転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ

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ウルバスク入国編

70.ザガルバまで一直線だよ

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 窓口で出来るひと通りの手続きを終えた後、俺たちの家である魔動車のチェックも終わらせると、係員から無事入国許可が下りた旨伝えられた。後はこのままザガルバまで一直線という感じなんだけど……その前にお昼ご飯だ。
 魔動車はチェックを受けた時に停めた公務オフィス脇に引き続き留めさせてもらうとして……食べられるところって大体どのあたりにあるものなのかな。ああ、このオフィスにレストランか何か併設してないかな。

「それマジェリアからいらっしゃる方は皆さん仰るんですが、残念ながら公務オフィスの食堂は職員専用となっておりまして……」
「ああ、やっぱりそのパターンですか」

 そうだろうと思ったけどね……マジェリアの総合職ギルドが市庁舎っぽい雰囲気なのに対してこっちの公務オフィスは本当に出先機関以上でも以下でもないって感じだから。よく言えば硬派、悪く言えば近寄りがたいってところか。

「ですが食事するところでしたら、この辺りに大体集中していますよ。特に目の前の中央広場、その公務オフィスとは反対側にレストランが数件、それこそファストフードからちゃんとしたレストランまで固まっています。
 今の時間ですとお昼時も落ち着いてきている頃だと思いますので、そちらの方を探されてみては?」
「ありがとうございます。あ、そう言えば初めて国境を超えたので分からないんですが、このギルドカードを使った支払いは可能ですか?」
「はい、国境都市を通過した場合、その辺りの情報は全て全世界で共有されますので」

 なるほど、システムも大体全世界で同じものを採用してるのかな。それとも前世でいう国際カードブランドみたいに、信用保証する機関がそれを統括しているとか……? まあここでそんなことを推測してもしょうがないか。
 公務オフィスを辞して、言われた通りの場所をエリナさんとふたりで歩いてみる。ほどなくしてレストラン街……というには少ししょぼいけど、とにかく食堂やら屋台やらが並んでいる場所に出た。

「へえ……肉料理ばっかりだけど割と野菜も多いんだな……これは……ひき肉を平たく焼いてあるのか? コフタ? ハンバーグほどふっくらはしてないな」
「こっちの方ではソーセージを焼いてるわよ。パンにはさんで食べる感じみたいだけど、屋台だとこれが普通なのかしらね?」
「まあ、変に魚を扱われるよりはいいと思うけどね……ここ、結構海から遠いし。飲み物を売ってるところもあるみたいだし、ここで食べちゃおうか」
「そうね」

 そんな感じで、取り敢えず気になったものをいくつか屋台で注文して、エリナさんが確保しておいた道の真ん中の席に運ぶ。雨が降っても大丈夫なように割としっかり目の傘がさしてあることを考えると、この国の屋台ってのはこういうものなのかもしれない。
 ……マジェリアでは基本的に屋台はまばらで、立ち食い歩き食い上等だったから結構新鮮だな。

「ええと、コフタとシュニクルと……はいこれ、ハーブティー。レモングラスって言ってたけど、よかった?」
「ええ、ありがとうトーゴさん。ハーブティーが飲めるなんて、ウルバスクがハーブ名産地っていうのは本当だったのね」
「そうだねえ……」

 マジェリアではコーヒーも紅茶もなく、基本的にノンアルコールの飲み物と言えば水かジュースか麦茶だったものだから、この手のお茶はお互いにだいぶ久しぶりだった。そう言えばコーヒーやら紅茶やら、探せばこの世界にもあるのかな。

「それにしても、結構大きいわね……これがコフタ? 平べったいハンバーグステーキみたいだけど……あと芋の量が半端じゃなく多いわね」
「芋、の形も見たことないけど、取り敢えず芋があるのは確定みたいだね。今度それを材料に何かしら作ってみようかな」

 芋と言えばマジェリアの中央市場を物色していた時、タレン芋っていうのがあるって話をレニさんから聞いたな。収穫量少なすぎて高級食材になってるらしかったけど……もしかしてこれがタレン芋? だとしたらウルバスクでは事情が違うのかな。

「で、そっちがシュニクル? 何というか、平べったいカツって感じね……同じくらい多く芋がのっかってて、全体的に茶色っぽいわよね」
「……まあ、そういう料理を選んでしまった俺にも責任があるけど。でもちょろっとだけだけど葉物野菜もあるじゃない」
「芋の方が多いけどね……さてと、食べてみないと分からないしいただきましょうか」
「ん、そうだね。それじゃ……いただきます」

 エリナさんはコフタ、俺はシュニクルから手を付ける。ナイフで目の前の茶色いものを切ってみると、意外に柔らかく簡単に切れてくれた。断面を見る限り使われているのは鶏の胸肉、ただし皮は最初から剥いであるな。
 ……この胸肉、わざわざ叩いて伸ばしてあるのか。だからこんなに柔らかいのか。
 全体的にレモン――じゃないかもしれないけどそれに類すると思われる柑橘を搾って食べてみる。柑橘の酸味が脂っぽさを打ち消してくれて、思いの外さっぱり食べられる。何より衣に味がある程度ついているのがいい。
 ……と言っても、元日本人としてはやっぱりどこか物足りない感じはあるけど。とはいえソース……という感じでもないし、うーん、何だろう。
 頭を悩ませつつ今度は芋を口に放り込む。見た目こそジャガイモとは違う形を見せているが、実際の食感としては少しねっとり感が強いだけで味も香りもほぼジャガイモと同じだった。……これなら結構いろんなところで使えそうだ、後で調べて買ってみよう。

「シュニクル悪くないね。味や料理方法はシンプルだけど飽きなさそう」
「このコフタ? っていうのも美味しいわよ。ただアクセントは香辛料じゃなくてハーブかな。芋もジャガイモっぽくない?」
「やっぱりそう思う?」
「ええ、煮物によく合う美味しい芋だと思う。それに、レモングラスティーもさっぱりして美味しいわね、前世より香りが高いかな」

 その辺はやはり種類の違い、ということになるんだろうか。

「ただ如何せん量が多いわね! ちゃんとおなかすいた状態で来ないとあっという間に満腹になりそう……」
「うん、それは俺も思った」

 正直これ絶対胃もたれするよね。ウルバスクの内陸に位置するって話だったけど、内陸の街はみんなこんな感じの食事なのか? ……うわあ、想像もしたくない。

「……トーゴさん、この後はもうすぐにバイロディンを発つ予定なの?」
「うん、このご飯食べ終わったらもう即ザガルバへ向かうよ。ブドパスとナジャクナが距離的に離れていただけで、ここからザガルバまではエステルとブドパスの間の大体倍くらいの時間しかかからないんだから」
「ああ、それじゃ3時間程度もあればついてしま……うかな?」
「道中を考えるともうちょっとかかるかもしれないけどね。いずれにせよ宿をとるのに遅すぎることのないようにしておかないと」

 幸いお昼を食べ終わってすぐ出発して3時間、余裕を存分に見て4時間くらいであれば日が沈む前にはザガルバに着くだろう。エリナさんは車中泊でも全然大丈夫だとは言うけど、なるべく大丈夫そうなら各都市で宿をとっておきたい。
 この車に泊まるのは、周りが自然に囲まれ過ぎていてとる宿がそもそもない場合、そして宿が取れなかった場合だけだ。

「ん、分かったわ。それで宿をとったらそのままおやすみ?」
「いや、軽く情報の概要だけでも確認しておきたい。その為に報道センター本部に立ち寄るよ」
「報道センター……もしかして、そういう機関?」
「うん、まあ、そういう機関だね……?」
「……なるほど。そこなら確かに情報収集にはうってつけね」

 ……大臣閣下から受けた依頼をそういうところで進めるというのはどうなのか? いやそもそも報道は結構重要な情報源だからね? それを蔑ろにするというのは、掴まされるよりずっと酷い。

「そう言うことなら急ぎましょうか、時は金なり、ということだし」
「あ、うん、そうだね」

 気が付けば目の前のプレートは完全に空になっていた。やっぱりそれなりにおなかすいていたんだなあ……と、レモングラスティーを流し込みながら俺は考える。
 ……さて、鬼が出るか蛇が出るか、虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。いずれにしてもうまく立ち回らないと、大物も小物も逃してしまうだろう。

 ……俺たちが魔動車に乗って国境都市検問に向かったのは、それから10分もしない頃だった。



---
ウルバスクの食文化の一端を見る、ということで。
そして今後メディアが出てくる可能性もあるということです。

これにてウルバスク入国編終了、次回からはザガルバ編が開始します!
ああまた書き溜めの日々……

次回更新は04/04の予定です!
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