35 / 38
2 友人のY
34 雪久
しおりを挟む
次はどこに行こうか。
次は桜を見に行こうか。海で貝殻集めでもいい。紅葉の下を散歩するのもいいし、君の好きな雪遊びでもいい。
明日なんかないと分かっているのに、やりたい事が増えていく。
「だから、決して離すなと言っただろ」
廊下の奥からやってきては何を話すかと思えば、彼方から名乗り出てきた。
けれど、両手に椿を抱えているから離すことは到底出来なかった。
「そうだな、椿はあまりにも弱かった」
「弱かった? 選ばせただけだろ。そう選択するように仕向けた」
血で染まった指先から冷たい重みが伝わってきて手が震える。奥の方からドロドロで真っ黒で、憎悪のような怒りが沸いてくる。椿の兄であるこの男にもだが、一番殺したいのは自分自身だ。
一番近くにいたというのに、何一つとして救えなかった無能だ。
「そうかもしれない……、私は見てられなかった。ボロボロになっていくあの子が嫌だった。だから、差し出した」
まるで今気が付いたみたいに言う男はイカれているのか。自分の犯した罪を考え始めたというのか。いや、結局は同類。
「そうか、私が救われたかったのか」
「もう、どうでもいい」
話はどうでもいい。目の前にいる男も、この家も、無月家も、何もかもどうでもいい。椿がいてこその物だったのに、いないなら必要ない。
がらくた同然だ。
ーーー、そうか。全部投げ出せば良かったんだ。君は嫌がるだろうけど、外なんて見せないよう閉じ込めれば良かったんだ。
「雪久、どこに行くんだ」
どこに行こうか。沢山決めていた筈なのに、道が分からなくなってしまった。
「ここじゃない、何処かに。遠いところがいい」
「そうか」
男は塞いでいた道を開けた。
「涙一つないんだな」
通り過ぎていく間に男は静かにそう言った。
「もう、分からないだけだ」
俺は酷い人間だ。
心は悲しい筈なのに椿を無くした時でさえ涙一つ落ちず、時間が経っても、どうやって泣いていたのかさえも忘れた。
椿と共に心が抜け落ちてしまったようだ。
椿が好きだった。
隣でいっぱい騒いで、話しかけてくれるだけで良かった。そしたら、たまに笑って、泣いて、怒って、それだけでよかったのに。
抜け落ちていく。
腕の中で眠る彼女の頬に光が当たる。そこから白くなって抜け落ちて、そのまま光に包まれて消えていくような気がして、一層強く抱いた。
ここにいろ。ずっと、ここいてほしい。遠くにいても迎えに行くから。
ーーー、次は絶対離さない。
嗚呼、これを『呪い』と言わずに何と言うのだろうか。
おわり
次は桜を見に行こうか。海で貝殻集めでもいい。紅葉の下を散歩するのもいいし、君の好きな雪遊びでもいい。
明日なんかないと分かっているのに、やりたい事が増えていく。
「だから、決して離すなと言っただろ」
廊下の奥からやってきては何を話すかと思えば、彼方から名乗り出てきた。
けれど、両手に椿を抱えているから離すことは到底出来なかった。
「そうだな、椿はあまりにも弱かった」
「弱かった? 選ばせただけだろ。そう選択するように仕向けた」
血で染まった指先から冷たい重みが伝わってきて手が震える。奥の方からドロドロで真っ黒で、憎悪のような怒りが沸いてくる。椿の兄であるこの男にもだが、一番殺したいのは自分自身だ。
一番近くにいたというのに、何一つとして救えなかった無能だ。
「そうかもしれない……、私は見てられなかった。ボロボロになっていくあの子が嫌だった。だから、差し出した」
まるで今気が付いたみたいに言う男はイカれているのか。自分の犯した罪を考え始めたというのか。いや、結局は同類。
「そうか、私が救われたかったのか」
「もう、どうでもいい」
話はどうでもいい。目の前にいる男も、この家も、無月家も、何もかもどうでもいい。椿がいてこその物だったのに、いないなら必要ない。
がらくた同然だ。
ーーー、そうか。全部投げ出せば良かったんだ。君は嫌がるだろうけど、外なんて見せないよう閉じ込めれば良かったんだ。
「雪久、どこに行くんだ」
どこに行こうか。沢山決めていた筈なのに、道が分からなくなってしまった。
「ここじゃない、何処かに。遠いところがいい」
「そうか」
男は塞いでいた道を開けた。
「涙一つないんだな」
通り過ぎていく間に男は静かにそう言った。
「もう、分からないだけだ」
俺は酷い人間だ。
心は悲しい筈なのに椿を無くした時でさえ涙一つ落ちず、時間が経っても、どうやって泣いていたのかさえも忘れた。
椿と共に心が抜け落ちてしまったようだ。
椿が好きだった。
隣でいっぱい騒いで、話しかけてくれるだけで良かった。そしたら、たまに笑って、泣いて、怒って、それだけでよかったのに。
抜け落ちていく。
腕の中で眠る彼女の頬に光が当たる。そこから白くなって抜け落ちて、そのまま光に包まれて消えていくような気がして、一層強く抱いた。
ここにいろ。ずっと、ここいてほしい。遠くにいても迎えに行くから。
ーーー、次は絶対離さない。
嗚呼、これを『呪い』と言わずに何と言うのだろうか。
おわり
62
あなたにおすすめの小説
小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる