3 / 4
第三章
しおりを挟む
「遂にな」
「戦争は近いか」
「何かあればすぐに起こる」
彼は言った。
「いいか、同志スターリン」
「うむ、同志アターナフ」
ここでお互いの名前を言い合うのだった。
「そろそろ君もこの街を去る時かも知れない」
「そしてペテルブルグでか」
「この街でやるべきことはもう終わったのではないのか?」
「そうだな」
そのスターリンと呼ばれた男はアターナフの言葉に頷いた。
「資金調達も上手くいったしな」
「それについて同志の右に出る男はいないな」
「そうしたことなら任せてくれ」
スターリンはこう言ってにやりと笑ってみせたのだった。まるでそれこそが自分の専門分野だと言わんばかりの笑みであった。
「馬車を狙うのにはコツがあるからな」
「コツがか」
「そうさ。もっともそれを覚えるのは楽じゃない」
言いながらココアを飲む。それを飲みながら言うのであった。
「少しやり方があるんだよ」
「そうなのか」
「そうさ。ところで」
ここで話を変えてきたスターリンだった。
「この店はどれも美味いな。ロシアにいた頃はこんな美味いものを味わったことがなかった」
「そうだな。そういえば君の生まれは」
「ああ、グルジアだ」
そこだというのである。
「このウィーンとは比べ物にならない。貧しい場所さ」
「そうだったな。あそこは特に」
「それが今ではウィーンでこんな美味いものを飲んでいる。人はわからないものだ」
スターリンの言葉はしみじみとしたものになった。
「そして神学校を中退して今は革命家か、私も」
「そうさ、我々は革命家だ」
アターナフもこのことは誇っていた。
「その我々がロシアを革命の聖地とするのだ」
「そうだな。そして世界を共産主義で覆い尽くす」
スターリンも彼に応えた。そうして不敵に笑ってこうも言ったのだった。
「そして私は」
「君は?」
「いや、何でもない」
ここでは己の言葉を引っ込めたのだった。
「何でもない。それでだ」
「行くか」
アターナフは彼に店を出ることを勧めた。
「ウィーンに集まっている同志達との会合の時間だ」
「そうだな。行くとしよう」
その言葉に頷くスターリンだった。そうして彼等は店を出る。そのままウィーンの街を歩くのだった。
ヒトラーとオスカーも同じだった。彼等は今そのチョコレートが美味い店に向かっていた。青いドナウ川が流れるこの街は四角く窓が並列して設けられている白や赤の建物、それに神々の像や金の装飾があちこちにある。しかしヒトラーはその全てにいいものを感じていなかった。その不機嫌で気難しい顔で見ながら言うのであった。
「ベルリンに行きたいものだ」
「ベルリンにかい」
「そしてバイロイトに」
ワーグナーの作品が上演される場所である。彼はそこも口にするのだった。
「行きたいものだ」
「バイロイトにかい」
「ああ、あそこに毎年行ければそれで幸せだ」
それだけでいいというのだった。
「僕は別にお金には興味はないしね」
「そういえば君は無欲だね」
オスカーは彼のその特性を知っていた。
「本は好きだけれど」
「別に必要ないじゃないか。そんなものは心の前には何の意味もない」
こう言うのである。
「芸術の前にはそんなものは何の意味もないさ」
「だからかい」
「そうさ。それでだけれど」
友人に顔を向けてさらに話すヒトラーだった。ウィーンのその石畳の上を歩きながら。
「そろそろその店だったね」
「ああ、そうだね」
「さて、楽しみだね」
チョコレートを前に微笑む彼だった。
「戦争は近いか」
「何かあればすぐに起こる」
彼は言った。
「いいか、同志スターリン」
「うむ、同志アターナフ」
ここでお互いの名前を言い合うのだった。
「そろそろ君もこの街を去る時かも知れない」
「そしてペテルブルグでか」
「この街でやるべきことはもう終わったのではないのか?」
「そうだな」
そのスターリンと呼ばれた男はアターナフの言葉に頷いた。
「資金調達も上手くいったしな」
「それについて同志の右に出る男はいないな」
「そうしたことなら任せてくれ」
スターリンはこう言ってにやりと笑ってみせたのだった。まるでそれこそが自分の専門分野だと言わんばかりの笑みであった。
「馬車を狙うのにはコツがあるからな」
「コツがか」
「そうさ。もっともそれを覚えるのは楽じゃない」
言いながらココアを飲む。それを飲みながら言うのであった。
「少しやり方があるんだよ」
「そうなのか」
「そうさ。ところで」
ここで話を変えてきたスターリンだった。
「この店はどれも美味いな。ロシアにいた頃はこんな美味いものを味わったことがなかった」
「そうだな。そういえば君の生まれは」
「ああ、グルジアだ」
そこだというのである。
「このウィーンとは比べ物にならない。貧しい場所さ」
「そうだったな。あそこは特に」
「それが今ではウィーンでこんな美味いものを飲んでいる。人はわからないものだ」
スターリンの言葉はしみじみとしたものになった。
「そして神学校を中退して今は革命家か、私も」
「そうさ、我々は革命家だ」
アターナフもこのことは誇っていた。
「その我々がロシアを革命の聖地とするのだ」
「そうだな。そして世界を共産主義で覆い尽くす」
スターリンも彼に応えた。そうして不敵に笑ってこうも言ったのだった。
「そして私は」
「君は?」
「いや、何でもない」
ここでは己の言葉を引っ込めたのだった。
「何でもない。それでだ」
「行くか」
アターナフは彼に店を出ることを勧めた。
「ウィーンに集まっている同志達との会合の時間だ」
「そうだな。行くとしよう」
その言葉に頷くスターリンだった。そうして彼等は店を出る。そのままウィーンの街を歩くのだった。
ヒトラーとオスカーも同じだった。彼等は今そのチョコレートが美味い店に向かっていた。青いドナウ川が流れるこの街は四角く窓が並列して設けられている白や赤の建物、それに神々の像や金の装飾があちこちにある。しかしヒトラーはその全てにいいものを感じていなかった。その不機嫌で気難しい顔で見ながら言うのであった。
「ベルリンに行きたいものだ」
「ベルリンにかい」
「そしてバイロイトに」
ワーグナーの作品が上演される場所である。彼はそこも口にするのだった。
「行きたいものだ」
「バイロイトにかい」
「ああ、あそこに毎年行ければそれで幸せだ」
それだけでいいというのだった。
「僕は別にお金には興味はないしね」
「そういえば君は無欲だね」
オスカーは彼のその特性を知っていた。
「本は好きだけれど」
「別に必要ないじゃないか。そんなものは心の前には何の意味もない」
こう言うのである。
「芸術の前にはそんなものは何の意味もないさ」
「だからかい」
「そうさ。それでだけれど」
友人に顔を向けてさらに話すヒトラーだった。ウィーンのその石畳の上を歩きながら。
「そろそろその店だったね」
「ああ、そうだね」
「さて、楽しみだね」
チョコレートを前に微笑む彼だった。
0
あなたにおすすめの小説
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
九州のイチモツ 立花宗茂
三井 寿
歴史・時代
豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。
義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。
下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。
大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。
女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。
だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。
その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。
島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。
その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる