前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ

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8 映画

自身で墓穴を掘った次の日に、遊びの約束は取り付けられた。
友人らしく、映画を見に行こうというもの。
自分から戯言を言い出したものだから、これ以上拒絶し続ければ怪しまれると思い、断れなかった。

偶然では済まされない出来事の連続。
前世に関連することになると雪久の勘は鋭く働き、俺がどこにいるのか、どこで何をしているのか、何かに助言されるように、なんとなく雪久に伝わってしまう。
本人もそう言っていたし、逃げれば逃げるほど運命は絡みつく。
ここまでくれば、椿だと気づいていないのが唯一の救いである。
 
「で、どうするんだ。ポップコーンの味」

考え事をしていたら、横にいた雪久が尋ねられていた事を忘れていた。
天井にぶら下げられた看板には塩バター、キャラメル、コンソメなど味の種類が書かれている。

「えっと、キャラメル味でいいんじゃない。アンタ、甘い物が好きだから」
「……好きだが。お前に言った事があったか、甘い物が好きだとか」

思わず息を呑む。ーーーやべっ、知らないんだった。

「ほっ、ほら、クレープの写真とか送ってきたから甘い物好きなのかなって、思って……」
「そうだったな。飲み物も買ってくるが、何がいい?」
「お茶なら、何でもいいよ」
「わかった」

レジの方に並びに行く雪久を見て、早くなっていた息を一旦整える。
金は後で払うとして、あの発言は怪しまれたよな。
駄目だ。気を抜くとすぐに今の俺では、知り得ない前世のことがポロッと口から出てくる。
このまま、数時間映画を見るというのに先程のように動揺しているようでは不安で仕方ない。

本来なら、ジュースを飲んで、ポップコーン食べて、友人と楽しい映画鑑賞だというのに常にハラハラとさせ手に汗を握る。
人生がかかっているのだから仕方ない。
俺は椿じゃないと唱えて、トレーを持ってぐるりと見渡す雪久に手を振る。
そうして俺を見つけては、ほんの少し口角を上げた……気がした。


「どこに行ったのかと思った」
「えっ? 動いてないですけど」

近づいてきた彼奴は苦言するが、レジに送ってから俺は一切場所を移動していない。

「……」
「あの一瞬で俺を見失ったんですか」
「映画、そろそろだな」
「雑に話を逸らさないでください」

もしかして、恥ずかしい?
知らないふりを突き通すので、話題を変えることにした。

「……その、俺がいうのもなんですが、あんな事を言われて誘うと思いませんでした」
「何か嫌だったか?」
「俺は嫌じゃ無いですけど、ほら、この前公園で話したでしょ。あの、俺があれだって。普通なら避けると思ってたから」
「……何度も言うが別に気持ち悪いとか思ってないからな。無理もしてない」
「そうですけど……、俺のことを気にしないでくださいね。そっちの方が残酷ですから、そこはお願いします」
「わかった。その時になればちゃんと答えてやる」


まだ何かを言いたそうに眉の間に皺を溜めて、今度はしっかりとこちらに目を合わせて宣言する。
気持ち悪いと軽蔑して欲しいくらいだけど。
どう転ぶかなんて、俺にも分からない。さっさと雪久も諦めてくれたらいいなと、映画会場に入るのだった。



 
暗い室内、明かりは足元の非常灯だけ。消毒液に似た独特の匂いが漂う。
ーーー全然、映画の内容が入ってこない。
触っていないのに体温が感じ取れるほど近い。彼奴が隣にいるというだけで、心臓は騒ぎ、身体は機械のように震えた。
映画に集中しろ。画面に無理矢理、視線を合わせて肘掛けのドリンクホルダーに入れていた紙コップを取り出して緑茶をストローで啜る。

『裏切ったなぁ!』と主人公が声を上げる。周りも裏切り者を非難し、裏切り者は開き直るという驚愕のシーン。なのだが、内容を集中できていなかったせいで、裏切り者だと明かされても、驚きもなければ、そもそもコイツはどういう立ち位置だったのかを忘れ「誰だ、こいつ」になってしまった。
ここから内容を追ったとしても、白けてしまうだろう。
食べたポップコーンなんて緊張でキャラメルの味がしない、と色々最悪だ。
隣に目線も送れず、ただ座っているしかない状況。

不意に……俺が椿だと、この人に知られたとして一体どうなるのか。

前世では謝っても仕方ない事をした。あの人を含めて沢山の人に刃を向けて、沢山の人に迷惑かけた。何をやっても修復出来ない溝。
 
この人は何を思って、椿に会いたい? 何を話したい?
 
顔を合わせたのはあの日に屋敷を出て最後、別れは最悪だった。
真面目な人だから、もう一度向き合って話したいと思っているのかも知れない。
けれど、最後に見たあの瞳を向けられたら、二度と俺は、立ち上がれないだろう。再び光が見えない暗闇を牢獄させるのではと考えると、首の辺りに寒気が走り隣にいる者に恐怖する。

そんな空気を読んだかのように、片側の肩がずっしりと重くなり、鼻先に銀色の毛先が当たりこしょばゆい。
何がおきた、と一瞬戸惑ったが隣から心地良さそうな鼻息が聞こえてきて、なんとも言えない気持ちになった。

……寝てやがる。

隣を見れば、俺の肩に雪久が頭をのせてこちらに体重を預けては、すやすやと眠る。上体を起き上がらせるように少し肩を揺らして見たが無反応。
本当に映画どころではなくなった。
こっちは死ぬほど神経を尖らせているのに、隣で堂々と眠る男の頬を引っ張りたくなる。

なんか、こんなに自由気ままな人だったかな。

ずっとこの人に会ってから、思い描いていた人物像から離れていく。
初めて見る気の抜けた姿に、内なる乙女が少々ショックも受けつつ、これが本来の姿なのだろうと。

「つばき……」

体が軽く飛び跳ねたが、隣は固く目を瞑ったまま。
寝言に安堵し、ずっと貴方の隣にいますよと答えられないけど、触れることも出来ないけど、心の中で返しておいた。
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