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なつめのひとりごとはなんだかとても物騒な域に達しており、妹を背中に隠すことにした。ドキワク顔をしたままの妹を。「すっごいイケメン!」「後でちゃんと紹介してよ~」と楽しげだが、一番危ないのは里真だからな。おそらく背中越しからなつめを見ているんだろうけどな、凄い形相で睨まれているのが解らないのか、この子は。視線だけで人を殺せるだろ、これは。かなり危険ですからね。
「セトさん」
「ひょぇっ……!?」
いまなにをしたのかと言いたげな低い声とともにじっとりとした視線がオレの方も射抜くが、兄が妹を守るのはなにも不思議なことではない。ただちょっと、恐怖に上擦った声が出てしまっただけで。美形の据わった目は恐ろしいほどに恐ろしい。
「この子は妹だから! 彼女じゃないから! 人の話を聞く前に変に疑うのはやめろ!」
大声での訂正後は落ち着け落ち着けと諭す。もう本当に落ち着け。「消す?」「この世から消しますか?」なんて聞いてしまえば、止めなければならないだろう。手を汚す前に。
「……い、もうと……。いもうと……。……妹。ああ、そういえば……」
小さな、本当に小さな呟きだったが、据わった目が元の色に戻りつつある。どうやら妹の存在を思い出してくれたようだ。危ねえぇ。誤解が解けなかったら、どうなっていたのか解らなかったぞこれ。里真もろとも消されていたかもしれないし。
ふぃーと安堵したような息を吐くと、肩に重みが走った。「お兄、なにこれ!?」と驚きの声とともに。あー、あれがそれでこうなった痕は色濃く残っていましたわ。いまさら思い出したけど。
「こっ、これとはぁっ!?」
「え、え、これって、噛み痕? 虫刺されじゃないの……?」
焦りにふたたび上擦った声が出てしまったのだが、今度は里真がぶつぶつ呟き始める。うなじから首筋にかけての実況はやめてくれ。恥ずかしいしかないから。さっきの顔が赤いとか言われたのも、悶絶の跡が残っていたからかも解らない。というか、それしかなさそうだけどな。他はないんだから。
この状況をどうしたものかとちらちらなつめを窺うと、明るい顔――物凄く輝いている――をしてオレに近づいてきた。両手を広げながら。玄関には靴がいっぱいいっぱいだろうなあと現実逃避に入ると、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。そうして、オレを他所に頭上越しに会話が始まっていく。聞いて驚け、当事者のオレは置き去りだ。
「はじめまして。私、アカザキナツメと申します。セトさんにはお世話になっております」
「わ~! なつめ様と同姓同名なんですねー」
背中越しであっても、すご~いと興奮する姿が目に見える。すごいのは解ったから、肩を叩くな、肩を。痛い、痛いから。いまは身動ぐことも出来ないんだからさ、そこのところを考えてくださいよ、里真さ~ん。
「ええ。よく言われますね。私は他人の空似ですが」
「でも、すっごいかっこいいですよー!」
彼女さんが羨ましいですねーと語る妹に対し、なつめが苦笑した。気がする。オレには胸板しか見えていないから、本当かどうかは解らないが。
「いえいえ、彼女はいませんよ。私はずっと片思いをしているので」
「えっ、マジかお前っ!?」
「――ええ。嘘偽りなく、本当のことですよ」
衝撃に顔を上げると、なつめは眩しげに目を細めていく。いや、なんでだ。謎か。いやいや、それは置いておいてだな! 片思い相手がいるというのに、オレにあれやそれやこれやをしてくるのかよ。練習相手にしては、発散の度合いが高すぎるぞ。
いやでもなあ、コイツなら練習相手はいくらでもいそうなんだよなあ。なにもオレに固執する必要はないだろう。いまだってずっと抱きしめたままなのが不思議でならない。謎が謎を呼びすぎて、わけが解らないわ。この謎は一生解けない可能性が高いだろう。
そもそもの話、オレはこのくそアイドルたる明崎なつめのことをそれほど知らない。変態吸血鬼だということと、本名が紅崎夏茗ということ、夏生まれだから夏茗という名がつけられたことしか聞いていない。好き嫌いなんて全然解らないし、ましてや、好きな子がいたなんていうのは知りようもないわけだ。知りたくもないし、知らなくてもよい情報だったんだから。それでも、片思いをしているのなら、なにかひとことぐらいは言ってほしかったわ。
そうであったのなら、相談くらいは乗ってやったのになあ。まあ、童貞がなにを言っているんだとなりそうなんだけども、話して楽になることもあるだろう。なにせ本人は大人気アイドル兼俳優だからな。恋愛ごとのいろいろは、慎重にならざるを得ないはずだし。ストレスは相当ありそうだよ。
……ん? ちょっと待てよ……。もしかしてコイツ、練習相手よりもストレス発散の方にいっているよな? そりゃあ、オレは餌兼いろいろ発散係ではあるけども、あくまでも忙殺されているであろう仕事の息抜き用であって、多大なストレスを受け止める為ではないぞ。
んん? あれ……? もしかして、オレをめちゃくちゃにするのって、ストレスからですか? え、本当に? このままいくともっと酷いことをされるんじゃないんですか? それこそぐちゃぐちゃに! み、見た目は麗しいのに、なんて奴だ! やっぱりくそアイドルはくそアイドルだったわ!
そうだよな、そうなんだよなあ。ちょっと脅してやってさ、ストレス発散出来そうな人間がいれば、その人を側に置きますよな。だって簡単に発散出来るもんな。
重大な事実に気がついてしまったオレはといえば、ただただ固まるしかなかった。ぐるぐる巡る思考に対して。
「セトさん」
「ひょぇっ……!?」
いまなにをしたのかと言いたげな低い声とともにじっとりとした視線がオレの方も射抜くが、兄が妹を守るのはなにも不思議なことではない。ただちょっと、恐怖に上擦った声が出てしまっただけで。美形の据わった目は恐ろしいほどに恐ろしい。
「この子は妹だから! 彼女じゃないから! 人の話を聞く前に変に疑うのはやめろ!」
大声での訂正後は落ち着け落ち着けと諭す。もう本当に落ち着け。「消す?」「この世から消しますか?」なんて聞いてしまえば、止めなければならないだろう。手を汚す前に。
「……い、もうと……。いもうと……。……妹。ああ、そういえば……」
小さな、本当に小さな呟きだったが、据わった目が元の色に戻りつつある。どうやら妹の存在を思い出してくれたようだ。危ねえぇ。誤解が解けなかったら、どうなっていたのか解らなかったぞこれ。里真もろとも消されていたかもしれないし。
ふぃーと安堵したような息を吐くと、肩に重みが走った。「お兄、なにこれ!?」と驚きの声とともに。あー、あれがそれでこうなった痕は色濃く残っていましたわ。いまさら思い出したけど。
「こっ、これとはぁっ!?」
「え、え、これって、噛み痕? 虫刺されじゃないの……?」
焦りにふたたび上擦った声が出てしまったのだが、今度は里真がぶつぶつ呟き始める。うなじから首筋にかけての実況はやめてくれ。恥ずかしいしかないから。さっきの顔が赤いとか言われたのも、悶絶の跡が残っていたからかも解らない。というか、それしかなさそうだけどな。他はないんだから。
この状況をどうしたものかとちらちらなつめを窺うと、明るい顔――物凄く輝いている――をしてオレに近づいてきた。両手を広げながら。玄関には靴がいっぱいいっぱいだろうなあと現実逃避に入ると、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。そうして、オレを他所に頭上越しに会話が始まっていく。聞いて驚け、当事者のオレは置き去りだ。
「はじめまして。私、アカザキナツメと申します。セトさんにはお世話になっております」
「わ~! なつめ様と同姓同名なんですねー」
背中越しであっても、すご~いと興奮する姿が目に見える。すごいのは解ったから、肩を叩くな、肩を。痛い、痛いから。いまは身動ぐことも出来ないんだからさ、そこのところを考えてくださいよ、里真さ~ん。
「ええ。よく言われますね。私は他人の空似ですが」
「でも、すっごいかっこいいですよー!」
彼女さんが羨ましいですねーと語る妹に対し、なつめが苦笑した。気がする。オレには胸板しか見えていないから、本当かどうかは解らないが。
「いえいえ、彼女はいませんよ。私はずっと片思いをしているので」
「えっ、マジかお前っ!?」
「――ええ。嘘偽りなく、本当のことですよ」
衝撃に顔を上げると、なつめは眩しげに目を細めていく。いや、なんでだ。謎か。いやいや、それは置いておいてだな! 片思い相手がいるというのに、オレにあれやそれやこれやをしてくるのかよ。練習相手にしては、発散の度合いが高すぎるぞ。
いやでもなあ、コイツなら練習相手はいくらでもいそうなんだよなあ。なにもオレに固執する必要はないだろう。いまだってずっと抱きしめたままなのが不思議でならない。謎が謎を呼びすぎて、わけが解らないわ。この謎は一生解けない可能性が高いだろう。
そもそもの話、オレはこのくそアイドルたる明崎なつめのことをそれほど知らない。変態吸血鬼だということと、本名が紅崎夏茗ということ、夏生まれだから夏茗という名がつけられたことしか聞いていない。好き嫌いなんて全然解らないし、ましてや、好きな子がいたなんていうのは知りようもないわけだ。知りたくもないし、知らなくてもよい情報だったんだから。それでも、片思いをしているのなら、なにかひとことぐらいは言ってほしかったわ。
そうであったのなら、相談くらいは乗ってやったのになあ。まあ、童貞がなにを言っているんだとなりそうなんだけども、話して楽になることもあるだろう。なにせ本人は大人気アイドル兼俳優だからな。恋愛ごとのいろいろは、慎重にならざるを得ないはずだし。ストレスは相当ありそうだよ。
……ん? ちょっと待てよ……。もしかしてコイツ、練習相手よりもストレス発散の方にいっているよな? そりゃあ、オレは餌兼いろいろ発散係ではあるけども、あくまでも忙殺されているであろう仕事の息抜き用であって、多大なストレスを受け止める為ではないぞ。
んん? あれ……? もしかして、オレをめちゃくちゃにするのって、ストレスからですか? え、本当に? このままいくともっと酷いことをされるんじゃないんですか? それこそぐちゃぐちゃに! み、見た目は麗しいのに、なんて奴だ! やっぱりくそアイドルはくそアイドルだったわ!
そうだよな、そうなんだよなあ。ちょっと脅してやってさ、ストレス発散出来そうな人間がいれば、その人を側に置きますよな。だって簡単に発散出来るもんな。
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