ガラス玉のように

イケのタコ

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13話 知らない別館

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震える明かり。月明かりのない夜、果て無く続く真っ暗な道を懐中電灯は小さく照らす。どこを切り取っても年季が入る日本家屋のお陰で、懐中電灯を持つ手を振るわせる。
何度か天井に灯りを灯そうとしたが、生憎この屋敷に来て日が浅いため電気をつけるスイッチが何処にあるのかを知らない。
怖くてスイッチを探し回っていたら無駄に歩き回り、今自分が何処にいるの分からない状態になった。自分の部屋に戻りたいけど、右を見ても知らない襖、左を見ても知らない廊下が続いていた。
トイレに行きたかっただけなのに、自然とため息が漏れ出す。
当てなく歩き続けていれば、足元にキラリと金属のような物が光る。
何故ここにあるのか。
俺は気になって注視すると、それは花がついた髪飾り。ピンの部分は金色の金属で、白い布で作られた花をあしらった、和風の髪飾りだった。
手に取れば分かるが、作りは丁寧で花の中心で輝く宝石、決し安くはない代物だ。
高価なものを片付けもせず髪飾りが何故この様な所にあるのか。余計に気になって見渡せば、着物が沢山飾ってある部屋にいつの間にか入っていた。
沢山の色とりどりの着物、全てが女性物の着物だった。全く使われておらず、着物は埃を被っていた。
当たり前だ。ここの屋敷に住む身内は義宗さんのただ男1人。女性の着物を着る理由がなく。
部屋を埋め尽くすばかりの着物は、義宗さんの親族が着ていたのだろうか。
一つ一つ違う柄、着物の綺麗さに関しつつ見回っていると、白く細い足先が見え。
そして

「何やってるんだ」 

と言われたので足の力が抜ければ、俺はひっくり返るような勢いで尻餅をついた。

「あぶなっ、急に崩れるなよ」

怯えながら声のする方、真上を照らせば三船が目を細めてこちらを覗き込む。
相変わらずお馴染みの田舎のヤンキー風、黒いジャージを着ている。

「眩しい」
「あっごめん」

懐中電灯を下に向ける。

「声がするから来てみれば。で、スズはここでなにやってるんだ」
「トイレ行こうとしたけど、いつの間に迷ったみたいでここに流れ着いた感じ」
「これだけ暗いと迷うのも無理ないか。もう、ここは別館の方だ。いつものトイレと真逆に来てる」
「うそっ」

ここに来るまで確かに見たことない物ばかり置いてあるなと感じてはいた。別館の方まで来ていたとは思わなかった。
本館と廊下で繋がる別館。来たことがない屋敷で迷いに迷うのも当たり前である。

「ここにも、トイレあるからついてきて」
「うん、ありがとう」

 暗い屋敷を先導する三船。気がついた、両手に一つも灯りを持ってない事に。

「あれ、三船は明かり持ってないの」
「持ってない。明かりなくても家の中把握してるから問題ない」
「じゃあ、明かりも持たずに暗闇の中ウロウロしてたってこと」
「ウロウロはしてないけど、そういうこと。数ヶ月もすればスズもできるから気にするな」

いや、無理だろ。これだけ広くて入り組んでいると、昼間でも迷う自信がある。
不安の最中、ここだと言われて着いたのは個室のトイレだった。

「俺は」
「えっ、もう帰るの」
 
何かを言いかけた三船の服を引っ掴んで静止させる。知らない別館、前も後ろも暗闇に俺は心を細くさせていた。
掴まれた三船は少しだけ驚いた様子だったが、すぐに隣の部屋を指さして。

「いや、隣の部屋で待ってるけど」
「あっそうなんだ、待っててくれるんだ。良かった~」

俺は手を離す。

「絶対にいてよ、何があってもいてよ」
「分かってるから、ここにいるから」

俺は何度も振り返って三船の居場所を確認をする。何度も振り返る俺を、三船は一つも文句を言わずにただその場に佇み俺を見送る。

「いるから安心しろ」

その言葉を最後に俺は扉を閉めた。



扉を開けた、隣の部屋。その部屋は夕暮れの様な橙色の電灯が薄くついていた。宣言通り三船はその部屋で待っていた。
寝転がっている三船、今にも眠りそうで悪い事をしたと思いつつ俺は小さく声をかける。

「ごめん、待っててくれて」
「別にいいよ、ここに居たかったし」

ゆっくりと起き上がった三船はその場で胡座をかいた。

「そうなんだ。だから、別館まで来てたのか。ここ好きなの」
「ここにいると落ち着くから、よく来てる」

三船は耳を澄ます様に目を閉じ、本当に落ち着いているのだと感じれる。
直ぐにでも部屋に戻っても良かったが、俺はなんとなく三船の隣に腰を下ろした。
絵のない襖に手垢のついた汚れた柱、何かをこぼし染みついた畳に、使い込まれた座布団が端に積まれている。
この部屋は本館の部屋より生活臭が漂い、庶民的で、部屋も小さく、人様を迎える様な部屋ではなかった。
ここが落ち着くと言うのも分かる気がする。
虫の鳴き声も聞こえない静かな夜、ポツリと三船が言葉を漏らす。

「ずっと、ここに居た気がする。ずっとここで俺は眠っていた気がする」
「そうなると、小さい時はここで暮らしてたとか」
「いや、俺はずっと小さい頃から三船の家だ。あと、親戚でここに居たとしても、この部屋、ずっと義宗の身内が使ってたから物理的に無理」

なるほど。手に取った髪飾りを思い出す。
この部屋、直ぐ隣に先ほど迷い込んだ沢山の着物が置かれた部屋がある。この髪飾りも、あの着物も、きっと今はいない、その女の人が使っていたのだろうと。

「今はその人は」
「知らない。義宗が言うには当主、義宗の父親が死んでから身内が直ぐに散り散りなったから、どこにいるのかも知らないって」
「……そうなんだ」
「だから、この別館に来たのは、ここに暮らし始めてからだ。でも初めてここに来た時から知ってる気がして……前に来てたのか、どうなのか」
「じゃあ、悩みがある時はよく来るんだ」

無言で頷く三船と目が合う。

「ここだと悩み吹き飛びそうだし、いいよね」
「だな」

三船は満足そうに寝転がった。自分の部屋に戻る気はない様だ。

「もう、帰る気ないみたいだね」
「前から無いよ。スズは……」
「なに」
「いや、なんでも無い。部屋戻りたくなったら言って、一緒に行くから」

瞼は重く、ゆっくりと閉じらていく三船は眠りつく。俺は音を立てない様に立ち上がり、掛布を探す。人が住んでいたと聴いたので、襖を開ければ案の定タオルケットの様なものを見つけ、それを三船に被せた。
すやすやと眠り三船を見守りながら、俺はもう少ししてから部屋に戻るかと隣で寝転んでいたら、いつの間に眠っていた。

「おはよう、スズ君。風邪ひいてない」

と義宗さんが朝ごはんが出来たと呼びに来る時間まで一緒に寝ていた。



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