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【専属騎士はヤリチン坊っちゃんに抱かれたい】
【専属騎士はヤリチン坊っちゃんに抱かれたい】上
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〈あらすじ〉ヤリチン坊っちゃんに抱かれたい一途な騎士の話
▽▼▽▼▽
貴族の三男である、ダレス・フロートは毎日、女遊びに明け暮れていた。フロート家の後継ぎである長男でもなく、その右腕となる優秀な次男でもないダレスは恋愛ごとに自由であった。故に家を継ぐことや令嬢との政略結婚など、フロート家に関する重責のないダレスは母に溺愛されながら人懐っこく気ままに育った。
そんなお坊ちゃんに愛想を尽かすものは多く。ダレスのいたずらや不真面目な態度、不埒でふしだらな生活に今や従者ですら彼から離れた。父は飽きれ、ダレスに別宅を与えると隠すようにそこへ押し込んだ。しかし、別宅を持ったダレスは更に自由奔放になってしまった。
この別宅に来るのは、何人かの(ダレス好みの)メイドかお友だち、もしくはダレスを溺愛する母ヘレン、そして護身だけでなく身の回りの世話まで担っている専属騎士のウルソンくらいだ。
「ふふ、きゃっ!もぉ~、ダレス様ったら! 私のスカートを返してくださいましっ」
下着だけを身に付けたメイドがスカートを掴み高く持ち上げたダレスに言う。この別宅には、ダレスの専属騎士であるウルソン以外に男はいない。
「なんだ、いいだろう? 君たちは僕のメイドなんだよ。これも全部、僕のものだ。」
「まあ! なんて傲慢なんですの、ダレス様っ…!」
うっとりと、もう一人のメイドがダレスを見ながら言う。少し長めの前髪が彼の自由さを表している、目鼻立ちの整った顔立ちに、艶のある美しい金髪。一目見れば、貴族だとわかる優雅さがある。
「だって、君たちは僕のものだろう?」
きゃ~! と楽しげでわざとらしい悲鳴がダレスの部屋の扉から漏れ聞こえる。聞こえてくるそんな声に、専属騎士であるウルソンは羨ましさを感じながら、汚れてしまったであろうシーツの替えや、湯浴びの準備をしていた。
騎士らしく、引き締まった筋肉質な体に短く切り揃えられた黒髪の大男が羨ましさを感じているのは、“貴族で遊び人のダレス” ではない。これからダレスに抱かれるのであろう、女たちの方だ。こんな男に惚れるなんて、馬鹿だと世間は言うかもしれない。
すーはー、と深呼吸をして部屋の扉をノックする。楽しげなお坊ちゃまやメイドの女性たちがいるなかに入り込むのは、いつも緊張する。坊ちゃま…、何よりも女性たちの機嫌を損ねるのが怖い。コンコンコンと数回ノックをする。
「お坊ちゃま、失礼いたします」
「ああ、ウルソンか。入っていいよ。」
ダレスの了承を得た専属騎士は、重たい扉を引き開ける。ベッドの上で半裸になる女たちとダレスを見ないように視線を伏せ、膝を付く。
「いいって、ウルソン。いつも言ってるだろう? 僕には、そんなことしなくて良いんだよ。」
「いえ…、私は騎士として、ダレス様に仕える身ですので」
「相変わらず、真面目だね。まぁ、そこがウルソンの良い所だけど。」
ダレス様は、いつも俺を甘やかそうとする…。
頑固で馬鹿真面目な専属騎士にダレスは、やれやれと苦笑いをした。今だって、女の裸を見ないように視線を落としている。短すぎる黒髪、モテそうな顔してるんだから伸ばせば良いのに、とダレスは思う。
「それで、最中に君が部屋に来るなんて珍しいね、どうしたのかな。もしかして、一緒に遊びたくなった?」
坊っちゃんはウルソンを少しからかった。そんなダレスに専属騎士はため息を吐くこともなく、受け答えをする。
「いえ。ヘレン奥様がこちらに御出向きになるようなので、ご準備をとのご報告に参りました。」
「母上が!! 久しぶりだ、君たち今すぐ準備をしてくれ。君、この間買ってきてくれた、あの美味しい苺のケーキをまたお願いしたい!母上は苺がお好きだからね」
母ヘレンがダレスを溺愛するように、ダレスもまた母が大好きだ。今の今まで行っていた不埒な行為の影はどこへやら…、ダレスは無邪気な笑顔で母を招く準備をはじめた。
母ヘレンの突然の来訪に別宅は慌ただしく動いていた。白の上に黄金で縁取られた家紋が描かれた美しい馬車が止まる。別宅はフロート家の敷地内にあるので、馬車で来るほど遠くはないが歩いてくるには少し難儀だ。ウルソンはヘレンを出迎えるため、別宅の外に出る。馬車から金髪の揺蕩うご婦人が従者の掌を手摺にゆっくりと降りてきた。
「いらっしゃいませ、ヘレン奥様。」
「まあ! ウルソン、相変わらず男らしくて素敵ね。」
「ありがとうございます。」
ドタドタと走る音と扉の開く大きな音が後ろから近付いてくる。振り返れば、満面の笑みを浮かべた青年が息を切らしていた。
「母上!!」
「ダレス!」
大きく両腕を広げた母ヘレンの胸の中にダレスは飛び込むように抱きついた。まるで、何年も会っていないような感動の再会だが、この母子は一週間前にも二人でお茶を楽しんでいる。いつもは毎日のように会っていたが、遠い親戚の喪中でヘレンは少し長く出掛けていただけだ。いくつになっても若く美しい母ヘレンと好青年の息子ダレスが抱き合う姿は、はたから見れば恋人のよう。別宅の中に入った。二人はお茶を楽しむ。
「素敵な苺ケーキね・・・! 美味しいわ。」
「母上に食べて頂きたくて、メイドに頼んだのです。間に合って良かった!」
君、ありがとう!とダレスは一人のメイドに微笑んだ。あんなものを真っ直ぐと向けられたら、誰だってクラッとしてしまう。ウルソンは またメイドに「良いな・・・。」と羨ましく思う。
「ダレスも、もうすぐ成人ね。」
「ええ。母上。」
「今日で長期休暇も終わって、また会う時間が減ってしまうのが寂しいわ・・・。」
「僕も寂しいです、母上。」
「学園生活、頑張りすぎないでね。」
「ええ。ありがとうございます。」
母子のお茶会は長く続いた、夕暮れが近づいた頃、仕方なさそうに二人は解散することとなった。
帰り際、ウルソンはヘレンに呼び止められた。「明日から学園で大変でしょう」と珍しくダレスを部屋に返したヘレンは専属騎士に馬車までの道のりを小声で話しかける。
「貴方がダレスの側に居てくれて、とても感謝しているの。」
「・・・ヘレン奥様。」
自分の忠誠が下心の元にあることにウルソンは罪悪感を感じる。
「あの子は三男だからってのもあって、誰にも求められていないと勝手に思っているの。小さい頃から周りの期待が大きすぎたのね。人一倍努力をしてきたけれど、それでもやっぱり年の離れた兄達には届かなかった。14歳を過ぎた頃からかしら、あの子はひどく寂しがりになってしまった。私がもっと愛を伝えられたら良かったの。」
ヘレンは上りかけている月を見上げ、ウルソンに胸のうちを明かした。ヘレンがダレスに頻繁に会いに来るのも、女遊びを許すのも、ただ溺愛しているというだけではなかった。彼の孤独をなんとか埋めようとする、彼女の母としての真っ直ぐな愛情。
「だからね、どうかあの子の側にいて。女遊びは激しいし、ウルソンを困らせることもこれからたくさんあるでしょうけれど・・・。あの子には、貴方がきっと必要なの。」
ヘレンは不安げに、そして懇願するようにウルソンの手を握った。込められた力に感じたのは、柔らかな母の手だった。
最近、自分の恋心に苦しくなっていた。彼に抱かれる女の子を見る度、声を聞くたび、強く深く嫉妬した。自分の醜い感情にも耐えられなくなってきて、こんな気持ちで仕え続けて良いのかと悩んでいた。それが彼女には、バレてしまっていたのだろうか。母とは凄いものだ。
「ヘレン奥様・・・、ありがとうございます。私は、お坊ちゃまに一生仕えて参ります。この命、ダレス・フロート様のために。」
ウルソンは地に膝を付き、忠誠を誓う姿勢を見せた。それに、ヘレンは手を差し出すと、ふわりと笑った。
「ありがとう。貴方も私の愛しい息子よ。貴方とダレスは兄弟みたいなものだもの! 時々は本気で叱ってちょうだいね。」
ヘレンの言葉にウルソンは目頭が熱くなるのを感じた。
ヘレンを見送り、別宅に戻ると主は不機嫌そうに腕を組んでいた。そこまでの威圧感は感じない・・・、大方、拗ねているのだろう。
「母上と何を話してたんだ」
子どもように口先を尖らせるダレス様が可愛い。思わず頬が緩まるのを必死に耐える。
「とくに何も。ただ、お坊ちゃまが心配なのでしっかりと護衛するようにと仰られました。成人の儀もございますし、疲れさせないようにと」
心配をしているのは本当だ、嘘は言っていない。そう伝えると、ダレスはまたご機嫌になりメイド達と遊びはじめた。ウルソンは空気のごとく気配を消し、主の部屋から出た。
∇
学園がはじまり、すぐに試験が待っていたダレスは忙しくしていた。やっと落ち着き、坊ちゃんの大好きな、毎週のうち2日ある休日がやってきた。ウルソンにとって最も苦痛な2日間。
今日は、どんなご令嬢を連れてくるのだろう・・・。
ウルソンはいつものようにチクチクと痛む胸に気が付かない振りをする。そうして、専属騎士は健気に主の閨事の準備をするのだった。
ふと、主の部屋にある大きな鏡を見た。ダレスは、この鏡を夜遊びの玩具にしている。その鏡に映るのは、どこからどうみても男。それに、屈強な胸板や鍛えられた太い脚と腕は雄らしさを強めている。戦いの邪魔になる髪は短く雑に整えられ、女性のように柔らかい髪や胸もなければ、甘い香の匂いのかわりに汗の匂いが滲む。自分の大きな掌に、非道くうんざりした。
女性になりたい訳じゃない・・・。
ただ、“女だったら”と思うだけだ。
女性だったら、例え美しくなくとも泣いてすがれば、優しいダレス様は抱いてくれたかもしれない。
今夜、ダレスに抱かれる女のために用意した果実の側には装飾の美しいナイフが置いてある。ウルソンは、なんとなく、それを手に取った。この大きな背も膝を削げば小さくなるだろうか、この大きすぎる手や足も削げば小さくなるだろうか。ナイフを指先に宛てると、赤い液体が指の根本まで伝った。不思議と痛みを感じない。思わず、“小さくなれ”と胸の中で呟いた。
「おい、何をやってる。ウルソン」
突然、右手首を強く捕まれナイフを奪われた。
「お、お坊ちゃま。お帰りなさいませ・・・。気が付かず、申し訳ありません。」
ギリギリと捕まれた右腕が痛む。頭の中にある無邪気なダレスは見えない、瞳に強い怒りが浮かんでいる。ナイフの傷がいつの間にかドクドクと痛みだす。
こんなにも強い力を・・・、いつのまに。
「何故、指にナイフを当てている。自傷など・・・、許さないぞ。」
まさか、見つかるなんて思わなかった。本気で怒るダレスをウルソンは、はじめて見た。それなのに、ウルソンの胸は高鳴っていた。捕まれた腕からドクドクと熱が走る。彼が自分のために怒ってくれている、そんなことがどうしようもなく嬉しい。顔や耳までもが熱くなるのを感じ、ウルソンは捕まれている腕をぐいっと引いた。騎士である自分の力は強く、主の掴む手は簡単に外れる。それが、また哀しみを煽った。
「自傷などではありません・・・、虫に噛まれたのです。毒が回ったらいけないので、少し出しただけです。ご心配をお掛けして申し訳ありません。」
咄嗟に嘘を吐いた。ウルソンは、捕まれた手首を無意識に撫でる。まだジンとする感覚にどうしようもない悦びが胸に広がって、爪を立てた。
「毒虫に噛まれた?! 大丈夫なのか?早く、医務室に行こう。君に何かあったら大変だ。」
ダレスは、焦るようにウルソンの腕を今度はやさしく掴み、医務室へと連れ出そうとする。ウルソンは慌てて、坊ちゃんを引き留め、自分の腕から手をそっと離させた。
「処置は致しました。私は男ですし、騎士ですから、傷が付くくらいなんともありません。」
自分で言っておいて、落ち込む。
主の心配に喜んでいたウルソンは、ハッとした。そうだ、今日は来客がある日なのだ。ダレスが帰ってきたと言うことは、“今夜のご友人”も来ていると言うこと。
「お坊ちゃま、ご友人の方は?」
姿勢をただし、問いかける。
「ああ、今日は・・・。どうか、驚かないでくれ。」
「・・・?」
ダレスは少し気まずそうな表情をする。良く見れば、坊ちゃんの背後に小さな人影がある。明るい黄土色の猫ッ毛がふわりと揺れた。
小さな影は、背後から恐る恐る現れた。
「こ、こんにちは・・・。」
一目見たウルソンは、目を見開いた。自分の中でぐるぐると何かが巡る。心臓がドクドクと過剰に血液を回す、手が小さく震えるのがわかる。何かが崩れる感覚がした。
「彼は、ルーア。トリンドル家のご子息、一番下の末っ子だ。」
胸が酷く痛い、苦しい。
主が今夜のご友人として連れてきたのは、ルーア・トリンドル。明るめの色をした、やわらかそうなの猫ッ毛。細く小さな華奢な身体。まるで少女のような可愛らしい容姿をした、庇護欲をそそる少年。
小さくて・・・、可憐な少年・・・。
「・・・ソン、・・・ウルソン!」
主に呼ばれ、意識がやっと目の前の現状に戻ってくる。
「大丈夫か?ウルソン・・・、君なら分かってくれると、思ったのだけど。」
俺なら分かってくれる・・・?
なんだよそれ。
なんで、寄りによって“男”を連れてくるんですか。女性なら、どうしようもないけど・・・。それに、こんな、俺とは正反対の華奢で可愛らしい少年なんて・・・。
お坊ちゃまは、ダレス様は、彼を恋人にするのですか?
そんなの、あんまりだ・・・。
口が裂けても言えないことを胸の中で叫ぶ。今は、ここから一刻も早く立ち去りたい。そんな一心でウルソンは、できるだけいつもと変わらないよう・・・、震える手や声を必死に抑えた。
「私は、お坊ちゃまに仕える専属騎士です・・・。全ては、お坊ちゃまのお望み通りに。・・・・・・いつだって、お坊ちゃまを、応援しております。」
ダレスの表情に安堵が広がる。そっと、肩に何度かポンポンと優しく置かれた手にウルソンの身体はビクリと跳ねた。
「私は準備を致します。どうぞ、ごゆっくりしてください。失礼いたします。」
早口に言って、ウルソンはダレスの部屋を後にした。それからとにかく、走った。走って走って、そのうちに涙が溢れてくる。止まらない涙、ウルソンは湯浴び場に来ると嗚咽した。彼らの閨事の後のために、急いで準備をしなければならない。それなのに、胸が苦しくて仕方がない。今までできていた呼吸をあっという間に忘れてしまった。着替えの服やシーツが涙に濡れていく。
「・・・ぅっ・・・・・・ぅう、ダレス・・・さま。なぜっ・・・。なぜなのですか・・・っ。」
まだ仕事は残っているというのに、こんなに泣いては目が腫れてしまう。騎士であるのに、強くあらねばならないのに、守らねばならないのに。
「奥様・・・、辛いです。奥様・・・、俺は・・・、お坊ちゃまのお側に仕えることが・・・・辛いです。だって、俺、ダレス様のことが・・・。」
まるで天に告げるように一人、しゃがみこんで、胸の苦しみを告白する。けれど、あの優しい奥様の為にも。自分は、ウルソンの元に仕え続けなければならない。ああ、そうだ・・・・・。もしも、ルーア様とダレス様が本当に恋人として幸せになった時・・・、その時に仕えることを辞めよう。ルーアがダレス様の心の支えになったら、自分は必要のない人間だ。主の孤独もきっと埋まるはずだろう。そう決めてしまえば、ウルソンの少し心は落ち着いた。
「あっ・・・ぁあん! ・・・ダレスっ、さまっ!」
ダレスの部屋の扉から、ルーアの喘ぎ声が漏れ聞こえる。耳を覆っても、ルーアの高い声はウルソンの鼓膜を揺らした。
「ルーア...、ルーアっ、くっ、」
「...ひんっ...ぁう...!」
二人の閨事が夜の内に終わることはなかった。それは朝方まで続き、扉の前で終わるのを待つウルソンを苦しめた。けれど、ウルソンは、眠ることなく待ち続けた。・・・否、眠ることができなかったのだ。
声が止み、寝息が聞こえはじめた頃を見計らってウルソンはいつものように部屋に入った。ベッドの側のサイドテーブルにぬるま湯と布を置く。まだ眠るであろう主達の為に斜光カーテンを閉めて小さなランプを点ける。美少年の汗に濡れた穏やかな眠り顔。「ああ、彼になりたい」と羨んでしまう。一晩だけで良いから・・・。
「・・・ウルソン、ありがとう。いつも、ごめんね。」
薄暗さの中、ダレスが目を覚まし、声を掛けてきた。大丈夫だ、きっと自分の泣き腫らした顔など、この暗闇では、見えない。
「いえ。お坊ちゃんの世話を焼くのが、私の喜びなのです。」
本当にそうだった。
しかし、今は・・・分からなくなってしまった。
昼過ぎにルーアは帰って行った。その日から、ルーアは何度も別宅にやってきた。ダレスはルーア以外の美少年も抱くようになっていった。愛されたがりのダレスは、誰か一人に決められないようだ。遊び相手は女から美少年に変化した。ルーアは会うといつも「恋人にして」とダレスに言っていたが、ダレスはその度に「ごめんね」と謝るばかり。そのうち、しつこくなったルーアが面倒になったのか、ダレスはルーアを別宅に誘わなくなった。けれど、人が変わるだけで、美少年遊びは止まない。
あわよくば・・・、自分も抱いてくれないだろうか。
そんなことを考えても、ダレスの連れてくる男達は、いつだって華奢で可愛らしい者ばかり。もう、彼を想うのをやめてしまいたい。淡い期待を抱くことは自分を苦しめるだけなのだから。
月日は目まぐるしく流れ、ダレスの成人の儀が行われることとなった。この国では19歳が成人だ。
今夜の主役であるダレスの周りには可愛らしい美少年たちが群がっていた。性に奔放すぎる三男、ダレスは曲がりなりにも貴族だ。成人の儀は派手に行われる、そのため多くの人が集まった。中には、かつてダレスに抱かれていた女達も多い。
「今夜は息子、ダレスの成人の儀にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
ダレスの父、ロルダンが乾杯をする。ダレスの兄二人も成人の儀に駆け付けた。成人の儀は、社交とお見合いを兼ね備えている。裕福な商人は、たとえ三男であろうとも貴族であるダレスに娘を嫁がせたい。ダレスのかつての“お友だち”である女達も成人になった彼との結婚を目論む。そんな私利私欲溢れる一夜。皆がダレスに襲いかかる獣のようだ。
「ダレス様ぁ、私、ずっとダレス様をお慕いしておりましたのよ・・・?」
たわわな胸を青年の腕に擦り付けながら、一人の女が言う。彼女はダレスのお友だちだった者だろう。
「そうか、ありがとう。」
ダレスは彼女の肩をそっと掴み身体を離すと微笑んだ。
「キャッ・・・ご、ごめんなさいっ。」
今度は、わざとらしく転んだ女がダレスに抱きつく。ダレスは思わず、彼女を支えたがまたもすぐに離した。女性たちの燃え上がる競争心や火の粉が恐ろしい・・・。けれど、ダレスはもう女などには飽きている。優しさはあるが、そっと突き放す様子に周囲は噂が本当であることを認識する。
ふらふらと一人の美しい少年がダレスの側で、へたりと座り込んだ。うるうるとした瞳でダレスを見上げる。その姿に男には興味のなかったはずの男達までもが、ごくりと生唾を飲み込んだ。この国では男色がタブーと言うわけではない。
「あ・・・ダレスさまっ、なんだか酔っちゃったみたいなんです。」
明らかに噓であろう甘えた声。美少年にダレスは優しく手を差しだし、腰に手を回し立ち上がらせると目を細めた。
「そうか、ならば僕の部屋を使うと良い。ウルソン!」
不意に名を呼ばれ、ウルソンは「はい、お坊ちゃま。」と答える。主の側には美少年。ああ・・・貴方は今夜、その少年を選んだのですね、と心の中呟く。
「彼を僕の部屋へ。」
「承知いたしました。」
痛む胸を押し殺し、平然とした態度で頭を下げる。もう幾度となく、ダレスが少年達を抱くのを見ているし、優しい口づけをするのも、甘い言葉を掛けるのも見てきた。きっといつか慣れるはずだ・・・。そう思いながら、もう半年は経っている。相手が男に変わってから、恋心という名の毒は心を蝕むばかり。
部屋に送り届けた少年は、色仕掛けが上手くいったことを喜んでいた。果実を用意するとご機嫌に頬張り「湯浴びの準備をしてくれ。」とウルソンに命令する。ウルソンは言われた通りに湯浴みの準備をした。
その後も何人かの少年をダレスは選び、部屋へと招いた。思い返せば、ダレスが一対一で抱き合ったのはルーアくらいだ。いつも、3人以上に自分の相手をさせている。もちろん喧嘩にもなったし、揉め事も絶えなかったがダレスがそれを嫌うので、彼の前では皆穏やかだ。
準備を終えたウルソンは、まだ続くであろう成人の儀のパーティーに戻る。いつの間にかダレスの相手は、女や美少年から大人に変わっていた。
この恋心を俺は一体いつまで、押し込めていられるだろうか。
トントン、と肩を叩かれ振り返ると金髪の貴婦人が申し訳なさそうにこちらを見ていた。その女性にダレスの専属騎士は頭を下げる。
「これは、ヘレン奥様。どうかなさいましたか?」
「ごめんなさいね・・・、ウルソン。いつも貴方にダレスの閨事の準備までさせてしまって・・・・・・。」
そう言うとヘレンはウルソンの手を握った。彼女の優しい手が好きだ、伝わる温もりにいつも心が暖まる。
「いえ、お坊ちゃまの為ですから」
ヘレンは眉を下げた。けれど、すぐに笑顔になるとパッと手を離す。パンパンと音を鳴らし、自分の従者を呼ぶと「用意したものをお願い」と言う。何だろうと不思議に思っていると、大きなリボンの付いた箱を渡された。ダレス様へのプレゼントだろうか、と考える。しかし、ヘレンは首を横に振った。
「ふふ、ダレスのじゃないわ。これはウルソン、貴方へのプレゼントよ。いつもありがとう」
そう言われ、差し出された箱を受け取る。自分へのプレゼント・・・、奥様から。ウルソンは嬉しさに溢れる涙を我慢できなくなった。
この人の愛情が、俺を支えてくれる。
ウルソンの母は彼が小さい時に他界した。それからすぐ、騎士団に入れられたウルソンは、その腕前を見込まれ、ダレスの専属騎士に。騎士団で育ち母を亡くしたウルソンにとってヘレンは本当の母親のような存在だ。
「ありがとう・・・、ございます」
ウルソンのプレゼントを喜ぶ姿にヘレンは安堵し、同時に嬉しくなった。
「さあ、開けてみて。」
ヘレンにそう言われ、プレゼントの紐を解く。丁寧に包み紙を剥ぎ、箱を開ける。中には、パーティー用の光沢のある黒いタキシードが入っていた。それと真新しいシャツ、それから蝶ネクタイとハンカチ・・・、どれも一級品だろう。
「本当に、私が頂いて良いのですか?」
恐る恐る、問いかける。こんなに高そうな礼服を自分が着て良いものなのか。
「貴方の身体に合わせて仕立てさせたの。ウルソン、貴方は真面目すぎる。だから、今日だけは専属騎士のお仕事はお休みよ。大丈夫、ダレスには言ってあるわ。早く着替えてらっしゃい!」
そうヘレンが言った途端にウルソンを複数人のメイドが囲んだ。あれよあれよと、別室に連れて行かれ、あっという間に着替えさせられた。自分の身体にぴったりすぎるタキシードに驚く。生地やサイズが身体に合い、心地が良い。
「では、ウルソン様。どうぞお楽しみ下さいまし。」
一人のメイドがウルソンを送り出す、手元には招待状が持たされていた。再度、会場に入り招待状を差し出した。「ようこそ、いらっしゃいました。」と言われ頭を下げられる。なんだか変な気分だ。今夜だけは客人。ダレスの専属騎士ではない。フロート家のパーティーに呼ばれた客人。
「ウルソンさん」
後ろから聞こえる声に肩を震わせる。
「お坊ちゃま・・・。」
そう呼ぶと、ダレスは残念そうな顔をする。
「今夜は招かれた客人でしょう。“お坊ちゃま”じゃなくて、名前で呼んでよ。それに敬語も無しだよ! ウルソンさんの方が年上なんだし、ね?」
仕える者と主の距離がなければ・・・、俺は困ってしまう。その距離が実際、自分を守ってきた。けれど、そんな風に言われてしまえば従わずにはいられない。
「だ、ダレス様・・・?」
そう呼ぶと、ダレスはわざとらしく、口を尖らせる。首をふるふると横に振り、腕を組む。もはや、これは命令のようなものだ。
「だ、ダレスくん・・・!こ、これで勘弁して・・・、くれ、よ。」
慣れない、まるで友人のような呼び掛け方。なんだか恥ずかしくなって耳が熱くなる。それを隠そうとウルソンは顔を背けた。
「ふふっ。ウルソンさん、タキシード似合ってるね。」
ぶわわわっ、と体感温度が上昇する。この恐ろしい色男は、さらっとそんなことを言ってしまうのだ。
ウルソンは小さく、ありがとう・・・、と呟いた。
それからすぐ、ダレスはまた大人達に呼ばれ、名残惜しそうにウルソンから離れて行った。ウルソンは、赤く染まっているであろう頬を冷まそうと、ウェイターに水を貰って一気に飲んだ。
▽▼▽▼▽
貴族の三男である、ダレス・フロートは毎日、女遊びに明け暮れていた。フロート家の後継ぎである長男でもなく、その右腕となる優秀な次男でもないダレスは恋愛ごとに自由であった。故に家を継ぐことや令嬢との政略結婚など、フロート家に関する重責のないダレスは母に溺愛されながら人懐っこく気ままに育った。
そんなお坊ちゃんに愛想を尽かすものは多く。ダレスのいたずらや不真面目な態度、不埒でふしだらな生活に今や従者ですら彼から離れた。父は飽きれ、ダレスに別宅を与えると隠すようにそこへ押し込んだ。しかし、別宅を持ったダレスは更に自由奔放になってしまった。
この別宅に来るのは、何人かの(ダレス好みの)メイドかお友だち、もしくはダレスを溺愛する母ヘレン、そして護身だけでなく身の回りの世話まで担っている専属騎士のウルソンくらいだ。
「ふふ、きゃっ!もぉ~、ダレス様ったら! 私のスカートを返してくださいましっ」
下着だけを身に付けたメイドがスカートを掴み高く持ち上げたダレスに言う。この別宅には、ダレスの専属騎士であるウルソン以外に男はいない。
「なんだ、いいだろう? 君たちは僕のメイドなんだよ。これも全部、僕のものだ。」
「まあ! なんて傲慢なんですの、ダレス様っ…!」
うっとりと、もう一人のメイドがダレスを見ながら言う。少し長めの前髪が彼の自由さを表している、目鼻立ちの整った顔立ちに、艶のある美しい金髪。一目見れば、貴族だとわかる優雅さがある。
「だって、君たちは僕のものだろう?」
きゃ~! と楽しげでわざとらしい悲鳴がダレスの部屋の扉から漏れ聞こえる。聞こえてくるそんな声に、専属騎士であるウルソンは羨ましさを感じながら、汚れてしまったであろうシーツの替えや、湯浴びの準備をしていた。
騎士らしく、引き締まった筋肉質な体に短く切り揃えられた黒髪の大男が羨ましさを感じているのは、“貴族で遊び人のダレス” ではない。これからダレスに抱かれるのであろう、女たちの方だ。こんな男に惚れるなんて、馬鹿だと世間は言うかもしれない。
すーはー、と深呼吸をして部屋の扉をノックする。楽しげなお坊ちゃまやメイドの女性たちがいるなかに入り込むのは、いつも緊張する。坊ちゃま…、何よりも女性たちの機嫌を損ねるのが怖い。コンコンコンと数回ノックをする。
「お坊ちゃま、失礼いたします」
「ああ、ウルソンか。入っていいよ。」
ダレスの了承を得た専属騎士は、重たい扉を引き開ける。ベッドの上で半裸になる女たちとダレスを見ないように視線を伏せ、膝を付く。
「いいって、ウルソン。いつも言ってるだろう? 僕には、そんなことしなくて良いんだよ。」
「いえ…、私は騎士として、ダレス様に仕える身ですので」
「相変わらず、真面目だね。まぁ、そこがウルソンの良い所だけど。」
ダレス様は、いつも俺を甘やかそうとする…。
頑固で馬鹿真面目な専属騎士にダレスは、やれやれと苦笑いをした。今だって、女の裸を見ないように視線を落としている。短すぎる黒髪、モテそうな顔してるんだから伸ばせば良いのに、とダレスは思う。
「それで、最中に君が部屋に来るなんて珍しいね、どうしたのかな。もしかして、一緒に遊びたくなった?」
坊っちゃんはウルソンを少しからかった。そんなダレスに専属騎士はため息を吐くこともなく、受け答えをする。
「いえ。ヘレン奥様がこちらに御出向きになるようなので、ご準備をとのご報告に参りました。」
「母上が!! 久しぶりだ、君たち今すぐ準備をしてくれ。君、この間買ってきてくれた、あの美味しい苺のケーキをまたお願いしたい!母上は苺がお好きだからね」
母ヘレンがダレスを溺愛するように、ダレスもまた母が大好きだ。今の今まで行っていた不埒な行為の影はどこへやら…、ダレスは無邪気な笑顔で母を招く準備をはじめた。
母ヘレンの突然の来訪に別宅は慌ただしく動いていた。白の上に黄金で縁取られた家紋が描かれた美しい馬車が止まる。別宅はフロート家の敷地内にあるので、馬車で来るほど遠くはないが歩いてくるには少し難儀だ。ウルソンはヘレンを出迎えるため、別宅の外に出る。馬車から金髪の揺蕩うご婦人が従者の掌を手摺にゆっくりと降りてきた。
「いらっしゃいませ、ヘレン奥様。」
「まあ! ウルソン、相変わらず男らしくて素敵ね。」
「ありがとうございます。」
ドタドタと走る音と扉の開く大きな音が後ろから近付いてくる。振り返れば、満面の笑みを浮かべた青年が息を切らしていた。
「母上!!」
「ダレス!」
大きく両腕を広げた母ヘレンの胸の中にダレスは飛び込むように抱きついた。まるで、何年も会っていないような感動の再会だが、この母子は一週間前にも二人でお茶を楽しんでいる。いつもは毎日のように会っていたが、遠い親戚の喪中でヘレンは少し長く出掛けていただけだ。いくつになっても若く美しい母ヘレンと好青年の息子ダレスが抱き合う姿は、はたから見れば恋人のよう。別宅の中に入った。二人はお茶を楽しむ。
「素敵な苺ケーキね・・・! 美味しいわ。」
「母上に食べて頂きたくて、メイドに頼んだのです。間に合って良かった!」
君、ありがとう!とダレスは一人のメイドに微笑んだ。あんなものを真っ直ぐと向けられたら、誰だってクラッとしてしまう。ウルソンは またメイドに「良いな・・・。」と羨ましく思う。
「ダレスも、もうすぐ成人ね。」
「ええ。母上。」
「今日で長期休暇も終わって、また会う時間が減ってしまうのが寂しいわ・・・。」
「僕も寂しいです、母上。」
「学園生活、頑張りすぎないでね。」
「ええ。ありがとうございます。」
母子のお茶会は長く続いた、夕暮れが近づいた頃、仕方なさそうに二人は解散することとなった。
帰り際、ウルソンはヘレンに呼び止められた。「明日から学園で大変でしょう」と珍しくダレスを部屋に返したヘレンは専属騎士に馬車までの道のりを小声で話しかける。
「貴方がダレスの側に居てくれて、とても感謝しているの。」
「・・・ヘレン奥様。」
自分の忠誠が下心の元にあることにウルソンは罪悪感を感じる。
「あの子は三男だからってのもあって、誰にも求められていないと勝手に思っているの。小さい頃から周りの期待が大きすぎたのね。人一倍努力をしてきたけれど、それでもやっぱり年の離れた兄達には届かなかった。14歳を過ぎた頃からかしら、あの子はひどく寂しがりになってしまった。私がもっと愛を伝えられたら良かったの。」
ヘレンは上りかけている月を見上げ、ウルソンに胸のうちを明かした。ヘレンがダレスに頻繁に会いに来るのも、女遊びを許すのも、ただ溺愛しているというだけではなかった。彼の孤独をなんとか埋めようとする、彼女の母としての真っ直ぐな愛情。
「だからね、どうかあの子の側にいて。女遊びは激しいし、ウルソンを困らせることもこれからたくさんあるでしょうけれど・・・。あの子には、貴方がきっと必要なの。」
ヘレンは不安げに、そして懇願するようにウルソンの手を握った。込められた力に感じたのは、柔らかな母の手だった。
最近、自分の恋心に苦しくなっていた。彼に抱かれる女の子を見る度、声を聞くたび、強く深く嫉妬した。自分の醜い感情にも耐えられなくなってきて、こんな気持ちで仕え続けて良いのかと悩んでいた。それが彼女には、バレてしまっていたのだろうか。母とは凄いものだ。
「ヘレン奥様・・・、ありがとうございます。私は、お坊ちゃまに一生仕えて参ります。この命、ダレス・フロート様のために。」
ウルソンは地に膝を付き、忠誠を誓う姿勢を見せた。それに、ヘレンは手を差し出すと、ふわりと笑った。
「ありがとう。貴方も私の愛しい息子よ。貴方とダレスは兄弟みたいなものだもの! 時々は本気で叱ってちょうだいね。」
ヘレンの言葉にウルソンは目頭が熱くなるのを感じた。
ヘレンを見送り、別宅に戻ると主は不機嫌そうに腕を組んでいた。そこまでの威圧感は感じない・・・、大方、拗ねているのだろう。
「母上と何を話してたんだ」
子どもように口先を尖らせるダレス様が可愛い。思わず頬が緩まるのを必死に耐える。
「とくに何も。ただ、お坊ちゃまが心配なのでしっかりと護衛するようにと仰られました。成人の儀もございますし、疲れさせないようにと」
心配をしているのは本当だ、嘘は言っていない。そう伝えると、ダレスはまたご機嫌になりメイド達と遊びはじめた。ウルソンは空気のごとく気配を消し、主の部屋から出た。
∇
学園がはじまり、すぐに試験が待っていたダレスは忙しくしていた。やっと落ち着き、坊ちゃんの大好きな、毎週のうち2日ある休日がやってきた。ウルソンにとって最も苦痛な2日間。
今日は、どんなご令嬢を連れてくるのだろう・・・。
ウルソンはいつものようにチクチクと痛む胸に気が付かない振りをする。そうして、専属騎士は健気に主の閨事の準備をするのだった。
ふと、主の部屋にある大きな鏡を見た。ダレスは、この鏡を夜遊びの玩具にしている。その鏡に映るのは、どこからどうみても男。それに、屈強な胸板や鍛えられた太い脚と腕は雄らしさを強めている。戦いの邪魔になる髪は短く雑に整えられ、女性のように柔らかい髪や胸もなければ、甘い香の匂いのかわりに汗の匂いが滲む。自分の大きな掌に、非道くうんざりした。
女性になりたい訳じゃない・・・。
ただ、“女だったら”と思うだけだ。
女性だったら、例え美しくなくとも泣いてすがれば、優しいダレス様は抱いてくれたかもしれない。
今夜、ダレスに抱かれる女のために用意した果実の側には装飾の美しいナイフが置いてある。ウルソンは、なんとなく、それを手に取った。この大きな背も膝を削げば小さくなるだろうか、この大きすぎる手や足も削げば小さくなるだろうか。ナイフを指先に宛てると、赤い液体が指の根本まで伝った。不思議と痛みを感じない。思わず、“小さくなれ”と胸の中で呟いた。
「おい、何をやってる。ウルソン」
突然、右手首を強く捕まれナイフを奪われた。
「お、お坊ちゃま。お帰りなさいませ・・・。気が付かず、申し訳ありません。」
ギリギリと捕まれた右腕が痛む。頭の中にある無邪気なダレスは見えない、瞳に強い怒りが浮かんでいる。ナイフの傷がいつの間にかドクドクと痛みだす。
こんなにも強い力を・・・、いつのまに。
「何故、指にナイフを当てている。自傷など・・・、許さないぞ。」
まさか、見つかるなんて思わなかった。本気で怒るダレスをウルソンは、はじめて見た。それなのに、ウルソンの胸は高鳴っていた。捕まれた腕からドクドクと熱が走る。彼が自分のために怒ってくれている、そんなことがどうしようもなく嬉しい。顔や耳までもが熱くなるのを感じ、ウルソンは捕まれている腕をぐいっと引いた。騎士である自分の力は強く、主の掴む手は簡単に外れる。それが、また哀しみを煽った。
「自傷などではありません・・・、虫に噛まれたのです。毒が回ったらいけないので、少し出しただけです。ご心配をお掛けして申し訳ありません。」
咄嗟に嘘を吐いた。ウルソンは、捕まれた手首を無意識に撫でる。まだジンとする感覚にどうしようもない悦びが胸に広がって、爪を立てた。
「毒虫に噛まれた?! 大丈夫なのか?早く、医務室に行こう。君に何かあったら大変だ。」
ダレスは、焦るようにウルソンの腕を今度はやさしく掴み、医務室へと連れ出そうとする。ウルソンは慌てて、坊ちゃんを引き留め、自分の腕から手をそっと離させた。
「処置は致しました。私は男ですし、騎士ですから、傷が付くくらいなんともありません。」
自分で言っておいて、落ち込む。
主の心配に喜んでいたウルソンは、ハッとした。そうだ、今日は来客がある日なのだ。ダレスが帰ってきたと言うことは、“今夜のご友人”も来ていると言うこと。
「お坊ちゃま、ご友人の方は?」
姿勢をただし、問いかける。
「ああ、今日は・・・。どうか、驚かないでくれ。」
「・・・?」
ダレスは少し気まずそうな表情をする。良く見れば、坊ちゃんの背後に小さな人影がある。明るい黄土色の猫ッ毛がふわりと揺れた。
小さな影は、背後から恐る恐る現れた。
「こ、こんにちは・・・。」
一目見たウルソンは、目を見開いた。自分の中でぐるぐると何かが巡る。心臓がドクドクと過剰に血液を回す、手が小さく震えるのがわかる。何かが崩れる感覚がした。
「彼は、ルーア。トリンドル家のご子息、一番下の末っ子だ。」
胸が酷く痛い、苦しい。
主が今夜のご友人として連れてきたのは、ルーア・トリンドル。明るめの色をした、やわらかそうなの猫ッ毛。細く小さな華奢な身体。まるで少女のような可愛らしい容姿をした、庇護欲をそそる少年。
小さくて・・・、可憐な少年・・・。
「・・・ソン、・・・ウルソン!」
主に呼ばれ、意識がやっと目の前の現状に戻ってくる。
「大丈夫か?ウルソン・・・、君なら分かってくれると、思ったのだけど。」
俺なら分かってくれる・・・?
なんだよそれ。
なんで、寄りによって“男”を連れてくるんですか。女性なら、どうしようもないけど・・・。それに、こんな、俺とは正反対の華奢で可愛らしい少年なんて・・・。
お坊ちゃまは、ダレス様は、彼を恋人にするのですか?
そんなの、あんまりだ・・・。
口が裂けても言えないことを胸の中で叫ぶ。今は、ここから一刻も早く立ち去りたい。そんな一心でウルソンは、できるだけいつもと変わらないよう・・・、震える手や声を必死に抑えた。
「私は、お坊ちゃまに仕える専属騎士です・・・。全ては、お坊ちゃまのお望み通りに。・・・・・・いつだって、お坊ちゃまを、応援しております。」
ダレスの表情に安堵が広がる。そっと、肩に何度かポンポンと優しく置かれた手にウルソンの身体はビクリと跳ねた。
「私は準備を致します。どうぞ、ごゆっくりしてください。失礼いたします。」
早口に言って、ウルソンはダレスの部屋を後にした。それからとにかく、走った。走って走って、そのうちに涙が溢れてくる。止まらない涙、ウルソンは湯浴び場に来ると嗚咽した。彼らの閨事の後のために、急いで準備をしなければならない。それなのに、胸が苦しくて仕方がない。今までできていた呼吸をあっという間に忘れてしまった。着替えの服やシーツが涙に濡れていく。
「・・・ぅっ・・・・・・ぅう、ダレス・・・さま。なぜっ・・・。なぜなのですか・・・っ。」
まだ仕事は残っているというのに、こんなに泣いては目が腫れてしまう。騎士であるのに、強くあらねばならないのに、守らねばならないのに。
「奥様・・・、辛いです。奥様・・・、俺は・・・、お坊ちゃまのお側に仕えることが・・・・辛いです。だって、俺、ダレス様のことが・・・。」
まるで天に告げるように一人、しゃがみこんで、胸の苦しみを告白する。けれど、あの優しい奥様の為にも。自分は、ウルソンの元に仕え続けなければならない。ああ、そうだ・・・・・。もしも、ルーア様とダレス様が本当に恋人として幸せになった時・・・、その時に仕えることを辞めよう。ルーアがダレス様の心の支えになったら、自分は必要のない人間だ。主の孤独もきっと埋まるはずだろう。そう決めてしまえば、ウルソンの少し心は落ち着いた。
「あっ・・・ぁあん! ・・・ダレスっ、さまっ!」
ダレスの部屋の扉から、ルーアの喘ぎ声が漏れ聞こえる。耳を覆っても、ルーアの高い声はウルソンの鼓膜を揺らした。
「ルーア...、ルーアっ、くっ、」
「...ひんっ...ぁう...!」
二人の閨事が夜の内に終わることはなかった。それは朝方まで続き、扉の前で終わるのを待つウルソンを苦しめた。けれど、ウルソンは、眠ることなく待ち続けた。・・・否、眠ることができなかったのだ。
声が止み、寝息が聞こえはじめた頃を見計らってウルソンはいつものように部屋に入った。ベッドの側のサイドテーブルにぬるま湯と布を置く。まだ眠るであろう主達の為に斜光カーテンを閉めて小さなランプを点ける。美少年の汗に濡れた穏やかな眠り顔。「ああ、彼になりたい」と羨んでしまう。一晩だけで良いから・・・。
「・・・ウルソン、ありがとう。いつも、ごめんね。」
薄暗さの中、ダレスが目を覚まし、声を掛けてきた。大丈夫だ、きっと自分の泣き腫らした顔など、この暗闇では、見えない。
「いえ。お坊ちゃんの世話を焼くのが、私の喜びなのです。」
本当にそうだった。
しかし、今は・・・分からなくなってしまった。
昼過ぎにルーアは帰って行った。その日から、ルーアは何度も別宅にやってきた。ダレスはルーア以外の美少年も抱くようになっていった。愛されたがりのダレスは、誰か一人に決められないようだ。遊び相手は女から美少年に変化した。ルーアは会うといつも「恋人にして」とダレスに言っていたが、ダレスはその度に「ごめんね」と謝るばかり。そのうち、しつこくなったルーアが面倒になったのか、ダレスはルーアを別宅に誘わなくなった。けれど、人が変わるだけで、美少年遊びは止まない。
あわよくば・・・、自分も抱いてくれないだろうか。
そんなことを考えても、ダレスの連れてくる男達は、いつだって華奢で可愛らしい者ばかり。もう、彼を想うのをやめてしまいたい。淡い期待を抱くことは自分を苦しめるだけなのだから。
月日は目まぐるしく流れ、ダレスの成人の儀が行われることとなった。この国では19歳が成人だ。
今夜の主役であるダレスの周りには可愛らしい美少年たちが群がっていた。性に奔放すぎる三男、ダレスは曲がりなりにも貴族だ。成人の儀は派手に行われる、そのため多くの人が集まった。中には、かつてダレスに抱かれていた女達も多い。
「今夜は息子、ダレスの成人の儀にお集まり頂き、誠にありがとうございます」
ダレスの父、ロルダンが乾杯をする。ダレスの兄二人も成人の儀に駆け付けた。成人の儀は、社交とお見合いを兼ね備えている。裕福な商人は、たとえ三男であろうとも貴族であるダレスに娘を嫁がせたい。ダレスのかつての“お友だち”である女達も成人になった彼との結婚を目論む。そんな私利私欲溢れる一夜。皆がダレスに襲いかかる獣のようだ。
「ダレス様ぁ、私、ずっとダレス様をお慕いしておりましたのよ・・・?」
たわわな胸を青年の腕に擦り付けながら、一人の女が言う。彼女はダレスのお友だちだった者だろう。
「そうか、ありがとう。」
ダレスは彼女の肩をそっと掴み身体を離すと微笑んだ。
「キャッ・・・ご、ごめんなさいっ。」
今度は、わざとらしく転んだ女がダレスに抱きつく。ダレスは思わず、彼女を支えたがまたもすぐに離した。女性たちの燃え上がる競争心や火の粉が恐ろしい・・・。けれど、ダレスはもう女などには飽きている。優しさはあるが、そっと突き放す様子に周囲は噂が本当であることを認識する。
ふらふらと一人の美しい少年がダレスの側で、へたりと座り込んだ。うるうるとした瞳でダレスを見上げる。その姿に男には興味のなかったはずの男達までもが、ごくりと生唾を飲み込んだ。この国では男色がタブーと言うわけではない。
「あ・・・ダレスさまっ、なんだか酔っちゃったみたいなんです。」
明らかに噓であろう甘えた声。美少年にダレスは優しく手を差しだし、腰に手を回し立ち上がらせると目を細めた。
「そうか、ならば僕の部屋を使うと良い。ウルソン!」
不意に名を呼ばれ、ウルソンは「はい、お坊ちゃま。」と答える。主の側には美少年。ああ・・・貴方は今夜、その少年を選んだのですね、と心の中呟く。
「彼を僕の部屋へ。」
「承知いたしました。」
痛む胸を押し殺し、平然とした態度で頭を下げる。もう幾度となく、ダレスが少年達を抱くのを見ているし、優しい口づけをするのも、甘い言葉を掛けるのも見てきた。きっといつか慣れるはずだ・・・。そう思いながら、もう半年は経っている。相手が男に変わってから、恋心という名の毒は心を蝕むばかり。
部屋に送り届けた少年は、色仕掛けが上手くいったことを喜んでいた。果実を用意するとご機嫌に頬張り「湯浴びの準備をしてくれ。」とウルソンに命令する。ウルソンは言われた通りに湯浴みの準備をした。
その後も何人かの少年をダレスは選び、部屋へと招いた。思い返せば、ダレスが一対一で抱き合ったのはルーアくらいだ。いつも、3人以上に自分の相手をさせている。もちろん喧嘩にもなったし、揉め事も絶えなかったがダレスがそれを嫌うので、彼の前では皆穏やかだ。
準備を終えたウルソンは、まだ続くであろう成人の儀のパーティーに戻る。いつの間にかダレスの相手は、女や美少年から大人に変わっていた。
この恋心を俺は一体いつまで、押し込めていられるだろうか。
トントン、と肩を叩かれ振り返ると金髪の貴婦人が申し訳なさそうにこちらを見ていた。その女性にダレスの専属騎士は頭を下げる。
「これは、ヘレン奥様。どうかなさいましたか?」
「ごめんなさいね・・・、ウルソン。いつも貴方にダレスの閨事の準備までさせてしまって・・・・・・。」
そう言うとヘレンはウルソンの手を握った。彼女の優しい手が好きだ、伝わる温もりにいつも心が暖まる。
「いえ、お坊ちゃまの為ですから」
ヘレンは眉を下げた。けれど、すぐに笑顔になるとパッと手を離す。パンパンと音を鳴らし、自分の従者を呼ぶと「用意したものをお願い」と言う。何だろうと不思議に思っていると、大きなリボンの付いた箱を渡された。ダレス様へのプレゼントだろうか、と考える。しかし、ヘレンは首を横に振った。
「ふふ、ダレスのじゃないわ。これはウルソン、貴方へのプレゼントよ。いつもありがとう」
そう言われ、差し出された箱を受け取る。自分へのプレゼント・・・、奥様から。ウルソンは嬉しさに溢れる涙を我慢できなくなった。
この人の愛情が、俺を支えてくれる。
ウルソンの母は彼が小さい時に他界した。それからすぐ、騎士団に入れられたウルソンは、その腕前を見込まれ、ダレスの専属騎士に。騎士団で育ち母を亡くしたウルソンにとってヘレンは本当の母親のような存在だ。
「ありがとう・・・、ございます」
ウルソンのプレゼントを喜ぶ姿にヘレンは安堵し、同時に嬉しくなった。
「さあ、開けてみて。」
ヘレンにそう言われ、プレゼントの紐を解く。丁寧に包み紙を剥ぎ、箱を開ける。中には、パーティー用の光沢のある黒いタキシードが入っていた。それと真新しいシャツ、それから蝶ネクタイとハンカチ・・・、どれも一級品だろう。
「本当に、私が頂いて良いのですか?」
恐る恐る、問いかける。こんなに高そうな礼服を自分が着て良いものなのか。
「貴方の身体に合わせて仕立てさせたの。ウルソン、貴方は真面目すぎる。だから、今日だけは専属騎士のお仕事はお休みよ。大丈夫、ダレスには言ってあるわ。早く着替えてらっしゃい!」
そうヘレンが言った途端にウルソンを複数人のメイドが囲んだ。あれよあれよと、別室に連れて行かれ、あっという間に着替えさせられた。自分の身体にぴったりすぎるタキシードに驚く。生地やサイズが身体に合い、心地が良い。
「では、ウルソン様。どうぞお楽しみ下さいまし。」
一人のメイドがウルソンを送り出す、手元には招待状が持たされていた。再度、会場に入り招待状を差し出した。「ようこそ、いらっしゃいました。」と言われ頭を下げられる。なんだか変な気分だ。今夜だけは客人。ダレスの専属騎士ではない。フロート家のパーティーに呼ばれた客人。
「ウルソンさん」
後ろから聞こえる声に肩を震わせる。
「お坊ちゃま・・・。」
そう呼ぶと、ダレスは残念そうな顔をする。
「今夜は招かれた客人でしょう。“お坊ちゃま”じゃなくて、名前で呼んでよ。それに敬語も無しだよ! ウルソンさんの方が年上なんだし、ね?」
仕える者と主の距離がなければ・・・、俺は困ってしまう。その距離が実際、自分を守ってきた。けれど、そんな風に言われてしまえば従わずにはいられない。
「だ、ダレス様・・・?」
そう呼ぶと、ダレスはわざとらしく、口を尖らせる。首をふるふると横に振り、腕を組む。もはや、これは命令のようなものだ。
「だ、ダレスくん・・・!こ、これで勘弁して・・・、くれ、よ。」
慣れない、まるで友人のような呼び掛け方。なんだか恥ずかしくなって耳が熱くなる。それを隠そうとウルソンは顔を背けた。
「ふふっ。ウルソンさん、タキシード似合ってるね。」
ぶわわわっ、と体感温度が上昇する。この恐ろしい色男は、さらっとそんなことを言ってしまうのだ。
ウルソンは小さく、ありがとう・・・、と呟いた。
それからすぐ、ダレスはまた大人達に呼ばれ、名残惜しそうにウルソンから離れて行った。ウルソンは、赤く染まっているであろう頬を冷まそうと、ウェイターに水を貰って一気に飲んだ。
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