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第八章 迷宮行進曲

強さが全て

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 地下四階、エレベーター前でキャンプを張って休息を取る。
 キャンプといっても実際テントを張る訳では無く、魔物除けの結界をつくり出す魔道具を設置するだけだ。
 ちなみにその魔道具もベックからの援助物資だった。

 その休息の間に水薬ポーションを飲んで多少、回復した様子の新田にったから健太郎けんたろう達は話を聞く事にした。
 新田を含めた健太郎達六人は結界の中心、魔法のランタンの明かりが照らす中、車座になって床に腰を下ろす。



 全員の視線が新田に集まると、彼女 (鎧を脱いだ事で新田は女性だと判明した)はおもむろに口を開いた。

「儂と風丸かぜまるはこの地下迷宮では新参者じゃ。ただ、腕には自信があったのでな……ここでは強さが全てじゃ、強ければ新参者だろうが何だろうが優遇される。逆に力の無い者は迷宮に意識を奪われ、考える事の出来ない兵士になるのじゃ」

「兵士に……あたし達が出会った話の通じない連中は迷宮によって兵士にされたって訳かい?」
「そうじゃ」
「この風丸というニンジャは仲間なのに何故お前を襲った?」

 グリゼルダはぐるぐる巻きにされ床に転がっている風丸にチラリと視線んを送り尋ねる。

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「風丸は儂と同じく東の果ての国から召喚された。召喚されたのは儂らだけでなく、侍や忍者も多くいた……お前達は儂らの事を何処まで知っている?」
「どこまで……異国の戦士で片刃の曲刀やこの風丸が使っていたような短剣を使い、独自の武術を用い戦う……そのぐらいしか知らん」
「はいはーいッ!! 詳しくは知らないけど、サムライは偉くて、ニンジャは下っ端だって聞いた事があるよッ!!」

 手を上げて発言したパムに新田は苦笑を浮かべた。

「その通りじゃ……儂ら、侍は領地を持ち民を守る、この国で言えば騎士の様な存在よ。忍者はいわゆる密偵やアサシンの様な影働かげばたらきをする者じゃ……武に携わっていてもその地位は低く、命は軽い」
「こいつも私と同じ特殊工作員だったという訳か……」
「んで、なんで下っ端のコイツが身分が上のお前を殺そうとすんだよ?」
「強さが全てだと言ったじゃろう。こやつはその事に歓喜の声を上げていた、もう下も上もないとな」
「コホーッ」

 なるほど、ハッ○リ……風丸は侍たちが身分でもって自分に命令する事に、内心でずっと不満を抱いていたって事か……。

「身分ねぇ……強さが全てって事はこの風丸はあんた達、侍よりも強かったって事かい?」
「ああ、こやつは召喚された侍の首をいくつか落としてそれを証明してみせた……今の主のアキラ様には敵わなかったようじゃが四天王とは別枠、アキラ様の目と耳として動いていた様じゃ……儂の命を狙ったのは四天王になった儂の事が気に入らなかったからじゃろうな」

 そう言うと新田は風丸に哀し気な視線を向けた。

 うーむ、能力が高いのに地位が低いから自分よりも能力が低い奴にこき使われる。確かにフラストレーションは溜まるだろうが、それで命を狙うってちょっと過激すぎない?

 健太郎がそんな事を思っていると風丸が意識を取り戻したのかもぞもぞと動き始めた。

「抜け出そうとしても無駄だぜ。テメェの隠し持ってた獲物は全部パムが回収したからよぉ」
「……俺をどうする気だ?」
「どうもしねぇよ。テメェはそこのエレベーターの中に、そのまま放置だ。帰りには回収して迷宮の外に連れてってやるよぉ」
「…………」
「風丸、儂らは敗れたのじゃ。敗者は勝者に従うのみぞ」

 そう言った新田に風丸は憎しみのこもった目を向けた。

「貴様ら侍はそれでいいだろうさ、だが俺はそんなのは真っ平御免だ」
「風丸さんだっけ、それじゃあ、あんた、一体どうしたいのさ?」

「殺せよ……俺はそこのゴーレムに負けた。強さが地位となるこの迷宮なら、俺は弱い奴にデカい顔される事無く生きれると思った……卑怯な手を嫌う侍なんぞより、どんな手を使っても勝つ俺の方が確実に強いからな……アキラに負けたのは魔法だったからまだ割り切れた……だがそのゴーレムには武術で負けちまった……もうどうでも良くなっちまったんだよ」

 自暴自棄になった風丸の様子を見て、ミラルダは顎に手を当て「ふぅ」と小さく息を吐いた。

「命は要らないって事だね?」
「そうだ。やるなら早くしろ」
「じゃあ、その要らない命、あたしが貰おうじゃないか」
「なに?」
「どうせ捨てる命なんだ、だったらあたしが拾うとするさ。風丸、あんたは今からあたし達の仲間だよ」

 ミラルダの言葉を聞いた風丸は目を見開き彼女を睨んだ。

「ふざけるな!? なぜ俺がお前らの様な偽善者共の仲間にならねばならんッ!?」
「どうしても嫌かい?」
「死んでも御免だッ!!」
「そうかい……でもあたしもあんたの命を奪うのは死んでも御免だからねぇ……この魔法は出来れば使いたくはなかったけど……万能なる魔力よ、彼の者の血の巡りを我の思うままに、自在血流マグネブラッド

「コッ、コホーッ!?」

 そっ、その魔法はあの時のッ!?

「ミラルダ、それは余りに厳し過ぎるぞッ!」
「そうだぜ、そいつはほぼ拷問じゃねぇかッ!?」
「フンッ、忍びが責めで心を変えるか」

 グリゼルダ達の言葉を聞いても風丸はそうとうに自信があるのか、その声音には余裕の笑いさえ含まれていた。

「ねぇねぇギャガン、ミラルダは一体何をするつもりなの?」
「あれは……地獄だ……」

 そう言ったギャガンの横でグリゼルダがうんうんと頷いている。

「地獄じゃと……のうミラルダ、其奴は儂の同郷じゃ、あまり惨い仕打ちは……」
「大丈夫だよ。命に係わるとかそんなんじゃないから」

 そう言うとミラルダは満面の笑みを浮かべ、チョンと風丸の足に手にした杖の先を当てた。

 それから一時間後、痺れた足を散々ミラルダに突かれた風丸は、息も絶え絶えに仲間になる事を了承したのだった。
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