前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ

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2 友人のY

23 電車に揺られて

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いつだったか、丁度日差しが照り返す中自宅に篭っていると、庭に佇む兄様を見かけた。
暑い日差しを浴びながら兄様はじっと夏に伸びた草むらの方を見ているようで、気になった私は刺激しないように静かに近づいた。

「何を見ているのですか」

話しかけると兄様は無言で見ていたものを指し示す。
そして、私はその光景に目を見開き、悲鳴を上げそうになったが、両手で口を押さえた。

「カマキリの共食い。滅多に見られるものじゃないよ」

顔色を変えずに淡々と話す兄様。そういう生き物だと分かっていたけれど、行われている光景に耳や、目が拒絶する。
恐い。私はその光景から逃げたくて後ろに下がろうとした瞬間、足元にあった大きな石に気づかず足を取られ、その場で尻餅をついた。

「可笑しいよな。同じ生物だというのに殺し合うなんて」

同じ赤黒い髪の毛を揺らし、兄様は振り返る。

「でもな、椿。自然界ではごく当たり前のことで、生き残るには同種、いや、兄妹すらも糧にしないと生き残れない時があるんだ」
「……、生き残るには、兄妹すら糧にしなくてはならないと言っているのですか」
「そうは言ってない。生きるには、相手が誰であろうと争って蹴落とさないといけない事がある。そして、勝っても負けてもどちらかが生き残れば、それは種として繁栄になる。そこには、もう勝ち負けなんてない」
「言っている意味が分かりません。それだと死んだ方はあまりにも可哀そうではないですか」

赤い瞳は微笑むけれど、喜びや悲しみのような感情が抜け落ちている。
全ての闇を抱えたような人、いつもどこを見ているのか。
同じ兄妹だというのに相変わらず、兄様の話は理解できない。昔から生物に詳しく生体の話をされるけれど、肝心なところはいつもうやむやにされるから、話は好きではなかった。
 
「今は分からなくていい、いずれは分かるから」

兄様は腰を曲げて私に手を差し出した。

「外は熱いから家の中に入ろう」
「はい……」


差し出された手を握り立ち上がると、後ろの方から慌てたような妹の声が聞こえてきた。

「兄様、こんなところに……、姉様もご一緒なんですね」

兄様に向いていた時は笑顔だったのに、私に気がついた時は嫌悪した苦渋の表情に変わる。
どっか行ってと心の声が聞こえてきそうなくらい睨まれたが、いつものことだから気にはしない。

「で、どうした。わざわざ呼びに来て」
「あっ、そうでしたわ。お兄様、お父様がお呼びです」


兄様と妹は屋敷に帰っていく。
私が私なら、妹も妹。血は争えないと、私も屋敷に戻るのだった。  

すると、体が大きく揺さぶられる。

何が起きたと目を上げれば、四条家の古き良き庭園から気が付けば、揺れる電車の中。
どうやら、寝落ちして前世の夢を見ていたようだ。
夢の中にいたのは四条家の長男。出会いたくない人の中でも、雪久達と同じくらいに避けたい人物。そもそも四条の人達に会いたくないけど。
いつだって俺は前世の人には会いたくないと避け続けて自身を守ってきたわけだが、その防波堤はいまや崩れかかっている。
それを切り崩してきたのが雪久とは、やはり運命としか言いようがない。

これも偶然じゃないよな……。

電車の窓に反射して映るのは、自身の顔。気になるのは小さな首の傷だった。
最初は満員電車で酷く揺られてしまい、自身の鞄で軽く引っ掻いた。
怪我したのが首って不吉だなと呑気に思っていたら、それを皮切りに様々な事が起きた。
ある時は突風で舞った落ち葉によって皮膚を掠り、またある時はどこからかボールが飛んできたりと、執念深く首を狙ってくる。
今のところは血とかは出てないけど、いずれはそうなるのではと想像するだけで寒気がする。

やっぱり、こうなるのは雪久に近づいた所為だよな。

今まで通り転校するなり雪久と離れることはできるけど、椿が俺だったとしても認めてくれたのなら、簡単に離れることが嫌になった。
早々に初めての口喧嘩をしたけど、今世こそあの人の幸せを見届けたいと願ってしまう。
 
気の良い友人としていたいだけなのに、運命が厳しいと思うのは俺だけか。
もしかして、邪な気持ちすらダメなのか。だって、雪久と色んな所に出掛けたいし、結婚式にだって呼ばれたいって。その子供だってみたい。

うん、だいぶ気持ち悪いな俺。

本当に、雪久と男女の関係にならなくて良かったと思う。雪久の有無すら聞かずに一線を超えているはずだから。
男で良かった。せめて彼奴が誰かと結婚するまでは傍にいたいと、首の傷を指で辿る。

そもそも運命が絶対というなら、傷を負ったからといって死ぬことはないと確信している。
首に怪我をしたのだって俺から雪久に近づいたから。なら順序通りに行くなら俺はまだ死なないはずだ。
そんな事を考えていたら電車が揺れるとアナウンスがかかる。
数分後、アナウンス通りに車体は大きく揺れて、吊り革を掴んでいても足元が傾く。

「っ、すまない」
 
隣にいた男性はスマホに集中していたのか足元を崩しそうになり、その勢いで俺に肩がぶつけた。
電車ではよくある事なので「大丈夫です」と返して終わりなのだが、一瞬の触れ合いにあの匂いが漂ってきた。
香水で匂いを隠しても、幼い頃から嫌というほど嗅いできた爽やかでいて甘い花の香りが鼻奥に突き抜けていく。

「君? 大丈夫か。顔色が随分と悪いけど」

ーーー隣のスーツを着た男は、心配そうにこちらに目を向けた。
 
もしかして、俺の事をわかっていない?
 
下がり眉に、弱々しく口端は下がり、どうしようとアワアワとした表情を見せる男は、俺に対して全く興味がない。
もし俺だと分かっていたなら、この表情は見せないはずだ。

「あっ、大丈夫です。ちょっと酔った程度ですので」
「そう? それならよかったぁ」

安堵の表情を見せては再びスマホに目線を戻す男。
隣にいる、スーツの男はあくまでも他人だ。震える手を抑えて、平常心、平常心。今の俺はごく普通の男子高校生。
丁度、電車の扉が開いたので逃げるように駅から降りる。
その間、あの赤い目が俺を追いかけていた気がするが、話しかけられる前に駅内に潜った。

何も変わってなくてびっくりした。俺が最後に見た時にそのままで、一目見ただけで分かった。
四条柊悟(しじょう しゅうご)は前世の兄であり四条家の長男だった人だ。
一緒に暮らしていた事を思い出すだけで疲れる。次期当主でもあり雪久とはまた違う、威圧感。頭から一飲みしてきそうで、蛇に狙われたカエルの気分になる。
最近、気を抜きすぎだと頬を軽く叩いて、今までの緊張感を取り戻す。
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