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2 友人のY
28 帰宅途中で
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妹は何に対してもものすごく負けず嫌いで、勉強、恋愛、負けたと思えば相手が根を上げるまで限りを尽くした。
私が、たった一人に執着するように、妹は、何に対しても一番であるべきだと執着する。
姉妹揃って厄介な者。
「で、俺なんだよ」
隣で不満を漏らすのは海北。
俺は、帰宅途中の海北が雪久達から別れた時を狙って捕まえた。引っ張るように駅前まで連れ、人があまり通らない通りで海北に、校門前で見ていた事と、あの妹について話しているところだ。
「ご友人様ならすぐ理解してくると思って」
「理解ねぇ。お前の妹だと言われて、腑に落ちたし、疑ってはない。あれが全部演技だと言われれば、そうだろうと言える」
「だから、あの妹を雪久様に近づけたくない。私を知っているなら、分かってくださいますよね」
「近づけたくないと言われてもなぁ」
困ったように後ろ髪を掻く海北は、言葉を詰まらせた。迷っている暇はないというのに、何を躊躇しているのか。
「何か、問題でも」
「多分だが、知り合う前からあの妹を知っている気がする」
「前世からですか」
「前世は知らん。数ヶ月前に遡るが、ある友人が後輩と付き合っていると話してな。で、浮気されているかもと。どこからどう聞いても、浮気しているのは明確だったから、その友人にソイツ浮気しているから別れるよう話した。それからだ」
「逆に、その友人は浮気者扱いされ、女の子を虐める悪者」
「……ほぼ、その通りだ。いつのまにか、友人は下級生の女子から評価が地の底になっていた」
我ながら流石私の妹、四条の女。極悪な所業はいつも通りで驚きもしない。
「で何が言いたいか。雪久からその妹を無理引き剥がすのはいいが、被害が大きくなるのは目に見えている。今は噂程度で済んでいるが、エスカレートすればお前なら分かるな」
私は特別、私は狂ってない、その余裕が少しずつ溝にはまっていく。いずれ妹は、前世の俺のように同じ轍を踏むことになるだろう。
踏む前に俺が刺す可能性があるので、嫌いな海北に相談しているわけだ。
「分かってる。そうならない為に、一番に話をしている」
「穏便に事を進めたいのは分かるが、雪久に話せよ。後々になって、責められるのは俺なんだから。最近、お前の前世がどうこうで、詰められたばかりだからな」
その時のことを思い出し、海北は深いため息を吐く。その話は何度も雪久に、俺が椿だと分かったのは、俺が睨みつけたのもあり、海北がただ超越的に察しが良いからだ、と伝えたがまだ通じてないらしい。
それが原因で口喧嘩になったけど、また伝えておいた方が良さそうだ。
「嫉妬一つで、雪久があんな粘着になるとは思わなかった」
「嫉妬……? 誰に」
「誰って、お前だろ」
お門違いもいいところだ。雪久が俺に嫉妬する訳ないだろ。
「それは違う。嫉妬じゃなくて、隠していたことに腹を立てていた、です」
「お前、本気で言っているのか」
「本気も何も、雪久が俺に嫉妬する訳。いいか嫉妬というのは、自分のものが取られるとか思う心情であって、あの人にそれはない」
ご丁寧に説明して海北の顔を見れば、口端は吊り上がり、嘘だろと言いたそうに目は大きく見開いていた。
「なんですか。間違えたこと言ってはない筈です」
「……、めんどくせぇ」
「はぁ? そっちが訊いておいて、何その言いぐさ」
言葉を続ける前に一度唾を喉奥に押し込んだ。落ち着け、ここで海北と喧嘩すれば意味がない。
「とりあえず、どう思うかは今は関係ない。雪久様もそうだけど、周りに気をつけて」
「忠告どうも」
「妹のことは俺の方でどうにかしたいけど、学校まで入れないから、頼みたい」
「本当、あれだな」と海北は息を入れ直し、間を置いてから
「雪久のことになると見境がなくなるよな。俺のことが嫌いなのによく来たな」
「分かっている事を、わざわざ口に出すのはどうかと思いますけど。そうだから、ここまで来たんです。いいか、本当に油断するなよ。茶に毒を盛られると思って妹と接しろ」
「お前も、あまりそれを表に出すなよ。周りに椿ってバレたら、俺以上に非難されることを覚えておけ」
表面に椿を見せるなと言うように指を指された。
「……当時の人いるんですか」
「何人かは知り合いだし、何人かは同じ学校にも通っている。雪久に近づくというのは、そういう危険もあるって事だからな」
「そう……、迷惑をかける前にはまた消えるから、心配しなくとも大丈夫です」
「それならいいが」
ここで海北との会話は終わった。
相変わらず、海北は痛いところをついてくる。どれだけ想いが通じ合ったとしても、俺という存在自体がいつかは迷惑になると。
雪久は守ってくれるだろうが、それで雪久の立場が危ぶまれるなら、俺が消えてしまった方がいい。
―――だが、四条の人間が近づくことは許さない。
嫌いな人間だろうと利用できる人間がいるなら、使うまでだ。
海北を無理矢理連れ出した事を加えて、相談の礼として、手に持っていた紙袋を手渡した。
「聞いてくれた、お礼にこれあげます」
「なんだ、これ。紙袋に手の跡がついてるんだけど」
「愛と嫉妬、同族の嫌悪によって形を変えただけの米菓子、中身は綺麗だ」
「そんなものを俺に渡すな」
私が、たった一人に執着するように、妹は、何に対しても一番であるべきだと執着する。
姉妹揃って厄介な者。
「で、俺なんだよ」
隣で不満を漏らすのは海北。
俺は、帰宅途中の海北が雪久達から別れた時を狙って捕まえた。引っ張るように駅前まで連れ、人があまり通らない通りで海北に、校門前で見ていた事と、あの妹について話しているところだ。
「ご友人様ならすぐ理解してくると思って」
「理解ねぇ。お前の妹だと言われて、腑に落ちたし、疑ってはない。あれが全部演技だと言われれば、そうだろうと言える」
「だから、あの妹を雪久様に近づけたくない。私を知っているなら、分かってくださいますよね」
「近づけたくないと言われてもなぁ」
困ったように後ろ髪を掻く海北は、言葉を詰まらせた。迷っている暇はないというのに、何を躊躇しているのか。
「何か、問題でも」
「多分だが、知り合う前からあの妹を知っている気がする」
「前世からですか」
「前世は知らん。数ヶ月前に遡るが、ある友人が後輩と付き合っていると話してな。で、浮気されているかもと。どこからどう聞いても、浮気しているのは明確だったから、その友人にソイツ浮気しているから別れるよう話した。それからだ」
「逆に、その友人は浮気者扱いされ、女の子を虐める悪者」
「……ほぼ、その通りだ。いつのまにか、友人は下級生の女子から評価が地の底になっていた」
我ながら流石私の妹、四条の女。極悪な所業はいつも通りで驚きもしない。
「で何が言いたいか。雪久からその妹を無理引き剥がすのはいいが、被害が大きくなるのは目に見えている。今は噂程度で済んでいるが、エスカレートすればお前なら分かるな」
私は特別、私は狂ってない、その余裕が少しずつ溝にはまっていく。いずれ妹は、前世の俺のように同じ轍を踏むことになるだろう。
踏む前に俺が刺す可能性があるので、嫌いな海北に相談しているわけだ。
「分かってる。そうならない為に、一番に話をしている」
「穏便に事を進めたいのは分かるが、雪久に話せよ。後々になって、責められるのは俺なんだから。最近、お前の前世がどうこうで、詰められたばかりだからな」
その時のことを思い出し、海北は深いため息を吐く。その話は何度も雪久に、俺が椿だと分かったのは、俺が睨みつけたのもあり、海北がただ超越的に察しが良いからだ、と伝えたがまだ通じてないらしい。
それが原因で口喧嘩になったけど、また伝えておいた方が良さそうだ。
「嫉妬一つで、雪久があんな粘着になるとは思わなかった」
「嫉妬……? 誰に」
「誰って、お前だろ」
お門違いもいいところだ。雪久が俺に嫉妬する訳ないだろ。
「それは違う。嫉妬じゃなくて、隠していたことに腹を立てていた、です」
「お前、本気で言っているのか」
「本気も何も、雪久が俺に嫉妬する訳。いいか嫉妬というのは、自分のものが取られるとか思う心情であって、あの人にそれはない」
ご丁寧に説明して海北の顔を見れば、口端は吊り上がり、嘘だろと言いたそうに目は大きく見開いていた。
「なんですか。間違えたこと言ってはない筈です」
「……、めんどくせぇ」
「はぁ? そっちが訊いておいて、何その言いぐさ」
言葉を続ける前に一度唾を喉奥に押し込んだ。落ち着け、ここで海北と喧嘩すれば意味がない。
「とりあえず、どう思うかは今は関係ない。雪久様もそうだけど、周りに気をつけて」
「忠告どうも」
「妹のことは俺の方でどうにかしたいけど、学校まで入れないから、頼みたい」
「本当、あれだな」と海北は息を入れ直し、間を置いてから
「雪久のことになると見境がなくなるよな。俺のことが嫌いなのによく来たな」
「分かっている事を、わざわざ口に出すのはどうかと思いますけど。そうだから、ここまで来たんです。いいか、本当に油断するなよ。茶に毒を盛られると思って妹と接しろ」
「お前も、あまりそれを表に出すなよ。周りに椿ってバレたら、俺以上に非難されることを覚えておけ」
表面に椿を見せるなと言うように指を指された。
「……当時の人いるんですか」
「何人かは知り合いだし、何人かは同じ学校にも通っている。雪久に近づくというのは、そういう危険もあるって事だからな」
「そう……、迷惑をかける前にはまた消えるから、心配しなくとも大丈夫です」
「それならいいが」
ここで海北との会話は終わった。
相変わらず、海北は痛いところをついてくる。どれだけ想いが通じ合ったとしても、俺という存在自体がいつかは迷惑になると。
雪久は守ってくれるだろうが、それで雪久の立場が危ぶまれるなら、俺が消えてしまった方がいい。
―――だが、四条の人間が近づくことは許さない。
嫌いな人間だろうと利用できる人間がいるなら、使うまでだ。
海北を無理矢理連れ出した事を加えて、相談の礼として、手に持っていた紙袋を手渡した。
「聞いてくれた、お礼にこれあげます」
「なんだ、これ。紙袋に手の跡がついてるんだけど」
「愛と嫉妬、同族の嫌悪によって形を変えただけの米菓子、中身は綺麗だ」
「そんなものを俺に渡すな」
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