紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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閑章 新たな仲間と子供達

適性試験

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 フィッシュバーン伯爵領の領都クルベストに戻った翌日、健太郎けんたろう達は早速、冒険者ギルドに依頼達成の報告に向かった。
 ニコニコと笑うミラルダにギルド職員のクニエダが依頼達成書を確認し頷きを返す。

「確かにレフト村の村長、アダムさんの署名と村長印ですね」

 クイッと眼鏡を持ち上げ、クニエダは署名の横に依頼完了の判を押す。
 所で、とミラルダに達成書を手渡しながら、彼はミラルダの後ろにいたギャガンとグリゼルダに目を向けた。

「後ろのお二人は……?」
「ああ、獣人の方はギャガン、魔人の方はグリゼルダ。二人とも冒険者登録して欲しいんだ」
「冒険者登録……ですか?」
「獣人や魔人はやっぱり駄目かい?」
「いえ、駄目という事はないですが……そうですね……何かお二人の実力を示す……ミシマさんの時の様な竜の素材等、魔物討伐の証拠、それを裏付ける証言はありますでしょうか?」
「うーん、ギャガン、グリゼルダ、そういうのあるかい?」

 ミラルダが二人を振り返り尋ねる。

「あるわきゃねぇだろ」
「我々は軍人だったのだ。冒険者の様に魔物を倒し戦利品を漁る事はしない」
「そうかい……」
「そうなりますと、冒険者としての適性があるかテストを受けて頂く事になりますが……」

 テストと聞いてギャガンが顔を顰める。

「テストだぁ? 俺は学問の類にゃ縁はねぇぞ」
「だろうな、お前は剣にしか興味が無さそうだものな」
「フンッ、剣士が剣にしか興味が無くて何が悪い?」
「脳みそまで筋肉で出来ていると、策に翻弄されるぞ」
「そんときゃ、その策ごとぶった切ってやるよぉ」



 ポンポンと言い合いを続ける二人にクニエダが「あのー」と控えめに口を挿む。

「「なんだッ!?」」
「テッ、テストといっても筆記では無く実技です。おッ、お二人の戦闘スタイルに合わせ、ギルド会員と模擬戦をしてもらい実力を測るという物になります」
「なんだ、それを先に言えよ」
「模擬戦か……冒険者ギルドとやらがどの程度か、レベルが分かりそうだな」
「コホー」

 二人とも相手に怪我とかさせちゃ駄目だよ。

「ミシマの言う通りだよ。やり過ぎて迷惑かけるんじゃないよッ」
「……言う通りだよと言われても、我々にはミシマが今、何と言ったのか分からんのだが……?」
「そうだぜ。コイツの言ってる事が詳細に分かるのは、今んとこお前ぇだけなんだ。ちゃんと通訳してくれ」

「うっ……そうだったね。えっと、怪我とかさせるな、だってさ」
「へっ、そいつは相手の腕次第だぜ」
「ほう、珍しく意見が合うじゃないか?」

 やる気満々の二人にクニエダが噴き出た汗をハンカチで拭いつつギャガン達に告げる。

「多少の怪我は職員の治癒魔法で癒せますが、出来ればお手柔らかにお願いします」
「チッ、手加減は苦手だぜ」
「まったくだ」

「あんたらねぇ……とにかく、そのテストって奴を受けるとしようか。クニエダさん、二人のテストをお願い出来るかい?」
「畏まりました。では面接している間に模擬戦をセッティングいたしますので、お名前や住所等、登録に必要な項目を担当スタッフにお聞かせ願えますか?」

 クニエダの言葉にギャガンは首の後ろを掻きながら鼻に皺を寄せる。

「ったく、面倒クセェなぁ」
「冒険者証は身分証にもなるんだから、四の五の言ってないでサッサとしな」
「ふぅ……分かったよ」
「ほら、グリゼルダも」
「これもこの国で生きる為か……」

 ギャガン達はクニエダに案内され登録を担当しているスタッフの下へと歩いていった。

「さて、あたしらは依頼料を受け取って、テストを見物しようか?」
「コホーッ」

 そうだな。模擬戦か……相手は誰だろう?

「さてねぇ。あたしの時はベテランの魔法使いだったけど……まぁすぐにわかるさ。じゃあ依頼料を貰いにいこうか」
「コホー」

 ああ、これでデニスの奴も少しは態度を改めてくれるといいな。

「だね」

 ごく自然に健太郎と話している事、更に頭部の耳を晒している事でミラルダは周囲の注目を集めていたが、それを気にした様子もなく彼女は健太郎と共に支払いカウンターへと向かった。


■◇■◇■◇■


 ギャガン達への聞き取りが終わり、健太郎とミラルダは彼らの模擬戦を見物する為、ギルド内の中庭にある訓練所へと足を運んでいた。
 そこで待っていたのは以前、健太郎達と決闘したフィリスと将吾しょうごだった。

「テストを受ける奴ってのはテメェらの仲間だったのかよッ?」

 転移者の剣士、将吾が健太郎達を見て忌々し気に顔を歪める。

「模擬戦の相手はあんた等だったのかい」
「ええ、あなた達に負けたおかげで、ギルドには無報酬でこき使われてるわよッ!」
「コホーッ……」

 無報酬か……辛いなフィリス。

 残業代等、皆無だった会社員時代を思い出し、健太郎はほんの少しフィリスに同情した。

「相変わらず何言ってんのか分からないゴーレムねッ!」
「フィリス……」

 将吾がフィリスの耳元で何やら耳打ちすると、彼女の不満顔がニヤついた笑顔に変わる。
 そのフィリス達に金の瞳を向けながらギャガンはミラルダに尋ねた。

「おい、あいつ等、お前達の知り合いなのか?」

 ギャガンの問い掛けにミラルダは苦笑を浮かべ頷く。

「ああ、少し前にあの二人とは揉めてねぇ、それで決闘したのさ」
「決闘とは穏やかでは無いな」
「コホー」

 完全に言いがかりだったんだよ。でも科学捜査の無いこの世界じゃ他に方法が無くてね。

「何だい、科学捜査って?」
「コホー」

 科学捜査っていうのは指紋、えっと指についている溝の跡を照合したりして犯人を特定する……。

「ミラルダ、何度も言っているが、ミシマの言葉は我々には分からんのだ」
「そうだぜ、通訳サボんな」
「うぅ……面倒だねぇ……ミシマ、あんたこの二人にも何言ってるか分かる様にしておくれよ」
「コホー……」

 何度か試してるんだが……ミラルダ程、切実に何かを伝えたいと思って無いからかなぁ……。

「はぁ……頑張っておくれな」
「コホー」

 善処する。

 そんな事を話している内に、審判役のクニエダがギャガンの名を呼ぶ。
 見れば訓練場の土の大地の上でニヤついた笑みを浮かべた将吾が、木刀を担ぎギャガンに視線を送っていた。

「クククッ、中々にぶちのめしがいのある奴みてぇだなぁ」
「ギャガン、あくまでテストだからね」
「分かってるよぉ……だからちゃんと実力は見せねぇとなぁ」

 牙を剥き笑ったギャガンを見て、ミラルダは深いため息を吐いた。
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