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第七章 大森林のそのまた奥の

アトラVSデラックス

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 グリモラが呼び出した精霊王アトラ、半透明のその体の中には様々な光、ありとあらゆる力が渦巻いていた。
 王というよりは精霊たちの源である様に魔力の流れを感じ取れるグリゼルダには思えた。

 そんな自然界の力が全て結集した様な怪物に巨大化した健太郎けんたろうは攻撃を仕掛ける。



「コォォホォォオオオオッ!!」

 食らえ、デラックス・ミシマグナム!!

『ウォオオオオオオン!!』

 アトラは健太郎が繰り出した右ストレートを頭部に受けて唸り声を上げた。

『敵……? 敵ッ!!』

 その一撃でアトラは健太郎を敵だと認識した様だ。アトラの瞳が怪しく光り、健太郎の体に無数の爆発が起きる。

「グッ!? ミシマッ!! そいつをぶん投げろッ!!」

 ロミナに駆け寄ろうとして攻撃の余波を受けたギャガンが、健太郎を見上げ声を張り上げる。

「コォォホォォォオオオ!!」

 了解だッ!! こいつ、大人しくしろッ!!

 健太郎がアトラに掴みかかると、それに抵抗しようとしたのか、アトラの体から雷撃や巨石が噴き出した。

「ひゃああ、ミシマはん、武器つこたら人を殺してまうとか言うてたけど、これはそういうレベルや無いやろッ!!」

 大立ち回りをしている健太郎とアトラを迂回しつつ、アトラの足元、地面に倒れたグリモラに近づこうとしていた真田は弾け飛んだ巨石の欠片を躱しつつ叫ぶ。

「コォォホォォォオオ!!」

 いくぞォォオオ!!

 アトラに組み付いた健太郎は、攻撃を受けながらアトラの腰と胸元を掴むと腕を風車の様に回転させ会場の外に投げ飛ばした。

「真○投げッ!?」

 真田の声が響く中、森に落ちたアトラを追って健太郎も会場の外へ飛ぶ。

「真田ッ、ボーっとすんなッ!!」
「あ、すっ、すんまへんッ」

 ロミナを抱え上げたギャガンの言葉で健太郎とアトラの戦いに一瞬、惹き付けられた真田は我に返り、グリモラの側に駆け寄った。

「グリモラ……こりゃあ……」

 うつ伏せに倒れていたグリモラを抱え起こし、顔を覗き込んだ真田は思わず絶句した。
 その顔は青ざめ頬はこけており、試合前とは打って変わって死の間際の病人の様相を呈していた。



「命を吸われとるんか……そこまでして何で……」

 真田はやつれたグリモラを切なそうに見つめると、彼女を抱え会場の客席、その最上部へ避難していたミラルダ達の下へ風を纏い飛んだ。

「グリゼルダはん、連れて来たでッ!!」
「よし、そこに寝かせろッ! ……これは魔力だけでなく生命力まで……効けばいいが……」

 グリゼルダは眉を顰めると大樹の枝が作り出した観客席、その床に寝かされたグリモラの周囲に魔法を遮断する陣を魔矢マジックミサイルの魔法を制御し刻んでいく。
 ギャガンには三十秒だと言っていたが、彼女は二十秒掛からず陣を刻み終えた。

「後は魔力を流せば……頼む効いてくれ」

 グリゼルダは陣の端に両手を突き、願いを込めて魔力を流し込んだ。
 陣に魔力が満ちると淡い紫色の光が陣に宿り、グリモラの周囲に魔力の壁が現れる。

「どうなんだいグリゼルダッ!?」
「……魔力の流れは遮断出来た……だが生命力は……」
「そんな……」
「あの、じゃあこの人は死んじゃうんですか……?」
「何とか出来ねぇのかッ!? 魔人族は魔法のエキスパートなんだろッ!?」

 真田に少し遅れて合流し、ロミナを床に横たえたギャガンがグリゼルダに声を荒げる。
 命の流れが止められ無ければ、グリモラの命が無くなるだけでなくアトラの動きも止める事は出来ない。
 今はまだ健太郎に集中している為か巨大な力は使っていないが、いつ街を滅ぼしたという攻撃をして来てもおかしくは無い。

 視線は自然と街の周囲の森の中、木々をなぎ倒しながら戦っている健太郎とアトラに向く。

「ミシマ……」

 ミラルダが立ち上がりアトラと格闘を続ける健太郎に視線を送る。
 健太郎は攻撃を続けていたが、打撃は余り効いている様子は無く決定打に欠けているようだ。
 逆にアトラは周辺の森の生命を吸い取り、徐々に輝きを増していく。

「あかん、昔読んだ絵本の通りや……」
「絵本って、最終的にどうなんだよッ!?」
「精霊の王様はため込んだ光を放出して、街を灰に変えて精霊界に戻ったって……」
「クソッ、グリゼルダ、なんかねぇのかッ!?」
「命……生命力……」

 グリゼルダは爪を噛みながら小刻みに視線を動かすも、最後はゆっくりと首を振った。

「命、それ自体を操る魔法は、今の私には……」
「ピポピポッ!!」

 そんな重い空気の漂う中、唐突に場違いな程明るい電子音が響いた。
 見れば一行の上空を漂っていたコロが、両手を翳し声を上げている。

「ピポーッ!!!!」

 コロは掲げた両手を広げると、一際大きく電子音を鳴り響かせた。
 それと同時に一行の周囲に薄桃色の半球形の障壁の様な物が展開される。

「これは……まさかっ、命の流れが遮断されているッ!!」
「どういう事だよ? コロが魔法を使ったってのか?」
「違う、魔力の流れは一切感じない……だがまるで我々だけが周囲から切り離されたような……」

 そう言ってグリゼルダは障壁を張ったコロを見上げた。

「何だかよく分かんないけど、グリモラから流れる力は止められたんだね?」
「ああ……しかしこれは一体何なんだ?」
「うーん、ようわからんけどバリアちゅう奴やないやろか?」
「バリアーですか?」



「せや、昔のロボットアニメとかではパリーンってよう割れてたで」
「店長、それって前世のてれびでやってたって、前に言ってた奴ですよねぇ?」
「せやで、わいがプロゲーマーになった頃にはAT○ィールドとかが主流になってたなぁ」

 真田は主人公の乗った機体がよく暴走するアニメを思い浮かべながら、ニーナに説明したが、当然だが見た事の無い彼女には上手く伝わらなかったようだ。

「ともかくグリモラから流れる力は遮断出来た。アトラと物質界の繋がりはこれで断てた筈……」

 そうグリゼルダが言いかけた時、視線の先のアトラが一際強く輝き始めた。

『敵を……ほふる……』
「コォォホォォォォオオオオッ!!」

 クソッ、まだなんかする気かよッ!!

『ミシマッ、聞こえるかいッ!! そいつは消える前に力を放つつもりだッ!! その前にアトラを倒しておくれッ!! そうじゃないと街も森も、ここら一帯が消し飛んじまうッ!!』

 チラリと試合会場に目を向ければ、ギャガンに抱え起こされたロミナが風霊シルフを呼んでいた。
 恐らくシルフを使い健太郎に声を届けたのだろう。

 街も森も消し飛ばす……そんな事になれば当然多くの人が死に、仲間も巻き込まれてしまうだろう。
 駄目だ。目の前でそんな事が起きたらきっと俺は立ち直れない。

 守るんだッ!! こいつをどうにかしてッ!!

 アトラの輝きはドンドン強さを増していく。どうすればいい、空に……いや駄目だ。放射状に広がるなら影響が出てしまうだろう。
 いっそこいつを元居た場所に送り返せば……元居た場所……別次元……。

 健太郎の思考が別次元からの連想で宇宙に向いた時、DXの胸が輝き、真っ黒な球体が胸の前に出現した。
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