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第七章 大森林のそのまた奥の

重力圧砲

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 DXモードの健太郎けんたろうの胸の前、漆黒の球体が静かに浮かんでいる。

 これはまさかっ、ブラックホール!?

 健太郎の脳裏にブラックホールの力を自在に操る、ゲームに登場するロボットの姿が浮かぶ。
 敵だったり、味方だったりしたが、あの機体はゲーム内でもかなり強力な機体だった。

 それはともかくとして、こいつなら……。

「コォォォオホォォォォオオッ!!」

 食らえッ!! えーと、そうだな……重力グラビティープレッシャーカノンッッ!!



 健太郎が叫ぶと標的を見つけた球体は黒い雷を発生させながら膨張、その直後にアトラに向かって一直線に飛んだ。

『ウォォオオオオオオン!!!!』

 虚無の精霊と重なったアトラは力を吸われているのか苦しみの声を上げ、藻掻き始める。

「コォォォオホォォォォオオ……」

 うわぁ……なんかゴム風船みたいだ……。

 そんな健太郎の感想が示す通り、先程迄、眩く輝いていたアトラはその輝きを失い、段々としぼみ始めていた。

 その様子を会場から逃げ出し、遠方から窺っていたエルフ達は何だあの金属の巨人はと囁き始める。

「もしかしてアレって古の伝説にあった神の作ったゴーレム、タラスじゃあ……?」
「タラスって、ありゃおとぎ話だろ?」
「でも精霊王をどうにか出来るゴーレムなんてタラスぐらいしか思いつかないぜ」
「何でもいいわよッ! あの青いゴーレムのおかげで街も森も無事で済みそうなんだから」
「そうだな、いいぞタラスッ!!」
「「「タラスッ、タラスッ!!」」」

 平民たちの間で健太郎に向けタラスコールが起きる中、エルフの指導者ベルゲンはラテールの街の一角でその様子を眺めていた。

「ベルゲン様、ここは一旦、クバルカにお戻りになった方が……」
「いや、顛末を見届けたい」
「しかし、あの球体は危険では……」

 側近のエルフの視線の先、黒い球体はアトラを飲み込み膨張を続けていた。

「コォォォオホォォォォオオ!?」

 えっ? ちょっと、もういいんだけど!? 止まってよッ!!

『ミシマ、そろそろいいんじゃないかい?』
「コォォォオホォォォォオオ!!」

 俺も止めようとしてるんだけど、止まらないんだよぉッ!!

『何だってッ!?』
『どうしたミラルダ? ミシマは何と言っている?』
『それが止まらないってッ!!』
『何だとッ!?』
『おい、あれ段々こっちに近づいて来てねぇか?』

『逃げた方が良さそうだな。ミラルダ、グリゼルダ、お前達は言語魔法スペルマジックで、私と真田は風霊シルフで逃げるぞ!!』
『了解やッ! ニーナはんは右腕に掴まってグリモラを一緒に支えてくれる?』
『分かりました!』
『ギャガン、こっちに来い、運んでやる』
『チッ、俺も飛べりゃあなぁ』
『ピポピポッ!!』

 シルフが運ぶ声でミラルダ達が慌てて会場から脱出している様子が健太郎にも伝わった。

「コォォォオホォォォォオオッ!!」

 もうッ!! 何でいつもこの身体は最後の詰めが甘いんだよッ!! こうなったら……。

「コォオオホォォォオオオオオオオッ!!」

 神田流空手教室奥義、竜牙折りゅうがせつッ!!

 健太郎はヤケクソ気味に膨張を続ける漆黒の球体に拳を叩き込んだ。
 拳は人型モードの時と同様、いやそれ以上の輝きを放ち電撃を放つ黒球を弾き飛ばす。
 球体は森と大地を抉りながら大森林を直進し、十キロ以上森の木々を吸い込み最後に山脈の一部を飲み込んで収縮、消滅した。

 それを見たエルフ達から悲痛な叫びが上がる。

「酷いッ!! あんなに森をッ!!」
「山も削れてるじゃないかッ、やっぱりあいつはタラスなんかじゃないよッ!!」
「そうよッ!! 私達がずっと守って来た大事な森がッ!!」

 先程迄、健太郎にエールを送っていたエルフ達は一斉に健太郎に苦情を言い始めた。

 うぅ、俺なりに精一杯頑張ったんだが……。



 聞こえて来る罵声に健太郎が俯くと、そこには力を吸われすっかり小さくなったアトラがいた。
 敵をほふるという目的が果たせなかった為か、はたまた別の理由か、精霊界に帰れなかった様だ。

 健太郎は人型モードに変形し、縮んで人の子供サイズとなったアトラに歩み寄った。

「コホーッ?」

 おい、大丈夫か?



『……敵……ほふれなかった……』

「コホーッ?」

 まぁ、いいんじゃないか? 喧嘩したっていい事は無いし。

 そう言うと、健太郎は三角座りをしているアトラの頭をよしよしと撫でてやった。



『あう……優しい?』
「コホーッ!!」

 へへッ、俺は殆どの奴にはオープンマインドで接するぜッ!!

 ギュッと親指を立てた健太郎を見て、アトラは光る目を細めた。

『変なやつ……』
「ミシマーッ!!」

 健太郎がアトラの感想に苦笑を浮かべていると、会場から抜け出したミラルダ達が小さくなった健太郎に気付き駆け付けて来た。

「そいつは、もしかして精霊王かい?」
「コホー」

 そうだと思う、力を吸われて小っちゃくなっちゃったみたい。

「そうかい……ロミナ、この子はどうすりゃいいんだい?」
「そうだな……今すぐにでも精霊界へ送り返したい所だが、呼び出した本人の意識が戻らんと……」

 ロミナはそう言うと、真田が左腕に抱えたグリモラに目を向けた。
 グリモラは真田の肩に頭を乗せぐったりと項垂れている。

「こんな状態じゃあ、とても精霊を扱う事は出来んで……」

 真田がそう呟いた瞬間、雷撃が降り注いだ。

「ピポーッッ!?」
「動くなッ!! 次は当てるぞッ!!」
「ラハン、貴様、何のつもりだッ!?」

 ロミナの言葉に雷神を引き連れたラハンは歪んだ笑みを浮かべた。
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