【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!

セイヂ・カグラ

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男だらけの異世界転生〜俺たち勇者一行編!〜

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 ああ、死んでしまいそう。
 血が欲しい…。
 若くて、上質で、清らかな血が欲しい。

 ひらひらとしたネグリジェは、重たい脚に絡みついて歩きをさらに遅くする。一歩一歩、必死に足を動かす。壁伝いになりながらも、鼻腔を擽る花のような香りを追って歩みを進めた。

 今まで、嗅いだことのない良い香り。
 思い返せば、永いこと血に飢えていなかったので、すっかり感が鈍っていたみたい。
 でも、この飢えがを擽り、居ても経ってもいられない。
 早く…、早く…。
 段々と強く濃くなっていく匂いに脳が痺れるのを感じた。
 クラクラとするのは、血が足りないせいか、はたまたま抑えきれないほどの欲望のせいか。
 
 普段なら人間の姿でいることくらい簡単。
 血を失い、力が落ちたことにより自らに掛けていた魔法は殆ど解けてしまっている。
 だが、そんなことを気にしている場合じゃない。
 なりふり構ってなどいられるものか! 
 ああ、良い匂いっ、良い匂いがする!

 一際、人の気配ばかりする部屋を過ぎ、たまらない香りの人間を探す。やっとの思いで辿った先に現れた首筋に、僕は迷うこと無く牙を立てた。欲するままに、ぢゅるぢゅると吸い上げると昇天するのではないかと言うほどの快楽にも似た喜びが舌から全身に伝わった。
 






 ▼

「皆、集まって。さぁ、はじめようっ。」 

 興奮した様子で、天を仰ぎ両手を広げるユウタ。真っ白な髪が身体の動きに合わせて、さらさらと広がった。長らく日に当たっていないのだろう、生白い肌がやけに目立つ。氷のように透けた美しい短剣を取り出すと、ユウタは自身の指先に傷を付けた。白い肌をつぅっと赤い血が伝う。そして、同じ短剣で俺の指先にも傷を付けた。

「あはははっ! 準備はできた! さぁ、ボクが直々に呪文を唱えるよぉ! 皆、ちゃんと見ておいてねっ。『聖なる力の根よ、悪しきなる力の源よ…』」

 ユウタが言葉を紡ぐと、部屋を照らしていた明かりたちが円を囲むように集まってくる。円の中心に放り投げられ、部屋には俺とユウタだけとなった。部屋の周りはガラス張りになっており、周囲には白装束の男達が見張るように並んでいる。そして、皆それぞれぶつぶつと呪文を唱え、この円模様の魔法陣に魔力を送っているようだ。魔力の送られた魔法陣は目が眩むほど強く光る。その眩しさに反射的に目を瞑った。ユウタの楽しげな声が耳を通り過ぎていく。

「『永久的に、この身を…』んぐぅ……っ⁉」

 突然、ユウタの声が途切れ、鈍い声が聞こえた。それと同時に、光が消えてしまう。何だ何だと思っていると、自分の身体が自由になっていることに気が付いた。首筋を抑え、屈み込むユウタ。立ち上がり周囲を確認すると、ガラス張りの向こうで白装束の男達が一斉に倒れている。

「ぅ……ぁ、あ…。」

 悲鳴のようなか細い声を出すユウタに視線を向ける。
 すると彼の背後に人がいた。
 一体、誰だと目を細めて、その人物を観察する。
 ユウタより小柄な癖のある茶髪。
 見知った人に似たその人は、ユウタの首筋に噛みついていた。

「ひ…ぃ…、なに…っ…。」

 噛みつかれて離してもらえない様子のユウタの足先は、ゆるゆると藻掻いている。やがて長い裾から白い脚が出てきて、モジモジと動いた。力が入らないのか、背後の人間に身を預けてしまっている。
 
 ごきゅんっ…、ごきゅっ。
 まるで酷く乾いた喉を潤していくみたいな音が響き渡る。
 
「んくっ…、ぷはっ…。」
「リ、リアゼルっ‼」

 やはり、見知った相手だった。
 ガバリと上げた顔に浮かんでいたのは、恍惚とした表情。
 真っ赤に染め上げた口元、どこかにいってしまっている眼。

 前世なら、こんな状態のやつを『ラリっている』と表現した。

「ああ、フランドール様。こんなところで何を…? そんなことより、これはなんと美味びみなのでしょう。こんなに美味しい血は数百年のうちでも初めてです…っ。でもこれ以上、飲んでしまうと死んでしまう。大事にしないと…。」

 眼の前にいるのは確かにリアゼル。けれど、今までの彼には無かったはずの鋭い牙やユラユラと動く先の尖った茶色い尻尾、鷹のような羽が生えていた。柔らかな可愛らしさを纏った雰囲気が消えた、いつもより低い声に姿勢を正される。唖然とその姿を見つめていたが、はっとして向き直った。

「はっ! リアゼル、無事か! 怪我はないか!」
「ああ、はい…、問題ありません。アシュル様やウェルギリウス様の気配を近くに感じるので、そろそろ御一行も到着されるかと思います。僕は、巣に餌を……、間違えました、この人を連れて行きたいので。」

 うん、バッチリ聞こえたぞ。
 今、餌って言ったよな。

「そ、そうか…。じゃあ、俺はウェル達を待とうかな。ひとりじゃ、帰れないし…。」
「ぜひ、そうしてください。」

 そう言って、リアゼルはにっこり微笑みを向け、自分より大きな青年を横抱きにして立ち上がった。

「ああ、そうだ。ウェルギリウス様には、こうお伝え下さい『運命の人を見つけました。』と。」

 リアゼルの腕の中にいるユウタは、まるで熱でも出たみたいだ。頬や首を赤らめ、だらんと腕を投げ出し、目を潤ませている。はーはー、と呼吸もどこか辛そうだ。『運命の人』なんて、おとぎ話みたいなことをサラリと言ったリアゼルは、ユウタの首筋に長い尻尾を絡めた。

「僕、実は純血の悪魔なんです。」

 何でもないことのようにそれだけ言うと、リアゼルは横抱きにしたユウタを連れ、鷹のような大きな羽を引きずりながら部屋を出ていった。

 ああ、悪魔。
 純血の悪魔ね、はいはい。
 純血って、すごく高貴な家系のあれね。
 わかるわかる、それの悪魔、はいはい。
 悪魔って、天使みたいなんだな。

 もう考えるのも億劫になって、小さくなっていく二人分の影をぼんやりと見送った。

 それから散らばるみたいに転がった人たちの生存を確認し、怪我の度合いや意識などで区画分けをしながら寝かせて状況を把握する。この教会で抜け殻みたいなっている若者に、一体何があったのだろうか。

 ああ、早くみんな来ないかな……。
 お家に帰りたい。
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