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第二章 会社組織はもう御免
あんたと一緒なら
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額から発せられた光によって、図らずも地上への直通路を得た健太郎とミラルダは、それぞれが地底湖で竜の糞で汚れた体を洗い、健太郎はタオルで水気をふき取り、ミラルダは石柱の影で予備の服に着替えた。
「さて、サッパリした所で帰るとしようか?」
「コホーッ」
了解。所でミラルダ、本当にこんな虫が金貨五枚の価値があるの?
黄金コガネを鞄から一匹取り出し、小首を傾げた健太郎にミラルダはニヤリと笑みを浮かべる。
「なんだい、本当にお金になるのか心配なのかい? 安心しなよ、その虫の甲殻は加工されて装飾品や装備品の原料になるんだけど、生きてないとすぐに強度が落ちるんだ。その強度が落ちない様に加工するのが難しいのと、希少だって事で貴族の間じゃ今もてはやされてんのさ。フフッ、まさか貴族連中はそいつが竜の糞に集ってるとは思ってないだろうけどね」
「コホー……」
なんか、リアルで聞いた事のある猫の糞から取れるコーヒーの事を思い出すなぁ……。
あのコーヒー凄く美味しいらしいけど……。
「そういう訳だからさ、きっと修理代も払える筈さ」
「コホーッ!」
そうだね。きっと大丈夫だよね!
笑みを見せたミラルダにギュッと親指を立てると、健太郎はカシャンと音を立てて金色の歯を見せ微笑んだ。
「フフッ、大分慣れて来たよ、それ。……所でさ……その、修理代をリゼルに払ったら……あのさ……」
ミラルダは急にモジモジし始め、酷く言い辛そうにチラチラと健太郎を見ている。
「コホーッ?」
なんだい? 俺は君を幸せにしたいと思ってるから、遠慮せずに何でも言ってよ。
両手を振りカモンカモンとミラルダにアピールすると、彼女は上目遣いで健太郎を見ながら囁いた。
「あのさ……修理代を払ったら……あたしとパーティを組んで欲しいんだ……駄目かい?」
「コホーッ!!」
駄目な訳あるかーいッ!! トーマス君にも頼まれたし、こっちからお願いしたいぐらいだ!!
ミラルダの言葉に健太郎は若干食い気味に頷き、両手の親指をグイッと立てた。
「あ……ありがとうッ!!」
それを見たミラルダは目尻に涙を貯めて、微笑みながら健太郎に抱きついた。
「コッ、コホーッ!!」
ミッ、ミラルダッ!! 君の喜びの表現は初心な日本人には刺激が強すぎるよぉ!!
そう言って慌てながらも、健太郎はこの真っすぐな半獣人の女の子に必ず居場所を作ろうと改めて思った。
■◇■◇■◇■
地上への直通路を通り街に戻った健太郎とミラルダは門衛から言われ家に帰る事無く、直接リゼルの屋敷に向かう事になった。
ミラルダの家を見た時、日本人的な感覚でお屋敷だと感じたのだが、リゼルの屋敷を見てお屋敷というのは本当はこういう物を言うのだと認識を改めた。
健太郎がそう思うぐらいリゼルの屋敷は広く大きく、そして美しかった。
はぁ、お金ってのはやっぱり持ってる奴の所に集まる物なんだなぁ。
ため息を吐いた健太郎に、謁見室だろう部屋の奥、壇上に座ったリゼルが問いかける。
「ゴーレム君、随分早かったじゃないか? もしかして諦めて僕の騎士団に入る事にしたのかい?」
「コホーッ」
お金の当てが出来たから帰って来ただけだよ。
そうジェスチャーで伝えるとリゼルは眉根を寄せる。
「本当に修理代を? ……良ければどうやって工面するか聞いてもいいかい?」
「コホーッ」
健太郎はリゼルの言葉に頷くと、鞄から黄金コガネを取り出した。
冷やされ冬眠中だった為かコガネは健太郎が抱えても、足を丸めほんの少し触覚を動かしただけだった。
「そっ、それは黄金コガネッ!? だっ、だけど、それ一匹じゃ金貨三百枚には……」
「あの……大量に捕獲したので修理代を賄う事は出来る筈です」
「大量ッ!? 黄金コガネをかいッ!?」
ミラルダの言葉を聞いたリゼルの顔に欲に塗れた歪んだ笑みが浮かぶ。
「……どうだろう。修理代と引き換えに何処で手に入れたか教えてくれないか?」
「……どうするミシマ?」
「コホーッ……」
どうするべきか……教えてもいいが、ニヤついているリゼルに素直に教えるのも癪に障る。
恐らく彼はコガネの場所を知れば騎士団を派遣し乱獲するつもりだろう。
そうなれば希少だというコガネは絶滅してしまうかもしれない。
それにミラルダの居場所を確保する為に収入源は多い方がいい筈だ。
そう結論付けた健太郎は、静かに首を振った。
「……教えない……そうかい……仕方ない、こういう手段は取りたく無かったが……」
リゼルはニヤッと笑うと、右手を掲げパチンッと指を鳴らした。
その指の音に合わせ天井から鋼鉄で出来た檻が落下し健太郎とミラルダを閉じ込める。
「これはッ!? リゼル様、どういう事ですッ!?」
「フフッ、ドラゴンを倒し、今まで生息地が分からなかった黄金コガネを大量に捕まえた。そんな優秀なゴーレムを一般人の君に所有させておく訳にはいかない」
「コホーッ!!」
リゼル、お前ッ!!
「ブシューッ!!」
健太郎の怒りの声で背中の放熱板から大量の蒸気が噴き出した。
「フフッ、怒っても無駄さ。君達には期限までの二週間、まぁ、あと一週間ほどか。ここで過ごしてもらうよ」
「コホーッ!!」
汚いぞッ、リゼル!!
「ブシューッ!!!!」
蒸気の噴出は更に勢いを増す。
「クッ、君は怒りの表現もうるさいな」
「ミシマ、あんまり興奮するんじゃないよ」
ミラルダが健太郎を宥めたが、それでは治まらない程、彼は怒りを感じていた。
その怒りの理由、リゼルのやり方は健太郎の過去を呼び起こしていたのだ。
支払われない残業代。色々理由をつけて給料から天引きされる謎の諸経費。不誠実な対応への憤りと怒りの記憶がリゼルのやり方と重なり、その憤怒によって噴き出す蒸気は部屋を白く染めていく。
それに合わせ室内の温度が上昇し、抱えていた黄金コガネがワキワキと動き始めた。
「コッ、コホーッ!?」
わっ、きっ、気持ち悪ッ!!
虫が苦手な健太郎はその動きを見て思わずコガネから手を離した。
健太郎から逃れたコガネは背中の羽根を広げ、ブイイイッと宙を舞い檻の隙間から抜け出すと真っすぐにリゼルに向かって飛び、映画で見た寄生するタイプの宇宙生物チックにガッチリとその顔にしがみ付いた。
「グワッ!? なんだこの何とも言えない臭いは!?」
「リゼル様!?」
「クッ、何をしている早く引き剥がせッ!!」
「はっ、はいッ!!」
ヒャッハーなリゼルの部下達がコガネを引き剥がそうと群がるが、コガネは威嚇する為、足の関節部分から臭気を撒き散らした。
「グッ、グエェ……クセェッ!!!」
「めっ、目がぁ、目がぁあ!!?」
リゼルの部下は一斉に主から離れ、涙目になりながら手で口元を押さえた。
視線をその主に向ければ、コガネにしがみ付かれたリゼルは泡を吹いて白目を剥いていてる。
その様子を見た健太郎は、今がチャンスとばかりに檻の鉄格子に手を掛けるとグイッと引き開けた。
恐らく鋼鉄で作られたであろう檻は、粘土細工の様にひしゃげ人が通り抜けられるだけの隙間を作り出す。
振り返り茫然としているミラルダに健太郎は手を差し出した。
「コホーッ!!」
行こう、ミラルダ!!
「……」
差し出された手を取るべきか一瞬、ミラルダは躊躇した。
相手は貴族だ。逆らえばこの街で暮らせなくなるかもしれない。
カシャンと音がして健太郎の金色の牙がむき出しになった。
「……そうだね。あんたなら、あんたと一緒なら誰が相手だって、どこでだって……」
そう言うとミラルダは差し出された健太郎の金属で出来た手をギュッと握った。
硬く冷たい筈のそれは彼女には何故か柔らかく、そして暖かく感じられた。
「さて、サッパリした所で帰るとしようか?」
「コホーッ」
了解。所でミラルダ、本当にこんな虫が金貨五枚の価値があるの?
黄金コガネを鞄から一匹取り出し、小首を傾げた健太郎にミラルダはニヤリと笑みを浮かべる。
「なんだい、本当にお金になるのか心配なのかい? 安心しなよ、その虫の甲殻は加工されて装飾品や装備品の原料になるんだけど、生きてないとすぐに強度が落ちるんだ。その強度が落ちない様に加工するのが難しいのと、希少だって事で貴族の間じゃ今もてはやされてんのさ。フフッ、まさか貴族連中はそいつが竜の糞に集ってるとは思ってないだろうけどね」
「コホー……」
なんか、リアルで聞いた事のある猫の糞から取れるコーヒーの事を思い出すなぁ……。
あのコーヒー凄く美味しいらしいけど……。
「そういう訳だからさ、きっと修理代も払える筈さ」
「コホーッ!」
そうだね。きっと大丈夫だよね!
笑みを見せたミラルダにギュッと親指を立てると、健太郎はカシャンと音を立てて金色の歯を見せ微笑んだ。
「フフッ、大分慣れて来たよ、それ。……所でさ……その、修理代をリゼルに払ったら……あのさ……」
ミラルダは急にモジモジし始め、酷く言い辛そうにチラチラと健太郎を見ている。
「コホーッ?」
なんだい? 俺は君を幸せにしたいと思ってるから、遠慮せずに何でも言ってよ。
両手を振りカモンカモンとミラルダにアピールすると、彼女は上目遣いで健太郎を見ながら囁いた。
「あのさ……修理代を払ったら……あたしとパーティを組んで欲しいんだ……駄目かい?」
「コホーッ!!」
駄目な訳あるかーいッ!! トーマス君にも頼まれたし、こっちからお願いしたいぐらいだ!!
ミラルダの言葉に健太郎は若干食い気味に頷き、両手の親指をグイッと立てた。
「あ……ありがとうッ!!」
それを見たミラルダは目尻に涙を貯めて、微笑みながら健太郎に抱きついた。
「コッ、コホーッ!!」
ミッ、ミラルダッ!! 君の喜びの表現は初心な日本人には刺激が強すぎるよぉ!!
そう言って慌てながらも、健太郎はこの真っすぐな半獣人の女の子に必ず居場所を作ろうと改めて思った。
■◇■◇■◇■
地上への直通路を通り街に戻った健太郎とミラルダは門衛から言われ家に帰る事無く、直接リゼルの屋敷に向かう事になった。
ミラルダの家を見た時、日本人的な感覚でお屋敷だと感じたのだが、リゼルの屋敷を見てお屋敷というのは本当はこういう物を言うのだと認識を改めた。
健太郎がそう思うぐらいリゼルの屋敷は広く大きく、そして美しかった。
はぁ、お金ってのはやっぱり持ってる奴の所に集まる物なんだなぁ。
ため息を吐いた健太郎に、謁見室だろう部屋の奥、壇上に座ったリゼルが問いかける。
「ゴーレム君、随分早かったじゃないか? もしかして諦めて僕の騎士団に入る事にしたのかい?」
「コホーッ」
お金の当てが出来たから帰って来ただけだよ。
そうジェスチャーで伝えるとリゼルは眉根を寄せる。
「本当に修理代を? ……良ければどうやって工面するか聞いてもいいかい?」
「コホーッ」
健太郎はリゼルの言葉に頷くと、鞄から黄金コガネを取り出した。
冷やされ冬眠中だった為かコガネは健太郎が抱えても、足を丸めほんの少し触覚を動かしただけだった。
「そっ、それは黄金コガネッ!? だっ、だけど、それ一匹じゃ金貨三百枚には……」
「あの……大量に捕獲したので修理代を賄う事は出来る筈です」
「大量ッ!? 黄金コガネをかいッ!?」
ミラルダの言葉を聞いたリゼルの顔に欲に塗れた歪んだ笑みが浮かぶ。
「……どうだろう。修理代と引き換えに何処で手に入れたか教えてくれないか?」
「……どうするミシマ?」
「コホーッ……」
どうするべきか……教えてもいいが、ニヤついているリゼルに素直に教えるのも癪に障る。
恐らく彼はコガネの場所を知れば騎士団を派遣し乱獲するつもりだろう。
そうなれば希少だというコガネは絶滅してしまうかもしれない。
それにミラルダの居場所を確保する為に収入源は多い方がいい筈だ。
そう結論付けた健太郎は、静かに首を振った。
「……教えない……そうかい……仕方ない、こういう手段は取りたく無かったが……」
リゼルはニヤッと笑うと、右手を掲げパチンッと指を鳴らした。
その指の音に合わせ天井から鋼鉄で出来た檻が落下し健太郎とミラルダを閉じ込める。
「これはッ!? リゼル様、どういう事ですッ!?」
「フフッ、ドラゴンを倒し、今まで生息地が分からなかった黄金コガネを大量に捕まえた。そんな優秀なゴーレムを一般人の君に所有させておく訳にはいかない」
「コホーッ!!」
リゼル、お前ッ!!
「ブシューッ!!」
健太郎の怒りの声で背中の放熱板から大量の蒸気が噴き出した。
「フフッ、怒っても無駄さ。君達には期限までの二週間、まぁ、あと一週間ほどか。ここで過ごしてもらうよ」
「コホーッ!!」
汚いぞッ、リゼル!!
「ブシューッ!!!!」
蒸気の噴出は更に勢いを増す。
「クッ、君は怒りの表現もうるさいな」
「ミシマ、あんまり興奮するんじゃないよ」
ミラルダが健太郎を宥めたが、それでは治まらない程、彼は怒りを感じていた。
その怒りの理由、リゼルのやり方は健太郎の過去を呼び起こしていたのだ。
支払われない残業代。色々理由をつけて給料から天引きされる謎の諸経費。不誠実な対応への憤りと怒りの記憶がリゼルのやり方と重なり、その憤怒によって噴き出す蒸気は部屋を白く染めていく。
それに合わせ室内の温度が上昇し、抱えていた黄金コガネがワキワキと動き始めた。
「コッ、コホーッ!?」
わっ、きっ、気持ち悪ッ!!
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「グワッ!? なんだこの何とも言えない臭いは!?」
「リゼル様!?」
「クッ、何をしている早く引き剥がせッ!!」
「はっ、はいッ!!」
ヒャッハーなリゼルの部下達がコガネを引き剥がそうと群がるが、コガネは威嚇する為、足の関節部分から臭気を撒き散らした。
「グッ、グエェ……クセェッ!!!」
「めっ、目がぁ、目がぁあ!!?」
リゼルの部下は一斉に主から離れ、涙目になりながら手で口元を押さえた。
視線をその主に向ければ、コガネにしがみ付かれたリゼルは泡を吹いて白目を剥いていてる。
その様子を見た健太郎は、今がチャンスとばかりに檻の鉄格子に手を掛けるとグイッと引き開けた。
恐らく鋼鉄で作られたであろう檻は、粘土細工の様にひしゃげ人が通り抜けられるだけの隙間を作り出す。
振り返り茫然としているミラルダに健太郎は手を差し出した。
「コホーッ!!」
行こう、ミラルダ!!
「……」
差し出された手を取るべきか一瞬、ミラルダは躊躇した。
相手は貴族だ。逆らえばこの街で暮らせなくなるかもしれない。
カシャンと音がして健太郎の金色の牙がむき出しになった。
「……そうだね。あんたなら、あんたと一緒なら誰が相手だって、どこでだって……」
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