転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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異世界転生編

15.ルールの抜け穴を探すよ

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 翌朝。

 ギルドで依頼を確認するために少し早めに起床した俺たちは、朝食をとるために併設されている食堂にいた。……異世界にいながら何と観光客然とした生活かと思わなくもないけど、宿泊費に含まれてるなら使わなきゃ損だし。
 ちなみに朝食のシステムはパンと飲み物と果物をひとり分ずつ好きなものをとっていくカフェテリア方式だった。肉やら魚やらのメインはない。

「英国によくあるタイプですね。あっちはこれの他にメインを1品注文しますからメインが並ばないんですけど、こちらはそもそもメインを食べる習慣がないんでしょうね」

 メインなしはコンチネンタルブレックファストっていうんですけど、とエリナさんは言う。ビュッフェスタイルならどこにでもあるだろう……なんて思ったけど、考えたらそっちは卵やベーコンなんかは普通にあるもんな。
 そしてこう言っては何だけど、意外にどれもうまい。特に温かい麦茶がこれだけほっとする味だとは思わなかった。

「それに湯浴み所がいつも使ってるサウナで助かりました! しかも桶シャワーまであるなんて異世界に来た気がしません!」
「あ、ああ……よかったね」

 俺としては湯船があった方がよかったんだけど、流石にそこまでは贅沢言えないか……ちなみに最初サウナの使い方が分からなかったのはしょうがないと思うんだ。だって焼け石に水とは思わないもん。
あれで確信した。入浴関係はやっぱり住環境を決めるうえで最優先事項だ。

「さて、今日も取り敢えず依頼を――何もなければトロリ草の採取をこなしておこう。昨日は昨日の分しか取ってなかったからね。出来ればエリナさんにも根っこを採ってもらいたいけど――」
「うっ……それは、今後の努力次第ということで」

 キイチゴジャム乗せの黒パンをかじりつつエリナさんは答える。まあ確かにあれは抜きづらいからな……もっとも売ってもいい塊根はまだ35株もあるわけだし、いざとなればそれを、依頼をこなしがてら売ってしまってもいいんだ。

 それよりもひとつ上のランクの依頼は1週間に1回しか受けられないというのも何かもどかしい気が……いや、待て? 考えようによっては裏技的なのが出来るかも?

「トーゴさん? どうかしましたか?」
「いや、ちょっとね。さて、そうと決まったらそろそろ行くよ」
「あああ、もうちょっと待ってくださいー!」

 ……まあ、そんなに慌てて流し込まなくてもいいけども。



 そんなわけで昨日に引き続き総合職ギルドである。

 夕べは久しぶりにぐっすりと寝られたから、なるべく早く起きてなんて言っても結構遅い時間になってるんじゃないかと思ったんだけど、大時計を確認してみると朝の7時半。朝食もとってこの時間だと……あまり前世と変わらないかな?
 とは言え街にはもうそれなりに人が出ているようだった。流石に日中ほどは多くないけど……

「少し早く来過ぎたのでは? 時間帯のこともあるかもしれないとはいえ、出入りする人の数が多くありませんよ」
「んー……まあでも早いに越したことはないでしょ。早くここにいれば依頼を人より早く受けられるわけだし」
「トーゴさん……?」
「そんな顔されても……おわっ!?」
「きゃっ!」

 総合職ギルドホールの扉に手をかけようとした瞬間、中から人が飛び出して走り去っていった。体格や顔立ちからして中央ヨーロッパ系の男、だが……結構苛立ってるようにも感じたな。何かあったのか?

「あー、びっくりしました……あんな人もいるんですね……」
「そうだな。エリナさん、けがはない?」
「大丈夫です。何とかよけましたから」

 それは重畳。しかしあんな感じの人、昨日は見なかったからちょっと新鮮だったな。なんてことを考えていると、受付の方から嘆息が聞こえてくる。

「あー、行っちゃったわ……またこのパターンよね、何とかならないのかしら」
「しょうがないですよ、あそこまで訳が分からないと……あら、いらっしゃいませ」

 対応していたらしい受付の人のひとりがこちらに気付いて挨拶をしてくれる。いや、それよりも何か今気になることを言ってたな。

「おはようございます、今日も依頼を確認しに来ました……ところで今の、またってことはよくあることなんですか?」
「ああ、あれは……って、ミズモトさんじゃないですか。おはようございます」
「あ、マリアさん。昨日ぶりです」
「いえいえ、さっそく依頼をこなしてくださってるようでありがとうございます。さっきのですか? ええ、ここ最近はよくあるんですよ。昔からもあったらしいですけど」
「このギルドというかエステルには明らかにこの辺りの出身じゃない人も良く来るんですが、それでも大抵の人はマジェリア語かジェルマ語を話せるから意思疎通もそれなりに出来るんです。
 しかしたまに、いや、しばしばかな……頻度はともかく、今の人みたいにどの地域のものなのか全く想像出来ないような言語しか話せない人が来るんですよ」

 隣にいる名も知らぬ受付の人がそう解説してくれた。……っていうか、それってもしかしてエリナさんみたいな……? そう言えば初日に同じことを解説された気がするけど、おとなしく諦めてって雰囲気じゃなくなかったか今の。

「それで、依頼の確認ですね? 昨日はトロリ草採取を受注されたそうですけど、同じものを受注しますか?」
「はい――ああいや、一応掲示板を確認してからにします。何かいいものがあったらそっち受注するかも」
「分かりました。それでは何か聞きたいことがありましたら仰ってください」

 ありがとうございます、と一言言って掲示板に向かう。対応としては意外とドライに感じるけど、俺にとってはこれくらいがちょうどいい。そもそもこの世界の基準がどうなのかまだ測りかねてる部分はあるけど。

 さて――それはともかく依頼の確認だ。昨日受注したトロリ草の採取は軽銀ランクの常設依頼だったけど、同じ軽銀ランクの依頼だけで30件もある。そのうち常設は3件で他は全て1回きりの依頼だけど――

「流石に軽銀ランクでは大した依頼はないか」

 常設依頼の内容は薬品のベースとなるトロリ草採取、ギルドの食堂で食材として使われる柳魚釣り、そしてギルドホール内の掃除。1回きりの依頼では買い物代行やエステルの街の掃除、壁新聞の貼り付け作業……壁新聞なんて久しぶりに聞いたな? とにかくそんな感じの雑用とも言える内容が主だった。

 俺は別に内容に関して選り好みするつもりはないんだけど、如何せん先立つものが手っ取り早く必要な身としては……こう言っては何だけど、ランクと作業内容相応の達成報酬というのはあまりにも少ない。
 なら銅ランクはどうか、という感じなんだけど、ここからは少しばかり依頼内容も難しくなって達成報酬も多くなっている。掲示板に貼ってあるポスターは20枚程度、うち常設依頼が3件。……うん、これなら満足だ。

「あれ、トーゴさん? 銅ランクの依頼は1週間に1度しか受けられないって話だったはずじゃないんですか?」
「ああ、あれは多分同じ依頼に限るって話だから違う依頼なら大丈夫だと思うんだ。そういうことでいいんですよね、マリアさん?」
「え? ああ、確かにその通りです。よくその辺りを早とちりする人が1週間に1度しか上のランクの依頼を受けないということがあるので、ミズモトさんもそのパターンかと思っていたんですが……」

 いやそれは普通に教えてほしいです。というか今の会話がちゃんとつながったってことは、俺がエリナさんに言った言葉をマリアさんも理解出来たってことだな。自分の言いたいことをシームレスに伝えられるのは、結構便利かもしれない。
 とは言え今ので言質は取れた。問題はランクアップまでの期間だけだけど、もしかしたらそれも何かしら抜け穴があるのかな……まあそれはおいおい考えるとして、銅ランクの中から何か面白い依頼がないか探してみよう。



---
※ちょっと解説
作中に出てきた朝食ですが、飲み物や主食を棚から好きに取ってメインは持ってきてもらうというスタイルはイギリスのB&Bでよく見られるスタイルです。
またサウナに喜んでいたエリナさんですが、フィンランドのサウナは蒸し風呂という表現が的確で、ストーブに水をかけて蒸発させないとむしろ寒いです。
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