紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第一章 夢の世界で俺は自由に生きる!!

青いゴーレムと赤い髪の魔法使い

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 瞳を開けると岩の天井をオレンジ色の光が照らしていた。
 確か、甲冑みたいなゴーレムに襲われて……。

 その事を思い出した赤い髪の魔法使いミラルダは、ガバリッと勢い良く身を起こした。

「コホー」
「ひぃッ!!」

 焚火の向こうには、気絶する前に自分ににじり寄って来たゴーレムが胡坐を掻いて座っている。
 ミラルダはそのゴーレムから離れようと踵で地面を擦り後退りした。

 するとおもむろにゴーレムが立ち上がり、彼女の傍に歩みを進める。

「こっ、こっちに来るんじゃないよッ!! あっ、あたしを生け捕りにして、なななっ、何が目的だい!? おおっ、お金!? そっ、素材!? そっ、それとも……まさかあたしッ!?」
「コホー……」

 叫びながら両手で自分自身を抱く様に身を縮めたミラルダを見て、その青いゴーレムはカリカリと頭を掻き、再度、元居た場所で胡坐を掻いた。



「……もしかして……襲う気は無いのかい?」
「コホー」

 ゴーレムの瞳が緑の閃光を放ち、うんうんと首が縦に振られる。

「……じゃあ、一体、何が目的なのさ?」
「コホー?」

 ミラルダがそう問うと、ゴーレムは腕を組んで首を捻った。

「どういう事だい? 自分でも何がしたいのか分からないってのかい?」

 今度の問いにはゴーレムはブンブンと首を横に振った。
 振り過ぎて首が一回転した時には思わず悲鳴を上げてしまったが、その後のジェスチャーでの対話でこのゴーレムは何がしたいかは決まっている様だが、ここが何処なのか、どういう状況で何故自分がここにいるかは分からない様だった。

「しょうがないねぇ、いいだろ、私がここが何なのか教えてあげるよ。そのかわり……」


■◇■◇■◇■


 健太郎けんたろうの体が出した呼吸音のような音で気絶した、真っ赤な髪の魔法使い風の女性。
 年の頃は二十代半ばに見える女性を観察しながら健太郎は思う。この場合、どうすればイベントのフラグが立つのだろうかと。
 彼女は気絶する前、健太郎に命乞いをしながら後退りしていた。
 恐らく彼女は健太郎の事も、自分を襲ったムカデと同じモンスターだと思っていたのだろう。

 しかし面倒な夢だ。大体、夢なんだから出会う女性が、みんな無条件で俺を好きになってもいいじゃないか。
 それにこの体もそうだ。何だよロボットって? もし好きになって貰えたとしてもエロい事、何も出来ないじゃん!

 ……まぁ、現実でもアレだった訳なんですけど…………。

 まっ、まぁ、昔の事は置いておいて、今はこの女性の事だ。

 ふむ……まずは自分が無害なロボットであるという事をアピールせねば。
 取り敢えず、それを分かって貰えたら、この夢世界の設定を聞こう。
 どうせ夢なのだ、この女性も自分の無意識が作り出したに違いない。なら会話をすればどんな世界なのか分かる筈……あっ、俺、喋れないじゃん……。

 クッ、計画が初期段階で頓挫するとは……いや、まだだ! まだ終わらんよ! そう、まだ俺にはジェスチャーという方法がある!!

 気を取り直した健太郎は彼女が目覚めた時、なるだけ好感触を抱く様に周囲の環境を整える事にした。
 もう一度、女性に目をやると心無しか顔色は青ざめている様に見えた。それに少し震えてもいる様だ。
 自分は感じないが、この洞窟は結構寒いのかもしれない。

 ……確か、少し前に倒した敵に樹の巨人、トレントみたいなのがいたな……よし。

 健太郎は女性を小脇に抱えると、竜の牙の大剣を担ぎ樹の巨人を倒した場所を目指し移動を始めた。

 そして、移動後、倒した樹の巨人の残骸を擦り合わせ、種火を熾すと焚火を焚いてその横に彼女を横たえた。
 火熾しには手間取ったが、映画で見た地面に穴を掘り空気の通り道を作るというのを思い出して、それを参考に何とか種火を得る事に成功した。

 成功した時は思わずテンションが上がりファイヤー!! ファイヤー!! と心の中で叫びながら大量に有った巨人の残骸に火をつけてしまい物凄い炎が上がってヤバッって感じになったが、急いで大剣を振り下ろしその爆風で何とか消火した。

 危ない所だった。

 その後は女性が起きるのを待ち、先ほどの場面に至ったという訳だ。

「そのかわり……あたしをこのダンジョンから連れ出して欲しいんだ」

 連れ出す? どういう事だろうか?
 素材を集めていたという事は、彼女はゲーム的に考えれば冒険者、探索者と呼ばれる者の一人だと思うのだが、そんな者なら出口ぐらいは分かるのでは?

 腕を組み、首を捻った健太郎に言い難そうに女性は答える。

「転移の罠を踏んじゃってさぁ……多分、相当深い階層に飛ばされたみたいなんだよね」

 転移……石の中にいなくてよかったね! そんな感想を抱きつつ、健太郎はうんうんと頷きを返した。

 では上を目指すのだな? その意味を込めて右手で天井を指差す。

「そう。上に行きたいんだけど……連れてってくれるかい?」

 そう言って女性は青い瞳を潤ませた。

 ふむ、何かを頼まれるいったシチュエーションは勿論初めてでは無いが、縋る様に人に頼られるというのは中々に良い気分であるな。
 ……会社じゃこんな感じじゃ無く、これお願いって感じで丸投げだったし、やった所で感謝も何も無かったからなぁ……止めよう! 夢にまで辛い記憶を持ち込む事は無い!

 よし、まずは彼女を地上まで送り届ける事を夢世界での目標にしようではないかッ!!

「コホー」

 呼吸音を立てながら力強く右手を突き出し親指を立てた健太郎に、彼女は駆け寄り「ありがとう!!」と言いながら首に抱きついた。

「コッ、コホーッ!?」

 あわわっ!? いっ、いきなり何をするだあ!!!

 健太郎がどぎまぎしていると、彼の首に腕を回していた女性が形の良い鼻をスンスンと鳴らす。

「ん……グエッ! くっ、臭いッ!! あんた、なんかすごく香ばしい、そう、田舎の畑みたいな臭いがするよッ!?」

 そう言いながら女性はズザザッと音を立て健太郎から距離を取った。

 あー、それな……溶岩で飛んだかと思ったが、竜のウンコはかなり頑固な汚れだったようだ……まぁ、口から火を吐くような奴のウンコだもんな……。

「コホー……」

 少し悲しそうに呼吸音が鳴ると、女性は少し気まずそうに口を開いた。

「……わっ、悪かったよ…………そうだ! この階層にも水場はある筈だから、まずはそれを探そうじゃないか。そしたらあんたの体も綺麗に出来るよ!」

「コホー」

 健太郎が頷き返すとミラルダは両手を合わせうんうんと頷いた。

「そうそう、あたしはミラルダ、見ての通り魔法使いさッ! えっと、それであんた名前は……?」

 俺は三嶋健太郎みしまけんたろう、ホームレスで今はロボットさッ!!

「コホーッ!!」
「はぁ……喋れないと名前も分からないねぇ……じゃあ、あたしが付けてあげるよ。そうだねぇ……」

 顎に手を当てミラルダは健太郎の体を頭の先からつま先まで眺め、うんと一つ頷いた。

「決めた。あんたは今日からドラ〇もんだよ!」

 ドラ〇もん……だと?

「青いし、ゴーレムだし、ピッタリだろ!」

 いやいやいや、待ってくれ。俺は未来の便利道具とか出せないし、今の顔とか見れてないけど絶対猫型じゃ無いと思うんだが……てか、何でファンタジー世界で、少し不思議な世界のロボットの名前が出てくんだよ。

 健太郎がやはり夢は記憶がごちゃるなぁと肩を竦めて首を振ると、ミラルダは自分の命名が不満なのかと憤慨した様子を見せた。

「何だい! いいじゃないか、ドラ〇もん! 子供にも大人にも大人気なんだよッ! それとも何かい、他に候補があるってのかい!?」

 名前か……伝わるかどうかわからないが、取り敢えず健太郎は自分の名前を書いてみる事にした。
 岩の地面を人差し指で抉り日本語で、"三嶋健太郎"と書き記してみる。

「ん? どれどれ……あれ、これって転生者の使う文字じゃないか」

 転生者、そういうのもいるのか? そういえば今シーズンの新しいアニメは異世界転生が多かったから、無意識に刷り込まれていたんだろうな……。はぁ……リアルタイムで見たかったなぁ……。

 そんな感傷を健太郎が抱いている間にも、ミラルダは彼が書いた名前を解読していく。

「……えーと……み……やま……しま……次のは読めないねぇ……た……これも分からない……うーん、読める所だけ繋げて……ミヤマシマタ……おかしな名前だねぇ」

 自分でおかしくしといて、おかしな名前は無いだろう!!

「コホーッ!!」
「ああ、ごめんごめん……なになに、これと、これ?」

 ミラルダは両手を振り上げ怒りのジェスチャーをした健太郎に、微笑みながら謝る。
 そんなミラルダに健太郎は仕方なく彼女の読める漢字の"三"と嶋の"島"部分を指差した。

「み、しま? ミシマでいいのかい?」
「コホーッ!」

 健太郎は大きく頷きながら両手で丸を頭の上に作った。
 喜びの感情に反応したのか、背部の噴射口が開きブシューッと蒸気が噴き出す。

「ひぇッ!? いっ、いきなり変な事するんじゃないよッ!!」
「コッ、コホー……」

 メンゴメンゴと左手を立て、右手でポリポリと頭を掻いた健太郎を見て、ミラルダはふぅと嘆息した後、しょうがない奴だねぇと苦笑を浮かべた。
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