪いをかけた一族を見つけたら襲いかかるだろう。
彼女がそう考えていた時、突然食堂に手を叩く音が響く。
「皆さん、イリーズ様はお疲れなんですから、ゆっくり休ませてあげて下さい!」
ウェンディーが食堂中に響く声で言うと、イリーズの元に飛んで来る。
イリーズの周りに集まった人物達に、ウェンディーは驚く程テキパキと指示を出していく。その手際の良さは、愛らしい妖精と言うより、仕事の出来る秘書というか立派なキャリアウーマンに見えてくる。
時々収容所に来て所長を手伝っていた事務員の女性が、所長の指示を受けて職員を動かしていた事があったが、その時がちょうどこんな感じだった。
「アイツ、マネージャーか何かだよな」
サラーマの言っている事を彼女が理解できた訳ではないが、なんとなく言いたい事は分かった。
「ふう、ウェンディーありがとう。助かりました」
「イリーズ様、お人好し過ぎです。全てに対応されていると、イリーズ様が疲れてしまいますから」
ウェンディーはあくまでもイリーズが最優先であり、常にイリーズの健康状態を心配している。先ほどイリーズの周りに集まっていた人物を分散させた際には、手際の良さだけではなく強い意思も感じられた。
「イリーズ様、ご迷惑をおかけしました。迷惑料込みで皆さんのオゴリですから、お好きなものを頼んで下さい」
食堂の給仕の少女がそう言うと、周囲の人々も頭を下げている。
それを見てイリーズは苦笑いして、会釈する。
「そんなにたくさんは食べれませんから、オススメでお願いします。皆さんはそれで良いですか?」
「私は詳しく知らないから、お任せします」
「私もイリーズ様にお任せします」
「それじゃ俺は……」
「オススメでお願いしますね」
サラーマが何か言う前に、ウェンディーが注文を締切る。
食べられるだけの注文だったはずが、結局テーブルに運ばれてきたのは、よほどの大食漢ぞろいでないと食べきれないくらいの量が運ばれてきた。
サラーマは頑張る気でいたが、とても食べ切れないと判断したイリーズの好意で、食堂にいた客達も呼んで食事会の形になった。
先ほど会話を区切られらた事もあり、食事をしながらイリーズへの相談会になった。
今度は最初からマネージャーのウェンディーが控えているので、一斉にイリーズに迫って来る事もなく、秩序を持って行動している。
「ねえ、サラーマが天空の騎士って事は、ウェンディーも天空の騎士なの?」
「ああ、そうだったんだけどな。アレを見ると、騎士って言うより敏腕秘書だよなあ」
話に参加出来ない彼女とサラーマは、テーブルの隅でその様子を見ながら話す。
集まってきている亜人達は、彼女の金色の瞳を珍しそうに見ている者もいたが、稀少なはずの彼女もココではその程度の特徴という事だ。
「あいた」
後ろから後頭部に飛び蹴りを食らって、彼女は前のめりに倒れそうになる。
部屋の手配が終わったのか、サラーマが飛びかかってきたのだ。
「イリーズが来客中だから、邪魔しちゃ悪いかなって思って」
「へえ、そんな気を回せるヤツだったんだな。ちょっと驚いた」
サラーマは本気で驚いている。
悪意に対する対処法であればいくらでも強気に出れるのだが、そうじゃない事に対する経験値が圧倒的に足りていない。
「でも、イリーズの一族が助けたのって大昔なのよね?」
「いやいや、人間と違って亜人ってやたら長生きな奴らも珍しくないだろ? だからイリーズの一族の偉業をリアルタイムで体験した奴らってもの結構残ってるんだ。その分正確に情報が伝わっているから、今でもイリーズは大恩人の子孫って訳で尊敬を集めてるんだ。しかもイリーズはあの通り、謙虚な奴だろ? だからソレを抜きにしても慕われてるんだよ。人気者は大変って事だ」
それは分かる。
イリーズは過去の偉業を果たしたのが先祖であり、自分では何もしていない事をわきまえている。自身に実績が無いイリーズは常に一歩引いている立場ではあるが、王族の責任を理解しているので相談を真正面から受けている。
ただ、分からない事がある。
「イリーズの一族の偉業だけど、その元になった呪いをバラまいた奴はどうしたの? 私が見つけて血祭りにあげてやるわ」
「それは俺の役目だから、お前には譲らねえよ。と、言いたいところだが、その一族を探してるのは俺だけじゃない。亜人の恨みも相当深いから、亜人の連中も探してるらしいぜ。それでも見つかっちゃいないんだがな」
「大昔の話なら、もう死んでるんじゃないの?」
「いや、それはない。効果が残ってるんだから、術者本人か直系が残っている。俺が見つけ出してやる」
「本人ならともかく、いくら直系とはいえその子供には関係無いよね」
「そんな事はわかってるんだけどよ、ただ、どこかにぶつけたいじゃねーか。イリーズだって何の関係も無いだろ?」
サラーマの言葉は感情的だった。
言っている事は分かるし、サラーマがそうでなければ彼女の方が感情的になっていたはずだ。
彼女は自分で言った通り、呪いをバラまいた本人であればともかく、その直系の一族というだけで一方的に嫌われるというのは、収容所と同じくらい理不尽極まる。イリーズ自身がそんな事を望んでいない事も、本人に確認するまでもなく分かる。
が、それでイリーズの身に起きた事に対して目を閉ざし、彼が望む様に全てを飲み込んで丸く収める事など出来ない。
それが憎しみの連鎖をより深めるとしても、彼女は呪いをかけた一族を見つけたら襲いかかるだろう。
彼女がそう考えていた時、突然食堂に手を叩く音が響く。
「皆さん、イリーズ様はお疲れなんですから、ゆっくり休ませてあげて下さい!」
ウェンディーが食堂中に響く声で言うと、イリーズの元に飛んで来る。
イリーズの周りに集まった人物達に、ウェンディーは驚く程テキパキと指示を出していく。その手際の良さは、愛らしい妖精と言うより、仕事の出来る秘書というか立派なキャリアウーマンに見えてくる。
時々収容所に来て所長を手伝っていた事務員の女性が、所長の指示を受けて職員を動かしていた事があったが、その時がちょうどこんな感じだった。
「アイツ、マネージャーか何かだよな」
サラーマの言っている事を彼女が理解できた訳ではないが、なんとなく言いたい事は分かった。
「ふう、ウェンディーありがとう。助かりました」
「イリーズ様、お人好し過ぎです。全てに対応されていると、イリーズ様が疲れてしまいますから」
ウェンディーはあくまでもイリーズが最優先であり、常にイリーズの健康状態を心配している。先ほどイリーズの周りに集まっていた人物を分散させた際には、手際の良さだけではなく強い意思も感じられた。
「イリーズ様、ご迷惑をおかけしました。迷惑料込みで皆さんのオゴリですから、お好きなものを頼んで下さい」
食堂の給仕の少女がそう言うと、周囲の人々も頭を下げている。
それを見てイリーズは苦笑いして、会釈する。
「そんなにたくさんは食べれませんから、オススメでお願いします。皆さんはそれで良いですか?」
「私は詳しく知らないから、お任せします」
「私もイリーズ様にお任せします」
「それじゃ俺は……」
「オススメでお願いしますね」
サラーマが何か言う前に、ウェンディーが注文を締切る。
食べられるだけの注文だったはずが、結局テーブルに運ばれてきたのは、よほどの大食漢ぞろいでないと食べきれないくらいの量が運ばれてきた。
サラーマは頑張る気でいたが、とても食べ切れないと判断したイリーズの好意で、食堂にいた客達も呼んで食事会の形になった。
先ほど会話を区切られらた事もあり、食事をしながらイリーズへの相談会になった。
今度は最初からマネージャーのウェンディーが控えているので、一斉にイリーズに迫って来る事もなく、秩序を持って行動している。
「ねえ、サラーマが天空の騎士って事は、ウェンディーも天空の騎士なの?」
「ああ、そうだったんだけどな。アレを見ると、騎士って言うより敏腕秘書だよなあ」
話に参加出来ない彼女とサラーマは、テーブルの隅でその様子を見ながら話す。
集まってきている亜人達は、彼女の金色の瞳を珍しそうに見ている者もいたが、稀少なはずの彼女もココではその程度の特徴という事だ。
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