ジャガイモ

坂田火魯志

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第二章

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 「ジャガイモはパンと同じだよ」
 「こうして沢山食べるものよ」
 「日本じゃ違うらしいけれど」
 「ううん、そうなんだ」
 「だからいつも出て来るんだ」
  二人もその話を聞いて述べた。
 「朝も昼も晩も」
 「こうして」
 「美味しいよね」
 「色々な料理にも使えるし」
 「そうそう」
  そんな話をしながらだった。ドイツの子供達は笑顔でジャガイモを食べていく。それは幸一と幸二にとっては信じられないことだった。
  そして勿論家に帰ってもである。アイスバインに野菜スープはあった。そしてパンも。しかしまたしてもジャガイモがあるのであった。
 「まただし」
 「本当に朝昼晩って」
 「だから。ドイツなのよ」
  母親はまた少し怒った顔で子供達に言う。
 「だったら当然じゃない」
 「ううん、もう飽きたよ」
 「ジャガイモばかりさ」
 「お米じゃないし」
 「サツマイモはないの?」
 「ある訳ないじゃない」
  サツマイモについてはまさに即答だった。
 「ここはドイツよ」
 「だからないの?」
 「サツマイモは」
 「ドイツはジャガイモ」
  母はこのことを殊更強調して言ってきた。
 「サツマイモはないの」
 「何か寂しいよね」
 「そうだよね」
  幸一と幸二は母の言葉を聞いて残念な顔になっていた。
 「サツマイモ美味しいのに」
 「それがないなんて」
 「だからないから」
  それをまた言う母だった。
 「折角ドイツ語がわかるのにドイツに馴染みなさい」
 「けれど。ジャガイモばかりだから」
 「それが」
 「とにかく食べなさい」
  今度は一も二もない言葉だった。
 「わかったわね」
 「はい、じゃあ」
 「食べるから」
  二人は不平を感じながらもそのジャガイモを食べるのだった。とにかくドイツはジャガイモだった。それと肉とキャベツであった。
 「昨日はアイスバインで今日はステーキ?」
 「物凄いね、これって」
  幸一と幸二は夕食を前にして驚いていた。
 「今日の給食もソーセージ山盛りで物凄い量のキャベツで」
 「それでまたジャガイモだったけれど」
 「バイエルンだからなあ」
  今日の夕食は父も一緒だった。眼鏡をかけて黒い髪をオールバックにしている。何処か銀行員めいた知的な趣の外見である。
 「やっぱりそれも当然だろ」
 「お肉。すごい量よね」
  母もそれを言う。
 「ほら、あのシュバインスハクセ」
 「ああ、あれか」
  父は妻のその言葉に頷いて応える。
 「あれも凄いよな」
 「殆ど漫画のお肉だったじゃない」
 「そうだよな。最初見た時本気でそう思ったよ」
 「本当にね」
 「ああ、それにな」
  彼の言葉は続く。
 「肉団子のスープだってな」
 「ハンバーグの大きなものが中に入ってるみたいなね」
 「本当に凄いよな、ここは」
 「それにビールも」
  やはりこれは欠かせない。ドイツといえばビールである。
 「皆凄い飲むよな」
 「朝から飲んでるし」 
  母は言いながら首を傾げさせていた。そのうえでの言葉だった。
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