紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第一章 夢の世界で俺は自由に生きる!!

挨拶はファイヤーボール

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 竜を倒したホームレスの三嶋健太郎みしまけんたろう(24)は気絶から目覚めた後、出口を求めて自然石で出来た巨大な地下迷宮を当ても無く彷徨っていた。
 この状況を趣味のゲームが出来なくなった事による願望の現れが見せる夢だと思っていた彼は、特に焦る事も無く、その内、目も覚めんだろと取り敢えず状況を楽しむ事にした。

 ちなみに健太郎が起きた時には倒した竜の姿は忽然と消えていた。
 周辺には血の跡らしきシミが所々地面を黒く染めていたので、別のモンスターが食べたのだと考えられる。
 あの悪食の竜も死ねば食物連鎖の中に消えていく……諸行無常だなぁ。

 そんな訳で適当に洞窟を歩いていた彼は、あの後、何体かのモンスターに襲われ交戦し、その全てを撃退していた。

 難しいゲームもやりがいがあるけど、無双できるとやっぱスカッとするな!
 何か倒すたびに強くなってるみたいだし! 体がペカペカ光るのはアレだけど……。

 ただ、戦闘ばかりだと流石に飽きるなぁ……ここら辺で何かイベントでも……。

 そんな事を考えながら、竜の牙から作り出した大剣を担いで歩いていた彼の耳に甲高い悲鳴が聞こえてくる。

 来たかイベント!! 声の感じだと女……えへへッ、ここは定番のオークに襲われるエルフとかでお願いします!!

 自分の性癖を言ってニヤつきながら、健太郎は声の方向へと走った。
 走っている内に背中からなにやら駆動音が聞こえ、体が浮き上がり一気に加速する。

 わわっ!? 何だよコレ!? そうか、この体ってロボットって設定だった!! さっきの駆動音は多分、背部スラスターの……。

「お助けえぇぇぇぇぇぇぇ…………」

 健太郎の願いとは違い襲われていたのは魔法使い風の女性で、襲っていたのは巨大なムカデだった。
 それはまぁいいのだが、問題は加速した体は女性とモンスターの横を勢いよく通り過ぎた事だ。
 ドップラー効果を発生させながら遠ざかる助けを呼ぶ声。

 うおおおい!? 止まれよッ!! イベント無視してんじゃねぇよ!!

 健太郎は言う事を聞かない体に文句を言いつつ、大剣を岩の地面に突き立てる。
 ガリガリと岩の地面を削り、やがて固定された剣を起点にクルリと180度旋回し、女性を襲っていたムカデに照準を合わせた。
 大剣を腰だめに構え、黒い甲殻で覆われたムカデの背中にランスのチャージ攻撃の要領で攻撃を仕掛ける。
 ブースト加速を伴った大剣の一撃は装甲を突き破り、その衝撃によってムカデの体を爆散させた。

 一撃!? きっ、気持ちいい!! よし、今の攻撃を疾風一閃しっぷういっせんと名付けよう。疾風の速さで敵を討つ……我ながら超格好いい……てかもういいよ。もう降ろしてよ! ちょっ、このままだとフラグが!?

 健太郎の意思を無視して背部スラスターは燃焼を続け、ムカデから立ち昇った粒子を吸い込み体から白い光を放ちつつ、ポカンと口を開けた女性を残し遠く飛び去った。



「……何だいありゃ? ゴーレム?」

 茶色の短いマントに暗い紫色のトンガリ帽子と同色のローブを着た赤い髪の女性は、杖を握り締めへたり込んだまま、飛び去った何かを茫然と見送った。


■◇■◇■◇■


 数分後、推進剤が尽きたのか健太郎はようやく地面へと降りる事が出来た。

 まったく冗談じゃ無い!! スラスターはコントロール出来るからカッコいいんでしょうがッ!? ロケット花火じゃないんだから……そこんトコちゃんとしてよねッ!!

 夢を見せているであろう、自分の無意識に対してプリプリと文句を述べつつ、遠ざかってしまった恐らく魔法使いであろう女性の下へと急ぐ。
 やがて先程、女性が巨大ムカデに襲われていた場所に辿り着いたが、そこにはもう彼女の姿は無く健太郎が倒したムカデの残骸が残るだけだった。

 クッ、フラグが折れたか……まぁいい、どうせ夢だ。……しかし、長い夢だな……一回気絶したし……でもまぁ、夢の中の時間って、感覚も曖昧だしなぁ……。

 そう思い歩き出そうした健太郎の背中に巨大な炎の塊、いわゆるファイアーボールが放たれた。
 火球は健太郎の背中に当たると爆発し彼を中心に炎を撒き散らした。

「やった!?」

 明かりの灯った杖を掲げ、火球を放った女は爆発が生み出した煙の中の標的に目を凝らす。
 その濛々と上がる煙の中、まるで宇宙から狩りを楽しむ為にやって来た宇宙人の様なシルエットと、緑に光る目が浮かんでいた。

「コホー」
「ひぃッ!? やっぱりファイヤーボールじゃ倒せないぃ!?」

 ジャリッ、岩の地面を踏みしめる音が聞こえ人影が女ににじり寄る。

 フフフッ、お姉さん、随分と手荒い挨拶じゃないか? ……そうか、怯えていたんだね? 怖くない。うん、怖くないよ。お姉さん……俺は悪いロボットじゃないよ。

「コホーッ」

 青き衣の少女と青い頭と黄色い触手を持ったモンスターを想像しつつ、そう心の中で語り掛けながら健太郎は女性に歩み寄った。

「ひぇええ!! こっちに来ないでおくれよ!! 攻撃した事は謝るからさ!! そうだ!! お金も、見つけた素材もやるからさ!! だから後生だ、命だけは取らないでおくれよぉぉ!!」

 ……いや、追剥じゃないんだから……大丈夫、何もしないよ……。

「コホー」

 そう心の中で言いつつ、健太郎は左手を差し出しながら女に歩み寄った。
 女は尻もちを突き、嫌々と首を振り後退りしながら瞳に大粒の涙を溜めている。

「た、頼むよぉ……勘弁しておくれぇぇ……」

 はぁ……だから何もしないって言ってるでしょうがッ!!

「コホーーーッ!!」
「ひぅ……」

 一際大きく呼吸音に似た音が響くと赤い髪の女は限界を迎えたのか、クルリと白目を剥きそのまま仰向けに倒れた。
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