カーネーション

坂田火魯志

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第五章

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「それはな」
 「嫌だろ」
 「確かに今は乾燥機があって俺は元々部屋干しだよ」
  だからベランダは使わない、洗濯ものを干すには。
  しかしだ、それでもだというのだ。
 「烏に巣なんか作らせるか」
 「じゃあどうするんだよ」
 「烏の嫌がる匂いってあるだろ」
  まずはこれのことを言う。
 「それをベランダに巻いて目玉のな」
 「ああ、田舎で田んぼにあるあれだな」
 「あれを吊るして、鳴りものも置いてな」
 「そうしてか」
 「烏を近寄せないからな」
  そうするというのだ。
 「絶対にな」
 「そうした方がいいな」
  宮城も水守のその言葉に頷いて答えた。
 「ここはな」
 「ああ、それじゃあな」
  こうして今回も早速だった、水守は手を打った。
  ベランダの烏が嫌がる匂いがするスプレーを巻き目玉のビニールを吊るして鳴りものも置いた、そこまですると。
  もうベランダに光りものは置かれなかった。さしもの烏も諦めた。
  それを受けてだ、水守はほっとした顔で携帯で宮城に言った。
 「よかったよ」
 「烏が来なくなってな」
 「都市伝説の話だけれどな」
 「そのカーネーションの話だな」
 「あれな、多分な」
 「烏だったんだな」
 「烏は何処にでもいるからな」
  それこそ街でも田舎でもだ、、烏はそうした鳥である。
 「それこそな」
 「ああ、だからな」
 「ああしたことがあるんだよ」
  そうだというのだ。
 「それがよくわかったよ」
 「悪霊とかじゃなくてよかったな」
 「全くだな、けれどな」
  それでもだというのだ、水守は。
 「世の中悪霊がいるかどうかはわからないけれどな」
 「烏はいるからな」
 「その烏をどうするかの方がな」
 「問題だよな」
 「こうしたこともあるからな」
  だからだ、そうしたことを話してだった。
  水守は宮城にだ、こうも言った。今度は烏だの都市伝説だのいう話ではない。
 「話は終わったしそれじゃあな」
 「ああ、今からか」
 「仕事するからな」
  既に机に座っている、そこで下描きにかかろうとしているところである。
 「またはじめないとな」
 「そうか、じゃあ頑張れよ」
 「ちょっとごたごたしてたからな」
  そのだ、カーネーションからはじまる一連の騒ぎでである。
 「ちょっと遅れてるからな」
 「その分遅れを取り戻さないといけないよな」
 「そうしないとな」
 「気合入れてくさ」
 「頑張れよ」
  宮城はその水守に携帯からエールを送った、そうして彼自身もだというのだ。
 「俺も描くからな」
 「ああ、単行本出るんだよな」
 「そうなんだよ、表紙も描かないといけないしな」
 「そっちも頑張れよ」
 「そうするな」
  二人でこう話してだ、そのうえでだった。
  水守は仕事に戻った、騒動はとりあえず終わってだった。そのうえで描いていくのだった。彼のその絵を。


カーネーション   完


                              2013・12・20 
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