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第八章 迷宮行進曲
本物の妖刀
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別荘の使ってはいけない部屋、あの部屋は単にバンシーのロレッタがお掃除中だったから使うなという事だったよ。
目覚めた健太郎にミラルダはそう説明した。
「コホーッ」
ビジュアルが完全に貞○だったから、呪い殺されるかと思ったよ。
「何だい貞○って?」
「コホー」
俺の故郷で五本の指に入る悪霊だよ。
「悪霊ねぇ……こっちで言う所のファーガス城の貴婦人みたいなもんかねぇ」
「ファーガス城の貴婦人……あれは悪霊というより猟奇殺人者だろう?」
「なになに? その人、どんな事をしたの?」
メルディスの別荘の居間、ソファーに座ったミラルダ、グリゼルダ、パムの三人はワイワイとお喋りに花を咲かせ始めた。
「ファーガス城の貴婦人、名前は確かカタリーナ・ヴェールエだったか。公爵夫人だった彼女は若さを維持しようと領内の若い娘の血を飲み、その生き胆を食らっていたそうだ」
「ひぇぇぇ、生き胆って……でもそんな事しても若さなんて維持出来ないよね?」
「さてな。彼女の若さが維持できているか分かる前に、カタリーナは捕まり処刑されたからな」
「フフフッ、ファーガス城には今でもそのカタリーナの亡霊が、血を求めて彷徨っているらしいよぉ」
ミラルダがニタリと笑いながら両手を垂らしてパムに言う。
「ふぇぇぇ……」
「コホー……」
そんな話はもういいよ……。
「フフッ、ミシマはホントに怖がりだねぇ」
「コホーッ」
怖い物は怖いんだから、しょうがないでしょッ。それよりギャガンの姿が見えないけど?
「ああ、ギャガンだったら、メルディスさんが渡したい物があるって妖精たちが連れて行ったよ」
「コホーッ?」
渡したい物?
「なんでもこの別荘に妖刀を一本置いていたのを思い出したらしくてな。願いの礼に貰って欲しいそうだ」
「……コホー……」
……また妖刀……この世界には何本妖刀があるんだよ……。
ザシュッ!!
話をしていた健太郎達のいた居間の扉が、そんな音を立てて突然切り裂かれた。
その切り裂かれた扉の隙間から血走った目の黒豹が顔を覗かせる。
「ギャガンッ!? いきなりなんて事するんだいッ!?」
「グルルッ……血だぁ……刀が血を求めているんだよぉ……」
「ムッ、正気を失っているのか!?」
"ごめんごめんッ、よく確かめて無かったんだけど、ホントに呪いの妖刀だったみたいで……"
「コホーッ!!」
そういうのは一番に確かめないと駄目な奴でしょっ!!
健太郎が壁を抜けて現れたメルディスに憤っていると、ギャガンがゆらゆらと首を揺らしながら何か呟く。
「血だぁ……血をコイツに吸わせないとよぉ……」
ギャガンは無造作に手にした刀を振るい、残っていた扉を残骸に変えた。
「「お気を確かにッ!! その刀を手放すのですッ!!」」
「邪魔をするなッ!!」
「「キャッ!?」」
顔の周囲をクルクルと回っていた妖精たちを、ギャガンは左手で叩き落した。
妖精たちは床に落ちて蹲る。
「コホーッ!!」
クッ、みんな、下がるんだッ!!
健太郎がギャガンの前に進み出て声を上げる。
「分かったよッ!! グリゼルダ、ここはミシマに任せよう」
「う、うむ……ミシマ、あいつを正気に戻してやってくれッ!!」
「コホーッ」
了解だッ!!
ともかく刀を奪えば何とかなる筈だ。
抜き身の刀をぶら下げたギャガンの前で、健太郎は腰を落とし拳を構える。
「ミシマァ、邪魔すんじゃねぇよぉ……血をよぉ、刀に血を……」
ギャガンの目は焦点を結んでおらず、小刻みに揺れていた。
「コホーッ!!」
ここは通さないッ!!
そう言って一歩踏み込んだ健太郎に、ギャガンは右手の刀を振るった。
正気を失っていてもその一撃は早く鋭く、健太郎は対処出来ず防御する事しか出来ない。
クッ、白刃取りしようにも速すぎて掴めない……どうする……。
「あっ、先程はすみませんでした……あれ、ドアが……どうしたんです、これ?」
その時、掃除を終えたらしいロレッタがバケツを持って居間の外の廊下から声を掛けて来た。
「コホーッ!!」
今だッ!!
それに反応し振り向いたギャガンの隙を見逃さず、健太郎は踏み込んで彼の頭部に蹴りを入れる。
いわゆる延髄斬り、危険な技だが鎧を着たギャガンの意識を一瞬で刈り取る為の方法を健太郎は他に思いつけなかったのだ。
「グッ!?」
放った蹴りはロレッタを見ていたギャガンの後頭部を打ち抜き、彼はその勢いのまま床に突っ伏した。
「わっ!? いきなり何をッ!?」
「ギャガンッ!? ミシマ、やり過ぎだぞッ!! ギャガン大丈夫か、いま治癒魔法を掛けてやるからな……」
グリゼルダは倒れたギャガンに駆け寄り、白目を剥いたギャガンの頭を膝に乗せ治癒魔法を唱える。
「コホー……」
ごめんよグリゼルダ……電撃は溜めが必要だし、即座に意識を飛ばせる技が咄嗟に思い付かなくて……。
ポリポリと頭を掻いた健太郎の視線の先では、治癒魔法で癒されたギャガンが薄っすらと目を開いていた。
「うぅ……頭痛ぇ……グリゼルダ、俺は一体……」
「馬鹿ッ!! よく調べもせずに何でもかんでも抜くからだッ!!」
「なんだと…………悪かったよぉ、次からは気を付けるぜ……」
「当たり前だ……」
声を震わせ自分の顔を覗き込むグリゼルダの瞳に溢れた涙をギャガンはそっと拭ってやった。
「ふぅ……ギャガンの方は大丈夫なようだね」
「ねぇねぇミシマ、その刀どうするの?」
健太郎の後ろからパムがおっかなびっくり床に落ちた刀を覗き込む。
「コホーッ」
こんな危ない物は処分した方がいいだろう。
「そうだねぇ。妖精さん達、大丈夫かい?」
「「はい、治癒魔法を使いましたので、平気です」」
「そうかい、えーと、それでこの刀なんだけど、壊しちまっていいかい?」
「「……ご主人様、いかがいたしましょう?」」
"そうだね、危ないから壊しちゃおうか"
「「承知しました。ご主人様の許可が下りました。破壊して結構です」」
ミラルダはそうかいと妖精たちに頷き返すと健太郎に視線を送った。
「あの……一体何が起きてたんです?」
廊下でバケツを抱えたロレッタが、部屋を覗き込む。
「ああ、ロレッタさん。うちのギャガンが妖刀に操られちゃったみたいでねぇ」
「はぁ、妖刀……そんな怖い物がこのお屋敷にはあったんですねぇ」
そういって驚きで目を見開いたロレッタの顔に一瞬ビクッとしながら、健太郎はギャガンが落とした刀を手に取りバキバキにへし折った。
ウォオオオン、と恨めしそうな声を響かせ刃から赤黒い霞が抜けて行く。
「コホッ!? ……コホー」
ヒッ!? ……やっぱ怨霊とか悪霊とはお近づきにはなりたくないな。
健太郎は呼吸音を響かせ、背筋に走った悪寒にブルリと体を震わせた。
目覚めた健太郎にミラルダはそう説明した。
「コホーッ」
ビジュアルが完全に貞○だったから、呪い殺されるかと思ったよ。
「何だい貞○って?」
「コホー」
俺の故郷で五本の指に入る悪霊だよ。
「悪霊ねぇ……こっちで言う所のファーガス城の貴婦人みたいなもんかねぇ」
「ファーガス城の貴婦人……あれは悪霊というより猟奇殺人者だろう?」
「なになに? その人、どんな事をしたの?」
メルディスの別荘の居間、ソファーに座ったミラルダ、グリゼルダ、パムの三人はワイワイとお喋りに花を咲かせ始めた。
「ファーガス城の貴婦人、名前は確かカタリーナ・ヴェールエだったか。公爵夫人だった彼女は若さを維持しようと領内の若い娘の血を飲み、その生き胆を食らっていたそうだ」
「ひぇぇぇ、生き胆って……でもそんな事しても若さなんて維持出来ないよね?」
「さてな。彼女の若さが維持できているか分かる前に、カタリーナは捕まり処刑されたからな」
「フフフッ、ファーガス城には今でもそのカタリーナの亡霊が、血を求めて彷徨っているらしいよぉ」
ミラルダがニタリと笑いながら両手を垂らしてパムに言う。
「ふぇぇぇ……」
「コホー……」
そんな話はもういいよ……。
「フフッ、ミシマはホントに怖がりだねぇ」
「コホーッ」
怖い物は怖いんだから、しょうがないでしょッ。それよりギャガンの姿が見えないけど?
「ああ、ギャガンだったら、メルディスさんが渡したい物があるって妖精たちが連れて行ったよ」
「コホーッ?」
渡したい物?
「なんでもこの別荘に妖刀を一本置いていたのを思い出したらしくてな。願いの礼に貰って欲しいそうだ」
「……コホー……」
……また妖刀……この世界には何本妖刀があるんだよ……。
ザシュッ!!
話をしていた健太郎達のいた居間の扉が、そんな音を立てて突然切り裂かれた。
その切り裂かれた扉の隙間から血走った目の黒豹が顔を覗かせる。
「ギャガンッ!? いきなりなんて事するんだいッ!?」
「グルルッ……血だぁ……刀が血を求めているんだよぉ……」
「ムッ、正気を失っているのか!?」
"ごめんごめんッ、よく確かめて無かったんだけど、ホントに呪いの妖刀だったみたいで……"
「コホーッ!!」
そういうのは一番に確かめないと駄目な奴でしょっ!!
健太郎が壁を抜けて現れたメルディスに憤っていると、ギャガンがゆらゆらと首を揺らしながら何か呟く。
「血だぁ……血をコイツに吸わせないとよぉ……」
ギャガンは無造作に手にした刀を振るい、残っていた扉を残骸に変えた。
「「お気を確かにッ!! その刀を手放すのですッ!!」」
「邪魔をするなッ!!」
「「キャッ!?」」
顔の周囲をクルクルと回っていた妖精たちを、ギャガンは左手で叩き落した。
妖精たちは床に落ちて蹲る。
「コホーッ!!」
クッ、みんな、下がるんだッ!!
健太郎がギャガンの前に進み出て声を上げる。
「分かったよッ!! グリゼルダ、ここはミシマに任せよう」
「う、うむ……ミシマ、あいつを正気に戻してやってくれッ!!」
「コホーッ」
了解だッ!!
ともかく刀を奪えば何とかなる筈だ。
抜き身の刀をぶら下げたギャガンの前で、健太郎は腰を落とし拳を構える。
「ミシマァ、邪魔すんじゃねぇよぉ……血をよぉ、刀に血を……」
ギャガンの目は焦点を結んでおらず、小刻みに揺れていた。
「コホーッ!!」
ここは通さないッ!!
そう言って一歩踏み込んだ健太郎に、ギャガンは右手の刀を振るった。
正気を失っていてもその一撃は早く鋭く、健太郎は対処出来ず防御する事しか出来ない。
クッ、白刃取りしようにも速すぎて掴めない……どうする……。
「あっ、先程はすみませんでした……あれ、ドアが……どうしたんです、これ?」
その時、掃除を終えたらしいロレッタがバケツを持って居間の外の廊下から声を掛けて来た。
「コホーッ!!」
今だッ!!
それに反応し振り向いたギャガンの隙を見逃さず、健太郎は踏み込んで彼の頭部に蹴りを入れる。
いわゆる延髄斬り、危険な技だが鎧を着たギャガンの意識を一瞬で刈り取る為の方法を健太郎は他に思いつけなかったのだ。
「グッ!?」
放った蹴りはロレッタを見ていたギャガンの後頭部を打ち抜き、彼はその勢いのまま床に突っ伏した。
「わっ!? いきなり何をッ!?」
「ギャガンッ!? ミシマ、やり過ぎだぞッ!! ギャガン大丈夫か、いま治癒魔法を掛けてやるからな……」
グリゼルダは倒れたギャガンに駆け寄り、白目を剥いたギャガンの頭を膝に乗せ治癒魔法を唱える。
「コホー……」
ごめんよグリゼルダ……電撃は溜めが必要だし、即座に意識を飛ばせる技が咄嗟に思い付かなくて……。
ポリポリと頭を掻いた健太郎の視線の先では、治癒魔法で癒されたギャガンが薄っすらと目を開いていた。
「うぅ……頭痛ぇ……グリゼルダ、俺は一体……」
「馬鹿ッ!! よく調べもせずに何でもかんでも抜くからだッ!!」
「なんだと…………悪かったよぉ、次からは気を付けるぜ……」
「当たり前だ……」
声を震わせ自分の顔を覗き込むグリゼルダの瞳に溢れた涙をギャガンはそっと拭ってやった。
「ふぅ……ギャガンの方は大丈夫なようだね」
「ねぇねぇミシマ、その刀どうするの?」
健太郎の後ろからパムがおっかなびっくり床に落ちた刀を覗き込む。
「コホーッ」
こんな危ない物は処分した方がいいだろう。
「そうだねぇ。妖精さん達、大丈夫かい?」
「「はい、治癒魔法を使いましたので、平気です」」
「そうかい、えーと、それでこの刀なんだけど、壊しちまっていいかい?」
「「……ご主人様、いかがいたしましょう?」」
"そうだね、危ないから壊しちゃおうか"
「「承知しました。ご主人様の許可が下りました。破壊して結構です」」
ミラルダはそうかいと妖精たちに頷き返すと健太郎に視線を送った。
「あの……一体何が起きてたんです?」
廊下でバケツを抱えたロレッタが、部屋を覗き込む。
「ああ、ロレッタさん。うちのギャガンが妖刀に操られちゃったみたいでねぇ」
「はぁ、妖刀……そんな怖い物がこのお屋敷にはあったんですねぇ」
そういって驚きで目を見開いたロレッタの顔に一瞬ビクッとしながら、健太郎はギャガンが落とした刀を手に取りバキバキにへし折った。
ウォオオオン、と恨めしそうな声を響かせ刃から赤黒い霞が抜けて行く。
「コホッ!? ……コホー」
ヒッ!? ……やっぱ怨霊とか悪霊とはお近づきにはなりたくないな。
健太郎は呼吸音を響かせ、背筋に走った悪寒にブルリと体を震わせた。
応援ありがとうございます!
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