上 下
102 / 105
第九章 錬金術師とパラサイト

青く輝く海の真ん中

しおりを挟む
 健太郎けんたろうはミラルダとリンクス03との交信で寄生体が爆発的に広がり、研究施設にいた者達も潜入した間諜部隊も恐らくは寄生されたのだろうと前世の知識から容易に想像出来た。
 そんな場所に寄生される可能性のある仲間を連れて行くのは、正直言えば御免こうむりたかった。

「コホーッ」

 俺一人で行ってマン・パラピュレーターだっけ、それの寄生前のオリジナルを取って来るんじゃ駄目かな?

「一人で?」
「なんだミラルダ?」
「いや、ミシマ一人で乗り込むって言うからさ」
「ミシマ、お前はオリジナルがどんな姿をしているのか、研究施設のどこにあるのか、その見当もつかないんじゃないか?」
「コホー……」

 それなら衛星で……。

 そう考えた健太郎だったが、今回、体がオリジナルの場所を表示する事は無かった。
 前回、この機能を使った時は真田の事を強く思い浮かべた。どうやら居場所の特定にはターゲットの事を健太郎がある程度知っておく必要があるらしい。

「……コホーッ?」

 ……でも、グリゼルダだってオリジナルの事、詳しく知ってる訳じゃないよね?

「グリゼルダも寄生体の事、詳しくは知らないだろう。だって」
「確かに今は知らん。だが……アキラ、寄生体の事を思い浮かべろ、それと知っているのであれば西海岸にある研究施設の事も頼む」
「……また俺の記憶を覗くのか?」
「そうだ、協力するならとことんまでしてもらう」

 グリゼルダ以外、遺体安置所にいた者達の視線がアキラに集まる。

「ふぅ……分かった、やるよ。ただ西海岸の施設については良く知らん。だが、俺が知るいくつかの研究所について記憶をやろう。設計理念は似ているだろうから少しは参考になる筈だ」

 視線の圧に負けて、アキラは降参したとばかりに先程、パムに枷を外された両手を持ち上げた。

「よし、では早速」

 グリゼルダはアーデンの時と同様、アキラの頭を抱え角を彼の額にそっと押し当てる。
 角が淡く光、寄生体の情報、研究施設の構造について読み取って行く。
 その際、アキラが当時、感じていただろう感情が流れ込み、グリゼルダの心は怒りや悲しみ、くやしさにさらされた。

「クッ……」



 アキラから離れ、よろめいたグリゼルダをそっとギャガンが支える。

「大丈夫かよ……それ、あんま使わねぇ方がいいんじゃねぇか?」
「……分かっている。しかしそうも言っていられんだろう?」

 そう言うとグリゼルダは自分を支えたギャガンの手に右手を重ね微笑んだ。
 その後、グリゼルダは健太郎達に視線を向けると、おもむろに口を開く。

「寄生体"マン・パラピュレーター"の姿、保管方法、研究施設の形、それについてアキラの予想は頭に入れた。後は現地で探すだけだ」
「……分かったよ……行くのは……」

 健太郎の先程の発言から、ミラルダは寄生される危険を考え仲間に目をやったが自分も含め誰も残るつもりは無い様だ。

「全員だね」
「当然だ、化け物が出て来ても俺がぶった斬ってやるよぉ」
「きっと鍵とかかかってるだろうから、それはわたしに任せて」
「寄生された者は取り敢えずミシマが分解再生できるか試そう」
「コホー……」

 グリゼルダと記憶の共有が出来れば、俺一人で行くんだが……。

 誰も残るつもりは無いようだ。健太郎はそれでもまだ、自分一人で動いた方が危険が少ないと個人作戦案を捨てきれずにいた。
 そんな健太郎の言葉を聞いたミラルダは彼の肩に右手を乗せる。

「ミシマ、あたし等は仲間だろう……一人でやるなんて寂しい事、言わないでおくれよ」
「コホー……」

 分かったよ……悪かった。

「うん。じゃあ、あたし等は西、オルニアルの研究施設へ向かう、アキラとコーエンさんは薬の製造を始めておくれ」
「分かったよ。コーエン、材料を言うから用意してくれ。あと、大量に作る事になるだろうから、もっと広い場所が必要だ」
「了解だ……しかし、さっきの様子じゃオルニアルはそうとう危険な状態のようだね……それでも周辺国に助けを求めないとは……」
「中央の連中はプライドだけは一丁前に高いからなぁ、きっと自分達のしくじりを他国に知られたくないんだろうさ」



 そう言ったアキラの顔には皮肉げな笑みが浮かんでいた。


■◇■◇■◇■


 今回の事はスピードが命だ。そんな訳でグリゼルダには悪いが健太郎はジェット機にその身を変え、一気にオルニアルの国土を飛び越え西海岸の先、研究施設があるという孤島に向かった。
 途中、リンクスが潜伏していたベントの街を上空から確認したが、街には集団で人を襲う寄生体に感染した者達の他、黒い毛並みの虎に似た獣や、灰色の狼の様な獣、翼の無い黒い竜等、猛獣や魔物の姿も見る事が出来た。

 恐らくリンクスを襲ったのはあの中のどれかだろう。

「ゴ―――――ッ!!」

 完全にゾンビ映画とか、ポストアポカリプスの世界じゃないかッ!!

「うーん、ミシマの世界のゾンビはそんなに怖い存在なのかい? こっちじゃ臭いはキツイけど、動きは鈍いし僧侶の神聖魔法や炎魔法に弱い、けっこうな雑魚なんだけど……?」
「ゴ―――――ッ!!」

 俺達の世界の認識でも、一匹だけならそれ程脅威じゃないよ。ただ、噛まれると味方もゾンビになるし、数の暴力ってのはゾンビだろうが人だろうがやっぱり怖いよ。

「数の暴力ねぇ……確かにそれはそうかも……」
「ミラルダッ! 多分、あの島がそうだよッ!!」

 公爵のガッドから手渡されたオルニアルの地図、それを片手に一番前に座っていたパムが副操縦席に座っていたミラルダを振り返り叫ぶ。

 ミラルダがパムの声で前方に目を向けると、青く輝く海の真ん中、木々に覆われた島が見えた。
 健太郎もそのパムの言葉でスピードを落とし、飛行しながら体をジェット機からVTOLへと変える。

「ふぅ、窮屈だったぜ」
「んーッ……あの加速はやはりなれんな……うむ、港が作られている。人の手が入っているし情報が間違っていないならあの島だろう」

 ギャガンは首を回しながら、グリゼルダは腕を上げ体を伸ばしつつ、VTOLの後部座席から操縦席を覗き話す。

「……人の姿は見えないねぇ……」
「あっ、建物が見えるよっ!!」

 島に近づくとパムの言葉が示す様に、石造り、いや健太郎の目にはコンクリートで作られた近代的な建築に思える物が視界に映った。
 錬金国家を名乗るだけあって魔人の国エルダガンドとは別の形、科学が進歩しているようだ。

「とにかく降りようか……ミシマ、出来るだけあの建物の近くに下ろしておくれ」
「バババババッ!!」

 了解だッ!! みんな気を付けてねッ、俺の知ってる知識じゃ着陸後が一番危ないからッ!!

 かつておっかなビックリではあるがプレイした事のあるゲームの一場面を思い出しながら、健太郎はゆっくりと寄生体に乗っ取られた者達が潜むだろう島に体を着陸させた。
しおりを挟む

処理中です...