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ザガルバ編
95.支援を受けつつドラゴンを討伐してみる
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「くう……っ!!」
トーゴさんにアサルトドラゴンの方を任されてからしばらく時間が経っても、私は相変わらずこの厄介者に手を焼いていた。一応1発もクリーンヒットは許していないけど、とにかく脇差で攻撃を受けるだけでも衝撃が大きすぎる。
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「っ、アンチファイアシールド!!!!!」
何度目か、そう、何度も繰り返された前兆を察知して、瞬時に私は覚えたての防御魔法を展開する。少し遅れてアサルトドラゴンの口から放たれる灼熱の炎。……遮熱機能も抜群のアンチファイアシードを使っているというのに、何でこんなに熱が伝わってくるんだろう……!
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
……最悪だ、ジリ貧だ。
近くまで寄れば爪付きの腕が襲ってくるし、少し距離をとればテイルアタック。尻尾が届かない場所に移動したら、今度はさっきみたいに灼熱の炎が襲ってくる……近中遠、全てに隙がないなんて流石に手を焼くだけはあるわね……!
しかも――
「ギャオオォォッ!!」
「っ、ちい……っ!」
スピードも速い! 普通に乗用車が一般道を巡行するのと同じくらいのスピードを、平気な顔をして緩急なしで出してくる! ただでさえ前フリがないのに、一瞬の反応が遅れたら一気にもっていかれそうだ!
「っく、こ、のおおおっ!!!」
バチィィィィィィィン!!!!
「ギャアァッ!!」
「く……っ、やっぱり、通らない……!」
しかもさらに悪い事に、このアサルトドラゴンも相当に硬い。何でも魔法で硬化させているとかいう話だけど、それ以前に鱗の1枚1枚が大きめで厚くて、どこを通していいかが全然分からない!
まあ、トーゴさんが相手しているロックドラゴンよりは硬くないかもしれないけど……それにしても、どこを攻撃すればいいのやら……!
「ギャオアァッ!!」
「っく、甘い!!」
中距離で襲ってくるはテイルアタック! 振りの感じからすると下段、太もも付近! させるもんですか、しっかり受け切ってやる!!
「よしっ――え?」
受け切った、確かに受け切ったはずだった。
それなのに、何故か私は背中の痛みと共に空を見上げていた――
「っ、ロックショット!!!!」
「ギャオオォォオオオオォォォッ!!」
考えるどころか息つく暇もなく、視界にチラリと映ったアサルトドラゴンの眼に向けてロックショットを放つ。ひるんだ隙に素早く離脱し、何があったのかと元居た場所を見ると――
「……なるほど、受け切れなかった先端で私の足を引っかけたのね」
頭がいい。実在非実在はともかく、流石にこっちの世界でもドラゴンは知能が高い生き物ってことでいいのか。一瞬でも判断が遅れてたらと思うとぞっとしない。
でもこれで、今度は油断せず最後まで受け切ればいいだけね……って
「っつう……!」
まずい……っ! さっきの転倒で背中を痛めた……!? 頭は……ぶつけていないから大丈夫、尻尾の先端に引っかけられた左足首も痛いわね……!
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「っ、アンチファイアシールド!!!!!」
痛みで脳も体もうまく働いてくれないけど、アサルトドラゴンの炎が飛んでくるこの距離はまずい! それだけはわかる!
かといって不用意に近づけば今度こそ受け止めたりかわしたり出来る自信がないし……ああもう、このままだとみんな危ないのに! どうすればいいの! 動いて、動いてよ、私の体!!!
「っ、エクスヒール!!」
軽くパニックを起こした私の耳にその声が届いた瞬間、突然体の痛みと動きの重さがなくなる。エクスヒール、って聞こえたけど……今の声、まさか!
「クララさん、まさか貴女が……!?」
「はあっ、はあっ、はあっ……う……っ」
クララさんの返事が聞こえる事なく、私の後ろで誰かが力なく倒れる気配がする――
「クララ!!」
「クララさん!?」
「振り向か、ないで……! エリナさん、後は、任せます……!」
小さく、それでいてしっかりはっきり聞こえたクララさんのセリフ。ということはやっぱり今のは、魔力切れの強制脱力……
「ごめん、なさい。サラ、さん。泣いて、ばかりじゃ、役に、立ちません、よね」
「ばかやろぉ……だからって、何でこんな極端な事……!」
私の後ろでは覚悟を決めたクララさんの声と、彼女を介抱するサラさんの涙声が聞こえる。……うん、そうね。私がこのドラゴンを討伐するって決めたんだもの。ここまでされて、はいそうですかで終われるものですか!
「そろそろカタ、つけさせてもらうわよ!」
頭の中がいやに冷めている。さっきまで攻めあぐねて、混乱して、動かなかったとは思えないほど冷静に戦況を見極め勝機を叩き出す。
――アサルトドラゴンは確かに強い。パワーもスピードも遠距離攻撃も、どれをとっても脅威だ。おまけに頭も悪くない。1等級の冒険者が大規模パーティーで挑むというのも分かる気がする。
でも、正直それだけだ。
頭は悪くないけど、おそらく実戦経験が著しく足りない。そして体についても身体能力に目をつぶれば、あくまで大型爬虫類というドラゴンの域を出ていない。
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「それはもう見た! アンチファイアシールド!!!!!」
近距離、中距離、遠距離それぞれに最適な技を持っている。けど、最適すぎてそれしか使わない悪癖も認められる。それなら、対応策はいくらでもある……!
アンチファイアシールドを展開して炎を防ぎながら、ドラゴンの爪の間合いまで距離を詰める。私に炎の向こう側が見えないのと同じで、向こうも炎の先の私が見えていない。それなら――
「ギャアァ――ア?」
突然懐に現れた私の姿を見て、アサルトドラゴンが明らかに動揺する。私はドラゴンを動揺させたまま――腰に忍ばせた投げナイフを、ドラゴンの左眼に目掛けて抜き打った。
「ギャオオォォオオオオォォォッ!!」
――ここから先は、もう考えるより先に体が動いていた。
眼を潰した左側から、瞬時にドラゴンの後頭部に移動。脇に挿した十手を抜いて、そのまま……ドラゴンの頭蓋骨正中に、思いっきり鋭角の面を叩きこむ。
「―――――――――ッッッッッ!!!!!!」
先程のような雄たけびを出す余裕もなく、ただ悶絶するアサルトドラゴン。確かにドラゴンらしく、鱗も硬く骨も肉も丈夫だ。普通にやったところで、私の装備では傷ひとつつけられない。
でも、だからこそ――ドラゴンにもある弱点を攻め立てる。
人間にもある頭蓋骨の継ぎ目、その中でも体の真ん中を走向している矢状縫合。鱗も何故か手薄になっているその部分を、思いっきりぶん殴って頭蓋骨を開く!
ただ、それだけではそう時間もかからず回復してしまう。その前に、私は――
「つぉ……りゃああああああああっっっっっ!!!!!!」
トーゴさんの打ってくれた両刃直刀の脇差を、頭頂部から頸椎に向けて鍔の根元まで突き立てた……!
「ギャオオォォ……ギャアアァァァァァ……!!」
「くっ、この……っ! 暴れるんじゃ、ない、わよ……!」
いい加減しぶといそのドラゴンは、しかし、私が突き立てた脇差をねじり入れると……流石に脳幹を破壊されてはひとたまりもなかったようで、ゆっくりと岩場に倒れてそのまま絶命したのだった。
---
エリナさん回です。ここ最近で一番擬音使ったんじゃねえかなコレ。
クララさんの見せ場を作るために前回のトーゴさんより若干苦戦する感じ入れてます(超メタ発言
次回更新は06/18の予定です!
トーゴさんにアサルトドラゴンの方を任されてからしばらく時間が経っても、私は相変わらずこの厄介者に手を焼いていた。一応1発もクリーンヒットは許していないけど、とにかく脇差で攻撃を受けるだけでも衝撃が大きすぎる。
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「っ、アンチファイアシールド!!!!!」
何度目か、そう、何度も繰り返された前兆を察知して、瞬時に私は覚えたての防御魔法を展開する。少し遅れてアサルトドラゴンの口から放たれる灼熱の炎。……遮熱機能も抜群のアンチファイアシードを使っているというのに、何でこんなに熱が伝わってくるんだろう……!
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
……最悪だ、ジリ貧だ。
近くまで寄れば爪付きの腕が襲ってくるし、少し距離をとればテイルアタック。尻尾が届かない場所に移動したら、今度はさっきみたいに灼熱の炎が襲ってくる……近中遠、全てに隙がないなんて流石に手を焼くだけはあるわね……!
しかも――
「ギャオオォォッ!!」
「っ、ちい……っ!」
スピードも速い! 普通に乗用車が一般道を巡行するのと同じくらいのスピードを、平気な顔をして緩急なしで出してくる! ただでさえ前フリがないのに、一瞬の反応が遅れたら一気にもっていかれそうだ!
「っく、こ、のおおおっ!!!」
バチィィィィィィィン!!!!
「ギャアァッ!!」
「く……っ、やっぱり、通らない……!」
しかもさらに悪い事に、このアサルトドラゴンも相当に硬い。何でも魔法で硬化させているとかいう話だけど、それ以前に鱗の1枚1枚が大きめで厚くて、どこを通していいかが全然分からない!
まあ、トーゴさんが相手しているロックドラゴンよりは硬くないかもしれないけど……それにしても、どこを攻撃すればいいのやら……!
「ギャオアァッ!!」
「っく、甘い!!」
中距離で襲ってくるはテイルアタック! 振りの感じからすると下段、太もも付近! させるもんですか、しっかり受け切ってやる!!
「よしっ――え?」
受け切った、確かに受け切ったはずだった。
それなのに、何故か私は背中の痛みと共に空を見上げていた――
「っ、ロックショット!!!!」
「ギャオオォォオオオオォォォッ!!」
考えるどころか息つく暇もなく、視界にチラリと映ったアサルトドラゴンの眼に向けてロックショットを放つ。ひるんだ隙に素早く離脱し、何があったのかと元居た場所を見ると――
「……なるほど、受け切れなかった先端で私の足を引っかけたのね」
頭がいい。実在非実在はともかく、流石にこっちの世界でもドラゴンは知能が高い生き物ってことでいいのか。一瞬でも判断が遅れてたらと思うとぞっとしない。
でもこれで、今度は油断せず最後まで受け切ればいいだけね……って
「っつう……!」
まずい……っ! さっきの転倒で背中を痛めた……!? 頭は……ぶつけていないから大丈夫、尻尾の先端に引っかけられた左足首も痛いわね……!
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「っ、アンチファイアシールド!!!!!」
痛みで脳も体もうまく働いてくれないけど、アサルトドラゴンの炎が飛んでくるこの距離はまずい! それだけはわかる!
かといって不用意に近づけば今度こそ受け止めたりかわしたり出来る自信がないし……ああもう、このままだとみんな危ないのに! どうすればいいの! 動いて、動いてよ、私の体!!!
「っ、エクスヒール!!」
軽くパニックを起こした私の耳にその声が届いた瞬間、突然体の痛みと動きの重さがなくなる。エクスヒール、って聞こえたけど……今の声、まさか!
「クララさん、まさか貴女が……!?」
「はあっ、はあっ、はあっ……う……っ」
クララさんの返事が聞こえる事なく、私の後ろで誰かが力なく倒れる気配がする――
「クララ!!」
「クララさん!?」
「振り向か、ないで……! エリナさん、後は、任せます……!」
小さく、それでいてしっかりはっきり聞こえたクララさんのセリフ。ということはやっぱり今のは、魔力切れの強制脱力……
「ごめん、なさい。サラ、さん。泣いて、ばかりじゃ、役に、立ちません、よね」
「ばかやろぉ……だからって、何でこんな極端な事……!」
私の後ろでは覚悟を決めたクララさんの声と、彼女を介抱するサラさんの涙声が聞こえる。……うん、そうね。私がこのドラゴンを討伐するって決めたんだもの。ここまでされて、はいそうですかで終われるものですか!
「そろそろカタ、つけさせてもらうわよ!」
頭の中がいやに冷めている。さっきまで攻めあぐねて、混乱して、動かなかったとは思えないほど冷静に戦況を見極め勝機を叩き出す。
――アサルトドラゴンは確かに強い。パワーもスピードも遠距離攻撃も、どれをとっても脅威だ。おまけに頭も悪くない。1等級の冒険者が大規模パーティーで挑むというのも分かる気がする。
でも、正直それだけだ。
頭は悪くないけど、おそらく実戦経験が著しく足りない。そして体についても身体能力に目をつぶれば、あくまで大型爬虫類というドラゴンの域を出ていない。
「ギャアアアァァァァァァァァ!!!!!!」
「それはもう見た! アンチファイアシールド!!!!!」
近距離、中距離、遠距離それぞれに最適な技を持っている。けど、最適すぎてそれしか使わない悪癖も認められる。それなら、対応策はいくらでもある……!
アンチファイアシールドを展開して炎を防ぎながら、ドラゴンの爪の間合いまで距離を詰める。私に炎の向こう側が見えないのと同じで、向こうも炎の先の私が見えていない。それなら――
「ギャアァ――ア?」
突然懐に現れた私の姿を見て、アサルトドラゴンが明らかに動揺する。私はドラゴンを動揺させたまま――腰に忍ばせた投げナイフを、ドラゴンの左眼に目掛けて抜き打った。
「ギャオオォォオオオオォォォッ!!」
――ここから先は、もう考えるより先に体が動いていた。
眼を潰した左側から、瞬時にドラゴンの後頭部に移動。脇に挿した十手を抜いて、そのまま……ドラゴンの頭蓋骨正中に、思いっきり鋭角の面を叩きこむ。
「―――――――――ッッッッッ!!!!!!」
先程のような雄たけびを出す余裕もなく、ただ悶絶するアサルトドラゴン。確かにドラゴンらしく、鱗も硬く骨も肉も丈夫だ。普通にやったところで、私の装備では傷ひとつつけられない。
でも、だからこそ――ドラゴンにもある弱点を攻め立てる。
人間にもある頭蓋骨の継ぎ目、その中でも体の真ん中を走向している矢状縫合。鱗も何故か手薄になっているその部分を、思いっきりぶん殴って頭蓋骨を開く!
ただ、それだけではそう時間もかからず回復してしまう。その前に、私は――
「つぉ……りゃああああああああっっっっっ!!!!!!」
トーゴさんの打ってくれた両刃直刀の脇差を、頭頂部から頸椎に向けて鍔の根元まで突き立てた……!
「ギャオオォォ……ギャアアァァァァァ……!!」
「くっ、この……っ! 暴れるんじゃ、ない、わよ……!」
いい加減しぶといそのドラゴンは、しかし、私が突き立てた脇差をねじり入れると……流石に脳幹を破壊されてはひとたまりもなかったようで、ゆっくりと岩場に倒れてそのまま絶命したのだった。
---
エリナさん回です。ここ最近で一番擬音使ったんじゃねえかなコレ。
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