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第一章
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旗袍
張民徳は天津の街で野菜や果物を売っている店の跡継ぎだ、それで店の手伝いに余念がない。明るい顔立ちで背の高い青年だ。
その彼にだ、店の客の一人が林檎を買う時にこう言って来た。
「なあ、そろそろな」
「ああ、祭りだよな」
民徳は客にすぐに返した。
「旧正月の」
「そうだよ、御前さんその時祭りに出るよな」
「出ろって言われてるんだよ」
民徳は笑って客にまた言葉を返した。
「これがな」
「そこでか」
「ああ、芙蓉の相手をしろってな」
「あの娘のか」
「あいつがどうしても祭りに行きたいって言って聞かないんだよ」
「妹さんがなんだな」
「それでなんだよ」
民徳はここで苦笑いになって客に言った。
「俺もな」
「付き合いでか」
「いや、護衛だよ」
その役目で、というのだ。
「行けって言われてるんだよ」
「そうか、難儀な話だな」
「難儀だよ、本当に」
民徳は客にその苦笑いで言うのだった。
「祭りに行くことは好きだけれどな」
「ボディーガードはか」
「身体が大きいからいいだろってな」
「親父さんとお袋さんに言われてな」
「それでだからな」
客から代金を受け取りつつの言葉だ。
「正直何でだよって思ってるさ」
「まあそれもな」
「仕方ないな」
「それも兄貴の務めだろ」
「やれやれだな。しかもな」
「しかも?」
「何かあいつ祭りで服買いたいらしくて小遣い貯めて働いてもいてな」
それで、というのだ。
「そこで服を買いたいって言って聞かないんだよ」
「服?」
「ああ、服だよ」
「外国の服かい?」
「さてな、とにかくな」
「祭りで服を買ってか」
「楽しみたいって言ってるんだよ」
客にこのことも話したのだった。
「何か知らないけれどな」
「芙蓉ちゃんも十八歳だしな」
「色々と色気付く年頃だっていうんだな」
「凄く可愛くなったしな」
「おいおい、あんたかみさんいるだろ」
このことはだ、民徳は客に笑って言った。
「それで芙蓉も、はないだろ」
「ははは、冗談さ」
「だといいがな」
「まあとにかく旧正月の祭りはか」
「ああ、俺も行くさ」
遊びではなく妹の警護役でというのだ、こう話してだった。
彼は実際に旧正月に妹のボディーガードとして出た、芙蓉は小柄で黒く大きな琥珀の様な目を持つ少女だ。黒髪を長く伸ばしている。
その妹を見てだ、民徳はこう言った。
「何かな」
「何かって?」
「御前もひょっとしたらな」
言うのはこうしたことだった。
「アイドルになれるかもな」
「本当のこと言っても何もないわよ」
「そこでそう言うのかよ」
「ええ、そうよ」
平然としてだ、芙蓉は兄に返した。
「もっとも私はアイドルには興味ないけれどね」
「なるつもりはなくてもか」
「負けてないから」
そのアイドルにも、というのだ。
「全くね」
「言うな」
「ええ、言うわよ」
芙蓉は胸を張って言った。
張民徳は天津の街で野菜や果物を売っている店の跡継ぎだ、それで店の手伝いに余念がない。明るい顔立ちで背の高い青年だ。
その彼にだ、店の客の一人が林檎を買う時にこう言って来た。
「なあ、そろそろな」
「ああ、祭りだよな」
民徳は客にすぐに返した。
「旧正月の」
「そうだよ、御前さんその時祭りに出るよな」
「出ろって言われてるんだよ」
民徳は笑って客にまた言葉を返した。
「これがな」
「そこでか」
「ああ、芙蓉の相手をしろってな」
「あの娘のか」
「あいつがどうしても祭りに行きたいって言って聞かないんだよ」
「妹さんがなんだな」
「それでなんだよ」
民徳はここで苦笑いになって客に言った。
「俺もな」
「付き合いでか」
「いや、護衛だよ」
その役目で、というのだ。
「行けって言われてるんだよ」
「そうか、難儀な話だな」
「難儀だよ、本当に」
民徳は客にその苦笑いで言うのだった。
「祭りに行くことは好きだけれどな」
「ボディーガードはか」
「身体が大きいからいいだろってな」
「親父さんとお袋さんに言われてな」
「それでだからな」
客から代金を受け取りつつの言葉だ。
「正直何でだよって思ってるさ」
「まあそれもな」
「仕方ないな」
「それも兄貴の務めだろ」
「やれやれだな。しかもな」
「しかも?」
「何かあいつ祭りで服買いたいらしくて小遣い貯めて働いてもいてな」
それで、というのだ。
「そこで服を買いたいって言って聞かないんだよ」
「服?」
「ああ、服だよ」
「外国の服かい?」
「さてな、とにかくな」
「祭りで服を買ってか」
「楽しみたいって言ってるんだよ」
客にこのことも話したのだった。
「何か知らないけれどな」
「芙蓉ちゃんも十八歳だしな」
「色々と色気付く年頃だっていうんだな」
「凄く可愛くなったしな」
「おいおい、あんたかみさんいるだろ」
このことはだ、民徳は客に笑って言った。
「それで芙蓉も、はないだろ」
「ははは、冗談さ」
「だといいがな」
「まあとにかく旧正月の祭りはか」
「ああ、俺も行くさ」
遊びではなく妹の警護役でというのだ、こう話してだった。
彼は実際に旧正月に妹のボディーガードとして出た、芙蓉は小柄で黒く大きな琥珀の様な目を持つ少女だ。黒髪を長く伸ばしている。
その妹を見てだ、民徳はこう言った。
「何かな」
「何かって?」
「御前もひょっとしたらな」
言うのはこうしたことだった。
「アイドルになれるかもな」
「本当のこと言っても何もないわよ」
「そこでそう言うのかよ」
「ええ、そうよ」
平然としてだ、芙蓉は兄に返した。
「もっとも私はアイドルには興味ないけれどね」
「なるつもりはなくてもか」
「負けてないから」
そのアイドルにも、というのだ。
「全くね」
「言うな」
「ええ、言うわよ」
芙蓉は胸を張って言った。
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