学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

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次の日、いつものようにイーナは魔物を狩る為に依頼主の元に向かい、いつも通りに魔物がいる薄暗い森の中に入っていく。

「今日はそっちに行くな」

イーナは行こうとした方向を、狩りの仲間に呼び止められた。

「えっ、でも最近はこっちの方が魔物増えてきていますよ」
「それは俺も分かっているんだが、依頼主がそちらは行くなという命令だ。理由はどうあれ、命令違反は報酬が減らされるだけ、だからからやめとけ」
「分かりました」

少々納得がいかないが、依頼主の要望ならば仕方ない。雇われた下働きには関係ないということだ。

「あっそうだ。ここら辺、毒を使う魔物が出たらしいから気をつけろよ。油断したらコロッと喰われるぞ」
「もう……、喰われたんですね」
「そうだ。聞くには毒で痺れて動けないところを魔物が頭から丸ごとパクリってな。お前ぐらいなら一飲みだな。ハハッ、嗚呼ーーー、絶対会いたくないな」
「はは……」

お互いに乾いた笑いしか出ない。それでも、森の奥に踏み出すのは、お互いに大事な生活があるからだ。

「死んでも、頑張ろうな」
「はい」

お互いに励まし合いながら足を進めた。
それから順調に魔物の狩りは進み。順調に依頼をこなしていくのだが、問題が一つ発生してしまった。

「……しまった。追いかけ過ぎた」

そう、イーナは魔物を深追いしすぎて、一人になってしまったのだ。辺りを見渡してみたが、狩り仲間の姿は見当たらない。
 
完全に、森の中で一人迷っていた。
 
どうしようかと考えて迷っている間にも時間が刻々と過ぎて、焦りが増していく。魔物がいる森の中で、時間が過ぎれば過ぎるほど遭遇率が高まっていくというもの。もし、群れに出会えば、一貫の終わりである。
イーナは魔物の狩りは中断し、背負っている矢の数を指先で確認すれば、残りは数本。
先ほど、倒した魔物から矢を引き抜いて一本増えたくらいである。
地道に回収しておけばよかったと後悔するが、気持ちを切り替えて、さっさと森を抜けないといけない。魔物のから抜いた矢を背負っている筒に戻し、草木を掻き分ける。

そんなに遠くには行っていないはず。記憶を辿りながら来た道に戻ろうとした時だった。
甲高い悲鳴と、バタバタと草木を踏み荒らすような音が反対側から微かに聞こえた。

まさかっ!

イーナは来た道を引き返し。矢を背から引き抜き、弓を構えながら叫び声のする方に走る。
 
空耳だと信じたい。

その場にイーナが駆けつけてみれば、想定していた最悪の出来事が起きていた。
涎を垂らした四つ足の魔物が、黒いマントを羽織った子供を追いかけていたからだ。
子供といっても、自身と同じくらいの身長と体型、歳くらいであるが。その子供は武器も持たず、命からがら必死に逃げていた。
子供と魔物の追いかけっこは、凸凹の土道を飛ぶように走る魔物の方が圧倒的に速い。

このままでは、魔物に追いつかれる。

イーナの決断は早く、泥で滑りながらも矢を弦に当てて弓を引く。たわむ弦から離せば、矢は吸い込まれるように魔物に突き刺さった。
魔物は子供の一歩手前でバタリと音を立てて倒れ。

「ひぃ」

先ほどまで走り続けていた子供は、突然動かなくなった魔物に気を取られ、足を木の根に引っ掛けて豪快に転ける。

「大丈夫か!」

イーナはすぐに子供に駆け寄った。
 
「来るなっ! 来るなっ!」

しかし、マントで顔が見えない子供、少年はまだ魔物に追いかけられていると思っているのだろう、腰を抜かしたまま周りあった草や小石を握りしめてはイーナに投げつけた。

「いって、ちょっと落ち着いて、俺は人間だ。追いかけていた魔物は死んだ」
「来るなっ!」

小石が丁度イーナの額を掠め。そこから赤い血を数的、地面に落とせば少年は石や草を掴んでいた手を止める。
顔は見えないが、顔色を真っ青にして目の前のいるのは人だということに気がついた。

「ごっ、ごめん……」
「いいよ。それより大丈夫、怪我しているみたいだけど」

先ほど転んだ怪我ではなく、手首から肘まで爪で引き裂かれ傷を指した。魔物から身を守る時に腕で庇ったのが、見て取れる。

「止血ぐらいなら……出来るけど……」
「……」

少年は無言で怪我した腕を差し出してきた。
森の暗さもあって、表情があまり読めない。一向にフードを取ろうとしないどころか、さらにフードを深く被り直す、少年は顔を見られたくない意志を強く感じた。
こういうのは触れない方が良いと、何も訊かずズボンのポケットからバンダナを取り出した。
切り裂かれた傷口をバンダナで押さえ、慣れた手つき巻いていく。魔物を狩っている身としては、仲間も自身も無傷で帰ることはほぼないので、怪我の処置は慣れていた。

「はい、出来た。それより、どうして子供がこんなところを彷徨っているんだ。この森に入ることは禁止されているはずた」
「そんなこと、しらなぁーーー、ていうか。君も同じ子供じゃないか。入ったら駄目なんじゃないの」
「俺は、魔物狩りに来ているから入れるの。ほら、この森に入っていい許可証もちゃんとあるよ」

ポケットに突っ込みクシャクシャになった許可証を見せつけた。

「よく分からないけど……君はその歳で魔物狩りをやっているのか」
「そういうこと」
「こんな仕事をさせる、君の親は酷いやつだね。魔物の狩りなんて、幾つ命があっても足りないというのに」
「ーーー、そうかもね。で、君の方は魔物の狩りにきた訳じゃないよね。迷子?」
「迷子と言われれば、迷子だ。森に一緒に来ていた人と……逸れた」

言葉は随分と歯切れが悪く、首を横に振ると「いや、違う」と言い直す。

「……ここに置いてかれた」
「えっ、魔物がいる森に子供一人を置いていったのか。随分と酷い奴もいるんだね」
「迷っているのに助けは来ないし。だから、僕がここでのたれ死のうが、魔物に喰われようが、みんな僕のことなんかどうでもいいだ」
「そう言わないでよ。せっかく助けたんだから、森を一緒に抜けよ」

体を丸く小さくしていく少年に、目線を合わせるために腰を曲げイーナは片手を差し出した。

「……こんな所、言われなくとも出るよ」
「そうこないと」

顔を上げた少年は、イーナの差し出された手を力強く掴む。
二人でここを出ようと、少年を起き上がらせるために手を引っ張った時だった。
イーナの後ろから、じんわりと鳥肌が立つような殺気が感じ、そして地面を滑るような謎の音が奥から聞こえる。

「後ろに下がって!」

少年の前に立っては、振り返り弓を構えようとしたイーナだったが、自身の身長ほどある蛇がこちら向かって飛んできていた。

魔物だ!
 
弓を射るには魔物との間合いはない。逃げれば、後ろの少年に被害がいく。
イーナはその場に立ち止まり、大きく口を開けて飛んできた蛇に片腕を噛ませる。そして、持っていた矢を蛇の頭から顎まで突き刺した。
刺された蛇は暴れて口を離し地面に落ちるが、息を吸った途端に目に見えない何かが体内に入り込む。それは、鼻を通り、舌をビリッと痺れさせるもの。

これは毒の霧だと、気づき口と鼻を腕で覆う。

そして矢に突き刺されてもなお、蛇のような魔物は細長い胴体を暴れ動いては矢を抜いた。

「何が起きて……」

現状が理解できないと呆然と見上げてくる少年の腕を引き上げては立たせ、森の奥へと逃げ込む。魔物から出来るだけ早く、出来るだけ遠くに、凸凹とした地面に足を取られながらも少年を引っ張る。

「ねぇ! ちょっと待って、血が」

魔物に噛まれたイーナの腕からは血が流れ。地面に落ちる血が道のように跡をつけ、その光景に少年は叫ぶ。
それでも無心に突き進むのは、毒の影響でイーナの視界がどんどん狭くなっているからだ。
毒を吸い切る前に息を止めたが、目は開けたままだったので、毒が浸透し回ってきている。
 
どこでも良いから、開けた道に。彼だけでも、帰れる道に出ないと。

時間が経つにつれ暗闇に覆われていく視界。ついに、地面が見えなくなったイーナは足先を取られて転げる。腕を掴んでいた少年も巻き込んで、共に土の上を滑った。

「やっぱり、怪我が駄目だったんだ」

少年は転けたと同時にすぐに立ち上がり、前で横たわるイーナの元に駆けつけた。

「ごめんっ……俺のせいだ」
「えっ?」

突然のイーナの謝罪に、少年の頭は謎だらけ。

「なぜ、助けてくれたのに謝る?」
「俺が……ちゃんと魔物の死体を見てなかったせいだ。擬態っ、魔物は魔物の皮を被ってなりすます奴がいるんだ。……っだから、死んだのを確認しなかった俺のせいだ」

相手に殺したと思わせて、油断したところを襲う。だから、殺した後は細心の注意を払って、毎回魔物の生死を確かめていた。イーナはその基本をすっかりと忘れていたせいで、目も見えず魔物に追われるという窮地に立たされている。

「ごめん……君だけでも逃げて欲しい。さっき、毒を受けたみたいで周りが真っ暗で見えないんだ」

泣きたいけれど、それどころじゃない状況。景色が黒く染まってしまった自身は足手纏い、だから少年だけでも森を抜けるよう促した。
 
「……」

すると、少年は何も言わずにイーナの目元を一撫でしては、腕を取りイーナを起き上げるために上に持ち上げた。

「君が言ったんだろ、一緒に逃げるって」
「でも、もう目が見えないんだ。このまま、肩を貸されても魔物に追いつかれて二人とも死ぬ。だから、一人で逃げた方が良いと思う」
「じゃあ、その追いかけてくる魔物を倒せばいいよね」
「どうやって……」
「僕が、君の目になるから。だから、助けてくれた君が死ぬなんて言わないでよ。君にだって帰る場所あるだろ」

帰る場所ーーー、家で待つ小さな弟が浮かんできた。ここで死んでは、ずっと心配して待っていてくれる弟を一人にする。
 
「ーーーある」
「なおさら、向かい打つしかないよ。僕、攻撃はまったくというか無理だけど、少しだけ術を使えるから」

二人一緒に森を抜けようと少年に励まされて、イーナは地面に両手をついてやっと体を起き上がらせた。

魔物と対峙するにも、木々密集し、物影があるところはうねうねと自由自在に動ける魔物の方が有利。
となると、出来るだけ木々が密集しておらず、出来るだけ平らであり開けた場所。
二人は条件に合う場所を探し出し、そこで蛇型の魔物を、腰を屈めて待ち構えることとなった。

「それなりに距離が空いたと思うだけど。さっきの魔物は本当にくるのかな」
「来る。あいつらは、一度跡をつけた奴にはしつこいんだ」

イーナの背中側に張り付く少年は疑っていたが、イーナは必ずと豪語できるほど自信がある。取り逃した獲物をしつこく追いかける魔物を、何体も知っているからこそ。地面に落としてきた血を追って、あの魔物はこちらに近づいてきていると確信する。

「……本当に来た。右からだ」

ザラザラと地面を滑る音と共に草を掻き分け、ゆっくりとこちらに向かってくるのは蛇型の魔物。

「噛みつこうと飛び跳ねた時に、肩を叩いて合図して欲しい」
「わっ、分かった。任せて」

確認している内にも魔物は確実に近づいて来ては、舌を鳴らす。
ゴクリっと、蓄えた唾が喉に落ちる音が聞こえ、肩に置かれている少年の手が震えているのを感じる。自身と変わらない大きさの蛇が襲いにかかってくるならば、震えるのも仕方ない。
それでも一緒に立ち向かってくれる少年に感謝しつつ、イーナは使えない目は閉じて魔物が向かってくる方に弓を構えた。

息を整えろ。落ち着け、音を聞け。気配を探れ。魔物がどこにいるのかを感じろ。この、一手で勝負が決まる。

そして魔物は口を開けて飛び跳ね、イーナの肩を強く叩かれた。
叩いたと同時に少年は、空中に丸い玉を投げ込み。玉は強い光を発しながら破裂する。薄暗い中での強い光は視界を白く黒とさせて、周りの眼をくらませる。

空中で、もがく蛇型の魔物。目を光に焼かれたのだ。

ただ一人、目が見えないイーナは動じることはなく弓を魔物に向けて二回射る。
一矢は口の中に、ニ矢はトドメを刺すように胴体を突き抜け串刺しに。矢が命中した、魔物は力を無くしボトリッと空から落ちる。

「死んだ?」

少年は目を擦り、地面に落ちてから動く気配がない魔物の様子を伺う。

「分からない……」
「僕が確認してくるよ。何度も矢を受けたんだ。魔物も無事じゃないはず」
「これ持って行って」

少年にイーナは腰に仕舞っていた小型の刃物を渡す。イーナの代わりに、恐る恐る少年は魔物の生死を確認しに行く。

「……死んでるよ」
「よっ……、良かった」

蹴っても全く動かないと言われて、イーナは弓をやっと下ろすことができた。
倒すことができたのかと、安心して息を吐いた途端に頭が重くなり、体の重心がぐらぐらと傾いた。

あっ、倒れる。

イーナはその場で意識を失った。









事の終わりを説明すると、無事二人は森から出ることができた。
なんと、少年が投げた光、術のおかげで少年を探していた者たちが気づいてくれて、俺たち二人を見つけてくれたのだ。
その場で意識を失っていた俺は病院に投げ込まれて、怪我が酷いということで入院する事となった。どうにか命はあったが、見舞いに来た弟に大泣きされてしまった。
謝っても当分は許してくれなさそうだ。
 
自身は助かったが、森で会った少年は大丈夫なのだろうかと心配していると、見た目が恐い数人の大人が押し入って来ては、業務連絡のように淡々と少年は無事だと聞かされた。
少年を助けてくれたお礼に入院費は負担すると言われ、見たことがない金品を沢山置かれ。

『この事は、誰にも言わないようにお願いします』

と言って大人達は颯爽と去って行ったのだ。その当時は言わなければ良いのかと特に深く考えず楽観的だったが、今考えれば口封じだったと理解できる。
もし話していればと考えると、どうなっていたかはあまり想像したくはない。
どうであれ、家に無事帰れて、五体満足で退院したので全て丸く収まったとしよう。

そして、貰ったお金はある事に使うと決めた。

「いいね、そのメガネ」

揺れる馬車の中。横に座っていた弟が、俺のメガネを指しては嬉しそうに言う。
目が見えないまま蛇型の魔物と戦った後。病院で解毒はしてもらい、目は見えるようになったのだが。毒が回って時間が経っていたこともあり、日常生活に支障が出るほど視力が落ちてしまったのだ。
病院で我が儘を言っても治らないので、イーナはメガネを掛けることとなった。弟には、人を助けたことだけを伝えていたこともあり。

「なんか。メガネが英雄の証みたいになって、かっこよく見えるよ」
「……それもそうだな。いい事を言うな、ヴァイス」
「ふふん、でしょー」

弟の髪を乱して撫でると、弟は満足気に口角を上げる。
英雄の証か。少しかっこいいと思ってしまった。
最初は動きの邪魔でメガネをかけることが嫌だったが、弟にそう言われて身に付けていることが嬉しくなった。
俺は少年と共に魔物を倒して良かったのだと、心底から安堵する。

「さて、帝都にいつ行けるんだろうな」
「まだまだ、兄さん。谷と山を越えないといけないよ」

貰ったお金の使い道は、帝都に行く金にした。
弟と行きたくても、行けなかった帝都。
様々な困難が待ち受けていても、住む町よりか少しは穏やかな生活になるだろうと、イーナは期待を膨らませて馬車に揺られた。
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