11 / 26
未練そして旅立ち
しおりを挟む
すべてが夢だったのだと理解するには時間がかかった。あれほどうざく感じてたミルカがとても愛おしく、同時に恐ろしくもあの美しい妖子の魅力と痺れるような体験が忘れられない。あれから何度もアパートメントへ行こうとしたが、何者かがそれを引き留める。もしかしたらミルカなのだ、と僕は思った。そしてあの悲惨な死に顔を思うと足は止まった。同時に妖子がその死に何かかかわりがあるのでは?と言う疑惑も振り払えなかった。
その一方で僕はそれらを忘れるために勉学にいそしんだ。あれほど落ち込んでいた成績も一気に回復しトップの成績で卒業した。卒論は優秀だと好評で異例の学術誌からの執筆の依頼まで来た。その上、大学の研究室に残るように薦められたが
もうこの地を離れたかった。あのことを思い出すのは胸が苦しかった。夢だと言うのに。いや、半ば僕は夢だとは思ってなかったのかもしれない。 結局、実家のある関東に帰ることにした。幸運にも東京の企業に就職できた。悲劇のミルカは忘れようとしたが、妖子の白い肌と赤い唇、獲物を射るような眼差しは忘れようにも忘れられなかった。どこか遠くでまだ僕を呼んでいた。未練の欠片を残したまま、僕は古都を引き払った。胸にはあの赤いアザがくっきりと刻まれたまま。
出立の数日前に意外な記事を新聞で読んだ。ある有名な作家が学生時代を過ごしたこの地での思い出を語ったものだったが、そこにあの月日荘が出てきたのだ。作家は友人が入居したあのアパートメントに足しげく通い、そこで奇妙な体験をしたと言う。管理人はうつくしい未亡人で、彼女目当ての学生も居たと言う。ところが、あまりに彼女に付きまとい口説き倒したひとりが行方不明になったのだ。山へ行くと言い残していなくなった。そして作家は夢を見た。不明になった学生が未亡人に化けた白蛇に飲み込まれる夢を。馬鹿馬鹿しい夢だが、作家はその夢を元に小説を書きデビューしたのだった。僕はその記事を読んで動揺した。美しい未亡人の管理人はあの妖子なのか?作家はもう還暦を過ぎていた。半世紀前の話である。女が同一人物だとしたら?魔物の気配がした。僕の夢と作家の夢。現実と夢幻。新聞を持つ手が小刻みに震えた。早くこの地を去ろう、と僕は唇を噛んだ。
その一方で僕はそれらを忘れるために勉学にいそしんだ。あれほど落ち込んでいた成績も一気に回復しトップの成績で卒業した。卒論は優秀だと好評で異例の学術誌からの執筆の依頼まで来た。その上、大学の研究室に残るように薦められたが
もうこの地を離れたかった。あのことを思い出すのは胸が苦しかった。夢だと言うのに。いや、半ば僕は夢だとは思ってなかったのかもしれない。 結局、実家のある関東に帰ることにした。幸運にも東京の企業に就職できた。悲劇のミルカは忘れようとしたが、妖子の白い肌と赤い唇、獲物を射るような眼差しは忘れようにも忘れられなかった。どこか遠くでまだ僕を呼んでいた。未練の欠片を残したまま、僕は古都を引き払った。胸にはあの赤いアザがくっきりと刻まれたまま。
出立の数日前に意外な記事を新聞で読んだ。ある有名な作家が学生時代を過ごしたこの地での思い出を語ったものだったが、そこにあの月日荘が出てきたのだ。作家は友人が入居したあのアパートメントに足しげく通い、そこで奇妙な体験をしたと言う。管理人はうつくしい未亡人で、彼女目当ての学生も居たと言う。ところが、あまりに彼女に付きまとい口説き倒したひとりが行方不明になったのだ。山へ行くと言い残していなくなった。そして作家は夢を見た。不明になった学生が未亡人に化けた白蛇に飲み込まれる夢を。馬鹿馬鹿しい夢だが、作家はその夢を元に小説を書きデビューしたのだった。僕はその記事を読んで動揺した。美しい未亡人の管理人はあの妖子なのか?作家はもう還暦を過ぎていた。半世紀前の話である。女が同一人物だとしたら?魔物の気配がした。僕の夢と作家の夢。現実と夢幻。新聞を持つ手が小刻みに震えた。早くこの地を去ろう、と僕は唇を噛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる