紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.2

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

出来る事を精一杯

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 研究施設のある島に降り立った健太郎けんたろう達は早速、研究施設だと思われるコンクリート作りの建物へと向かった。
 島は港を見たグリゼルダが言った様に人の手が入っており、木々は生い茂っていたが石畳の通路が施設に向かって伸びていた。
 健太郎がその身を着陸させたのはその通路近くの砂浜だ。

 ミラルダ達は初めて見る海に一瞬見惚れていたが、残念ながら景色を楽しんでいる余裕は今回無い。
 誰ともなく全員、海から視線を外し、木々の間の通路の先に見える建物へと瞳を向けた。

「コホーッ」

 森の中にも生き物の反応は見えるけど、集中しているのはやっぱり施設の中みたい。

 健太郎は頭部レーダーを使用し周囲の生態反応を探った。
 視界にレーダーが表示され、建物内部に無数の光点が示される。

「ねぇ、ミシマ、その頭の飾りは何?」
「コホーッ」

 これはレーダーって奴で周囲の生き物の反応を探れるんだよ。

「ミシマはそいつで周囲の生き物を見つけられるんだよ、それで建物の中に反応は集中してるってさ」
「へぇ……便利だけど、ちょっとカッコ悪いね」
「コホーッ!!」

 気にしてるんだから、そういう事言わないでッ!!

「わわッ、ごめんごめん」

 憤慨した様子で両手を振り上げた健太郎にパムは愛想笑いを浮かべ宥める。
 そんな二人の様子を横目に、ミラルダは建物を見つめた。

「反応ありか……やっぱり寄生されているって考えるべきなんだろうねぇ」
「だろうな……ミシマ、分解再生機で動くのはアキラを飲み込んだ部分だけか?」
「コホーッ」

 そうだよ……ちょっと待って……もしかしてキャタピラを装備すれば……。

 そんな事を考えた健太郎の体がカシャカシャとその身を変じる。

「わっ、また大きくなってるッ!」
「取り敢えず離れようッ!」
「そうだねッ!」

 ミラルダ達は変形を始めた健太郎から慌てて距離を取った。

「ピピー……」

 これは……。

「ミシマ、急に変形すんのは止めろよな」
「ピピーッ」

 ごめんよ。ただちょっとそういう事を思い浮かべただけで、体が勝手に反応しちゃうんだよ。

 苦情を言ったギャガンに答えた健太郎の体は、以前変形した分解再生機に先ほど考えたキャタピラのついた形になっていた。

「ふむ、このベルトのついた車輪で移動できる訳か……しかし大きいな。これで屋内を移動するのは……」
「だね。ミシマ、取り敢えずは人型に戻っておくれな」
「ピピーッ」

 了解。

 人型に戻った健太郎に苦笑を浮かべ、改めてミラルダは建物に向き直る。



 コンクリートで作られた箱型の白い建物は外部から見る限り四階建て。
 側面には窓が並び、その窓は分厚いカーテンに遮られ中の様子はうかがえない。
 また、全ての窓には侵入者除けの為か鉄格子が取り付けられていた。

「正面のあの二枚扉が玄関みたいだね」
「んじゃ、お邪魔するとするか。パム、扉を頼む」
「わかったッ!」
「ミシマと俺は何か出て来た時の対処だ」
「コホーッ!!」

 了解だッ!!

「ミラルダとグリゼルダは少し下がってろ。大量に出て来た時は魔法で対処してくれ」
「分かったよっ!」
「任せろ」
「じゃあ、扉を調べるね……罠は無し……鍵は……」

 パムが分厚い木製の両開きの扉に近づき、鍵穴を覗き込む。

「ちょっと複雑そうだけど……」

 そう言いながら腰のポーチからツールを取り出し、鍵穴にツールを差し込んでいく。
 ガチャリ、程なくそんな音がしてパムは健太郎達を振り向いた。

「扉の向こうから音はしない」
「コホーッ!」

 レーダーにも反応は無いよッ!

 健太郎も頭部のパラボラアンテナを回転させつつ、パムの言葉に頷きを返す。

「……じゃあ、開けるよ」

 パムは全員に視線を送り一つ頷くと扉に向き直りノブに手を掛けた。
 ギィイイイ。蝶番を軋ませドアが開かれる。外の光が差し込んだロビーは静まり返り、光を受けて宙を舞う埃が浮かび上がった。

「誰もいないね……」

 パムは周囲を見回し小さく呟くと、無人のロビーへと足を踏み入れた。
 彼女に続きギャガンと健太郎も左右に展開する形で建物内へと歩を進める。

 建物の外部はコンクリート造りだったが、内部は板張りの床に漆喰の壁、柱は木造と温かみを感じさせる物だった。
 ただ、薄暗く無人の空間はどこか不気味さを漂わせていたが……。

「グリゼルダ、オリジナルの場所、見当がつけられるかい?」
「そうだな……取り敢えず少し探索をして施設の構成を確認しよう。それでパターンが分かれば……」
「んじゃ、右と左、どっちから調べる?」
「ふむ……まずは右から行こう」
「右だねッ!」

 パムはロビーの右のドアに歩み寄り、ドアに耳を寄せる。

「ウォオオオオン……」
「……なんかいる」

 ドアの向こう、おそらくドアを隔てたすぐ先ではないだろうが、パムの耳に雄叫びが遠く聞こえた。

「どうする、開ける?」
「……ミシマ、お前その頭の奴で敵が何処にいるのか分かるんだろう?」
「コホー……」

 それが……反応が多くて、それに立体になってると上か下か分かりづらいんだよね。

 ミラルダが健太郎の言葉をギャガンに伝えると、しょうがねぇなぁとため息を一つ付きパムに向き直った。

「開けてくれ。どの道進まねぇと話にならねぇ」
「分かったよッ」

 そうしてパムが鍵と格闘し始めた時、健太郎の視界にあった光点がこちらに移動を始めた。

「コホーッ!!」

 何か近づいてくるッ!!

「わっ!?」

 健太郎の言葉と同時に、パムが開けようとしていたドアに衝撃が走った。
 ドンッ、という音の後にガリガリと扉を引っ掻く音が響く。
 やがてガチャリと鍵の開く音が聞こえ、ゆっくりとドアノブが回り、緑色のブヨブヨとした何かに覆われた人型の怪物が姿を見せた。



「コホーッ!!」

 ひえっ、気持ち悪いッ!!

「こいつは寄生された人ッ!?」
「でも安置所で見たのと全然違うよッ!?」

 安置所で見た遺体は人の姿をしていた。それとはまったく違う姿に困惑しつつも、健太郎達は現れた怪物から咄嗟に距離を取る。

「クッ、どうするッ!? こいつは斬っていいのかッ!?」
「いや眠らせるッ! 万能なる魔の力よ、彼の者に眠りを誘う安らかな空気を、眠りの雲スリープクラウド

 ギャガンの言葉に反応したグリゼルダが、眠りの霧を発生させた。
 しかし、頭部まで緑の何か覆われたそれは霧に包まれてても眠る事無く前進を続ける。

「ウォオオオンッ!!」

 唐突に人であれば口に当たる部分に穴が開き、緑の飛沫を飛び散らせながら、怪物が咆哮を上げた。

「ギャガン、パム、下がれッ!! 飛沫を吸い込むと寄生されるかもしれんッ!!」
「ひぇええッ!!」
「チッ、面倒な相手だッ!!」

 パムは更に距離を取り、ギャガンは鼻先に皺を寄せながら後ろへ飛んだ。

「ミシマ、変形してこいつを飲み込めッ!! ミラルダ、我々は発火で飛沫を焼くぞ!!」
「コホーッ!!」

 了解だッ!!

「わっ、分かったよッ!!」

「「万能なる魔力よ、原初の破壊、炎の御業をわが手に、発火ファイアリングッ!!」」

 グリゼルダの突き出した手と、ミラルダが掲げた杖の先から炎が噴き出し、空中に飛んだ緑の飛沫を焼いて行く。
 その間に分解再生機に変形した健太郎が、炎に怯んだ怪物を飲み込んだ。

 その暫し後、吐き出されたモノを見て健太郎達は顔を歪めていた。
 健太郎は確かに寄生体と寄生されただろう男を分離して再生した。

 だが、寄生体は再生されて程なく黒ずんで干乾び、男の方も呼吸困難に陥りグリゼルダの治癒魔法の甲斐なく命を落とした。

「コホー……」

 俺の機能じゃこの人達は救えない……。

「ミシマ……」
「アキラが言っていた脳にまで根が伸びた状態というやつだろう……再生はその状態でなされた」
「復活は無理って事か……」
「……ミシマの所為じゃ無いよッ!」

 パムが死んだ男を見下ろし、茫然としていた健太郎の腕をポンッと叩く。

「コホー……」

 この身体は万能だと思っていたのに……。

 視線を広げた両手に落した健太郎の、その広げられた手にミラルダがそっと手を乗せた。

「ミシマ、あんたは何でも出来るけど、神様じゃない。ここにいるみんなそうさ。だから人は出来る事を精一杯して藻掻もがくんだよ」
「コホー……」

 出来る事を精一杯……。

「ああ、今、あたし達に出来る事、それはこの惨劇を生み出したオリジナルを探す事、そうだろ?」
「……コホー……コホーッ」

 ……そうだな……落ち込んでる場合じゃないなッ。

「そうさッ!」

 ミラルダは歯を見せて笑うと、自分の両頬をパンッと叩いた。

「この人を埋めて探索を続けよう。助けられそうな人は助ける、無理な人は送ってあげる。みんなそれでいいかいッ?」
「コホーッ」

 オッケーだ。

「うむ、今の所、他に手は無さそうだ……」
「さっきみたいなのは斬っていいんだな?」
「ああ、でも寄生されない様に注意するんだよ」
「分かってるよぉ」
「じゃあ、まず、この男の人を埋めようか……」

 珍しく沈んだパムの声がロビーに静かに響いた。
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