49 / 65
男だらけの異世界転生〜俺たち勇者一行編!〜
助けてください!
しおりを挟むああ、死んでしまいそう。
血が欲しい…。
若くて、上質で、清らかな血が欲しい。
ひらひらとしたネグリジェは、重たい脚に絡みついて歩きをさらに遅くする。一歩一歩、必死に足を動かす。壁伝いになりながらも、鼻腔を擽る花のような香りを追って歩みを進めた。
今まで、嗅いだことのない良い香り。
思い返せば、永いこと血に飢えていなかったので、すっかり感が鈍っていたみたい。
でも、この飢えが本能を擽り、居ても経ってもいられない。
早く…、早く…。
段々と強く濃くなっていく匂いに脳が痺れるのを感じた。
クラクラとするのは、血が足りないせいか、はたまたま抑えきれないほどの欲望のせいか。
普段なら人間の姿でいることくらい簡単。
血を失い、力が落ちたことにより自らに掛けていた魔法は殆ど解けてしまっている。
だが、そんなことを気にしている場合じゃない。
なりふり構ってなどいられるものか!
ああ、良い匂いっ、良い匂いがする!
一際、人の気配ばかりする部屋を過ぎ、たまらない香りの人間を探す。やっとの思いで辿った先に現れた首筋に、僕は迷うこと無く牙を立てた。欲するままに、ぢゅるぢゅると吸い上げると昇天するのではないかと言うほどの快楽にも似た喜びが舌から全身に伝わった。
▼
「皆、集まって。さぁ、はじめようっ。」
興奮した様子で、天を仰ぎ両手を広げるユウタ。真っ白な髪が身体の動きに合わせて、さらさらと広がった。長らく日に当たっていないのだろう、生白い肌がやけに目立つ。氷のように透けた美しい短剣を取り出すと、ユウタは自身の指先に傷を付けた。白い肌をつぅっと赤い血が伝う。そして、同じ短剣で俺の指先にも傷を付けた。
「あはははっ! 準備はできた! さぁ、ボクが直々に呪文を唱えるよぉ! 皆、ちゃんと見ておいてねっ。『聖なる力の根よ、悪しきなる力の源よ…』」
ユウタが言葉を紡ぐと、部屋を照らしていた明かりたちが円を囲むように集まってくる。円の中心に放り投げられ、部屋には俺とユウタだけとなった。部屋の周りはガラス張りになっており、周囲には白装束の男達が見張るように並んでいる。そして、皆それぞれぶつぶつと呪文を唱え、この円模様の魔法陣に魔力を送っているようだ。魔力の送られた魔法陣は目が眩むほど強く光る。その眩しさに反射的に目を瞑った。ユウタの楽しげな声が耳を通り過ぎていく。
「『永久的に、この身を…』んぐぅ……っ⁉」
突然、ユウタの声が途切れ、鈍い声が聞こえた。それと同時に、光が消えてしまう。何だ何だと思っていると、自分の身体が自由になっていることに気が付いた。首筋を抑え、屈み込むユウタ。立ち上がり周囲を確認すると、ガラス張りの向こうで白装束の男達が一斉に倒れている。
「ぅ……ぁ、あ…。」
悲鳴のようなか細い声を出すユウタに視線を向ける。
すると彼の背後に人がいた。
一体、誰だと目を細めて、その人物を観察する。
ユウタより小柄な癖のある茶髪。
見知った人に似たその人は、ユウタの首筋に噛みついていた。
「ひ…ぃ…、なに…っ…。」
噛みつかれて離してもらえない様子のユウタの足先は、ゆるゆると藻掻いている。やがて長い裾から白い脚が出てきて、モジモジと動いた。力が入らないのか、背後の人間に身を預けてしまっている。
ごきゅんっ…、ごきゅっ。
まるで酷く乾いた喉を潤していくみたいな音が響き渡る。
「んくっ…、ぷはっ…。」
「リ、リアゼルっ‼」
やはり、見知った相手だった。
ガバリと上げた顔に浮かんでいたのは、恍惚とした表情。
真っ赤に染め上げた口元、どこかにいってしまっている眼。
前世なら、こんな状態のやつを『ラリっている』と表現した。
「ああ、フランドール様。こんなところで何を…? そんなことより、これはなんと美味なのでしょう。こんなに美味しい血は数百年のうちでも初めてです…っ。でもこれ以上、飲んでしまうと死んでしまう。大事にしないと…。」
眼の前にいるのは確かにリアゼル。けれど、今までの彼には無かったはずの鋭い牙やユラユラと動く先の尖った茶色い尻尾、鷹のような羽が生えていた。柔らかな可愛らしさを纏った雰囲気が消えた、いつもより低い声に姿勢を正される。唖然とその姿を見つめていたが、はっとして向き直った。
「はっ! リアゼル、無事か! 怪我はないか!」
「ああ、はい…、問題ありません。アシュル様やウェルギリウス様の気配を近くに感じるので、そろそろ御一行も到着されるかと思います。僕は、巣に餌を……、間違えました、この人を連れて行きたいので。」
うん、バッチリ聞こえたぞ。
今、餌って言ったよな。
「そ、そうか…。じゃあ、俺はウェル達を待とうかな。ひとりじゃ、帰れないし…。」
「ぜひ、そうしてください。」
そう言って、リアゼルはにっこり微笑みを向け、自分より大きな青年を横抱きにして立ち上がった。
「ああ、そうだ。ウェルギリウス様には、こうお伝え下さい『運命の人を見つけました。』と。」
リアゼルの腕の中にいるユウタは、まるで熱でも出たみたいだ。頬や首を赤らめ、だらんと腕を投げ出し、目を潤ませている。はーはー、と呼吸もどこか辛そうだ。『運命の人』なんて、おとぎ話みたいなことをサラリと言ったリアゼルは、ユウタの首筋に長い尻尾を絡めた。
「僕、実は純血の悪魔なんです。」
何でもないことのようにそれだけ言うと、リアゼルは横抱きにしたユウタを連れ、鷹のような大きな羽を引きずりながら部屋を出ていった。
ああ、悪魔。
純血の悪魔ね、はいはい。
純血って、すごく高貴な家系のあれね。
わかるわかる、それの悪魔、はいはい。
悪魔って、天使みたいなんだな。
もう考えるのも億劫になって、小さくなっていく二人分の影をぼんやりと見送った。
それから散らばるみたいに転がった人たちの生存を確認し、怪我の度合いや意識などで区画分けをしながら寝かせて状況を把握する。この教会で抜け殻みたいなっている若者に、一体何があったのだろうか。
ああ、早くみんな来ないかな……。
お家に帰りたい。
116
あなたにおすすめの小説
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる